未接種者ではないデータを「未接種者」として解析する医学論文

2022/06/09 15:15:00 | よくないと思うこと | コメント:2件

医学論文の粗探しみたいな記事が続いて恐縮なのですが、おかしいものはおかしいので黙ってはいられません。

今回取り上げるのは妊婦へコロナワクチン有効性について論じているこちらの医学論文です。

EØ Carlsen, et al. Association of COVID-19 Vaccination During Pregnancy With Incidence of SARS-CoV-2 Infection in Infants. JAMA Intern Med. 2022 Jun 1. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.2442. Online ahead of print.

ノルウェーからの報告で、「JAMA Internal Medicine」というこれもまた世界で10本の指に入る有名医学雑誌に掲載されています。

この論文の結論は「約2万人の出生児とその親の条件を調査したところ、約45%が妊娠中にコロナワクチン接種の2回目または3回目を完了したされた母親から出生しており、それらの出生児が生後4ヶ月以内にコロナ陽性となるリスクは、コロナワクチン未接種の母親から生まれた児よりも低いことが示された(オミクロン株期の合計フォローアップ期間1万日あたりのコロナ発生率3.0[母親未接種] vs 1.2[母親接種済];調整ハザード比0.29, 95%信頼区間0.19-0.46) 、デルタ株期も同条件で10.9 vs 7.0;調整ハザード比0.67, 95%信頼区間0.57-0.79)」というものです。

「フォローアップ期間1万日中のコロナ発症率」というややこしいアウトカムを用いていますが、おそらくですが生後4ヶ月間(約120日)という限られた時間ではほとんどの児がコロナを発症しないが故に比較できなくなってしまうため、全対象児のフォローアップ日数を合算してようやく比較できる状況にしたのではないかと思われます。

まぁその小さな変化を大きく見せて比較に耐えうるものにしようというアウトカムの設定上の工夫はよいとして、問題はこの結論が本当に正しく評価されたものかどうか、です。

じっくり論文を読んでみると、またしても大きな問題が見つかってしまいました。 実はここでもワクチンの14日ルールが深く関わってきます。

約2万人の対象出生児は、正確には21,643人で、うち11,904名(55%)が母親がコロナワクチン未接種の子で、9,739名(45%)が母親が2回、3回目のワクチンを妊娠開始83日目以降から出産14日前までの間に受けている場合の子という内訳になっています。

ちなみに1回コロナワクチンを打った母親の子2,839名いますが、ワクチンの効果が不透明という理由で約2万人の解析に入る前に除外されています。また出産前7〜13日前にワクチン(3回目、4回目)を受けたという母親の子もワクチンの効果が出る前に出生してしまうということで除外されています。

ちなみに、研究方式については「register-based cohort study」と書いていましたので、おそらくノルウェーの医療情報レジストリを後から振り返って検証した後ろ向きコホート研究と思われます。「エビデンスレベル2b」です。

さて、11,904名の子の母親は完全にコロナワクチンフリーの状態にあるのかと思いきや、

11,904名と9,739名の特徴を紹介した論文の表1(Table 1)に気になる情報が書かれていました。



(表は論文より引用)

「後ろ向きコホート研究」ということで事前に仕組まれた研究ではなく、別の目的で集められた大規模データを後から自分達の目的に沿って解析するという研究手法なので、2つの集団のワクチン接種有無以外の特徴に多少ばらつきがあるのは致し方ないことだと思います。

ただそんな中ひときわ各集団での差が大きい項目の一つで「Vaccine dose <14 d before birth or after birth(出生前14日未満または出生後のワクチン接種)」という項目があります。母親未接種集団では7,112名(59.7%)、母親接種済集団では3,026名(31.1%)とほぼダブルスコアの差がついています。

まずこれは「出生児」にとっての項目になるわけですが、出生後にワクチンを打っているかどうかはいいとして、出生前14日未満の時期に児にワクチンを打つというのは通常考えにくいと思います。

まだ胎内にいるのに児にワクチンを打つのはエコーが普及したとは言え誤穿刺のリスクがありますし、胎盤-臍帯血を通じて母親の抗体は一部胎児へ移行することがわかっているので、わざわざ危険を犯してまでワクチンを打つ意義もありません。

ということはこの母親未接種集団に属する7,112名での「14日未満のワクチン接種」の部分は、自ずと母親へのワクチン接種を意味することになります。ということは「母親未接種集団」と言っておきながら、純粋な未接種集団ではないという可能性が出てきます。

そして1回だけワクチンを打っている母親は除外されていますし、出生前13日から7日までの時期に3回目、4回目ワクチン接種完了した母親も除かれていますので、自ずとこの「母親未接種集団」におけるコロナワクチンの接種は「2回目のワクチン接種を出生前14日以内の時期に行った」ことを意味すると思います。

しかし「出生前14日未満にワクチン」ではなく「出生後にワクチン」の方である可能性もあります。ただ出生直後のこどもにワクチンを打つことのエビデンスについては現時点で世界的にも確認がありません。そうなるとこの「出生後のワクチン」も実は母親側の話である可能性が高くなってきます。

つまりこれは「母親未接種」と「母親2回目、3回目接種」を比べたデータではなく、「母親2回目出生前14日未満から出生後4ヶ月までの接種」と「母親2回目(3回目)妊娠開始83日後から出生前14日までの接種」を比べたデータだということです。

前者を「未接種」だとして解析していることに目を疑いました。ワクチンの影響は1週間以内に現れて然るべきで、出生に近い時期にワクチン接種をしている方が、それは児への悪影響も加わりやすくもなるでしょう。

国の方で「ワクチン接種で妊婦を守ろう」という概念の下、百歩譲って純粋な未接種者がほとんどいないのだとしても、未接種でない人のデータを「未接種」として提示してしまうのなら、それは科学でも何でもなく、ただの「詐欺」です。

嘘のような話ですが、こんなおかしなことが有名医学雑誌に載る論文で平然と繰り返され続けています。

これだけ次々と有名医学雑誌での論文の不備が続出するということは、もはや偶然の間違いとは言えません。真実は察して然るべきでしょう。


やっぱりこれを看過することは私にはできません。

どれだけ大変であっても、一つずつ論文の矛盾を指摘し続けていこうと思います。


たがしゅう
関連記事

コメント

2022/06/09(木) 19:02:32 | URL | neko #-
「母親2回目出生前14日未満から出生後4ヶ月までの接種」が未摂取になっているということですよね?普通に考えれば、胎内に14日いれば大きな影響があると思いますし、出生後も母乳からワクチンの影響があるはず。シェディングの影響の可能性もありますし。摂取しているのに未摂取にカウントされたらデータの意味がないですね。たがしゅう先生に公開していただかないとこういった内容は知りえないので感謝です。

Re: タイトルなし

2022/06/09(木) 23:55:04 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
neko さん

 コメント頂き有難うございます。

>「母親2回目出生前14日未満から出生後4ヶ月までの接種」が未接種になっているということですよね?

 そういうことです。直接そのように書いていないですが、論理的に考えればその可能性しか残りません。

 「Unvaccinated(未接種)」の集団に「Vaccine dose」の有無を尋ねるなら、ゼロにならないとおかしいと思います。それを尋ねること自体、「Unvaccinated(未接種)」を「まだワクチンが効いていない集団」と捉えていることの傍証だと思います。

 万が一、そうではないということを示せる方がおられたら是非教えて頂きたいです。もし私が間違っていたら直ちに訂正記事を書かせて頂きます。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する