ケトン食が劇的に効くがんもある
2023/04/14 17:00:00 |
糖質制限 |
コメント:2件
書籍「糖質制限はやらなくていい」を読んだ感想の締めくくりとして、
この本に書かれていて勉強になったことを記して、このシリーズを終えようと思います。
著者の萩原先生が、この本の中で紹介し、また医学論文まで執筆されて明らかにしたこととして一番大きいのは「がんにケトン食が有効である」という臨床的観測結果だと思います。
しかも特定のがん種だけではなく、様々ながん種において同様に予後を改善したというのです。
「予後(よご)を改善する」とはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、「予後」とは、「病気や治療などの医学的な経過についての見通し」のことです。
なのでケトン食でがんの予後を改善したというのは、具体的には寿命を延長したとか、がんが増殖する速度を遅らせた(あるいはがんを縮小させた)とか、抗がん剤の苦しさを和らげたなど、様々な意味を包含した表現になります。
さて、ケトン食、すなわち高脂質を前提とした糖質制限食ががんに対して有効であるということは、
私も様々な糖質制限実践者を診たり、話を聞いたりしてきた経験の中で、萩原先生の研究が発表されるよりも前から確かなことだという実感を持っていました。 なので私にとっては目新しい情報ではなかったのですが、こうした事実が医学論文として示され、医学界全体に知られるようになったことは大変意義深いことだと感じています。
一方でこの本の中に、私にとっても目新しい注目すべき事実も書かれていたので、今回はその点をピックアップしておきたいと思います。
それは「ケトン食は肉腫に対して劇的な治療効果がある」ということです。
「肉腫」という病気を知っている人は少ないかもしれませんので、少し説明しておきましょう。
端的に言えば「肉腫」は「がん」の一種です。まずひらがなで「がん」という時にはいわゆる「悪性腫瘍の総称」を意味します。
この「がん」がまず「固形がん」と「血液がん」に分かれます。「血液がん」は「血液の中の細胞や血液を作るとされる骨髄の細胞ががん化して過剰に増殖を繰り返す病気」です。「白血病」「悪性リンパ腫」「多発性骨髄腫」などの種類があります。
そして「血液がん」以外のいわゆる各臓器で塊を作る「がん」のことを「固形がん」と呼びます。私たちが「がん」という言葉を聞いた時にイメージしやすいのはこちらの「がん」だと思います。肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がん、全て「固形がん」の一種です。
さらにこの「固形がん」は「癌腫」と「肉腫」に分かれます。「癌腫」は単に「癌(がん)」と表現することもあります。なので、ひらがなで「がん」と書く場合と、漢字で「癌」と書く場合とでは意味が異なり、「癌」は「がん」の一部であるという関係になっています。
そして「癌腫」と「肉腫」はどう違うかと言いますと、肺、腎臓、肝臓、膵臓、消化管などの各臓器は、臓器表面を覆う「上皮細胞」とそれ以外の「非上皮細胞」から成っています(上皮細胞のない骨・筋肉・脂肪、神経などの組織もあり、これを構成する細胞も「非上皮細胞」と総称します)。
そして「上皮細胞」ががん化したものを「癌(癌腫)」、「非上皮細胞」ががん化したものを「肉腫」と呼ぶということです。
それなのに一般人が「がん」という言葉をよく聞くにも関わらず、「肉腫」という言葉をあまり聞かない最大の理由は、「肉腫」は「がん」全体の1%程度にしか発生しないまれな「悪性腫瘍」だからというところが大きいです。
そんなまれな「悪性腫瘍(がん)」である「肉腫」に対して、ケトン食の効果がとりわけ高いという事実が本書には書かれていました。
(p155-158より引用)
(前略)
がんの種類によっては、もしかしたら、ケトン食だけで悪化しない可能性のあるがんもあるのです。
どんな種類のがんかといえば、「肉腫」と呼ばれるがんになります。
肉腫(サルコーマ)とは、全身の骨や軟部組織(筋肉、脂肪、神経など)から発生する悪性の骨軟部腫瘍を意味します。
骨の肉腫の代表的なものとして、骨肉腫、軟骨肉腫、軟部組織の肉腫の代表的なものとして、脂肪肉腫などがあります。
肉腫の特徴は、発生頻度が低く、分類が多様なことにあります。がん全体に占める肉腫の割合は約1%に過ぎません。
しかし、一般的な肉腫の印象としては、若い人に見られて、助かるために脚などを切断する手術をしないといけないという非常に怖い病気です。
それが、ケトン食によって特に効果が出るのであれば、多くの患者さんにとっての朗報となる可能性があります。
現在までに、研究に参加した肉腫の患者さんは3人です。
1人の方は、40代の男性で左肩甲状軟骨肉腫の患者さんで、残念ながら十分にケトン食を実施できず、お亡くなりになりました。
他の2人は、全く抗がん剤治療などを併用せず、ケトン食だけで長期延命しています。
1人は軟骨肉腫の80代の男性。もう1人は腹壁脂肪肉腫の40代の女性になります。
80代の男性の場合は、右大腿骨の付け根あたりに元々の肉腫があり、ケトン食を導入し、半年を過ぎたときに、転移をした肺の部位を切除しました。
いわゆるがん治療として実施したのは、それくらいで、がんは消えていません。
しかし、その80代の男性は、ご家族に大切にされながら、5年を過ぎても(2022年12月現在)、とてもお元気に過ごされています。
さすがに、長くケトン食を続けているので、何度もそろそろやめてもいいかなとお話されますが、結局は継続されています。
もう1人の40代の女性は、とても大変な治療経過を乗り越えてきた患者さんでした。腹壁脂肪肉腫を患い、10年間で12回の手術をしてこられました。
多い時は1年に2回もの手術を受けて、「病院が家のようになっていた」と、患者さんは笑いながらお話しされていました。これだけ大変な思いをされているのに、なぜか明るいのです。
興味深いことに、その患者さんがケトン食を導入したことで、再発のスピードが明らかに遅くなりました。5年間フォローしていますが、再発は1年に1回以上のペースですから、今までなら、5〜6回は再発していたはずなのにわずか3回に減少したのです。
1回目はケトン食を始めて半年くらいの時でした。その1年後に14回目の再発。その後、血中総ケトン体濃度を数千μmol/L台まで維持し、2年半再発がありませんでした。
しかし、長い期間再発がなかったので、「完全にケトン食がゆるんでしまったから」と、ご本人がお話しされたように、血中の総ケトン体濃度が1000μmol/L前後まで低下しており、15回目の再発がありました。
それからはがんケトン食療法を改めて厳しく行い、血中総ケトン体濃度が、数千μmol/L台まで回復し、現在は経過順調です。
肉腫におけるがんケトン食療法の効果については、肉腫の専門家のさらなる検討が必要でしょうが、これが有効ということになれば、新たな治療の選択肢が増えることになります。
肉腫における治療は、一部の抗がん剤を除き、現在では、手術で「切る」という選択肢しかありません。そんな厳しい治療を受けても、再発するリスクがあるのです。
再発するリスクを、ケトン食が低下させるのであれば、患者さんは、そのつらい決断を前向きにとらえることができるように思います。
(引用、ここまで)
そう、「肉腫」というのはまれですが、非常に治療が難しいということ、
そしてどういうわけか抗がん剤が効きにくく、引用文のように既存の標準治療では部位によっては足を切断せざるを得ない事態に追い込まれてしまうのです。
しかもそれが比較的若い人に起こりやすいという特徴もあって、若くして足切断手術を受ける人達の原因に「肉腫」は大きく関わっています。
その「肉腫」のケトン食への効果がとりわけ高いということなのです。なぜなのでしょうか。
実はこの記事を書いている時点で私の中でまだ答えはまとまっていません。しかしここは「糖質制限食とがん」の関係性について考える上で重要な示唆を与えてくれていると私は思います。
少なくとも、ここでわかることとして、肉腫への治療効果は明らかにケトン食の実践具合と連動しているということです。
実践できなかった人がなくなっていますし、実践して良くなった人も実践具合が緩んで総ケトン体値が下がると再発しやすいという状況が客観的にも確認されています。
そしてこの「肉腫に著効する」という特徴はどうやら年齢によらないようだということも少数例ながらわかります。
人数が3人と少ないから何も言えないという人もいるかもしれませんが、それは1人1人の症例の価値を見誤っていると思います。
少数であっても、標準的治療での経過と明らかに異なる経過をたどり、なおかつ同一症例内でケトン体の増減と病勢が連動しているのだから、ひとまず「ケトン食は肉腫に著効する」という前提で考えて良い状況です。偶然だと思う方こそ無理があります。
この辺りの感覚はワクチン接種後のトラブルが現実に多発しているにも関わらず、医学論文では統計学的な有意差がないから問題はないと判断する専門家の思考のヤバさにも通じます。
大人数を集めて統計学的な結果を待っているようでは、待っている間にはケトン食で避けられるかもしれない足切断が繰り返されてしまいます。すでに著効例が確認されているのであれば、取り返しのつかない副作用があるわけでもなし、ケトン食をやりながら考えていけばいいのです。
その結果、ケトン食を行っても肉腫が悪化するような症例が現れれば、その時点でまた軌道修正していけばいいと私は思います。
引用文の中に、「肉腫の専門家のさらなる検討が必要」とありますが、もちろん意見を聞くこと自体は構いません。
ただ「肉腫の専門家」というのは、言ってみれば既存の治療方針での症例経験をたくさん積み重ねてきた人達です。
「肉腫」は基本的に治療が難しく、手術で取り去るより他にないという想いを誰よりも強く持っている人たちです。
そういう「肉腫の専門家」が「ケトン食が肉腫に有効だ」と聞いて、それは「素晴らしい治療法だ!」と素直に認めればいいのですが、
残念ながらそれとは逆の言動を取りかねないことが、糖尿病専門医による糖質制限食への批判的言動を見ていると容易に想像できます。「Nが足りないからもっと症例数を増やしてものを言うべき」だとも言われかねません。
私は「肉腫の専門家」の意見を重視し過ぎずに、対等な立場での一つの意見として聞きながらも、この「肉腫」に対するケトン食の効果を確かめていくべきだと思います。
さて、がん全般に糖質制限食は有効ではあるというものの、
完全にがんを消し去るほどに治療効果をもたらしたという話は少ないかもしれません。何年も元気な状態で共存する状態でいたという話は多いですが、がんを消し去るという事実はむしろストレスマネジメントの中で多い印象です。
糖質制限食単独ではがんを抑制するには十分でないということなのでしょう。糖質はどれだけゼロに近づけても決してゼロにはならないということも関係しているのだとは思いますが、
今回の「肉腫」の件を踏まえると、同じ「がん」の中でも糖質制限食が効きやすいがん、効きにくいがんというのは確かにありそうです。ここは深く考える余地があります。
それと「肉腫」はケトン食(糖質制限食)が効くけれど、抗がん剤は効きにくいと言う点も同様に注目に値します。
実は以前から抗がん剤(化学療法)が非常に効きやすいがん、放射線治療が非常に効きやすいがんの存在が私は気になっていました。
抗がん剤の効きやすさと糖質制限食の効きやすさが連動しているのであればわかりやすいのですが、ここは必ずしも連動していません。
そして抗がん剤や放射線療法が効きやすいのであれば、無理に糖質制限食で立ち向かう必要もないかもしれません。
でも、ほとんどのがんが抗がん剤や放射線治療に抵抗性を示す中で、どうしてごく一部に非常に効きやすいがんがあるのでしょうか。そうした抗がん剤や放射線療法が効きやすいがんに対して、「肉腫」のように抗がん剤や放射線治療を行わずに糖質制限食で治療することはできないのでしょうか。
この疑問に答えるには実際に糖質制限食単独で治療した経験のある人がいれば最も説得力が高いわけですが、おそらく現時点ではどこを調べても見つからないことでしょう。
なぜならば抗がん剤や放射線治療で治ると言われているのに糖質制限食で治療しようとすることは、あまりにも非常識な行為であるし、万が一結果が望ましくなかった場合に本人にかかるストレスが計り知れないため、誰もその方法を勧めようとしないだろうからです。
一方でこうした非常識でも有意義な治療の可能性を、「肉腫」のように劇的な改善効果をもたらすかもしれないのに、常識的価値観によって潰されてしまうのは大変勿体無いことだとも思います。
もし可能性があるとしたら実際の当事者が自らの主体的な判断で、抗がん剤や放射線療法を行わずに糖質制限食に取り組んでもらうことなのでしょうけれど、誰もそれを勧めない中でその治療方針を貫くことの辛さは計り知れません。
でももし本当に「肉腫」のように、抗がん剤や放射線治療を行わなくて済むのであれば、それは今後の同様の立場に置かれる人達の光となるでしょう。引用文の「肉腫」でケトン食を実践された患者さん達のように、です。
私たちはそうした決断を主体的になされる人が、自分の決断に少しでも参考にしてもらえるように、
何ががんへの糖質制限の効果を高めるのか、また抗がん剤が効きやすいがん、放射線が効きやすいがんとはどういう特徴があるのか、そしてそうしたがんに糖質制限食を行うことはどうなのかについて、
この「肉腫」のケースも参考にして、私なりの考察を加えていこうと思います。引き続き考えてみます。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
比
Re: 比
コメント頂き有難うございます。
> 正常細胞と、癌の、糖質の消費速度の「比」を観てみたいですね。
そうですね。確かにひとくちに癌と言っても、どの程度の糖質の消費速度なのか。がんが出来る場所や周囲環境によっても大きく変わりそうです。
ただ残念ながら私にはその点について検証できるバックグラウンドがないので、その代わり形態学的な特徴やフラクタル構造から推察して考察を進めていければと考えております。
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