ウイルスが原因だと考えるとつじつまが合わない
2021/10/14 18:30:01 |
ウイルス再考 |
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書籍「うつ病の原因はウイルスだった」の中で紹介されていたうつ病の原因とされるウイルスは「HHV-6(ヒトヘルペスウイルス-6)」というウイルスでした。
本当にこのウイルスが原因でうつ病が起こっているかどうかはさておき、この「HHV-6」というウイルス、この本の著者で大学のウイルス学講座教授の近藤一博先生は、以前からずっと注目され続けていたと述べておられます。
確かに実はこの「HHV-6」、一般的にはあまりメジャーではないウイルスと思われているかもしれませんが、
実はうつ病以外にいろいろな病気に関わっていると言われています。例えば乳幼児期に多い発熱とともに発疹が出る「突発性発疹」という病気にはHHV-6が関わっていると言われていますし、同様に乳幼児期に多い発熱とともにひきつけを起こす「熱性けいれん」という病気にもHHV-6の関与が指摘されています。
「熱性けいれん」は生後6ヵ月から6歳くらいのまでの乳幼児で起こりやすいことが知られています。しかし「突発性発疹」にしても「熱性けいれん」にしても大人での発症はほとんどありません。HHV-6感染が原因なのであればなぜ大人では発症しないのでしょうか。
他にも「DIHS(薬剤性過敏症症候群:Drug-Induced Hypersensitivity Syndrome)」という病気にもHHV-6の関与が知られています。「DIHS」は発熱や多臓器障害を伴う重症薬疹ですが、「突発性発疹」「熱性けいれん」のように乳幼児期だけに起こりやすいわけではありません。むしろ成人に多い印象です。
他にも多発性硬化症、慢性疲労症候群、線維筋痛症など様々な病気にHHV-6が関わっていると言われています。一体このHHV-6というウイルス、何者なのでしょうか? まずHHV-6はヘルペスウイルス属に属するウイルスなので、二本鎖DNAウイルスです。
インフルエンザウイルスやコロナウイルスといったRNAウイルスとは違って、変異しにくい安定したウイルスと言えるでしょう。
HHV-6について詳しく調べてみると、いくつか気になる特徴が出てきます。
・1986年にSalahuddinらによってAIDS患者、リンパ腫の患者の末梢血から初めて分離された。
・AIDSの原因ウイルス(HIV)と同様に、CD4陽性T細胞と親和性が高く、NK細胞、分化した肝細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、胎児由来の星状細胞と樹状細胞にも感染すると報告されている
・90%以上の人がHHV-6に対する抗体を保有しており、ほとんどすべての成人で潜伏感染しているものと考えられている。
・HHV-6の構造の最外層には宿主の細胞膜由来の脂質二重膜が含まれている
・ヒトゲノムにHHV-6がintegration(統合)することが知られているが、そのメカニズムは解明されていない
・HHV-6感染により宿主のIFN-αが産生され、IFN-βは逆に抑制されることがわかっており、これはウイルスの宿主免疫回避機構のひとつだと考えられている
・HHV-6が感染した樹状細胞では細胞膜表面のHLA-1(MHCクラスⅠ)分子の発現低下が認められる
・骨髄移植患者の70%においてHHV-6の再活性化が起こると言われている
・健常人におけるHHV-6感染は自然治癒の経過をたどることが多いが、免疫不全患者におけるHHV-6感染は致死的な合併症を引き起こす
・HHV-6はHHV-6感染症患者の末梢血単核球から容易に分離することができる
難しいことをつらつらと書き連ねてしまいましたが、これらの情報を総合してまず私が思うのは「HHV-6感染を病気の原因として考えると不自然なことが多い」ということです。順に説明していきます。
まずAIDSの原因ウイルスと同様に、細胞性免疫の要であるCD4陽性T細胞に感染し、しかも潜伏し続けるという特徴を持っているにも関わらず、AIDSと起こってくる現象が全然違います。
しかも成人ではほとんどの人がこのウイルスにかかっており、別に悪さをすることなくそこに潜伏感染し続けています。
そうかと思えば骨髄移植で免疫抑制剤を使うなど免疫不全状態にある人においては致死的な合併症を引き起こすという特徴を持っています。
さらにはこのウイルスの構造を見てみれば、最外層には宿主細胞と同じ脂質二重膜という構造が含まれています。
それだけではなく、なんと宿主のDNAに結合することまでできてしまっています。
またHHV-6感染によって宿主が持つインターフェロンという天然の抗ウイルス因子の産生が影響を受けるようですが、これについては過去記事で詳しく解説したことがあります。
インターフェロンにはIFN-α/β、IFN-γ、IFN-λファミリーがあると学びましたが、HHV-6感染で影響を受けるIFN-α/βは一言で言えば異物の除去に働きかけるインターフェロンでした。
IFN-αは樹状細胞やリンパ球、マクロファージから産生されるのに対して、IFN-βは主に線維芽細胞や上皮細胞から産生されるという違いがありますが、IFN-αとIFN-βは共働的に働くものと理解しています。
それでHHV-6感染でIFN-αが上がり、IFN-βが下がるという特徴があり、これが宿主からの免疫を回避していると推測されているわけですが、
一方でHHV-6はリンパ球や樹状細胞に感染しやすく、上皮細胞には感染はするもののメインではなさそうです。
さらには「MHCクラスⅠ」というのは「自己の名札」的な分子でしたが、HHV-6の感染によって宿主細胞におけるこの分子の発現が低下する、すなわちHHV-6が感染した宿主細胞は「非自己」として扱われてしまうことを意味しています。
そうすると速やかに免疫システムで排除されてしかるべきですが、実際にはほとんどの健常人で何も悪さをすることなく、そこに潜伏し続けているというのだから、どういうことなのかわけがわからなくなってきます。
しかし、この情報を「ウイルスは実は病原体ではなく、自己と非自己の中間体」という視点で眺めてみると、こんなストーリーが見えてきます。
「自己」的なウイルスであるHHV-6は、ヒトの免疫細胞と共通する構造を持っているので、ヒトと接触することで免疫細胞の中に入り込んで「自己」の一部として共存することができます。
しかしその状態にあるヒトが何らかの原因(異物侵入、ストレス感知など)で免疫システムが駆動され続けてしまうと、完全に「自己」ではなくウイルス内にあった「非自己」的な部分が免疫システムに感知されてしまい、
その結果としてそのヒトの免疫の一部としてHHV-6が共存していたリンパ球や樹状細胞が活性化し、IFN-αがメインで産生されるようになり、そのIFN-αとIFN-βのバランスが崩れることで、IFNα/βが共働で担う異物除去の仕事がうまく果たせなくなります。
その結果、それまでは何の変哲もなく共存できていたHHV-6のいる細胞がいっきに攻撃されることになり、これが発熱や全身性の発疹反応、ひいてはその反応が行き着く先は疲労、抑うつ、慢性痛を引き起こす全身システムの歪みということです。
小児期にこの反応が起こると、成長に伴うシステムのアップデートによってこの歪みが修正されることも多いけれど、残念ながら成人後もこのバランスを乱す何らかの原因(異物侵入、ストレス感知など)が繰り返され続けてしまうと、
修正されたシステムにも次第に歪みが生じ、成人のT細胞過活動症候群とも言えるアレルギー性疾患、自己免疫疾患、サイトカインストーム、その末の消耗疲弊様病態へとつながるのではないかというストーリーです。
だから平たく言えば、ウイルスが原因なのではなく、「ウイルスの認識の仕方が宿主のシステム異常によって歪む」ということで、
要するに宿主側の条件の違いで起こるシステムの歪みのパターンにそれぞれ「突発性発疹」だとか「熱性けいれん」だとか、「DIHS」「多発性硬化症」「慢性疲労症候群」などと名前をつけて認識しているのだと思うのです。
HHV-6が「自己」的だとすれば、ヒトゲノムに統合されても全く不思議ではないわけですし、ほとんどの人が感染しているのに症状が出ないことも、小児で軽症の理由も、骨髄移植で再活性化する理由もすべて説明がつきます。
逆にHHV-6が原因だと考えると、なぜほとんどの人に感染して抗体までできているのに症状が出る人と出ない人に分かれるのかが全く説明がつかないのです。
もう一つ面白いのは、コロナウイルスがウイルスの単離を証明できないのに対して、HHV-6はその単離を容易にできるということです。これはDNAウイルスが故の特徴でしょうし、だからこそ「ウイルス病原体説」にも一定の説得力が生まれたところがあるでしょう。
ですが、これを「自然界に無数に存在する自己類似構造を持つ遺伝子粒子」と捉えてみれば、それが単離できるからと言って病原体だとは限らないという視点が見えてきます。
この粒子を誰かに接種させて「異物除去反応」が駆動されたとしても、それはこの粒子が病原体だからではなく、
血液と直接接触しうるような人為的な方法によって「非自己」的要素も含む「自己」的粒子を入れ込まれたことによって引き起こされる宿主の正当な防御反応だという側面が見えてきます。
さらにもう一つ、重要なことがあります。それはこの解釈は他のウイルスでも成立する可能性がある、ということです。
特にHHV-6と同様にCD4陽性T細胞に感染すると言われているAIDSという病気において、私達は大きな勘違いを犯している可能性が出てきます。
即ちAIDSがHIVによって引き起こされる重症疾患なのではなく、
宿主の免疫システムが重篤に乱れて、それに伴い一緒に再活性化した「自己」なウイルス粒子が、そのヒトの重篤状態の原因だと誤認されてしまっているということです。
まさに血管の炎症を修復するために現場に動員されたコレステロールを、誤って動脈硬化の原因だと誤認してしまう医学の過ちと全く同じ構造です。
これが正しいとなってくると私達は戦うべき相手、いや整えるべき相手を間違っていることになると思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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