自己流の糖質制限は良くないのか

2023/04/06 11:20:00 | 糖質制限でうまくいかない | コメント:0件

前回記事では糖質を制限することで脂質代謝が賦活されて生み出される「ケトン体」、

この「ケトン体」を利用する「ケトン食」というほとんど糖質制限食と同じカテゴリーに属する食事療法をがん医療に応用されている第一人者の医師、萩原圭佑先生が書かれた書籍の中で、

「糖質制限はやらなくていい」というメッセージを全面に押し出している矛盾についてピックアップしました。

一つわかったことは萩原先生が思っている糖質制限は、「それまでの食事から本当に糖質を制限するだけで、全体の食事の摂取量を減らす行為」だということ、

そしてそのような食事療法を萩原先生自身も1ヶ月間実践されて、体重は減ったけれど明らかに体調が悪くなるという体験をしたこと、がおそらく大きいのではないか推察されます。

ただそれだとケトン食も否定しそうなものですし、多くの糖質制限反対派医師はみんなそうだったと思います。

ところが萩原先生の場合は、糖質制限は否定するけれども、ケトン食の有用性は広く認めていますし、

なんと2022年に「日本ケトン療法学会」という学会まで立ち上げられ、この治療法を多くの医師へ広めようという活動を積極的に行おうともされています。

要するに、糖質を制限するだけではなくて、脂質もしっかり摂るということさえ守ればいいということなのでしょうか。 でもそれにしても、「糖質制限はやらなくていい」はやはり違和感のあるメッセージです。なぜならば糖質を制限しないことにはお目当ての「ケトン体」がそもそも産生されないからです。

実際、この本の中で萩原先生が推奨するケトン食についての説明で次のように書かれています。

(p127より引用)

ケトン食に際して必要な糖質制限量は、1日あたり少なくとも30g以下、私の開発した方法だと最初の1週間は10g以下まで制限します。そのために専門の管理栄養士の先生に調味料までチェックしてもらいます。

(引用、ここまで)


これは、糖質を制限することを「ケトン食」において必要なプロセスだと認めている記述だと思います。

一方でそのような試みは素人が実践することは難しく、専門家のサポートが入ることが必要不可欠だというニュアンスが出ている文章にも思えます。

実はそういうニュアンスが反映されているところが、他にも出てくる箇所があります。

(p25-26より引用)

糖質は、人間に必要なエネルギー産生栄養素の1つです。

糖質は、体を成長させたり、体を動かすために必要なものであり、主食としてとり入れるだけあって最も基礎的な栄養になっています。

ですから、体が成長している途中の10代から20代では、何か病気がある場合を除いて、基本的に男女を問わず糖質制限をする必要はないと、私は考えています。

なぜなら、若い間は、ケトン体の働きによるサーカディアンリズム(概日リズム:昼と夜で体温が変わるなどの日内変動)の調整作用や抗炎症効果(炎症を抑える効果)などがしっかり働いているからです。

結果的に、筋肉と脂肪のバランスが整って適正な体型が維持され、いわゆるダイエット効果を発揮することにもなります。

これは社会人でも学生でも、主婦の方でも同様です。

【自己流の糖質制限はおすすめできない】

また20代に限らず、肉体労働の人はもちろん、毎日の仕事で多少なりとも筋肉を使い、頭脳労働もしているという人なら、基本的に糖質制限をする必要はないと思います。

(中略)

私の診察室にいらっしゃる患者さんでも、よかれと思って自己流の糖質制限をした結果、次のような症状を訴える方が多く見受けられます

・疲れやすい
・乾燥肌で肌がカサカサになる
・冷え症

なぜ、このような症状を訴えるのでしょうか?

(引用、ここまで)



若い人の話を切り口にしていますが、結果的にはほぼ全員への「糖質制限はやらなくていい」というメッセージになっているように私は感じました。

要するに「大半の人は普通に生活して筋肉や頭脳を使っていれば、糖質がエネルギーとして使われて糖質過剰にはならないから、素人がむやみに糖質制限をやらなくていい」というメッセージだとまとめることができるかもしれません。

そして途中に出てきた【自己流の糖質制限は、おすすめできない】という副題から、萩原先生の次のような考え方が私の中に浮かび上がってきます。

「ケトン食とは、素人が手を出すべきではない、専門家によって厳密に管理されるべきがんなどの特殊な病気への治療食である」

そういう認識があるからこそ、「糖質制限はやらなくてもいい」というメッセージに至るのではないかと私は思うのです。

素人が適当に糖質制限をしてしまうと、疲れやすくなって、肌がガサガサになって、冷えやすくなってしまうと思うし、実際にそういう患者さんが萩原先生の目の前に現れるし、自分にもそういう経験があるから、ここは萩原先生にとって疑う余地はない感覚になるのだと想像します。

さらにその認識を裏付けるかのように、萩原先生は自身のケトン食療法のプロトコールを「がんケトン食療法」と名付けて、特許を取得されたということも書かれていました。

(p154より引用)

私たちが開発したがん患者へのケトン食療法の方法論は、2020年6月にアメリカで、10月にはシンガポールで、2022年8月には日本でも、特許を取得することができました。

食事療法において特許が認められたことは、まさに画期的なことでした。

現在、中国でも特許申請中です。私たちの開発したがんケトン食療法は、国際的にがんに対する治療法として正式に認められたのです。

(引用、ここまで)


特許を取得することで、国際的な治療法として正式に認められたとありますが、特許とは国際的に認められるために取得するものでしょうか。

私の理解では、特許というのは、他の類似のものの登場で自分たちの権利が侵害されないように取得するものです。国際的に認められることとはまた別次元の話だと思います。

要するに特許を取ることで、素人の適当な糖質制限食やケトン食と謳って悪い効果をもたらす間違った方法によって、自分達のケトン食に対する悪評が広まってしまうリスクに事前に対処しているのではないでしょうか。

逆に言えば、がんケトン食療法と同じ治療法を実践して広めようとするならば萩原先生の所属する大阪大学の許可を得なければならないという状況にもなると思います。

その行為は一見、医学界に「ケトン食」の有用性を正しく広めようとする正当性のある試みのように思えますが、その正当性は「素人は間違うもの」という前提があってこその話だと思います。

本当に自己流の糖質制限はおすすめできないでしょうか。


武芸の基本に「守・破・離」という概念があります。

確かに「糖質制限」と聞いて、ろくに調べることもなく、本当に名前の通り糖質(炭水化物)を抜くだけの食事療法を行なって体調を崩すような事態を招くことはよくないと私も思います。

ただそれは自己流であることが原因なのでしょうか。体調が悪くなっているにも関わらず、「糖質制限だから大丈夫なはずだ」とそのまま盲目的に同じ食事を続けていることが原因なのであって、

基本的な知識を学んだ上で、その先の応用方法を自分で考えていく自己流はむしろ推奨されるべきではないでしょうか。

一方で自己流で行うにしても守るべき基本がなければ、どこにどう進んでいいかもわからなくなるという点は理解できます。

その意味で私は江部康二先生が糖質制限食の道を切り開いて下さっていたおかげで、これを道標にして糖質制限食の恩恵を存分に受けることができました。江部先生には本当に感謝しかなくて足を向けては寝れません。

ある程度江部先生方式で実践を繰り返した後には、自分流に方法をカスタマイズしながら自己流の糖質制限との向き合い方を行うようになりました。

そのような自己流によって私はむしろより生きやすく体調をコントロールすることができるようになっています。すなわち、「守・破・離」の「守」を経て、自己流を追い求めるようになったという流れです。

でもそれは私が医師という専門職だからできる自己流というわけでは決してありません。なぜならば医療界に糖質制限食の専門家など当時誰もいない状況だったからです。言わば、江部先生の示された基本型をもとにその後は誰もが自己流を行なっていくより他になかった状況でした。

そんな自己流がはびこらざるを得ない状況の中で、私がこれまでに出会った糖質制限実践者の中には、見事な程に自己流で難しい病気を上手にコントロールしている人も少なからずいらっしゃいました。

1型糖尿病の患者さんでインスリンを1単位レベルで調整され良好な血糖コントロールを得られている方もいましたし、2型糖尿病でも血糖値やコレステロールが高値安定でも無理に下げようとせずに体調良好を保っている方もいらっしゃいました。

余命数ヶ月だと言われていた末期の肺がんを何年も良好状態でコントロールしていた糖質制限実践者の方もいらっしゃいました。まさに自己流を突き詰めたが故の適応だと私には思えます。

自己流自体が悪いのではない、勝手にこうだと決めつけてその後の状況に応じて見直しを行わない姿勢が悪いのではないでしょうか。

そして私に糖質制限食を知るきっかけを与えてくれた湿潤療法の祖、夏井睦先生はよくおっしゃいます。

「医学の情報は人類の共有財産だ」と。私もこの意見に大賛成です。医学の情報で囲い込みを行うべきではありません。

そういう意味で同じケトン食の有効性を認める立場の医師として、私のスタンスと萩原先生のスタンスは大きく異なっているように思います。



ただ、「自己流で大丈夫なんですよ」などと言われることを歓迎しない患者さんも多いのもまた事実でしょう。

「自分は病気という災厄に襲われた被害者であると、だから専門家の施しによって助けてもらいたい」と考えている患者さんからすれば、大学病院の先生が開発した治療法を専門家の指導の下で受けられるという状況は救いに感じられるかもしれませんね。

そういう患者さんのことを私は否定しませんし、そういう患者さんにとっては萩原先生の活動は福音になるだろうと思います。管理してもらった方が安心でしょうから。

だから私は萩原先生のケトン食普及活動を、距離をおいて応援したいと思っています。

そして私は萩原先生とは異なるスタンスでケトン食、そしてもちろん糖質制限食の良さを広めていきたいと思っています。

専門家によって管理されるべき厳格な治療食として、ではなく、

主体的医療を実践するために自分の手の中にある有意義な手段の一つとして、です。


たがしゅう
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