悪性リンパ腫熟考
2023/05/24 18:00:00 |
がんに関すること |
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今日は悪性リンパ腫という病気について、主体的医療の観点から深く掘り下げてみたいと思います。
まずなぜこの病気について取り上げるかに関して、ここまでの考察の流れを少しおさらいしておきます。
きっかけは糖質制限が明らかに有効ながんがあるという話です。
糖質制限のがんへの有効性は理論的には疑う余地はないのですが、実際的にはその有効性にはある程度の限界があるように感じられる部分があります。
私の友人で、通常の標準治療の経過では余命数ヶ月から半年レベルの肺がんの末期状態でありながらも、糖質制限を主体的に実践して数年レベルで良い全身状態を保つことができた方が2名いらっしゃいます。
一方で1名は天寿全うレベルでしたが、もう1名は比較的若い段階でお亡くなりになりました。またいずれの友人もがんと共存していた状態であり、がん細胞が目の前から消えるレベルには至りませんでした。
また自分が実際に診た患者さんに末期の肝臓がんで糖質制限食を入院で行うも、標準治療での予後と大差ない時期にお亡くなりになられた方もいらっしゃいました。
これらの事実から糖質制限のがんに対する有効性は限定的であると感じていた中で、がん腫によっては糖質制限が著効することがあると、だとしたら何が糖質制限の効きやすさ(効きにくさ)を規定しているのかに興味を持ちました。 そしてこの疑問を考えるためには同時に抗がん剤や放射線治療が著効するがんの存在も考える必要があります。
はたして糖質制限のがんへの効きやすさと抗がん剤・放射線療法のがんへの効きやすさは同じなのか、違うのか、違うとしたらどう違うのか、抗がん剤・放射線療法が著効するがんに糖質制限を勧めても良いのかダメなのか…
この辺りの疑問について答えるためには、がんへの治療反応性とは何かについて深く考えておく必要性があると感じました。
そしてここまでのまとめとしては、がんとは細胞への環境適応であり、その適応の仕方には良性腫瘍的な適応と悪性腫瘍的な適応の大きく2種類があると。
前者は細胞増殖性の環境適応で秩序を保ちながら、主に糖質過剰(高インスリン血症)によって誘導されるという特徴がありました。
後者は細胞死抵抗性の環境適応で秩序が乱れながら、主に細胞への慢性持続性ストレスによって誘導されるという特徴がありました。
そして全てのがん、あるいはがんという形態をとっていない非腫瘍性変化(潰瘍や炎症など)も含めた全ての病変は、
良性腫瘍的な環境適応と悪性腫瘍的な環境適応の組み合わせによって表現されうるのではないかということでした。
つまり糖質制限が有効ながんというのは、例えば良性腫瘍的環境適応:悪性腫瘍的環境適応=9:1の割合だったりするのかもしれません。
そう考えると糖質制限が著効したという肉腫は、確かに細胞増殖性変化の要素が強いと思える節があります。なぜならば確かに病変として拡大する点が無秩序的ですが、遠隔転移を起こしませんし、足切断術などの施行によって根治を目指せるということからも良性腫瘍的細胞適応の割合の高さが伺えます。
また良性腫瘍と名がつく大腸ポリープや脂肪腫などの病変は糖質制限が著効するという仮説も成立するかもしれません。
一方で糖質制限の効果が限定的な肺がんや肝臓がんは、良性腫瘍的環境適応:悪性腫瘍的環境適応=1:9とかになっていて、
確かに糖質制限で無秩序な環境適応の流れに一定の歯止めはかけることができるものの、9割を占める糖質制限抵抗性の環境適応に対応できず、そのまま悪性腫瘍的に環境適応が進行してしまうという可能性が見えてきます。
そして9割の悪性腫瘍的環境適応をもコントロールできるようにするためにはストレスマネジメントを通じた自律神経系や内分泌系、免疫系の調整作業が必須になるのではないかという気が私はしています。
さておさらいはこのくらいにして、本題の悪性リンパ腫に入っていきます。
なぜ悪性リンパ腫を取り上げたのかと言いますと、悪性リンパ腫は一般に抗がん剤や放射線療法が効きやすいがんとして認識されているからです。
つまり現代医療で寛解できるとされているがんです。それならば悪性リンパ腫と診断された人はまず標準治療を受ける決断をされるのではないかと思います。
ただ寛解という言葉は根治とは意味が違います。以前のブログ記事でも触れましたが、寛解というのはあくまでも症状が治まっていて穏やかな状態を長く保つことができている状態のことです。
何かのきっかけに寛解から再発へ移行するリスクもあり、悪性リンパ腫の場合20〜40%が1年以内に再発するというデータも見られます。
ですが、他のがんに比べて抗がん剤や放射線療法の治療成績が圧倒的に高いこともまた事実です。
糖質制限食が悪性リンパ腫に効くかどうかを示したデータは私の知る限りありません。糖質制限食のデータがない一方で西洋医学的な標準治療が有効だと言われている中で、それでも糖質制限食をやってみようと思える人は稀なのではないかと思います。
そこで私は理論的に考えることで糖質制限食の悪性リンパ腫に対する有効性を推察して、悪性リンパ腫における主体的医療の可能性を探ろうとしているわけです。
ひいては悪性リンパ腫だと診断された人が「お医者様にお任せするしかない」以外の選択肢が検討できる状況を作りたいと考えているのです。
ちなみに私の専門は脳神経内科であって、血液の病気について特別詳しいわけではありません。
しかも一般に血液内科という領域は内科の中でもとりわけ専門性の高い領域だと言われており、非専門家の知識では到底及ばないであろう(正しくないであろう)と思われてしまうかもしれません。
でも、そう思われてしまうかもしれないリスクを承知で、非専門家だからこそ見えてくる視点もあると信じて、私なりに妥当な考察を積み重ねてみたいと思います。
こういう専門外の病気を考える際に私が頼りにしているのは、自分が医学生時代に活用していた参考書です。中でもその記述がわかりやすくて好きだったSTEPという参考書を引っ張り出してみます。
STEP内科〈2〉感染症・血液 (STEP Series) 単行本 – 1998/11/1
若林 芳久 (監修), 松岡 健
こちらの参考書で悪性リンパ腫について書かれた章の冒頭、次のような解説文がありました。
(以下、p282より引用)
悪性リンパ腫malignant lymphomaとは、リンパ組織を構成するリンパ系細胞が腫瘍性増殖を起こした疾患です
(引用、ここまで)
これを読んで一瞬、細胞増殖性の、つまり「良性腫瘍的な環境適応」なのかと思いましたが、「腫瘍性増殖」という言葉からは、それが良性腫瘍的なのか悪性腫瘍的なのか、残念ながら判別することはできません。
「”悪性”リンパ腫」という名前がついているくらいだから「悪性」なんじゃないの、という安易な判断もできません。西洋医学的な「悪性」の意味合いは「転移」するということ、手術・抗がん剤・放射線治療といった標準治療で戦わなければならないという価値観に偏りすぎているからです。なのでひとまず判断を保留します。
次に注目したいのは、この悪性リンパ腫の進展様式です。
血液のがんと言えば、「白血病」が有名ですが、実は悪性リンパ腫は血液のがんの中で白血病より頻度の高い病気です。
一方で白血病の中には悪性リンパ腫と同じくリンパ系細胞が腫瘍性増殖をきたすリンパ性白血病という病気もあります。両者はどう違うのかに関して、参考書には次のように書かれています。
(以下、p282より引用)
(悪性リンパ腫も)リンパ性白血病もリンパ系細胞の腫瘍性増殖に基づく疾患なので、両者を併せてリンパ増殖性疾患という概念でまとめることができます。
ただし、リンパ性白血病の増殖の場所が骨髄であったのに対し、本症(悪性リンパ腫)の場合にはリンパ節や脾臓などのリンパ組織であるという違いがあります。
骨髄は末梢血に血球を送り出す装置を持っているので、これに便乗して白血病細胞は容易に末梢血中に出現します。
他方、リンパ組織はそのような装置をもっていないので、腫瘍細胞はすぐには末梢血に出現しません。
ただし、増殖の勢いが強いと、やがて腫瘍細胞は末梢血中にも堂々と姿を現します。これを白血化と呼んでいます。
(引用、ここまで)
この引用文から、悪性腫瘍が良性腫瘍的な環境適応をしているのか、悪性腫瘍的な環境適応をしているのかどうかを考えてみると、
悪性リンパ腫は初期の段階だとリンパ組織を中心に腫瘍増殖が起こり、血液には出てこないということから、
これは比較的秩序の保たれた細胞増殖、すなわち良性腫瘍的な環境適応であることがうかがえます。
一方で悪性リンパ腫の増殖の勢いが強いと血液中にも腫瘍細胞が出現し、これを白血化と呼ぶということになりますと、
進行した悪性リンパ腫やリンパ性白血病は悪性腫瘍的な環境適応、無秩序な細胞増殖の要素が強まっている流れもうかがうことができます。
つまり悪性リンパ腫が秩序を保っているうちは糖質制限が効くけれど、勢いが増して無秩序性が高まってきたら糖質制限だけではダメで、糖質制限+ストレスマネジメントが必要になってくると言えるのかもしれません。
しかし進行した悪性リンパ腫であっても、悪性リンパ腫の場合は抗がん剤が有効だと言われています。ということは糖質制限のがんへの効き方と、抗がん剤のがんへの効き方はやはり違うものを表していると言えそうです。
ちなみに悪性リンパ腫に放射線治療も有効だと言いましたが、それは悪性リンパ腫の中でもホジキン(Hodgkin)病と呼ばれる特殊なタイプでかつ病変が一部に限局している初期の段階において放射線治療が有効だとされています。逆に言えば全身に病変が広がってしまうと放射線を正常組織にも当てなければならない割合が多くなってしまうため放射線治療を使うことができなくなってしまいます。
実は悪性リンパ腫はこの特殊型のホジキン病(Hodgkin Disease:HD)と、非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin Lymphoma:NHL)の大きく2つに別れると言われています。
この区別は抗がん剤の効きやすさを考える上で非常に重要です。なぜならば両者は同じ悪性リンパ腫でありながら大きく特徴が異なるからです。
簡単に言えば、「ホジキン病は悪性リンパ腫の中で頻度は数%と稀だけれど、発熱、盗汗(=寝汗)、体重減少といった全身症状が多く出て、病変は限局的で白血化することが稀な予後良好なタイプ」ということです。
ポイントは2つあります。1つ目はホジキン病は悪性リンパ腫の中で良性腫瘍的な細胞適応が目立つタイプでありそうだということ、もう1つは秩序が保たれる細胞増殖が認められる反面、全身に激しめの症状をきたしているということです。
激しい全身症状は秩序とは相反するイメージがありますが、セリエのストレス学説を参考に私が考えたストレスに対する適応反応のうちの「過剰適応」とリンクします。
もっと言えば可逆的な過剰適応であり、激しい全身症状は何とかして秩序を保とうと身体が全力を出していることを意味しているのかもしれません。
ちなみになぜか日本人には頻度が少ないという特徴もあります。この話とここまでの考察を踏まえますと、私の中では日本人が太りにくいという話とリンクします。
ホジキン病は秩序の保たれた良性腫瘍的な細胞増殖を示すのだとすれば、これは高インスリン血症を反映した姿だとも言えます。
しかし欧米人に比べて日本人はインスリン分泌能が低いと言われていますので、もしもホジキン病と高インスリン血症が関連していると言えるのであれば、日本人はホジキン病になりたくてもなれない背景があるという言い方もできるかもしれません。
もっと言えば、血液内科の領域ではホジキン病と非ホジキンリンパ腫は全く別の病気として扱われますが、ひょっとしたら連続性があると言えるのかもしれません。
いや連続性というよりは、血液細胞に優位に細胞の環境適応変化が出やすいタイプの人の中で起こる表現型の差が、ある人はホジキン病と認識される形として現れ、また別の人には非ホジキンリンパ腫と認識される形で現れるというだけのことで、
本質的にはホジキン病にも非ホジキン病にも「糖質過剰摂取+慢性持続性ストレス」の2つが加わって細胞が適応変化を起こしているということではないかという考えに至ります。
最後にもう一つ。ところで、ホジキン病は病変が局所に留まることが多いのであれば、手術で取り去ることはできないのでしょうか。
この疑問に対して先の参考書に興味深い記述があったので紹介します。
(以下、p286より引用)
(前略)
なお、以前は開腹手術の上、摘脾、肝生検、腹腔内リンパ節生検を行うという徹底した検査法が行われていました。
しかし、最近は、免疫能低下状態にあり、しばしば全身症状を伴う本症患者に開腹手術を行うことの危険性が認識され、しかもMRIやエコーなどの画像診断が格段に進歩したため、
開腹手術はほとんど行われなくなっています。
(引用、ここまで)
つまり手術をすると余計に危ないということなのです。
以前私は手術とは麻酔でわからないようにしつつも、本質的には巨大な外傷性ストレスを人体に加える行為であることを紹介しました。
そしてホジキン病に可逆的な過剰適応たる全身症状が伴っていることを踏まえますと、
手術とはただでさえ120%の力を発揮して困難(ストレス)を克服しようとしている過剰適応の状態を、
さらに大きなストレスを人為的に与えることで人体を一気にオーバーヒートさせ、回復不能な不可逆的な消耗疲弊状態へと導いてしまう流れが想定されます。
引用文では免疫低下状態と書かれていますが、私はこの状態のことを「発炎反応>>終炎反応」とバランスが乱れた状態とみなします。つまり免疫が低下したというよりは炎症を起こすシステムと抑えるシステムから成る免疫のバランスが極端に崩れてしまっている過剰適応状態です。
ただでさえバランスが崩れたところに手術の侵襲を加えれば、危険な結果に至っても不思議ではありません。
しかしそう考えると、抗がん剤や放射線治療でも人体にストレスがかかるわけだから、同じように過剰適応から消耗疲弊へと進展して病状が悪化しないと話が合いません。
なぜホジキン病に対して手術侵襲は病態を悪化させ、抗がん剤や放射線治療による侵襲では寛解の方向へ導くことができるのでしょうか。
次回も引き続きホジキン病について掘り下げ続けていきたいと思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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