何気ない話が価値を産む

2014/03/12 00:01:00 | 普段の診療より | コメント:8件

男女の脳は働き方に違いがあると言われています.

例えば一般的に言語中枢は男性よりも女性の方が大きく,空間認知中枢は男性の方が大きいそうです.

また「男性は無口な生き物,女性はおしゃべりな生き物だ」という話を聞いたことがあります.

私の患者さんの中で,私によく相談してくれる方がいます.

相談されるという事は,頼りにされている証でもあり,私にとって悪い気はしません.

私はその時にどうしても解決策を導き出そうと考えてしまうのですが,

ただ話を聞いているだけでも役に立つこともあるのだと考えさせられる事がありました. 70代女性の患者さんです.

原因不明の発作的な胸部不快感があって,循環器内科で精査を受けるも確たる原因が見つからず,「心臓神経症」という診断を受けている方です.

「心臓神経症」というのは,結局原因が見つからない時に精神的な事が原因だとされる言わば「ゴミ箱診断」です.

この方が軽い脳梗塞を起こされ私が診ることになりました.その際,中等症の糖尿病と肥満があったため,いつもと同じように糖質制限の選択肢を勧め,実践して頂いています.もう1年以上の付き合いになります.

糖質制限を続ける事で,いつの間にかその胸部不快の症状も消えました.

時々3口のごはんと果物を食べることはやめられませんが,それでもかなり良好な血糖・体重コントロールを得ています.

この患者さんは心配症なところがあり,いつも診察の際に私に様々な質問をぶつけます.

時には受診日でない日にも電話で私に相談されたりすることもあります.

その都度,私は何かしらの解決策を提案するのですが,

ある日,どう答えていいのかわからないような質問をされた事がありました.

答えに窮しながらもいろいろと話をし続け,さしたる解決策も導き出せないままに診察を終えようとした際に患者さんが,

「先生とお話ができて本当に安心しました.これからも宜しくお願いします」

とおっしゃいました.そこではっと気がつかされました.


話を聞く事自体が患者さんの不安を取り去ることもあるのだと

そこに解決策があるなしは大きな問題ではないのだと感じました.

そして私はブログにこの経験を書き記そうと思いました.


何の解決策も導き出すことができず,無益とさえ思えた時間でしたが,

結果的には患者さんのためになっていたし,この経験をブログを通じて共有することができています.

無駄だと思える事にも価値がある事もあるのだと

感じたその日の出来事でした.


たがしゅう
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コメント

何気ない話が価値を生む

2014/03/12(水) 09:35:04 | URL | ミニパン #-
たがしゅう先生
毎日ブログ拝見するのを楽しみにしています。
たがしゅう先生は患者の不安な思いに寄り添い
耳を傾けてくださる素晴らしい先生だと思います。傾聴してくださることがどれほど患者にとり病気と向き合う勇気になることでしょう。
大学病院では、効率が優先されて難しい部分があると思いますが、たがしゅう先生応援しています。

アクティブリスニング

2014/03/12(水) 10:47:33 | URL | 月夜野うさぎ #-
今回の記事を拝読して、「アクティブリスニング(積極的傾聴)」という言葉を思い出しました。
http://jamsnet.org/911.php?itemid=220&catid=26

アクティブリスニングは、メンタルヘルスの分野で「アサーション・トレーニング」とペアでよく語られます。
(ご存じだとは思いますが、アサーショントレーニングは、たがしゅう先生が言及されている「アサーティブな会話」のためのトレーニングです)。

たがしゅう先生は「聴く」ことがすごくお上手なのでしょうね。先日の記事で「討論は苦手」とおっしゃっていましたが、とんでもない、強力な武器をもってらっしゃいます。
その能力、ぜひ磨いてください。

実は頼りにしております…

2014/03/12(水) 11:44:57 | URL | 棗 #-
たがしゅうさんに直におめにかかった者のひとりとして、
たがしゅうさんはとても聞き上手な方であると申し上げたいです(*^-^*)

自分では割り切っているつもりでも、やはり心療内科にかかる病気であることで
悪気のない差別発言に傷つくこともあります。
でも、やさしくわかりやすく相談にのって下さるたがしゅうさんには
気を許してお話しすることができます。

ひとりで病気について考える時間の多い病人には、共に考えて下さる方の存在があることで、孤独を忘れることができ、明るい気持ちになれます。

普段はお花畑で軽いノリの私ですが(笑)、
自分の病気の行く末を思う時、泣きたくなることもあるのです…。

医は仁術と言いますね。
とうといお仕事に日々奮闘されているたがしゅうさんの毎日が、いつも実り多いものでありますように。
たがしゅうさんの目指す糖質制限の未来が輝いていますように、
お祈りしています(*^人^*)

Re: 何気ない話が価値を生む

2014/03/12(水) 20:25:25 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ミニパン さん

 応援コメント頂き有難うございます.

> 傾聴してくださることがどれほど患者にとり病気と向き合う勇気になることでしょう。

 世間的に見れば私は要領の悪い医師かもしれませんが,

 そのように思って下さる方がいることは私にとって救いです.これからも頑張ります.

Re: アクティブリスニング

2014/03/12(水) 20:34:08 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
月夜野うさぎ さん

 コメント頂き有難うございます.

> 「アクティブリスニング(積極的傾聴)」

 面白そうですね.アサーショントレーニングとも関連があるのですね.

> たがしゅう先生は「聴く」ことがすごくお上手なのでしょうね。

 そんな…買い被りですよ.

 相性というものもありますし,実際にはいろんな人に嫌われたりもしています.

 でも「聴く」という事の大事さは痛感します.タイム・マネジメントを意識するとどうしても話の途中で割ってしまう事がありますが,どこでそうすべきか,どこでそうすべきでないのか,是非とも勉強してみたいと思います.

Re: 実は頼りにしております…

2014/03/12(水) 20:37:18 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
棗 さん

 コメント頂き有難うございます.

> やさしくわかりやすく相談にのって下さるたがしゅうさんには気を許してお話しすることができます。

 そのように言ってもらえて嬉しい限りです.

 おかげさまでこうしたブログ活動に非常にやりがいを感じます.

 どうか今後とも何卒宜しくお願い申し上げます.

プロの聞く力

2014/03/16(日) 00:43:20 | URL | ライフワーク光野 #-
 たがしゅう先生の患者さんは幸せですね。
話しをじっくり聞いていただけるのですから。


 裁判所の調停委員の新米さんの体験談です。

**********

 初めての仕事が「離婚已む無し」のご夫婦でした。
事前に先輩の調停委員から厳命されました。

・ 「絶対に話の腰を折ってはいけない!」
・ 「ただ只管あいづちをうちなさい。」

 夫婦それぞれが個別に面談したところ、
なんと延々2時間、伴侶の悪口を言い募ったそうです。

 ----------

 結果は?

 「円満な夫婦に戻った」とのこと。 

話しの終わりになると、
「自分にも非があった」としゃべりだしたそうです。

 自分の鬱積をすべて吐き出して、
はじめて相手を許す気持ちが出てきたのでは、、、


 「聞き上手」って、ものすごい力を持っているのですね!

Re: プロの聞く力

2014/03/16(日) 09:31:30 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ライフワーク光野 さん

 コメント頂き有難うございます.良い話ですね.

 話を聞き過ぎて,他の患者さんを何時間も待たせてしまう事もあったりして,これでよいのか悩むこともありますが,

 自分のベストを尽くすのが基本だと考え,「聞く力」を最大限に使って今後も診療していきたいです.

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