白衣高血圧は病院で治せない
2021/11/06 11:00:00 |
オープンダイアローグ |
コメント:4件
読者の皆さんは白衣を着た医師にどのような印象を持ちますか。
1999年とある大学病院で行われた研究によると、研究対象となった599人の外来患者に白衣を着た医師に診てもらうグループと、私服の医師に診てもらうグループの二手に分かれてもらい、
医師の印象についてのアンケート調査を行ったところ、白衣を着た医師に診てもらうグループの方が医師への好感度が高いという結果になったそうです。
また患者も年齢別でみると、70歳以上の患者により白衣を好む傾向が強く認められたそうです。
一方で白衣を着た医師に診てもらうグループの方が、より緊張を感じているという調査結果もあったそうです。
診察室での緊張を反映して血圧が上がる「白衣高血圧」と呼ばれる現象があることもよく知られています。
以前私はこの「白衣高血圧」という現象に対して「困難に立ち向かうための正当な適応反応」という見方を紹介しましたが、
別の見方をすると、この「白衣高血圧」は診察室という診療現場における医師と患者との間の関係性が「平等ではない」ということを如実に表している現象だということもできるかもしれません。 正直、私も医師として高齢の患者さんを診察させて頂く時に痛いほどよく感じるんです、時に過剰とさえ感じるほどに気を遣われている様子を。
しかもその態度はおそらく無意識レベルで患者さんの中で定着しているものです。その無意識レベルでもたらされる緊張(精神的負荷)が「白衣高血圧」を生み出し、一過性ならまだしも何度も反復されることで患者さんの身体に負担をかけ続けていくのだとすれば「白衣高血圧」は決して「適応反応だから大丈夫」などと安易に看過できるものではないように思います。
私は今、オンラインオープンダイアローグという活動を通じて、そのような無意識レベルで生じる医師と患者の間の不平等性を解消し、「対等」な立場で「対話」することの重要性を感じ、どうすればそのような関係性の中で話すことができるのかについて考え続けています。
例えばオンラインオープンダイアローグの中で、「〇〇先生」などの敬称は用いず、どんな偉い立場の人が参加しようと原則「〇〇さん」と呼び合うように推奨しているのはそのための工夫の一つです。
でももし「平等」な関係が良いからといって、医師に緊張するその高齢患者さんに対して、いきなり白衣を脱ぎ捨てて、「〇〇先生ではなく、〇〇さんと呼んで下さい。平等な関係でいきましょう」などと言ったところで、患者さんの緊張がほどけて白衣高血圧が解消するとは到底思えません。
むしろいきなり白衣を脱ぎ捨てるそのアウトローな医師の態度に不安や不快感を感じ、余計にその患者さんの血圧が上がってしまう可能性さえあると思います。
つまり「白衣高血圧」は「白衣」を見ることが原因で起こっているのではなく、その患者さんの「価値観」が作り上げているものに思えるわけです。
こうした「価値観」を強固に持つ患者さんと「対等」な立場で語り合うためにはどうすればいいのでしょうか。
この不平等性を何らかの方法で解消することはできないのでしょうか。
・・・正直、この高齢患者さんに対して診察の場で何かしらの介入を行うことで、平等な立場で語りかけてくれるようになることは至難の業であるように思います。
せいぜい「あなたの血圧が高くなるのは、あなたが私達医療者に最大限の敬意を払ってくれているからこその反応であり、それは悪いことではないし、そのあなたの気遣いに私は最大限の敬意を表します」と言って認めることくらいしかできないでしょう。
しかしもし可能性があるとするならば、その高齢患者さんを何らかのきっかけで「対話」の原則を理解した複数人の人達が集まり、「〇〇さん」と呼び合い対等に語り合っている「場」に招待することができれば、
周りが「対等」であり続けている中で、自然と自分もその「対話」的なスタンスに溶け込んでいってもらえるという可能性はゼロではないかもしれません。
それが実現できれば、これまでどの医者も治すことができなかった「白衣高血圧」という現象を治すことも可能となるのかもしれません。
逆に言えば、診察室という「場」に留まり続けている限り、患者さんと「対等」な関係を目指すことは不可能に近いということも言えるような気がします。
「白衣高血圧」をきたす高齢患者さんは、「対等」な関係性を望む私の「価値観」とのズレが極めて大きい相手だ、という見方もできそうです。
そのような患者さん相手に「私達と対等になってもらいたい」という私の「価値観」を患者さんに求めること自体が「対話」的ではないスタンスとなってしまいます。その意味でも「診察室」で「対話」的であろうとする行為は詰んでいます。
「白衣高血圧」が治るのだとすれば、それは医師に対する「価値観」が患者さんの中で変わる時でしかないように私は思います。
それは決して他の誰にでもできることではなく、自分にしかできないことです。その意味で「白衣高血圧」は病院医療の文化の中で極めて難治性の病態だと言えるのではないでしょうか。
私達が患者さんの「白衣高血圧」を治すためにできることは限られています。
基本的に「あなたはそのままでいい」と認めながら、「この私達の対話的な『場』に試しに一度参加してみませんか」と招待して、
その患者さんの中で「何かが良い方向に変わってくれるといいなぁ」と漠然と期待するくらいの気持ちで「対話」に望む、おそらくその程度だと思います。
「対話」の場に招待したからと言って、こちらの期待通りに変わってくれるとは限りません。結局何も変わらないかもしれません。
それでも可能性ゼロのことをやり続けるよりは、1%でも0.1%でも可能性があるのであれば、
そして「対話」的であり続ける努力によって、その確率が少しでも上がってくれるのであれば、
私はこの「対話」の可能性を追い求め続けてみたいと強く思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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テーマから外れていますが
同じ傾向の方も複数います。ダメな方もおられますが。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
私事で大変恐縮です。
コロナ禍ということもあって身内だけでひっそりと式を執り行わせて頂きました。
プーさんは妻からはよく似合ってると言われましたが、男心としては複雑でした(^_^;)
Re: テーマから外れていますが
コメント頂き有難うございます。
その個人差は、「見る対象をその人がどのように認識するか」という価値観の違いによってもたらされているかもしれませんね。
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