ケトン食のアスリートへの影響
2013/09/16 07:38:24 |
お勉強 |
コメント:16件
Paoli A, et al. Ketogenic diet does not affect strength performance in elite artistic gymnasts. J Int Soc Sports Nutr. 2012 Jul 26;9(1):34. doi: 10.1186/1550-2783-9-34.
『背景:超低炭水化物食(very low carbohydrate ketogenic diet;VLCKD)が体重減少やメタボリック症候群の管理に広く用いられてきているにも関わらず,スポーツのパフォーマンスに関するVLCKDの影響についての研究は不足している.ケトン食は重量階級部門を含むスポーツにおいて有用である可能性があり,我々の研究の目的は瞬発力を要するパフォーマンスにおけるVLCKDの影響を調査することであった.
方法:エリートの芸術的体操選手である8人のアスリートを募集した(年齢20.9±5.5歳).1か月間の修正ケトン食の開始前と開始後30日目で体組成と様々なパフォーマンス側面(ぶら下がり下肢伸展拳上運動,地面腕立て伏せ,平行棒沈み腕立て伏せ,懸垂,スクワットジャンプ,垂直跳び,30秒連続ジャンプ)を解析した.その食事内容は緑色野菜,オリーブオイル,良質の蛋白質を含みほぼ炭水化物ゼロである魚や肉などを加えた料理や,それらの味を模倣したもの,それにいくつかハーブの抽出物を添えたものなどであった.VLCKDの際中はアスリートは通常のトレーニングプログラムを行った.同様のプロトコールから3か月後に今度はアスリートの通常食の開始前と開始後30日目でテストが行われた(典型的な西洋食:a typical western diet;WD).反復測定のため一元配置分散分析が行われた.
結果:全ての筋力テストにおいてVLCKDとWDとの間に有意差は検出されなかった.体重減少と体組成には有意差が認められた:具体的にはVLCKD後には体重減少(69.6±7.3kg→68.0±7.5kg)と体脂肪減少(5.3±1.3kg→3.4±0.8kg;p<0.001)を認めたが,筋肉量には有意な増加はみられなかった.
結論:コーチや医師はアスリートのパフォーマンスやよく知られた炭水化物の重要性に対して低炭水化物食は有害である可能性を心配していたが,これまでVLCKDと筋力パフォーマンスとの間にデータはなかった.今回の VLCKDの脂肪減量への否定しがたい突然の効果は,重量階級に基づいたスポーツで競うアスリートにとって有用である可能性がある.我々は今回比較的短い期間(すなわち30日間)でのVLCKD利用が体組成,体脂肪を減少させ,ハイレベルなアスリートにおいても筋力パフォーマンスに否定的な効果をもたらさないということを実証してきた.』
ケトン食での運動に与える影響について検証した論文です.
こちらの論文を書かれているのは,この間2013年のケトン食レビュー論文を書かれたのと同じ著者の先生です.こういう論文も書かれているのですね.
「糖質制限をしていると筋肉がやせてくる.だからやったら危ない」という論調の批判にもよく出会いますが,
この論文をみる限り,そのような事は全くなく,しかも本文を読んでみるとむしろ筋力は増加しています.ただその増加具合に従来食との有意差がつかなかったというだけです(医学における有意差とは簡単に言うと,「差があることがまぐれでない可能性が95%以上である」という意味です).
私もしばしばジム通いをしていますが,「糖質を制限していても別に筋力は落ちないという実感」と一致する今回の結果でした.
一方,体重減少,体脂肪減少では明らかにケトン食の方が有意差を持って勝っています.しかもそれをプロのアスリートで証明したというところがこの論文の意義深いところですね.
筋力で差がつかないのであれば,従来食とケトン食のどちらを実践した方がいいかは自明ですね.
特に体重が階級を左右する柔道やボクシングなどでは大変重要な事だと思います.東京オリンピック2020までにスポーツ界でもケトン食が普及してくれるとよいですね.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
ケトンパワー
こんなに血糖値が低くても、パワー全開でウォーキングのタイムも早くなり筋力もついてきました。
最近では力瘤も盛り上がってきて、重いものも楽に持ち上げられます。
糖質制限をしていると筋肉がやせてくるということは、自分の実感として全くありません。
Re: ケトンパワー
実体験に基づく御報告有難うございます。参考になります。
> 私は昨日初めて自分のβーケトン値を測ってみましたが3.2mmol/l(3200μm/l)、血糖値66mg/dl(早朝空腹時)でした。
素晴らしい値ですね。
生理的ケトーシスが十分に働いている状況下では最低限赤血球に供給できるレベルの血糖があれば、あとはケトンでまかなえるのでそれで十分なのだと思います。また江部先生の断食の御経験を元に考えれば、糖質制限実践者においては血糖は少なくとも35mg/dlくらいあれば体は十分働くのであろうと考えています。
もちろん、普段から主たるエネルギーを糖質に頼っている人にとっては、血糖値35mg/dlは十分危険状態ですのでどうか誤解のないように。
keto-adaptation
Re: keto-adaptation
御無沙汰しております。
また、コメント頂き有難うございます。
> <THE ART AND SCIENCE OF LOW CARBOHYDRATE PERFORMANCE>という本
面白そうな本ですね。
keto-adaptionが起こるには2週間程度かかるのですね。情報を有難うございます。
是非とも手に入れ読んでみたいと思います。
そうですね。もっと長く続けたら有意差が出る可能性は十分にありますね。
もっとも、標準体重により近い状態で運動続けた方がよいパフォーマンスができるというのは、
研究するまでもなく当然の事であるようにも思えます。
No title
後先逆で失礼しましたが、ブログを開設していただきありがとうございます。
正確には2,3週間から1ヶ月と書かれています。
本はこたろうさんに寄るとKindleでしたらすぐだそうです。
先生に解説していただけると、わかりやすくて助かります。こたろうさんも私も自動翻訳の力を借りながら少しずつしか読めず、苦労しております。
先に医療プロフェッショナル向きに出版されているのが
http://www.amazon.com/The-Art-Science-Carbohydrate-Living/dp/0983490708/ref=pd_bxgy_b_img_y
こちらがアスリート、一般向け
http://www.amazon.com/The-Art-Science-Carbohydrate-Performance/dp/0983490716/ref=pd_bxgy_b_img_y
また予約発売中でまだKindleは出ていませんが、こちらは専門の先生に解説していただけると特にたいへん有難いです。
http://www.amazon.com/Grain-Brain-Surprising-Sugar-Your-Killers/dp/031623480X
Re: No title
覚えているどころか、いつもルバーブさんのブログも拝見させて頂いていますよ。
いやいや、私よりよっぽどお詳しいので普段からこちらが参考にさせて頂いております。有難うございます。
私は英語読むのそんなに早い方ではないので、時間がかかるとは思いますが、是非ともチャレンジしてみたいですね。kindleも検討させて頂きます。
ケトン食などの可能性に期待します
ルバーブさん
お二人の、レベルが高く分かりやすいコメント、いつも参考にしています。
アマローネさんはじめ、がん・認知症の患者さんなど、さまざまな方が、(今は健康な人も含めて)ケトン食や、糖質制限食によって、健康になり、幸せに長生きできるよう祈っています。研究と、治療への実践が着実に速やかに進みますように・・・。
Re: ケトン食などの可能性に期待します
コメント有難うございます。
私は「緩やかなケトン食」=「修正アトキンス食」≒「江部先生のスーパー糖質制限食」と解釈しており、この方法は成人の様々な疾患に対して応用できると考えています。
これからも自信と確信を持って普及を進めていきたいと考えています。
Help
Keto-adaptationの状態で、
Over-consuming protein beyond the level that allows maximum anabolism in skeletal muscle thus puts a burden on the body to get rid of the extra nitrogen.
Re: Help
御質問有難うございます.
まだ書籍を手に入れることができていないので,的外れな解説になってしまうと申し訳ないのですが,御呈示の文章,私なりに考えてみます.
まず,ここでのanabolism(同化)は「摂取したタンパクを細胞内組織に変える働き」のことです.
そしてタンパク質を作る基本物質はアミノ酸ですが,これは炭素、酸素、窒素、水素(重量比順)を必ず含みます.どのアミノ酸から構成されるかによって組成は異なりますが,そのうち窒素に関しては生体材料においてタンパク質に対する窒素の重量比が16%前後の値をとることが多いです.
したがって窒素の量とタンパク質の量は比例していると考えていいと思います.
その上で御呈示の文章を訳してみますと
> Keto-adaptationの状態で、
>
> Over-consuming protein beyond the level that allows maximum anabolism in skeletal muscle thus puts a burden on the body to get rid of the extra nitrogen.
ケトン適応の状態では…
『このように,骨格筋で行われる最大限の同化を超えるレベルでタンパクを消費しすぎると余剰な窒素から免れるために身体には負担がかかる』
となると思います.
ただ,ここでの「身体に負担がかかる」の意味が一体なんであろうか,と思います.
前後の文章を確認したいところですが,もしかしたらketo-adaptationにとってよくないこと,すなわち「ケトン体が下がってしまうこと」ということなのかもしれません.
間違っていたらすみません.
Help
本ではケトン適応では蛋白質はModerateの摂取が必要である理由として2つ取り上げています。
ひとつは蛋白質を摂りすぎるとあまったアミノ酸はグルコースに変わり、インスリンレベルを上げ、ケトン体を減少させ、脂肪燃焼を抑えるから。
もうひとつの理由が解説をお願いした分です。
こう解釈して良いでしょうか。
飢餓に対応した身体では、蛋白質も効率よく利用するから、ケトン対応の身体では問題ない蛋白質の摂取量でも、窒素が増え、身体に負担になる→腎臓に負担になる?から。だから蛋白質の摂取には注意を払う必要がある。
ふんだんにおいしいものを食べたい人では、高血糖は避けながら糖質は50g以上は食べて、蛋白質はたっぷりOK,でも脂肪、特に飽和脂肪は控えるのが良いということになりませんか。
でもこれでは脳には良くないのでしょうね。
私はボケないで長生きしたいので、 蛋白質の摂取量には注意しながら、ケトン体のベネフィットを得られる生活を続けたいと思います。
Re: Help
> こう解釈して良いでしょうか。
>
> 飢餓に対応した身体では、蛋白質も効率よく利用するから、ケトン対応の身体では問題ない蛋白質の摂取量でも、窒素が増え、身体に負担になる→腎臓に負担になる?から。だから蛋白質の摂取には注意を払う必要がある。
なるほど,前の文章でケトン体減少というデメリットがすでに書かれているのであれば,
ルバーブさんのおっしゃるように「身体に負担になる」=「腎臓に負担になる」という意味でよさそうです.
> ふんだんにおいしいものを食べたい人では、高血糖は避けながら糖質は50g以上は食べて、蛋白質はたっぷりOK,でも脂肪、特に飽和脂肪は控えるのが良いということになりませんか。
>
> でもこれでは脳には良くないのでしょうね。
> 私はボケないで長生きしたいので、 蛋白質の摂取量には注意しながら、ケトン体のベネフィットを得られる生活を続けたいと思います。
そうですね.脳によい生き方としては御指摘のようにいかにketogenicな体質を維持するかということが大事なのだと思います.
Help
2度目のコメントの一箇所間違ってました。
<ケトン対応の身体>ではなくて、<ケトン対応になっていない身体では問題ない蛋白質の摂取量でも、ケトン対応の身体では窒素が増え、身体に負担になる→腎臓に負担なる>でした。でも意味はわかっていただけたと思います。
この度は何度もお答えいただきありがとうございました。不信が解消されすっきりしました。
管理人のみ閲覧できます
ご批判をうかがいたい
https://www.youtube.com/watch?v=XhscNmtCI68
Re: ご批判をうかがいたい
御紹介頂いた動画を見ましたが、特に反論するところはございませんでした。
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