不自然な医学論文が次々と有名医学誌に掲載され続けてしまうことの意味

2022/04/07 15:30:00 | よくないと思うこと | コメント:0件

先日、こどものワクチンの有効性を謳う、医学界最高峰の有名誌NEJMに載った出た極めて不自然な医学論文について紹介したばかりの所ですが、

再びNEJMから今度は、コロナワクチンを世界に先駆けて推進したイスラエルの4回目のワクチン接種が重症化を予防するという結論を示した医学論文が発表されました。

前回の論文の不自然さの件もありますので、今回の論文の結論も額面通りに受け取っていいのかどうかを検証すべく、原著をあたって精読してみました。

そうすると本当に驚きました。「こんな方法で重症化予防効果ありと言ってしまっていいのか?」と。繰り返されるNEJMにおける不自然論文の掲載に、私の中で「NEJM」の権威は完全に失墜しています。

例によってこの論文の引用で4回目ワクチンの有効性を謳っている専門家の方もいますが、それは本当に気をつけた方がいいと私は思います。この論文を要約を表面的にしか読んでいないことを証明しているようなものです。中身を見てもらえればわかりますが、到底この結論を断じられるレベルのデータではありません。

逆に言えば、こんな不自然な、というより今回は明確におかしな方法で導かれた結論を出している医学論文を最高峰の医学誌がアクセプトし続けてしまうほどに医学が歪んでしまったということなのかもしれません。

それでは、私がこの論文のどういうところに驚いたのかについて解説してみたいと思います。 まずこの研究はイスラエル保健省に登録されているコロナ患者のデータベースをある時点でファイザー社製コロナワクチンの4回目接種の効果をみるために後ろ向きに解析した研究です。

観察期間はオミクロン株が流行しているとされていた2022年1月10日から3月2日の約2ヶ月間です。対象者は60歳以上、どうやらイスラエルでは2022年1月3日より高齢者への4回目のワクチン接種を勧めるキャンペーンが開始されていたようで、それ以降の時期の方が4回目ワクチン接種の対象者をリクルートしやすかったものと推察されます。

ただ重症化について検討された期間はなぜかそれよりも短く、2022年1月10日から2月18日の約1ヶ月間に絞られています。

なぜ重症化の観察期間が少し短くなっているかについて論文内には明記されていないのですが、どうやら感染の判断は国が定めた迅速抗原検査またはPCR検査にて行われ、重症化の判断基準は米国国立衛生研究所の定義を用いて感染が確認された後14日間のうちに「安静時呼吸数30回/分以上」「大気呼吸時の酸素飽和度94%未満」「動脈酸素分圧と吸入酸素分率の比が300未満」のいずれかが認められること、となっているようです。

おそらくこの「14日間」という部分がネックとなり、感染の観察期間の後半(2月19日〜3月2日)の間に感染してしまうと、重症化の基準を満たすかどうかを検討する14日間を観察できずフェアな比較にならないために14日間観察期間を短くしたのではないかと推察できます。

でもここでまず不自然さが際立ちます。一歩譲ってフェアさを重視して感染確認後の14日の観察期間を確保できないケースを省いたことは良しとしても、結果この論文で重症化について検証できた期間はたったの1ヶ月程度(最長で6週間)です。4回目のワクチンを打った人もたった1ヶ月だけの効果を知りたいわけではないと思います。もっと長い期間どうなのかが知りたいはずです。

勿論、オミクロン株が流行したと言われるようになってまだそれほどの期間が経っていないということもあるでしょう。だったらまだワクチンの効果について確定的なことは言わないというのがそれこそフェアな立場なのではないでしょうか。

一方でたとえ約1ヶ月の検証でも公衆衛生上の観点から少しでも早くワクチンの効果を示したいという想いで医学論文を早く書かなければという姿勢は理解できます。ただそれはあくまでも「確かな検証が行われているのであれば」ということが大前提です。

問題はこの「約1ヶ月の間、4回目ワクチン接種は重症化を予防する効果がある」という結論の出し方におおいに疑義があるということです。

もしも大急ぎで出されたデータが疑義を生じるような内容なのだとすれば、その一刻も早く論文を出そうとするその姿勢がかえって世の中を誤誘導してしまうことになり、現に世の中は誤誘導され続けてしまっているように私には思えます。

次に問題にしたいのは、この「4回目ワクチン接種が重症化を予防する効果がある」という結論が、何と何を比較して得られた結論なのかということです。

前回当ブログで紹介したNEJM論文もそうでしたが、今回の論文もワクチンの効果を謳う論文でありながら、ワクチンの未接種者と比較されたわけではありません

この論文は「4回目ワクチン接種者(接種後14日以上経過)」と「3回目ワクチン接種者」「4回目ワクチン接種者(接種後3〜7日経過)」とを比較して結論が導かれているのです。

一般的には3回のワクチンが効かない理由はオミクロン株への変異のせいだと解釈されていますので、この論文の著者に言わせれば、ワクチン未接種者とワクチン接種者を比較しているようなものだというのかもしれません。

でも以前のブログ記事でも指摘したようにまず約2ヶ月間(8週)という観察期間が限られている中で、3回目ワクチン接種者は8週間フルで観察されているのに対して、4回目ワクチン接種者は接種後14日間の感染がワクチンの予防効果だと解釈されないので、最長でも観察期間が6週になってしまうというハンデがあります。当然重症化イベントが発生する率は3回目ワクチン接種者の方で高くなって然るべきです。

しかも今回最も驚いたのは、「内部対照(internal control)」として「4回目ワクチン接種者(接種後3-7日経過)」と比べるというプロセスが踏まれている点です。

「内部対照(internal control)」とは聞きなれない言葉です。「対照(control)」ならわかります。ある薬の効果を評価するのに病気の人と病気でない人を比べるとした場合に、病気の人を「症例(case)」、病気でない人を「対照(control)」と言い、これらを比較する研究のことを「症例対照研究(case-control study)」と言い、エビデンスレベルはⅣです。

ワクチンを打った人を「病気」とは言わず「症例(case)」にならないので「症例対照研究(case-control study)」とは言えないかもしれませんが、実質的にこの論文でやっていることは「症例対照研究(case-control study)」と同じだと言っていいと思います。ということは「対照(control)」と言うこともできないから「内的対照(internal control)」と言う言葉を使ったのでしょうか。いや、どうやらそういうわけではないようです。

この論文によりますと、「4回目のワクチン接種を受けた人は、3回目のワクチン接種を受けた人と比べて、測定されない交絡因子によって受けていない人と異なる可能性がある」とされ、ゆえに交絡因子が一致する4回目ワクチンの接種者の中で、ワクチンの効果がまだ出るはずもない接種後3-7日の人を「内部対照(internal control)」と位置付け、ワクチンの効果が現れているであろう「4回目ワクチン接種者(接種後14日以上経過)」とを比較する、ということになっているのです。

いや、それは明らかにおかしいでしょう。まるで病気の人と病気の人を比べて病気への薬の効果を語っているような違和感です。ワクチンの効果が14日以降で現れるという前提をはたして認めていいのかどうかにも疑問も残ります。

ちなみに「内部対照(internal control)」が、「接種後0-7日経過」ではなく「接種後3-7日経過」となっている理由について、論文内ではワクチン接種後0~2日目の検査率が低いからだということを指摘しています。検査率が低い理由についてはワクチン接種後の感染症状がワクチン接種の副作用に似ているのでとりあえず様子を見られてしまうことや、ワクチン接種後の最初の数日間は、ワクチンが有効になるまで受診行動自体を控える傾向にあるからではないかと論文内で推察されています。

そんなわけで「内部対照(internal control)」となるのは期間2ヶ月の観察中、わずかに5日間のみです。この5日間の中で運悪くコロナ抗原検査やPCR検査にかかったという人が「内部対照(internal control)」というわけです。

でも5日間の集団と14〜56日間(接種後2週〜8週)の集団を比較するのは流石に明らかなアンフェアということで、このワクチンの効果があるとされる接種後14〜56日間の集団は1週おきの小グループに分かれて比較するという試みがなされています。

具体的には「接種後3〜7日後の内部対照群」と「接種後8〜14日後の第2週群」「接種後15〜21日後の第3週群」「接種後22〜28日後の第4週群」「接種後29〜35日後の第5週群」「接種後36〜42日後の第6週群」「接種後43〜49日後の第7週群」「接種後50〜56日後の第8週群」「接種後57〜58日後の第9週群」とでコロナ感染と重症化のリスクについて比較されているというわけです。

ここでも「内部対照」が5日間、他の群が7日間(※第9週群を除く)というアンフェアな比較になっている点にも注目です。

そして肝心のリスクはどうやって計算されているかと言いますと、観察期間が長く重症者が多くなって然るべき3回目ワクチン接種者の感染・重症化率と4回目ワクチン接種者の各集団での感染・重症化率を比べて、それを不連続な整数で集団の均質性が担保できない(5日間と7日間)での比較の妥当性を示す擬似ポアソン回帰(quasi-Poisson regression)分析を用いて検証されています。このあたりのひと工夫はさすがNEJMに載る論文だなという気がしないわけでもありません。

しかし大本の示そうとしていることとその前提に無理があるので、無理のある前提に基づいた仮説(4回目ワクチン接種者と4回目ワクチン接種者を比べて4回目ワクチン接種の効果を証明する)を示すのにあらゆる統計学的な知恵を総動員してなんとか成立させているような印象が個人的にはあります。

ともあれ解析の結果、まず10万人あたりの重症者の発生数で見た重症化リスクは「4回ワクチン接種者(接種後14日以上経過)群」ので1.5、「3回ワクチン接種者群」で3.9,「内部対照(4回目ワクチン接種者で接種後3〜7日経過)群」で4.2でした。

また擬似ポアソン回帰分析での4回目ワクチン接種群の中の小グループどうしでの比較では,「第4週群(接種後22〜28日経過)」での重症化リスクが、「3回ワクチン接種群」よりも3.5倍低く(95%信頼区間 [CI], 2.7 ~ 4.6),「内部対照(接種後3〜7日経過)群」よりも 2.3 倍低い(95%信頼区間 [CI], 1.7 ~ 3.3)と報告されていました。そして「4回目のワクチン接種後6週間は,重症化に対する予防効果は低下していなかった」とも書かれていました。この「重症化予防効果が研究期間中に衰えなかった(6週間)」ということが論文の要約におけるconclusionでも繰り返されていることからも力点であることがうかがえます。

確かに擬似ポアソン回帰解析で解析される「第6週群(接種後36-42日経過)」のリスクは「3回ワクチン接種群」よりも4.3倍低く(95%信頼区間 [CI], 2.6 ~ 7.1)、「内部対照(接種後3〜7日経過)群」よりも2.8倍低い(95%信頼区間 [CI], 1.6 ~ 4.9)というように「第4週群」と比べても高いリスク低減効果は数値上示されています。しかし6週目におけるリスク評価の対象となる母数が少なくなっているためか、95%信頼区間の幅が6週目にかけて急激に広くなっています。要するに6週目のリスク低減効果は4週目のリスク低減効果よりも信頼度が低いということです。それがゆえに論文上でも「第6週群」ではなく、「第4週群」での重症化予防効果があることが強調されているのだと思います。

ところがこれに続いて感染予防効果についての解析結果を見てみます。まず10万人あたりの感染者の発生数で見た感染リスクは「4回ワクチン接種者(接種後14日以上経過)群」ので177、「3回ワクチン接種者群」で361,「内部対照(4回目ワクチン接種者で接種後3〜7日経過)群」で388でした。「4回ワクチン接種者(接種後14日以上経過)群」で見事に感染リスクを下げられているように見えるかもしれません。

ですが、これは例えるなら一部が腐っている果物の美味しさを示すために、腐った部分(4回目ワクチン接種後3〜7日の情報)を取り除いて、しかもその腐った部分と残った部分(4回目ワクチン接種後14日目以降の情報)を比べて、「ほら、この果物はおいしいというデータが示せたでしょ?」と言っているように聞こえるのは私だけでしょうか?

しかもさらに問題なのはその次です。擬似ポアソン回帰分析で示された小グループにおける感染リスクの比較では,「第4週群(接種後22〜28日経過)」の感染リスクが、「3回ワクチン接種群」よりも2.0倍低く(95%信頼区間 [CI], 1.9 ~ 2.1),「内部対照(接種後3〜7日経過)群」よりも 1.8 倍低い(95%信頼区間 [CI], 1.7 ~ 1.9)と書かれていたのですが、

「第4週群」におけるリスク低減効果が最高値で、その後は週を経るごとに「感染予防効果が低減している」というデータが示されていました。要するに「6週間に限って重症化予防効果は示せた(後半の信頼度は怪しいが…)けれど、8週間の間に感染予防効果のピークの消失が確認された」ということなのです。

前にも述べましたが、感染予防効果がなくなる、しかも2ヶ月という短期間の間になくなるのに、重症化予防効果だけは長期的に残るなんていうのはいかにも不自然な話です。普通に考えれば6週限定で示された重症化予防効果も8週以内に消失するだろうと考えるのが自然ではないでしょうか。

それを踏まえた上で、先ほどの要約のconclusionを見てみるとこう書かれています。「Protection against confirmed infection appeared short-lived, whereas protection against severe illness did not wane during the study period.((ワクチンを4回接種した後の方が)感染に対する防御効果は短期間であったが,重症化に対する防御効果は研究期間中に衰えることはなかった

もっと言えば論文の本文の方ではこうも書かれています。「For confirmed infection, a fourth dose appeared to provide only short-term protection and a modest absolute benefit.(感染が確認された場合、4回目の接種では短期間の防御効果しか得られず、絶対的な効果はわずかであると思われた。)

つまりこの論文は「いろいろ統計学的解析を駆使してみたけれど、ワクチンの絶対的な効果はわずかであることしか示せなかったという論文」なのです。少なくとも4回目ワクチン接種の「重症化予防効果」を大手を振って示せるような論文ではないと私は思います。

しかもそうして示された「重症化予防効果」も随分な上底状態です。というかもう一度振り返ってほしいのは、「なぜ5日間だけの内部対照群の方が、7日間の各小グループ(第2週群〜第8週群)よりも重症化リスクが高いのか」、その事実の意味するところです。

これはワクチン接種後3〜7日のタイミングが重症化と判定される現象が最も起こりやすいことを示しています。さもなくば日数の少なさを上回ってリスクが高くなる現象が説明ができません。感染リスクに至っては3回目接種群よりも上です。要するにワクチンを打った方が感染リスクも重症化リスクも高まる、少なくともそう判定されてしまうリスクがワクチン接種後3〜7日のタイミングに詰まっているということができます。にも関わらずこのリスクが詰まった部分はワクチンの効果を検証するデータから除外され、ワクチンには「重症化予防効果」があると結論づけられる、これはあまりにもおかしすぎると私は思います。

もっと穿った見方をすれば、「ワクチンが正しい」という考え方が世界の趨勢を作る状況の中で、「ワクチンは有効だ」という結論以外の論文が有名医学誌に受け入れられるはずがない、けれども嘘をつくわけにはいかないと。

そこで何とか医学誌に掲載されるために「絶対的な効果がわずかである」ではなく「重症化予防効果がある」という結論を強調して、その根拠を統計学的に一応のつじつまの合う形でなんとか作成してみた、それがこの論文であるという気がしてなりません。でもそのつじつま合わせの手法は「ワクチンが正しい」という考えに固執していない私から見れば極めて不自然なものです。

私の主張が単なる感情論でないことを示すために、かなり細かい部分まで言及してブログの記事としては読みにくくなってしまったかもしれませんが、この論文のどこがおかしいと感じるかについてなるべく根拠を明確に示してきたつもりです。ですが、「ワクチン接種の効果は接種後2週間以降にしか示せない」という前提を受け入れている人にとってはこの論文は十分つじつまのあったものに見えるかもしれません。ただそれにしてもワクチン4回目を積極的に打とう、または多くの人に勧めようとは到底思えないデータに私には思えます。

これだけ不自然な医学論文が有名医学誌に次々と掲載される事態から疑う必要があるのではないでしょうか。

そもそも前提が間違っていたのかもしれないということを。


たがしゅう
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