ホジキン病から考える抗がん剤の効きやすさの本質

2023/05/25 17:50:00 | がんに関すること | コメント:0件

前回に引き続き、悪性リンパ腫の中の特殊型「ホジキン病」についてさらに考えを深めていきます。

ホジキン病というのは悪性リンパ腫の中で数%程度を占めるタイプで、急速に進展する反面、抗がん剤や放射線療法が著効し、予後は良好、すなわち治療後の状態が安定しやすいという特徴があると言われています。ちなみにホジキンという言葉はこの状態を発見した19世紀前半に活躍したイギリスの病理学者ホジキン博士から来ています。

なぜそんなレアな状態について考えるのかと言いますと、抗がん剤が効くとか放射線療法が効くというのは本質的にはどういう状態を意味しているのかを考えたいからです。

悪性リンパ腫全体としても抗がん剤は効きやすいのですが、中でもホジキン病に対する抗がん剤の効き方はとりわけ優秀です。

具体的には日本血液学会が策定した造血器腫瘍診療ガイドライン(2018年版補訂版)によれば、ホジキン病の中でも古典的ホジキン病の限局期(非進行期)に対するABVD療法という抗がん剤治療の治療成績は、放射線治療(IFRT;involved field radiotherapy:病変部位だけに放射線を当てる治療法)を少し併用はしますが、10年無増悪生存割合が90%以上だと記載されています。

これは5年生存率が問題とされるがん領域において圧倒的に高い治療成績と言っていいでしょう。ただし、ホジキン病はホジキン病であっても進行期であったり、古典的ではないタイプのホジキン病(結節性リンパ球優位型ホジキン病)に対しては、抗がん剤の治療成績はそこまで高いわけではないようです。

よって抗がん剤の有効性について考えるためには「古典的ホジキン病」について深掘りする必要がありそうです。
では何が「古典的ホジキン病」の「古典的」な部分を規定しているのでしょうか。

それはホジキン病の病変(腫大したリンパ節など)の一部を病理組織で診た時に、「Hodgkin細胞」または「Reed-Sternberg細胞(RS細胞)」と呼ばれる細胞が見つかるかどうか、です。

ややこしい名前の細胞が出てきましたが、この細胞の特徴がここから先の考察を進めていく上で鍵になると思っています。前回に引き続き私が医学生時代にお世話になった参考書から、この細胞について説明されている部分を引用します。



STEP内科〈2〉感染症・血液 (STEP Series) 単行本 – 1998/11/1
若林 芳久 (監修), 松岡 健


(以下、p282-283より引用)

本症(ホジキン病)の特徴は、腫瘍性増殖を起こしているリンパ組織を生検すると、

Hodgkin細胞またはReed-Sternberg細胞(RS細胞)の出現が認められる点にあります。

RS細胞は、アメリカのリード博士とオーストリアのシュテルンベルク博士の報告によるもので、

複数の核を持った巨細胞で、2核の場合には真ん中で折ると重なるように見えるところから鏡像mirror imageと呼ばれます。また、核には好酸性の巨大な核小体があります。

Hodgkin細胞はRS細胞と異なって単核ですが、その他の点はすべて共通です。Hodgkin細胞とRS細胞は、実質的には同一の細胞と理解されています(そこで、以下ではRS細胞で代表させます)。

RS細胞が本症で決定的な役割を果たしていることは疑いがありませんが、どこから発生した細胞なのか、さらには本当に腫瘍性増殖なのかという未解決な問題も残っています。

というのは、RS細胞は非Hodgkin病の腫瘍細胞と異なってポリクローナルなのです。

今までに勉強した造血器腫瘍(※たがしゅう注:白血病など)は、ある細胞内に遺伝子異常が生じ、その細胞が優勢になって増殖したモノクローナル疾患でしたが、

RS細胞の遺伝子を解析すると、いろいろなものが混ざっているのです。

このため、リンパ系腫瘍をT細胞系とB細胞系に分類するのが慣例の現代医学をもってしても、RS細胞がどちらの仲間であるかを断定することができません。

さらに、本症では必ずしもRS細胞がどんどんと増殖しているわけではなく、リンパ球やびまん性の線維性要素の中に散在していることが多く、

少なくとも後述するリンパ球優勢型ではRS細胞を取り囲んでいるリンパ球には何らの形態異常も認めません

したがって、本症を単純に腫瘍性増殖と決めつけるわけにはいかないのです。

このような状況のなかで、最近になって、本症の約半数でRS細胞の中にEBV(EBウイルス)のゲノムが存在していることがわかりました。

ただし、残りの半数ではその存在が確認されていないので、EBVがたまたまそこにいるだけなのか、それともEBVのゲノムが発見されないケースでは別のウイルスが悪さをしているのか、仮にウイルス感染だとしても、リンパ組織の増殖とどのような関係があるのかといった新たな難問が山積みされるに至りました。

(引用、ここまで)



ここまでの引用文の中で、主体的医療の視点から見る私にとって非常に興味深い内容が散見されていました。順を追って説明します。

まず古典的ホジキン病の「古典的」の決定打となるRS細胞の特徴の2つに折ると重なるような鏡像構造についてですが、

これは細胞分裂をしようとしたが不完全になってしまった形跡を意味しているように思えます。

またこれが細胞分裂の失敗であるとすれば、ここで細胞は細胞死抵抗性(悪性腫瘍的)の環境適応ではなく、細胞増殖性(良性腫瘍的)の環境適応を行おうとしたがうまくいかなかったという可能性が見てとれます。

続いて好酸性の巨大な核小体が見えるという点についてですが、

以前、私は好酸球は好中球に負荷がかかり過ぎた場合に対応する第二部隊であるという考察をしました。

一般的には白血球の一種である好中球と好酸球は全く別の系統の細胞だと考えられていますが、実は好中球と好酸球には連続性があって、好中球に何らかの理由で負荷がかかり過ぎた際に好酸球の増多が起こると、

あるいは好中球に負荷がかかり過ぎて細胞内の秩序が乱れた場合に、好中球が好酸球化してしまうのではないかという可能性を考えています。

今、RS細胞が細胞増殖性の環境適応の出来損ないだと仮定した場合、その結果で本来であれば細胞質内に漏れない好酸性の物質が漏出してしまい、かつ無秩序化の結果として核小体の巨大化が起こったというストーリーが浮かび上がります。

もちろん、完全に私の想像にはなってしまいますが、今まで考えてきたこととの整合性を踏まえますとあり得るストーリーではないかと思っています。

ちなみに、「核小体」というのは、真核生物の細胞核の中に存在する、分子密度の高い領域で、rRNAの転写やリボソームの構築が行われる場所のこと、だそうです。

細胞分裂の失敗でここの構造が核ごと乱れてしまったと考えても不思議ではありません。

さらに言えばHodgkin細胞はRS細胞と同じ特徴を持った細胞の核が2核ではなく単核(1核)だということですから、

Hodgkin細胞が多いホジキン病は、RS細胞が多いパターンに比べて、細胞増殖性の環境適応に失敗しながらもまだ比較的秩序が保たれているパターンだと言えるかもしれません。

次にRS細胞が他の造血器腫瘍と違ってポリクローナルであるという点に関してですが、

以前のブログ記事で正常細胞がとある環境変化に置かれ、それをきっかけに起こるドライバー変異と呼ばれる遺伝子変化を獲得し、環境適応した新たな1つの細胞がどんどん増殖して周囲へ勢力を広げていく流れががん化のプロセスであるという話を紹介しました。

つまりがんと呼ばれるものは概してモノクローナルな増殖を示すということです。それはホジキン病以外の悪性リンパ腫も例外ではなく、基本的にホジキン病以外の悪性リンパ腫はモノクローナルな細胞増殖をきたしています。

しかもRS細胞は必ずしもどんどん増殖しているわけではないという記載までありました。

ということはホジキン病でのRS細胞は、細胞増殖性の環境適応をしようとしたけれどうまくできなかった、言い換えれば、比較的秩序の保たれた細胞増殖性の環境適応寄りの変化の不完全型だとも言えそうに思います。

私が導いたこちらの仮説をおさらいします。

①良性腫瘍化(細胞増殖性の環境適応):主に糖質過剰(高インスリン血症)によって誘導される
②悪性腫瘍化(細胞死抵抗性の環境適応、細胞の無秩序化):主に細胞への慢性持続性ストレスによって誘導される
③全ての腫瘍化・非腫瘍性病変化は①と②の組み合わせによって表現され、①へは糖質制限が有効で、②へはストレスマネジメントが有効である


つまりホジキン病は①のパターンの不完全型だということです。

ちなみにホジキン病には「Rye(ライ)分類」と呼ばれる病理組織から見た分類方法があり、

引用文の中で出てきたリンパ球優勢型(LP型:lymphocytic predominance)以外に、結節硬化型(NS型:nodular sclerosis)、混合細胞型(MC型:mixed cellularity)、リンパ球欠乏型(LD型:lymphocytic depletion)というタイプがあり、

この順でリンパ球が少なくなっていき、RS細胞が増えていくという傾向になっています。

そしてLP型が最も予後がよく、LD型が最も予後が不良だとされていますので、ホジキン細胞へ抗がん剤が効果を示すのには、不完全な細胞増殖性の環境適応変化であって、かつその不完全性の程度が小さいことが関係していそうです。

逆に言えば、細胞増殖性の環境適応での秩序が乱れれば乱れるほど、抗がん剤が効きにくくなっていくとも言えるかもしれません。

しかし私の予想が正しければ、相手が細胞増殖性の環境適応である限りは基本的に細胞増殖を促すインスリンの過剰分泌を抑制する糖質制限食が効いてくれるはずです。

一方でまた抗がん剤のメカニズムについてまとめる必要があると思いますが、ざっくりと言えば抗がん剤というのは細胞分裂のメカニズムをどこかで邪魔することで細胞が分裂できなくなることで細胞を死滅へ導く薬です。

従って、細胞分裂・増殖の激しい組織でこそ抗がん剤の細胞死滅効果は発揮されやすいと言われています。抗がん剤の副作用として吐き気や脱毛が多いのも、腸粘膜や毛髪が比較的代謝回転の早い細胞から構成されているためだと言われています。

ということは細胞増殖性の環境適応を行っているがん細胞に対してであれば糖質制限も効くし、抗がん剤も有効性を示すという仮説が導けるように思います。

ちなみに引用文の最後に書かれていた「最近になってホジキン病のRS細胞の半数にEBウイルスのゲノムが存在が判明」という話も何気に考察のしがいがある話題です。

「最近」と言ってもこの参考書の初版は1998年ですから、その後研究は進んだのではないかと思われるかもしれませんが、

例えば2019年に報告されたこちらの論文でもEBウイルスとリンパ腫の関係についてまとめられていますが、いまだに未解明の部分が多いと書かれています。

これは私としては「病原体病因論」で見ているから解明できないのだと個人的には考えています。

EBウイルスというのはまだ当ブログでは詳しく取り上げてはいませんが、ヘルペスウイルス属に属するウイルスです。

ヘルペスウイルスと言えば潜伏感染、同じくヘルペスウイルスの一種であるHHV-6については過去に当ブログで取り上げて、実に90%以上の人が知らないうちに潜伏感染しているという話題を紹介しました。

もっと言えば、ウイルスとは自己と非自己の中間的存在で、ヘルペスウイルスはウイルスの中でも自己的要素の大きいウイルスである可能性が高いとも考察しました。

そうなると同じヘルペスウイルス属であるEBウイルスが潜伏感染していても不思議ではありませんし、

これを「病原体病因論」の視点で捉えていると巧妙に潜伏し悪性リンパ腫を起こりうす厄介な存在に見えるかもしれませんが、

「宿主病因論」の視点で捉えると、EBウイルスそのものが問題でリンパ腫が引き起こされているわけではない姿が見えてきます。

宿主が何らかの原因で細胞を環境適応させなければならないストレスにさらされ、その結果細胞増殖性の変化で乗り切ろうとするけれど、

その慢性持続性ストレスを受け続ける過程で、異物除去システムのオーバーヒートが起こり、非自己を攻撃し過ぎたり、自己を謝って攻撃してしまうシステムエラーを生じてしまうと考えれば、

その時間違って認識される不完全な自己細胞として、たまたま自己細胞の遺伝子との親和性が高く潜伏感染と認識される形で組み込まれていたEBウイルスのゲノムが組み込まれた細胞がターゲットとして選ばれただけで、

そのターゲットは不完全な自己細胞であれば何でもいいはずなので、EBウイルスである必然性はありません。

けれどたまたまホジキン病のパターンの異物除去システムのオーバーヒートではEBウイルスのゲノムが組み込まれた自己細胞の割合が多かったというだけの話ではないかと私は思います。

そう考えればホジキン病で発熱、盗汗(寝汗)、体重減少のような激烈な炎症反応を伴うことにも矛盾がありません。

だから「なぜEBウイルスがホジキン病を引き起こすのだろうか?」と考えているうちは、どれだけ医学が進歩しても謎は解明されないと私は予想します。


というわけでホジキン病を深く掘り下げていくことによって、

抗がん剤が効きやすいがんの本質的な特徴が垣間見えてきたように思いますが、

さらにホジキン病について私が復習する過程を通じて得られた気づきにも触れていきながら、

抗がん剤の効きやすさについての理解を深めていこうと思います。


たがしゅう
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