筋書きと異なる道を進むために大切なこと
2023/03/03 06:00:00 |
保険診療への疑問 |
コメント:4件
まだまだ保険診療について思うところを書き綴ってみます。
私の中には西洋薬の連用は自己治癒力を阻害するという考えがありますので、
もしも血圧の薬(降圧剤)を飲み続けているご高齢の患者さんがいて、その患者さんが薬を飲み続けることに対して不安を抱えていたとして、
そしてその患者さんから「先生、このままこの薬(降圧剤)を飲み続けても大丈夫でしょうか?」と保険診療の現場で問われたとしたら、私はどうするべきでしょうか。
これが例えば私がアルバイトで一定の診療時間だけ働いている立場でその患者さんを診ている状況だと仮定したら、
私はきっと「確かにご心配ですね。今お身体に不具合がないのであれば大丈夫だと思いますよ。心配であればまたいつでもご相談ください」と言って同じ薬を出し続けるだろうと思います。
これまでの主張と矛盾するではないかと思われるかもしれません。では「いや、大丈夫ではありません。私は血圧の薬を飲み続けると自分で血圧を上げる能力が衰えてしまうので、飲み続けるべきではないと思います。」と言ったら、この意見は聞き入れてもらえるでしょうか。 きっと患者さんは面食らってしまうでしょう。混乱されてしまうかもしれません。余計不安が大きくなるだけかもしれません。
よしんば受け入れて薬をやめてくれたとしても、私は所詮アルバイトの医師です。常にその患者さんの診療に当たれるとは限りません。
おそらく医師全体の少なくとも8〜9割の人は、保険診療の筋書きに乗っていて、「血圧の薬(降圧剤)は飲み続けるべき」だと考えていると思いますので、
その患者さんがその8〜9割の医師に当たれば、血圧の薬を飲んでいないことを責められてしまうかもしれません。
「なんでそんな勝手なことをするんだ」「あなたのやっていることは自殺行為ですよ」などと罵られてしまうかもしれません。
このような批判や恫喝に耐えながら、患者さんは薬を飲まないという自らの希望を叶え続けることがはたして可能でしょうか。決めつけはよくありませんが、私には「難しい」という感想しかありません。
よしんば医師が薬を飲まないという選択を認めてくれたとしても、先生が心から賛同してくれているわけでなければ、
患者さんとしては「自分で決めた選択だとは言え、本当にこのままで大丈夫だろうか」などと不安を抱え続けてしまうかもしれません。そして今度はその不安が自律神経を介して血圧を上げ続けてしまうかもしれません。
そう考えていくと、とにかく保険診療の設定の中で保険診療の筋書きとは異なる自分の希望を叶えることには極めて多くの壁があるように思えます。
だから私がもし保険診療の現場で、特に自分の自由にできない雇われの身で薬を続けても大丈夫かと問われたら、きっと保険診療の筋書き通りに、自分の考えとは異なることであったとしても、私も薬を出し続けるのではないかと思います。
同じ保険診療であっても、私の自由にできるオンライン診療の現場で同様の患者さんに出会った場合はどうでしょうか。
少なくとも「私は薬を飲み続けることは良くないと思っている。ただしそれは薬をやめた状態をその人がどれくらい不安に感じるかによっても変わってくる」と伝えるだろうと思います。
ただ今度はそのオンライン診療だと、また別の問題が出てきます。
保険診療でオンライン診療を利用される患者さんの多くが求めているのは私の意見というよりは、「安く薬の処方を受けられること」なのです。
だからそもそも保険診療でのオンライン診療では「本当に薬を飲み続けていてもいいのでしょうか」という質問自体が起こりにくいです。なぜならば保険診療は薬を安く手にいれるために使っているような所があるからです。
逆に言えば、それくらい私が誰にも忖度せずに自由に言える状況でかつ患者さんも自分がどうすべきかについて決めかねている、ないし薬を飲まないという選択肢も前向きに受け止めているという状況においてはじめて、
保険診療の中で患者さんが自分の希望を叶えることができる可能性が少しずつ出てくるという話になってきます。これはもう保険診療で自分の希望を叶えようとすること自体が極めて困難なことだと判断せざるを得ません。
薬を飲みたくないのだけれど、薬を飲むようなだめられても依然として不安を抱えたままで地獄、「薬はやめた方がいい」と断言されても不安がぬぐいきれずに地獄。進むも地獄、戻るも地獄のような様相を保険診療では呈しているように思えます。
この悪循環から逃れるためには「医師に言われたから薬を飲まない」という選択をするのではなく、
「自分で決めたから薬を飲まない」という選択をするより他にないと私は思います。
その「自分で決める」という選択を保険診療の仕組みの中で行うのが極めて困難だということです。
なぜならば保険診療の中には、「医者が治療方針を立てる」という保険診療の筋書きに従う医師が無数にいて、自分で決めた選択・価値観を保険診療の筋書きへと容易に書き換えられてしまうからです。
要するに「自分で決める」という当たり前の行為を行うのにも、それが行いやすい場と行いにくい場とがあることを知っておいて損はないということです。
では保険診療ではなく、自由診療を利用すれば自分の希望を叶えやすくなるのかと言いますと、
確かに保険診療の筋書きにとらわれにくい条件の場にはなりますが、残念ながらそれだけでは不十分です。
一つは保険診療の筋書きを持ったまま自由診療を展開している医師もたくさんいます(例:血圧を下げ続ける必要はあるけれども、西洋薬を使うべきではない、など)。
もう一つは、患者さん自身がどのように診療に臨むかという姿勢によっても変わってきます。
詐欺が成立するためには、だます人とだまされる人の双方がそろってはじめて、という話があると思いますが、
主体的医療が成立するためにも同じことが言えると私は思っています。
つまりたとえ医師側が自由診療で主体的医療を受ける土壌を整えていたとしても、
当の患者さんが保険診療の筋書きのまま自由診療を利用していれば、
言い換えれば冒頭の「先生、このままこの薬(降圧剤)を飲み続けても大丈夫でしょうか?」と不安を述べて医師に正解を求めるような患者さんのスタンスでいれば、
どちらにしても結局不安をかき立てられるだけのコースへ案内されてしまうのではないかと思います。
では、患者は結局どうすればいいのでしょうか。
唯一無二の正解はないのかもしれませんが、私がこうすればより良いのではないかと思うことをとりあえず述べてみます。
一言で言えば、「対話」というものにヒントがあると思っています。
まず「対話」では「対等な立場」を大事にしますので、医師を特別な存在だと思わないことが大事と思います。
自分と同じ対等な人間で、自分とは違い人生を生きてきて、自分にはない視点を持っているかもしれない人として捉え、そこに優劣の感覚を求めないことです。
立場が対等なので「医師に教えてもらう」という発想はまずなくなります。「(医師という)一人の人間の意見を聞く」というスタンスで意見を求めます。
そのスタンスで質問すれば、まず質問の仕方が変わってくるかもしれません。
さっきまで「先生、このままこの薬(降圧剤)を飲み続けても大丈夫でしょうか?」と尋ねていた患者さんも、
対等を意識すれば、例えば「私は薬を飲み続けることで漠然とした不安を感じているのですが、あなた(医師)はどう思いますか?」と言った聞き方もできるかもしれません。
それに対して例えば私が「そうですね。私は薬を使うことは外部の力を頼って身体のシステムを動かすことなので、薬を長く使っていると自分の身体がシステムを動かす力を弱めたり、またシステムが過剰に動かされてしまうような不具合を生じてしまうのではないかという心配があります」と答えたとします。
患者さんはその意見が良いと思えば採用したらいいし、合わないと思えばそのまま置いておけばいいです。あるいは全部を採用しなくても、一部採用できそうなところがあれば、そこだけ採用するというのでも良いでしょう。
大抵の場合、「対話」の場では複数の参加メンバーがいますので、それを聞いた同じく対等な立場の別の人がまた違う視点で異なる意見を場に出してくれるかもしれません。
そうした複数の声を聞きながら、自分はどう感じるか、どうしたいかをゆっくりと考えてみる、そのような「対話」の場に身をおくことで通常であればとても難しい「自分の頭で考える」という行為が非常に促進されやすくなる気がします。
医師の声を特別視するのではなく、あくまでも数多ある声の一つとして聞くことで、
医者に従うのではなく医者を利用する、あるいは「医者と関係する」という状況が生まれるのではないかと私は思います。
そしてその「関係する」という状況そのものが主体的医療の根幹部分であり、
そうした人と人とのつながり方を目指していくことの医療の再構築への道が拓けているように感じています。
保険診療はどうしても「対話」することができなくなった、脳卒中とか急性心筋梗塞とか、重症交通外傷とか、緊急事態の時のためだけにとっておくのです。
逆に言えば、どうしても「対話」できない時以外は決して「対話」することを諦めないこと、
そうすれば不本意な終末期を迎えることは決してないはずです。
もしも不本意な終末期が訪れることがあるのだとすれば、
それは自分の頭で考えることを放棄し続けた時だけだと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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糖質を含んでいるのに血糖値を上げない食品
ところで最近、巷で「たまごサンド」「シュークリーム」「もち麦」「照り焼きチキンバーガー」など、糖質量が多いにも関わらず、血糖値を測定するとほとんど横ばい・・・という食品が話題になっています。実際に、複数の方が試されて証明しているのですが、こういう食品って、糖質制限者が食べても良いのでしょうか? どうも、脂肪エネルギー比が高い食品が、これらに該当しているようです。先生のご意見をお聞かせいただければ幸いです。
Re: 糖質を含んでいるのに血糖値を上げない食品
ご質問頂き有難うございます。
> 最近、巷で「たまごサンド」「シュークリーム」「もち麦」「照り焼きチキンバーガー」など、糖質量が多いにも関わらず、血糖値を測定するとほとんど横ばい・・・という食品が話題になっています。実際に、複数の方が試されて証明しているのですが、こういう食品って、糖質制限者が食べても良いのでしょうか?
「食べてもいいか」の意味が「血糖値を上げないから健康は悪影響はないですか?」ということでしたら、「血糖値が上がらないかどうかは個人差が大きいし、血糖値が上がらなくてもインスリン分泌や糖化の害は受けている可能性が大きい」というのが私の回答になります。
糖質を摂取して血糖値が上がるかどうかは、その人がインスリンという血糖値をどれくらい出すことができるか(インスリン分泌能)、出したインスリンが十分に効く環境にあるかどうか(インスリン抵抗性)、あるいは糖を消費する筋肉量がどの程度あるかどうか(筋肉量)、そしてその筋肉がどの程度使われているか(運動量)などによって左右されてきます。
ご提示の血糖値が上がらないという食品は、含まれている糖質が多いという点はまず事実としてあると思います(もちろん同系統の他の食品に比べると比較的低いということはありますが)。その上で複数の人が試されて血糖値が上がらなかったということは、ひとつの可能性としてその実験に参加された方のインスリン分泌量が高かったり、筋肉量が多かったりしていたことが考えられると思います。後者であれば特に問題ないと思いますが、前者の場合はインスリン過剰分泌の害(例:いびつな細胞増殖→がんやポリープなど)を受けているので、必ずしも血糖値が上がらないことだけで健康に悪影響はないとは言えないのではないかと私は思います。
勿論、そうしたことを理解した上で食べるのは「食べてもいい」と思います。参考になれば幸いです。
ご回答ありがとうございます。
実際に実験されている方々は、当然、他の食品でもいろいろ試されていて、例えば、白米や食パンなどを単体で食べるとは血糖値スパイクを起こしています。
可能性として、脂肪の多い食品は、糖質の吸収を抑えているとは考えられないでしょうか?
もしそうなら、高価な糖質吸収阻害薬など使わずに、脂肪で糖質を相殺出来るのではないかと考えたのですが、浅はかですか?
→ https://www.youtube.com/watch?v=8E493U8sMRY&t=22s
こういう論文もあるみたいなのですが・・・。
Re: ご回答ありがとうございます。
コメント頂き有難うございます。
> 実際に実験されている方々は、当然、他の食品でもいろいろ試されていて、例えば、白米や食パンなどを単体で食べるとは血糖値スパイクを起こしています。
なるほど、そうなのですね。
であれば先の私の考察は早合点でした。大変失礼いたしました。
> 可能性として、脂肪の多い食品は、糖質の吸収を抑えているとは考えられないでしょうか?
確かにその可能性はあると思います。
脂肪に限らず、糖質の吸収を阻害する何らかの物質が一緒に混入していれば血糖値スパイクの波が緩やかになることはあると思います。
食べる順番療法やα-グルコシダーゼ阻害剤などの血糖値の吸収を遅らせる薬を併用する方法もそれに通じると思います。
薬で強制的に糖質の吸収を遅らせる状況を作った場合でイメージ的に血糖値吸収のピークを最大で50mg/dL程度下げることができる感覚があるので、その範囲内であれば食品の組成によって糖質の吸収が阻害される場合にも起こりうる血糖変化ではないかと思います。
一方で血糖値の吸収が遅れたとしても最終的には全て吸収されるというのが私の理解です。
また糖質吸収タイミングの遅延はインスリン分泌タイミングの遅延リスク(機能性低血糖症など)もあると考えることができます。
確かに血糖値スパイクからの酸化ストレスのリスクは減らすことができるかもしれませんが、別のリスクも抱えることになるので、手放しでは安心できる状況ではないかなと個人的には思います。
またもしご指摘のように「脂質が糖質の吸収を遅らせている」と仮定したら、その人には多少なりとも「脂質吸収障害」があることが示唆されます。脂質も十分に吸収できる状態の人が同じ実験したらまた結果が変わってくる(例:脂質エネルギー比が多いものを食べても血糖値は急上昇する)のではないかと想像します。
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