なぜRCTが事実と食い違う結論を導いてしまうのか
2022/09/29 12:55:00 |
素朴な疑問 |
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ここ数回のブログ記事で、ワクチン関連医学論文、糖質制限関連医学論文、がん医療関連医学論文の問題についてそれぞれ語ってきました。
異論・反論もあるかもしれません。それは甘んじてお受けします。もし私に圧倒的に間違っている解釈があればそれは見直そうと思います。
ですがここではそれぞれ指摘した問題について、とりあえず一定以上の妥当性があると仮定して話を進めてみます。
そうなると2つの素朴な疑問が出てきます。
①現代医学の中で問題があるのはワクチン、糖質制限、がん医療の3領域だけなのか?
②なぜ科学的に正しい手法とされているRCT(ランダム化比較試験)でこれほどまでに事実と乖離する結論が導かれてしまうのか?
①については、よくよく考えてみれば問題はこの3領域だけではないということに私はすでに気づいています。
例えば精神疾患に対する過剰投薬問題、パーキンソン病における過剰投薬問題、リウマチに対する過剰投薬問題、言えばきりがありませんが、それぞれに対して薬が有効というエビデンスは産出され続けています。
これらの歪みは病気の原因は必ずどこかにあるはずだと考える「病原体病因論」の概念と、エビデンスを誤解してしまった科学の暴走に由来すると私は考えています。
だからこそ私は根本的に医学の在り方を変える「主体的医療」の普及を進めているとも言えます。
その全容についてはまたいずれどこかでまとめて語るとして、今回は②の疑問について改めて考え直してみたいと思います。 ある治療が有効であるかどうかを判断したい時、本当は自分と全く同じ条件を持つコピー人間がいて、
自分にはAという治療法を、コピー人間にはBという治療法(あるいはAという治療法をしない)を施して、それぞれがどう変わっていくかを比べるというのが最も説得力のある方法です。
ですが誰一人同じ条件の人間は存在しない(双子でも思考は違うので無理)ので、現実世界の中ではそのような実験を行うことは原理的にできません。
そこでその実験に近い状況を作り出し、現実世界で検証できるようにした工夫が「RCT(ランダム化比較試験)」という訳です。
ある特徴を持った人をたくさん集め、その集団を二つに分けます。そうするとそれぞれの集団を構成するメンバーは勿論多種多様で一人として同じ人は存在しないわけですが、
それらの人を集合体としてみた時に集団の中での平均値が集団としての特徴として表現され、その平均的な特徴は集団の数が多ければ多いほど正規分布の構造をとるようになり、
2つの大集団がそれぞれ同様の平均的特徴を持つ集団となり、その集団どうしを比較すればあたかも自分とコピー人間を比べるようなことに近くなるという理屈です。
集団を2つに分ける時に偏った差が生まれないように分ける場合はランダムにするとか、
片方の集団にプラセボ効果が出る可能性が偏らないように、集団に属する人達も、集団を評価する側の人も、どちらがAという治療をしていて、どちらがBという治療をしているのかがわからないように二重盲検化という手続きを踏むとか、
そのような工夫を行うことによってAとBのどちらが有効なのかを検討するという手法がRCTです。これ自体は非常に理に適った説明だと思いますし、だからこそRCTはエビデンスレベルが高いという位置付けになっているのだと思います。
RCTよりもエビデンスレベルが低い研究方式ではいずれもRCTよりもバイアスと呼ばれる偏りが生じやすくなるという構造上の問題があります。詳細は割愛しますが、その説明自体も納得がいくものです。
ではなぜそんなできる限りバイアスの可能性を排除しているはずのRCTで事実と食い違う結論が導かれてしまうのでしょうか。
例えばワクチン医学論文の中で、有名なファイザーの有効性95%のRCT論文の場合は、
まず平均2ヶ月という短い期間しか論じていないにも関わらず、それが未来永劫続くような普遍的な事実であるかのように表現されたことが問題でしたし、
より本質的にはワクチン投与後2週間以内の有害事象はワクチンのトラブルとして取り扱われないというルール上の問題が、どんなワクチンでも何かしらの有効性が確認されてしまうという構造がありました。
糖質制限医学論文の場合は、糖質制限を批判する医学論文のほとんどはRCTよりエビデンスレベルが低いとされる観察研究でした。観察研究で糖質量に応じてスコアリングして10ほどの小グループに集団を分け、総エネルギー量調整を行うことで低エネルギー比較的低糖質集団の項目が過剰評価されてしまうことで糖質制限は良くないという結論が導かれている構造を指摘しました。
また「糖質制限が身体に良いはずがない」と思い込む研究者側の固定観念が、誤った結論を導く元になっていたということを指摘しました。
あと糖質制限に関するRCTとして有名なDIRECT試験という研究では、2年間のフォローアップ期間でカロリー制限食、地中海食に比べて糖質制限の優位性が示されていますが、さらにフォローアップ期間を6年に伸ばした追跡調査ではその糖質制限食の優位性が弱まっているという研究結果もあります。
これを額面通りに受け取れば、「糖質制限の治療効果は長続きしない」という評価をしてしまいがちですが、そこには糖質の強い中毒性の問題があり、何も理由がわからないままに研究者からやれと言われてやった糖質制限食だと美味しい糖質の誘惑に負けてしまうという人間の心の動きが評価されていないように私には思えます。
最後にがん医療医学論文では、がんによる死亡だと判断する基準のあいまいさを背景に、治験や生存曲線の取り扱いの構造、さらには「抗がん剤が効くはず」という思い込みも関わって、事実と異なる結論がRCTで導かれ続けてしまう構造について指摘しました。
以上の医学論文で指摘されたRCTの問題点をまとめると次のようになると思います。
①:RCTは集団の傾向に影響を与える個別の問題(糖質への嗜好、ワクチン接種後2週間以内の取り扱い、がん死因判定の偏りなど)を見えない化してしまう
②:RCT自体にバイアスを排除する仕組みがあっても、研究を実施する側の固定観念(ワクチンは効く、糖質制限は危険、抗がん剤には延命効果がある)があると、RCTで出てきたデータを取り扱うプロセスで事実と食い違う結論へ導いてしまう余地がある。
③:①②によって事実と乖離する結論が導かれるリスクが十分にあるにも関わらず、「RCTは科学的に正しい」という信念が社会の中で絶対的なものとして取り扱われ過ぎているために、前例のRCTでの結論を踏襲する同様のRCTが不当に導かれてしまうことがある(そうして複数のRCT論文・メタアナリシスが同じ結論を出すことで「RCTは科学的に正しい」という観念がより強固なものになっていく悪循環)
こうしてまとめてみると、「どんな便利な機械も使う人間によって武器にも凶器にもなる」という構造に近いように思います。
要するに一番大きな問題は、医学論文を作り出す側、そしてそれを取り扱う側の人間の意識だと思うのです。
まずはRCTだからと言って絶対に信頼できるというスタンスを手放すことです。
1つや2つのRCTが間違っていただけならまだしも、これだけ多くのRCT論文が間違い続けてきた可能性が明るみになっている訳ですから。
もっと言えば、エビデンスレベルが低いとされている症例報告の価値をもっと見直すべきだと私は思っています。
症例報告は事実重視型思考の視点から見れば、限りなく事実に近い医学論文です。ですがRCTでは個別の情報は隠れてしまいますし、データの取り扱いによって結果が歪んでしまう危険をはらんでいますから、いわば多様性のある社会の事実とかけ離れたデータ(集団を平均化した情報)です。事実重視型思考の観点からすれば最も注意して取り扱うべき対象のデータとさえ思います。
事実重視型思考のスタンスに立てば、エビデンスピラミッドの価値は逆転する可能性があります。
RCTであろうと観察研究であろうと事実を平均化して事実とかけ離れたデータを解釈する場合には、必ず今現実で起こっている事実と照らし合わせ、どんな小さな違和感も見逃さないこと、
事実と食い違う医学論文のデータを見た時は、たとえ専門家が言っていようと、最高峰の医学雑誌が示していようと、公的機関が推奨していようと、その結論を疑う必要があると思います。
そのスタンスは専門家に任せるということでは決して保つことはできないのです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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