関係が変われば、世界が変わる

2022/01/01 08:50:00 | おすすめ本 | コメント:0件

あけましておめでとうございます。2022年(令和4年)のはじまりですね。

毎年、年初のブログ記事は、私が大きく影響を受けている書籍の紹介から始めることにしています。

今回紹介する本は、実はまだそのすべてを読み切れているわけではないのですが、

途中まで読んだ時点でも紹介する価値を大いに感じるので、以下の本を紹介させて頂きたいと思います。



関係からはじまる―社会構成主義がひらく人間観 単行本 – 2020/9/5
ケネス・J・ガーゲン (著), 鮫島 輝美 (翻訳), 東村 知子 (翻訳)


なぜこの本を紹介したいと思ったかを一言で言いますと、

「変えたいけれど絶対に変えられないと半ば諦めてしまっていることも、考え方次第で変えていけることをリアルに信じさせてくれる」という内容に感じられたからです。 この本は私が「オープンダイアローグ」についての活動を行う中で「対話」に参加された方から教えて頂きました。

著者のガーゲン氏はアメリカの社会心理学者で、「社会構成主義」と呼ばれる思想の第一人者と言われている方です。

社会構成主義」。この言葉だけ聞くと大変わかりにくいのですが、この本のタイトル「関係からはじまる」という言葉にも表れているように、

社会の捉え方、現象、さまざまな認識は、その社会を織りなす様々な人達との関係の中で浮かび上がってきている実体のない像であり、人々との関係が変わり、変化が移りゆくことでその像の見え方も捉え方も如何様にも変化していく、とする考え方」というのが私の理解です。

このように表現してもまだわかりにくいと思うのですが、実はこの本全512ページにもわたる大著です。

長い読書の道のりに思えますが、1ページずつ読み進めていくと、社会における様々な場面に具体的な事例を提示しながら、私にはガーゲン氏がこんな風に問いかけているように思えてきます。

「あなたが見ているその世界は、本当にそのようなものですか?」

実はこの本を理解する上で重要なキーワードとして、「境界画定的存在」「関係規定的存在」というものがあります。

私達人間は言葉を使い、言葉によって生み出される概念や価値観をもとにして、社会という一定の秩序を持つ集団を構成し、その中で活動し合っています。

一方でその言葉の持つ意味、その言葉で定められた概念や価値観、そしてそれらをあやつる個人という存在は、それぞれ境界が定まっている固定的なものとして理解されており、

個人には他者が侵入不能な絶対領域があり、それがゆえに個人の主体が生まれ、個人には責任が生じ、他者との競争や協調(ハーモニー)へとつながり、協力し合ったり、分断してしまったりする、そんな社会に生きているという認識を誰もが持っていると信じています。

しかしその侵入不能な絶対領域というものは、その周りにいる人、あるもの、場所、時代、文化など様々な周囲環境と関係性、その認識の仕方によって如何様にも変化し続けるものであって、

世の中に誰が見ても変わることのない絶対的な存在はないと、少なくともそういう考え方があるということを著者のガーゲン氏は指摘しているように私は思えます。

前者が「境界画定的」なものの見方で、後者が「関係規定的」なものの見方です。どちらかが正しいという問題ではありませんが、世の中は「境界画定的」なものの見方に傾き過ぎており、「関係規定的」なものの見方も取り入れてみてはどうかというのが、この本の主要な主張です。

・・・なんだか言葉遊びのように思えてしまうかもしれません。ただ私はこの指摘には重要な意味があると感じています。

というのも「オープンダイアローグ」の実践を通じて、ずっと感じていた違和感があります。

なぜ自分と他人とは違うという前提に立ち、他人の意見に同調することなく、ただ平等に異なるものと触れ合い続けるだけで、なぜ相談者の状態が好転していくのでしょうか。

それは、それまで相談者の世界の中で「固定的だと思えていた周囲環境との関係が変わるから」ではないかと私は考えてきます。

例えば今、「統合失調症」という病気の症状で苦しんでいる人がいるとします。

この方は原因はともかく精神的には著しく不安定な状態で、精神が興奮するような状態の波がしばしば押し寄せるような状態になっているとします。

ある時、病院で医師より「それは統合失調症という病気です」と告げられ、抗精神病薬を飲まなければならないと勧められ、

それを飲むことで興奮は治まる一方で、一生付き合っていかなければならない病気になってしまったという価値観に縛られることになります。

そして社会は「統合失調症」という病気によってもたらされるイメージや、その前提で構築された仕組み・システムに取り巻かれてその後の人生を過ごしていくことになります。

こういうのが、「境界画定的」な考えに偏り過ぎている一例です。社会にはこの見方しか存在しないかのように生きてしまうことになります。

「オープンダイアローグ」ではこの固定的に思える状況に別の関係性をもたらすことができます。

すなわち、平等な立場で接し、「統合失調症」という色眼鏡でとらえず、ともに悩み考える人達との関係です。

この新しい関係に触れ合うことによって、自分の中で「統合失調症」という概念による支配から逃れるチャンスが芽生えるのではないかと思います。

概念から離れることで何が起こるかと言えば、概念によってもたらされていたストレスや無理、負担などをリセットさせることができます。

その結果、「対話」だけで「統合失調症」を治すという離れ業を「オープンダイアローグ」では可能にしているのではないかと私は考えています。

これは数ある「関係規定的」な視点を取り入れることのメリットの一つです。

この本を読み進めていくと、自分の中で当たり前のように感じられていた固定観念が根底から崩される感覚があり、

私が属する医療という分野は勿論、家族、友人、職場、地域、国などそれぞれの「境界画定的」な考えに基づく固定観念による呪縛から解放され、新たな希望をもたらしてくれるような期待を持つことができます。

はっきり言ってこの本は、よくある自己啓発本のように「あなたはこうすべきだ」というわかりやすい答えを与えてくれるような類いの本ではありません。

けれど、それぞれの読者が自分の立場でどうすべきかを考えるための気づきを与えてくれるもので、

少なくとも今のまま進んでは歪む一方の社会の流れに待ったをかける大きなきっかけとなってくるように思うのです。

読者の皆さんも是非、この本を読んで考え直してみませんか。

絶対に変えられないだろうと諦めていることを、本当にそうなのかどうか考え直してみませんか。

是非とも一緒に考えていきましょう。

本年も何卒宜しくお願い申し上げます。


たがしゅう
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