安心・安全な対話の場を作るために必要なこと
2021/07/02 06:00:00 |
オープンダイアローグ |
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オープンダイアローグの専門家でも何でもない私が、
オープンダイアローグに大きな興味持ち、大きな可能性を感じて、
「オンラインでオープンダイアローグにふれあう会」という練習会を10回以上開催して参りました。
今も参加者の方々からフィードバックをもらいながら、よりよい会になっていくよう試行錯誤を繰り返しています。
自分で言うのも変な話ですが、フィードバックを受けて自分なりに細かい部分を含め修正していくことで、
徐々に居心地のよい場所へと変わってきているような手応えを感じてきています。
一方で私主催の場ではなく、別の場で一参加者としてオープンダイアローグに参加するという体験も行うようになってきています。
先日とあるオープンダイアローグの会に参加した際に、実は私は大きな違和感を抱えておりました。 というのも、その場ではある相談者から人生相談のような内容が投げかけられていたのですが、
なんだか相談者の悩みを慰め合うだけの場になってしまっていたような感じがしてしまったのです。
私は第三者としてその人生相談の話を聞くことで、相談者の方の気持ちと、相談者がネガティブに感じた相手側の気持ちの両方について思いをめぐらせました。
しかしその場で出てきた意見の多くは相談者への共感ばかりで、相談者がネガティブに感じた相手は完全に悪者として場の中で理解されてしまったような感じがありました。
そうした流れの中で、私も相談者がネガティブに感じる相手のポジティブな側面について意見してみようという気持ちを引っ込めてしまい、その場に同調するように相談者の苦悩に共感する意見へと切り替えてしまいました。
要するに少なくとも私には、その場がどんな意見も受け入れられる場だとは感じられなかったのです。
オープンダイアローグでネガティブな意見は基本的に言わないルールです。でも相談者がネガティブに感じる相手のポジティブな側面を言うことは、もしかしたら相談者をネガティブに扱っていると思われるような空気がそこにはありました。
勿論、私の思い過ごしかもしれません。しかし少なくとも私がそう感じたことは紛れもない事実です。
多分、あまりオープンダイアローグの本質がわからない状態で対話してしまうと、良いことの言い合いのような薄っぺらい表面的なやり取りに終始するだけになってしまうのかもしれません。
オープンダイアローグとは自然発生的な「会話」を「対話」へ変換し、さらにその魅力を最大限に引き出すための、いわば人為的な工夫だと私は思っています。
日本でのオープンダイアローグの第一人者、精神科医の斎藤環先生がある時こんなことをおっしゃっていました。
「すべての対話には暴力的な側面がある。オープンダイアローグはその暴力性を最小限にするための工夫だ」と。
「対話」はある意味で「暴力的」なんですね。それはオープンダイアローグのルールがきちんと守られずに行われる「対話」には、私が感じたような一種の同調圧力を感じさせてしまう部分があるからなのかもしれません。
日本はこのコロナ禍で非常に明らかになったように、同調圧力の国といっても過言ではないような状況にあります。
発祥地のフィンランド、ケロプダス病院も長年試行錯誤の末にオープンダイアローグのルールを導いてきた経緯があるようです。現在のオープンダイアローグの7つの原則が出来上がるまでにも、先人達に様々な苦労があったはずです。まずはそのことに私は最大限の敬意を払います。
だから私は、苦労して先人達が導いたオープンダイアローグのルールはまず身体に染みつくように覚え込ませていく必要があると思っています。
その上でフィンランドとは異なる文化や風習に基づいて、日本流のアレンジはきっと加わって然るべきです。温故知新をオープンダイアローグの中で行っていく必要があるとも思っています。
一方で最近行った私の「オンラインでオープンダイアローグにふれあう会」で、良いことの言い合いのような状況になっていたにも関わらず、私にとって非常に居心地がいいと感じられる場面がありました。
なぜ同じ良いことの言い合いだったのに一方では同調圧力のように感じ、他方では非常に居心地がよかったのでしょうか。これには大きく3つの理由があったと私は分析します。
①自分の言いたいことをきちんと言うことができていた
②主催者がどういう人間であるかということを参加者がある程度知っている
③参加者の誰もがオープンダイアローグのルールを逸脱せずにいた
①に関して、少なくとも私が意見を飲み込む場面がなかったことが居心地の良さが感じられた大きな要素だったと思います。
それに良いことを言い合うと言っても同じ観点から述べているのではなく、自分だけでは気づかなかった多角的な側面から良いことが述べられていたので、決して偏った意見に集中しているとは感じられなかったのです。
対して前述の場では、何かこれは言ってはいけない雰囲気を感じてしまったところに大きな違いがあったように思います。
なぜその場では言ってはいけないと感じたかについては、参加者の非言語的なメッセージ、たとえば私がしゃべった後の他の参加者の声のトーンや間合い、逆に他のポジティブな意見が出てきた場合の対照的盛り上がり方、などが関与していた可能性があります。
その意味ではニュートラルな主催者がオープンダイアローグを主催した場合、その場には様々な価値観を持って集まります。
日本は同調圧力の国ですから、そうした価値観を持ってオープンダイアローグに参加する人もかなり高い確率で出てくることでしょう。その場合、安心・安全な対話の場を保証することが難しくなってくるのかもしれません。
意見に色をつけないという意味で主催者がニュートラルな状態でいることは、多様な意見を集めるためには一見大切なことであるような気がします。
ですが主催者が人間である以上、色がつくのは当然のことですし、逆にAIのように型通りの進行を行うだけのファシリテーターになってしまうと「対話」の持つ暴力性が防げなくなってしまうとさえ言えそうです。
そこでもう一つ安心・安全な「対話」の場になるための条件として、②の主催者の人間性がうまく共有されていることが重要になってくるように思います。
私の会に参加されている人は主にブログ読者やメルマガ読者の方々が多いです。
参加者の方によって私がどういう人間であるかを知っている具合は様々であろうとは思いますが、
今までの私の情報発信を少なからず聞いている人であれば、「主体的医療」すなわち患者が主体となって行動を起こすということに理解を持っている医師であるということは最低限伝わっているのではないかと推察します。
例えば私自身はサプリメントを使いませんが、サプリメントのアプローチを理解しています。
あるいは私自身はコロナワクチンを打ちませんが、コロナワクチンに望みをかける人のワクチン接種を否定しません。
そういう私が主催するオープンダイアローグ会ですから、「基本何を言っても否定はされない」という安心感は、ニュートラルな人が主催するオープンダイアローグよりは感じてもらいやすいのかもしれません。うぬぼれのようで恐縮ですが。
そして最後の③は、参加者それぞれのオープンダイアローグの理解度です。
先日私が居心地の良さを感じた会の参加者は全員が2回以上参加歴のあるリピーターの方々でした。
何度も参加してくださる背景には参加者の方々自身の中でも「これで本当に正しい対話ができていたのだろうか」という葛藤があるからではないかと推察されます。何より私自身がそう思っているからこそ何度もこの会を開催しています。
だから皆オープンダイアローグの原則を理解しようと努めている人ばかりなので、原則の遵守度が高かったのではないかと思うのです。
やはり単に異なる意見を場に出すというだけではなく、原則を守りながらオープンダイアローグに取り組むことが質の良い対話を生み出すのにとても大事なことであるように感じる次第です。
実は私がなぜここまでオープンダイアローグに興味を持っているのかと言いますと、オープンダイアローグが主体性を育てる手法として価値があると感じられるからです。
「哲学カフェ」との共通性も感じる部分があります。哲学カフェのルールでも「最後まで人の話を聞く」「相手の意見を全否定しない」という辺り、オープンダイアローグとの共通性があります。
ただ「哲学カフェ」で取り上げる話題はあくまでも一般的な内容です。健康に関わる個人的な問題を取り扱う手法としては今ひとつ踏み込めない部分もあったので、
確かに哲学カフェでも主体性は育まれはするものの、主体的医療を実践するに当たってはオープンダイアローグの方がより適した方法だと感じるようになりました。
もっと言えば、心と身体がつながっているという観点に立てば、これは本場フィンランドでの精神疾患のみならず、あらゆる身体疾患にも応用できる治療法になりえるという展望さえ私は持っています。
ただし残念ながらオープンダイアローグを一人で行うことはできません。オープンダイアローグを主体的医療に組み込むためには一緒にオープンダイアローグをやってくれる仲間が必要になってきます。
仲間を作るためにはオープンダイアローグ実践の場は必要不可欠です。しかしながらその実践の場は安全・安心の「対話」の場である必要があります。
オープンダイアローグは誰でも実践できる対話手法でありながら、
安心・安全のオープンダイアローグを提供するためにはいくつかの条件を満たす必要があると思いました。
最後にそれをまとめて今回の記事を締めくくりたいと思います。
【安心・安全の「対話」を行う場にするために】
①主催者がオープンダイアローグを実践し続ける
②参加メンバーがオープンダイアローグの原則を理解していると実感できる
③継続的に同じメンバーに関わってもらうことができる
④いざという時には即時的に対応してもらえる
他にもクリアしなければならない課題はまだまだたくさんありますが、
安心・安全のオープンダイアローグが求めに応じていつでも、誰でも受けられる環境を作れるように、
引き続き仲間を集める努力を続けていきたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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