がんの組織型から今細胞がどんな段階にいるかを推定する

2023/07/06 12:50:00 | がんに関すること | コメント:0件

ホジキン病への考察からがんを起点とした病気の理解の幅が広がっています。

この病気について改めて見直していく過程で、新たな気づきが得られたり、自分の考えが補強されていく事実を確かめられたりしてきているので、

くどいようですが、もうしばらくホジキン病からの考察を続けてみます。

私が基本を見直すときには、医学生時代に頼りにしていた参考書を使っています。



STEP内科〈2〉感染症・血液 (STEP Series) 単行本 – 1998/11/1
若林 芳久 (監修), 松岡 健

大枠は以前の記事でも確認しましたので、今回は比較的細かい記述に注目して、既存の概念を見直してみたいと思います。 まずはホジキン病の疫学についての短い記載です。

(上記書籍p283より引用)

本症は全年齢層に発症しますが、30歳前後と60歳以降にそのピークがあります。

(引用、ここまで)



ホジキン病を数ある悪性腫瘍(がん)の一型と捉えていると、この2つのピークがあることを「ホジキン病の特徴の1つ」としてしか認識できないかもしれませんが、

このホジキン病が、「血液細胞(を中心とした自分自身)の環境適応パターンの一過程」を表しているに過ぎないという主体的医療の視点で見返した時に、

この2つの発症ピークの、単なる「ホジキン病の特徴の1つ」ではない、別の側面が見えてくると思います。

ホジキン病と認識される段階は、細胞増殖性の環境適応パターンの不完全型だと考察しました。細胞増殖性の変化というのは比較的局所にとどまった環境適応ですので、これで環境に適応しきれる分には全体にあまり大きな弊害をきたさなくて済むという段階であるわけですが、その環境適応パターンが次第に崩れ始めているというのがホジキン病だと認識できます。

そう考えますと、2つのピークのうち30歳前後の発症ピークはおそらく、生まれつき細胞増殖性の環境適応が過剰になりやすい性質を持っている人達で、60歳以降の発症ピークは一般的な細胞増殖性の環境適応能力を持っているけれども、その能力が過剰に刺激されてしまう段階になる平均的な時期を反映していると考えることができます。

どちらかと言えば、集団的には生まれつき要因の前者の方が少数派だと予想できますが、30歳代のピークが60歳以降のピークよりも波が小さいことはその予想に矛盾しません。

ホジキン病2峰性

(※画像はYouTube動画「【血液がんフォーラム2022】ホジキンリンパ腫の標準治療と治療開発」より引用)


次に、以前にも少し触れたホジキン病の組織学的分類についての詳しい説明を見てみます。少し古い参考書なので実は最新の分類を反映できていませんが、本質を考えるには十分な記載なのでこのまま検討してみます。

(p283-284より引用)

3)組織学的分類

1966年に提唱され、1996年に最終修正されたRye分類が広く用いられています。これによれば、本症は以下の4つに分類されます。

a) リンパ球優位型 lymphocytic predominance(LP型)
リンパ節生検を行うと、リンパ球がうじゃうじゃと増殖しており、その中に少数のRS細胞が見出されます。このリンパ球は、少なくともその形態は正常です。

b) 結節硬化型 nodular sclerosis(NS型)
リンパ節に浸潤した細胞が膠原線維によって束ねられて結節状をなし、その中にRS細胞が散在するタイプです。最近になって、浸潤細胞の一部が異常クローンを持ったB細胞であることがわかり、これを本症から独立させる動きがあります。

c) 混合細胞型 mixed cellularity(MC型)
リンパ球だけでなく、Mφ(※注:マクロファージのこと)、形質細胞、好酸球などがRS細胞を取り囲み、さらに線維化や壊死巣が認められるタイプです。

d) リンパ球欠如型 lymphocytic depletion(LD型)
リンパ球が著明に減少し、代わって線維性組織の増殖が強いタイプです。RS細胞も、前三者に比して増加傾向にあります。

以上の分類のうち、今まではLP型が最も予後が良く、LD型が最も予後不良とされてきました。しかし、最近では、治療法の進歩によってほとんどその差はなくなっています。

(引用、ここまで)



そもそもホジキン病自体も細胞の環境適応パターンの一段階を示しており、

ⅰ)完全型の細胞増殖性環境適応→ⅱ)不完全型の細胞増殖性環境適応→ⅲ)不完全型の細胞死抵抗性環境適応→ⅳ)完全型の細胞死抵抗性環境適応

という順序で環境適応の形式が進化していき、ホジキン病は主としてこの流れの中のⅱ)の段階にとどまっている状態だという構図を以前の記事で明らかにしました。

今回の引用文には、そのホジキン病の中にもさらに連続的な段階があるという構図を見てとることができます。

ホジキン病における最軽症組織型とされるリンパ球優位型(LP型)のパターンが、リンパ球の増殖性変化が目立ち、形態にもそれほど変化がないということ、

逆にホジキン病における最重症組織型とされるリンパ球欠乏型(LD型)のパターンでは、より秩序の乱れたRS細胞や線維性の変化が主体となって、むしろ正常なリンパ球の数は減少していることを踏まえますと、

細胞増殖性のパターンで対応し続けて、次第に無理が生じると、RS細胞のようなやや秩序の乱れたリンパ球が発生しはじめ、次第に細胞増殖システム自体が破綻し、リンパ球の増殖ができなくなり、無秩序な細胞の増殖へと切り替わっていくと、

そしてその無秩序化の指令を出している脳と通じる自律神経、また消化管からの栄養、特にインスリン分泌刺激が刺激されればされるほどその影響は局所にとどまらず全身へともたらされてしまうため、

無秩序化する細胞は、領域のみならずリンパ球という細胞枠さえ超え始め、全身の細胞をリンパ球メインで無秩序化していく流れが作られていくと、その途中経過としてリンパ球欠乏型(LD型)の組織型パターンがあるようにも解釈できます。

また、繊維化というのは以前の記事でも触れましたように、無秩序を修復するための炎症が遷延した結果として起こる現象だという見方ができるので、主体的医療の視点では「内的なシステムのこじれを反映する所見」だと考えることができます。

ちなみに途中の二段階目の結節硬化型(NS型)の組織型パターンで「浸潤細胞の一部が異常クローンを持ったB細胞となる」という点も重要な情報だと私は考えています。

一般的にはT細胞(T細胞性リンパ球)とB細胞(B細胞性リンパ球)は全く別の細胞だと認識されていると思いますが、

何らかの理由でT細胞性リンパ球の増殖が過剰に刺激され続ける状況があれば、そのシステムに次第に歪みが生じ、T細胞性リンパ球を増殖させようとして誤って近い系統のB細胞性リンパ球を増殖させようとするという現象は大いに起こりうるのではないかと考えることができます。

それは同じ白血球の中で好中球の増殖が刺激され続けたときに誤って好酸球が増産されるという流れにも同じことが言えると思いますし、

IgG(IgG1)という抗体を産生しようとするも、システムが刺激され過ぎて間違って不完全型のIgEやIgG4が産生されてしまうという流れもそうです。

その一方で無秩序化しているということは、細胞死抵抗性の環境適応要素が強くなっているという見方もできます。

言い換えれば、その細胞が形態を見出してでも、何とかして必死に生き延びようとしている状況だとも言えると思います。

その結果、形態が乱れたリンパ球欠乏型(LD型)の組織型パターンは、形態が保たれているリンパ球優位型(LP型)に比べて予後不良、すなわち抗がん剤が効きにくいということなのではないかと思います。

ちなみに「治療法の進歩によってほとんどその差がなくなっている」との記載もありますが、

いくらリンパ球欠乏型が予後不良だと言っても、大きな流れで見ればホジキン病自体がⅱ)不完全型の細胞増殖性環境適応という段階にあることには違いないので、

抗がん剤の進化や放射線療法の組み合わせによって全細胞を死滅させることができるという風に考えれば矛盾はありません。


一般にホジキン病の組織型を調べることは、抗がん剤の種類をどうするかとか、放射線の照射範囲や頻度をどうするかなどの治療法を選択するために行われていると思いますが、

主体的医療の視点に立てば、組織型の情報は自分(細胞)の環境適応パターンがいまどの段階にいるかということを知るための助けとして利用することができるのではないかと私は思います。

もっと言えば、この一連の流れを止めることができない不可逆的な流れと受け止めるのではなく、

各段階においてできること流れを変えるためにどうすればいいかということを考えるヒントさえ与えてくれる視点だとも思います。

この捉え方が主体的医療を実践しようとされる方の役に立つことを願うばかりです。


たがしゅう
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