臨死に備えて断食に親しんでおく意義
2022/07/07 11:00:00 |
断食レポート |
コメント:2件
思うところあって、久しぶりに断食の話をしてみようと思います。
私は体重100kgを優に超える巨漢ですが、これまでに何度もいわゆる「断食」を行った経験があります。
ここで言う断食というのはいわゆる「食べものを食べないこと」です。水分は普通に摂取しながら時間を過ごします。
24時間レベルの断食であれば今でも日常的に行っていますし、5日〜7日間レベルの断食も数回経験したことがあり、この経験を過去にブログ記事にしたこともあります。
その経験を踏まえて言えるのは「私にとって断食は安全かつ強力な健康法」だと言うことです。
もしも私が訳の分からない病気に悩まされた時は、「とりあえず断食をやってみよう」と思える安心感が私にはあります。
ただ「私にとって」とつけたのは、おそらく万人にとってそうではないであろうことは容易に想像できるからです。
もっと言えば、「私にとって」であっても、いつ何時であっても「安全で強力な健康法」ではありません。断食が私の中で健康法となりえる条件の一つとして、私の中に過剰がある時だと思っています。 食べものにまつわることはとかく過剰になりがちです。食べると満たされる感じがあるし、糖質に至っては食欲に紐づいて中毒性にもつながります。
それが故に気がつけば過剰になっていることもしばしばです。私の場合はその過剰が体重という形でわかりやすく現れますが、人によっては過剰がアレルギーとか、謎の体調不良として現れることもあると思っています。
であれば、万人にとって断食が健康法になっても良さそうなものですが、そうならないのには「断食」という言葉が持つイメージ、あるいは「食べないこと」に対するそれぞれの人が抱くイメージが大きく関係しているように私は思います。
端的に言えば、「断食が健康に良いと思っている人には断食の健康効果がもたらされやすく、断食が怖いと思っている人には断食は健康効果どころか秩序を保てない方向へ進ませてしまう」ということです。
そんな心の持ち方くらいで断食の効果がそんなに変わるわけがないと思われる人もいるかもしれませんが、私は「病は気から」の要素はものすごくあると思っています。
以前から意識的に断食を行う人と、貧困環境で飢餓に陥る人との間で、やっていることは同じはずなのに起こってくる現象が天と地ほど変わってくるのはなぜなのだろうと思っていました。
しかし今は「病は気から」というだけではなく、医学的にもなぜ心の在り方によって断食の効果が180度変わってくるのかということはある程度説明できると考えています。
断食(食べないこと)を怖いと考えて、不安や恐怖を感じ続ける人の中では、自律神経系や内分泌系を介して、主としてストレスによってドライブされる糖代謝というシステムが過剰に駆動され続ける代謝環境となっています。
糖代謝が過剰に駆動され続ける代謝環境というのは、そこに脂肪があっても使えず、糖を取り込むことでしかエネルギーが活用できない状況のことです。
そういう状況の時に食べものがない、特に糖エネルギーが確保できないと、本来であれば脂肪を体内の脂肪を切り崩してエネルギーとして活用できるはずのところが、それができずに筋肉などのタンパク源を切り崩して生きるために必要なエネルギーを調達する方向に身体のシステムが向かいます。
その結果、貧困環境で飢餓に苦しんでいる人の見た目上の変化として「クワシオルコル」というお腹にはぽっこりと脂肪が溜まっているのに手足をはじめ筋肉がガリガリに痩せ細ってしまうという現象がよく観察されます。
しかし逆に断食の健康効果を確信し、過去に何度も断食経験のある人が、意識的に食べない状態に身を置いた時にはどういうことが起こるのかと言いますと、
そこに不安や恐怖の感情は一切なく、終始穏やかな気持ち、身体の変化を楽しむ気持ちでいるので、主としてストレスによってドライブされる糖代謝の代わりに脂質代謝というシステムが過剰に駆動されることになります。
この代謝が駆動されているときは脂肪が存分に活用されるのはもちろんですが、糖代謝が完全にストップしている訳ではなく、必要最小限の糖代謝は動かされながらの状態、いわゆるハイブリッドエンジン状態になります。
しかも先ほどであれば切り崩されたタンパク質も、脂質代謝が十分に駆動された状況においてはオートファジーと呼ばれるタンパク質のリサイクルシステムが活性化するため、なかなかタンパク質の切り崩し現象が起こらなくなります。
その結果、そこに脂肪がある限り、筋肉はいつまで経っても切り崩されない状況を生み、かつその状況において脂質を切り崩して生み出されるケトン体という物質を中心にした様々な健康効果がもたらされるというわけです。
ケトン体の健康効果というのは本当に多種多様で、炎症を抑えたり、酸化ストレスを減らしたり、神経を保護したり、痛みを取ったり、はたまた眠れる遺伝子を目覚めさせて潜在能力を発揮させるなど、それはもう凄まじいものがあります。
世界中で難病を治療するための様々な新薬が開発されていると思いますが、私はこれほど優秀な薬は他にないと思っています。だからこそ「断食」はもしも自分が訳の分からない病気に悩まされた時にはまず最初に試してみたい方法だと私は思っているのです。
さて、ここまでは過去の私のブログ記事でも断片的には語ってきたことなのですが、ここから先が私の新しい気づきです。
「断食」は、そんな風に「断食(食べないこと)をどのように思っているか」によって、それによって自分の身に起こる変化が変わってくるわけですが、
そんな「断食」についてのイメージは自らが主体的に行動しない限り、良いものに変わっていくことはまずないのではないかと私は思っています。
なぜならば今私たちが生きる社会は「食べることは大事」だという価値観に満たされすぎていて、食べられないことは恐怖であり、場合によっては死に直結するようなイメージに直結しやすい文化で染まっているからです。
「食べたいのに食べられない」というのは確かに恐怖かもしれませんが、自分から意識的に「食べないでみる」というのは必ずしも恐怖には直結しないと思います。
食べることに対してポジティブなイメージを持ちやすい社会の中であっても、あらかじめ「食べないことにも親しんでおく」ということは、いざという時に助けになってくれるかもしれないということを私は提案したいと思っています。
なぜあらかじめ「食べないこと」に親しんでおいた方がいいかと言いますと、どんな人もまず「断食」を避けることができない場面として死の直前というのがあると思います。
もちろん交通事故などで急死する場合は別として自然の流れで亡くなっていく大多数のケースの場合、最期の最期には食べられなくなるタイミングが訪れると思います。
その時にずっと「食べることこそが幸せだ」という価値観の中だけで生き続けていたら、最期の最期に食べられずに死んでいくという恐怖感情に包まれてしまい、苦しさの中で人生を終えてしまうリスクが高くなってしまいますが、
これがもし食べないことのメリットを十分に理解した上で食べられない最期のタイミングを迎えるとしたら、きっと穏やかな心地で食べない状態を受け入れて、脂質代謝が十分に駆動し、様々な健康効果を持つケトン体が臨死に際しての痛みや呼吸困難などの様々な苦痛を和らげてくれて、文字通り天にも昇るような心地で最期の時を迎えられる可能性が高まるのではないだろうかという気がするのです。
もちろん、私は死んだことはないので想像に過ぎませんが、1回切りのその瞬間を後悔なく過ごせるようにも、私は「食べないこと」の良さを理解しておくことは、
たとえそれまでの人生がどれだけ苦難の連続であったとしても最期の最期に救いとなってくれるのではないかという気がするのです。
こんなことを言っていると宗教のように感じられるかもしれませんが、宗教であろうとなかろうと、私にとって大事な関心事は「自分が幸せな人生を送れるかどうか」です。
死の間際に「いい人生だった」と振り返られるような時間を過ごすことが私の理想ですが、もしそれが実現できる可能性が高まるのであれば、「食べないことに親しむ」という行為はやってみる価値が十分あるのではないでしょうか。
そんなに健康に良いのであればずっと断食していればいいじゃないかと言って、続けることができないのが断食の難しいところです。
理由は言うまでもないかもしれませんが、一つは「断食は過剰がある時しか健康効果をもたらさない」ということ、もう一つは「世の中には食べないこと以外にも幸せをもたらすものがたくさんある」ということが大きいと私は感じています。
これだけが健康に向かう唯一の道筋だというわかりやすい方法があれば良いのですが、残念ながら世の中はそんな風にシンプルにはできていません。ある人にとっての正解が、別の人にとってそうではないということはザラにあるでしょう。
「食べないこと」に関してもそうで、「断食」が健康効果をもたらしうるのだとしても、だからと言ってずっとそれさえやり続けていればいいというものではありませんし、
もっと言えば、どのくらい「食べて」、どのくらい「食べないで」いるのがベストかということも人それぞれ違うはずです。私のように肥満体質の人間であれば食べないことの不安感もだいぶ軽くて済む(断食で一時的に体重が減っても食べればあっという間に元に戻る)わけですが、
食べても食べても太らない体質の人からすれば、食べていないと栄養失調になるのではないかという不安が私より遥かに大きいであろうことは想像に難くありません。
それでもその人のペースで「食べないこと」に親しんでみる、「食べないことも意外といいところがあるかもしれない」という感覚をその人なりに持っておくことは、いざという時に自分を助けてくれる力となるのではないかと私は思います。
今回の記事は「断食は良くない」と思っている人に断食をすすめるものでは決してありません。
「そういう考え方もあるのか」という気持ちが芽生えた人にとって、少しでも良い参考になってくれればいいなと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
断食の効能
酵素には、食物酵素というものも有って、食事から摂取出来る物もありますが、体内で産生される酵素は、絶対量が決まっているとか。
残念ながら、この先生は、糖質制限には否定的な考えのようでしたが、断食の健康効果の一つかと思いました。
Re: 断食の効能
コメント頂き有難うございます。
心臓の拍動回数が一生のうち決まっているとする説の話と似ていますね。
証明は難しいかもしれませんが、ひとつの考え方として大いにありえるものだと思います。
断食の効果を認める方が糖質制限に否定的なのはもったいないと私は思います。
むしろ断食の神秘的な効果の一部を説明する大きな切り口にさえなりえるものと私は考えています。
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