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理不尽な医療も世間に受け入れられさえすれば普及する

category - 医療ニュース
2021/ 06/ 13
                 
2021年6月8日にアメリカの製薬会社のバイオジェン社と日本に製薬会社のエーザイ社が共同で開発した「アデュカヌマブ」というアルツハイマー型認知症の新薬が、18年ぶりに承認されたというニュースが大々的に報じられました。

アルツハイマー型認知症については、アミロイドベータという異常なタンパク質が脳に蓄積することが原因だとする「アミロイド仮説」が一般的によく知られています。

どうやら今回の「アデュカヌマブ」は、そのアミロイドベータを除去することができる注射薬で、「18カ月間で脳内に沈着するアミロイドベータの塊を59〜71%減少させた」という効果が示されています。

どうやってアミロイドベータを除去するのかについての詳細なメカニズムについてはバイオジェン社の製薬情報まで確認しましたが、はっきりとした理由は書かれていませんでした。ただこの薬はアミロイドベータに対するモノクローナル抗体(遺伝子工学技術によって作られた単一の抗体を産生する細胞から抽出された抗体)であるということは確かなようです。

脳内に直接この抗体が移行し、単量体のアミロイドベータと結合し、塊になるときの重合反応を阻害するという仮説や、脳内には移行しないけれど血液中に溶けているアミロイドベータと結合して貪食細胞に処理させることで、脳と血液のアミロイドベータの濃度差を生み出し、濃度勾配によって脳内からアミロイドベータを引き出すという仮説など様々なことは言われているようですが、アデュカヌマブがどの作用機序をもって効果をもたらしたのかはよくわかりません。

とは言え、アミロイドベータを減少させる結果をもたらしたこと自体は事実であり、「これはアルツハイマー型認知症に対する革命的な根本治療薬だ」と評する声も聞こえてきています。

しかし、私が持つこのアデュカヌマブについてのニュースを、懐疑的かつ非常に大きな危機感を持って受け止めています
            

それはアデュカヌマブそのものに対する危機感というよりは、今の医療業界全体に対する危機感です。

残念ながらこのニュースが出て、多くの人達に肯定的に受け止められた事実をみると、一言で言えば「現代医療はニセの科学によって不可逆的なレベルにまで歪められてしまった」という解釈に至らざるを得ません。


なぜ、私がこのニュースについて大きな危機感を感じたか、その理由は大きく3つあります。

①初めての作用機序を持つ抗認知症薬であるにも関わらず迅速承認されている
②非常に多数の患者がいるアルツハイマー型認知症という病気の薬に非常に高額の費用が設定されている
③アミロイドベータが除去されたという結果によって、肝心の認知機能がどうなったかというデータが報告されていない


報道されているニュースをよく読み込めば、この3点について確認することができるので、興味のある方は是非自分の目で確認してみてください。順を追って説明します。

まず①の「迅速承認」についてです。

「迅速承認」という仕組みは、何らかのやむを得ない事情があって通常の新薬の承認ステップの一部を省略して、早く世に繰り出せるようにするための制度です。

「迅速承認」と聞いて思い出すのは、コロナに対する抗ウイルス薬としてまだ効果が明らかではない時点で「特例承認」されたレムデシビルです。あの時も私はブログでその流れに対して批判的に記事を書きました

新薬に未知の副作用や有害事象が起こることは過去の薬害の歴史を見ても明らかです。本来であれば、もし正当なステップを省略しようというのであれば、そのリスクを有益性が明らかに上回る場合にはじめて検討されるべき話です。

ところがレムデシビルはその有益性がはっきりしないままに社会の要請に押されるようにして「特例承認」されました。言わばレムデシビルの「特例承認」は、コロナウイルスが非常に致死性の高いウイルス感染症だと受け止められてしまった医療業界のパニック・混乱の結果として起こったと言えると思います。

百歩譲ってパニックに陥ってしまったというのであれば不合理な判断になることにもある程度理解はできます。ところが今回のアデュカヌマブの「迅速承認」はそれとはわけが違います。

極めて冷静に判断できうる緊急度の低い状況においてこの「迅速承認」が受け入れられてしまっていることに問題の根の深さを感じるわけです。

「迅速承認」にいたった表向きの理由として製薬会社は「深刻で治療法のない病気への新薬を早く実用化するため」と述べていますが、

いくら期待の新薬であろうと確かな効果が確認されていないのであれば迅速に推し進めることが必ずしも良い結果には至りません。むしろ社会にとてつもない害をもたらす可能性さえあります。

実は新薬を承認するかどうかを決める米食品医薬品局(FDA)とは別に、その審査を担う独立委員会があるそうなのですが、

別のニュースでは、このアデュカヌマブの「迅速承認」に対して独立委員会のメンバーのほぼ全員が反対していたという報道もなされていました。それなのにFDAはアデュカヌマブを迅速に承認したのです。

ここには②の問題も絡んできている可能性があります。なんとアデュカヌマブは、平均的な維持投与量の場合で患者1人当たり年間5万6000 ドル(約613万円)の治療費がかかるというのです。

同じような医薬品の高額化による衝撃は、がんへの免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボの時や、白血病治療薬のキムリアの時にも同じように受けました。

つまり今回のような著しく高い薬を思慮浅く承認するという傾向は、今回のアデュカヌマブで初めて認められたものではなく、ずっと前から恒常的に現代の医学界にはびこっている風習だということです。

どうしてそんなことになってしまうのかについては、逆の立場になれば、想像するのは難しくありません。

製薬会社にしてみれば、もしもアルツハイマー型認知症での画期的な新薬が承認されれば、その市場規模は莫大です。

しかもそれが従来のような進行を遅らせる薬ではなく、根本的な治療薬ともなればそれを希望する患者は山のように発生するでしょう。

そうなれば何としてでも承認にこぎつけたいところです。一定の副作用が出るであろうことを折り込んだとしても、それを補って余りある収益がもたらされるわけですから。

つまり特定の集団への利益誘導に医療業界の監視システムが完全に機能を停止してしまっているということを指しています。

今回の「迅速承認」の暴挙を受けて、審査に当たった独立委員会のメンバーの2人が抗議の意志として辞任したことも報道されています。


そしてなぜ独立委員会がそこまで「迅速承認」にNoをつきつけたのかについての最大の理由が③です。

なんと報告されているのはアミロイドベータの除去成績だけで、肝心の認知機能がどうなったのかに関してはどこにも書かれていないのです。

というよりも、その認知機能の成果については「追加の臨床試験で効果を再検証するように」という条件付きで「迅速承認」したというのです。

「いやいや、その認知機能の成果がはっきりしてから承認しろよ」と言いたくなるようなFDAの態度です。独立委員会が抗議の意志を示すのも無理もありません。

しかし、そんな理にかなっていない「迅速承認」の背景に②のような医療の商業化による悪影響があり、しかもそれが常態化しているとなれば問題は極めて根深いですよね。

理にかなっていない「迅速承認」と言えば、コロナワクチンもそうです。

製薬会社が提出した利益相反がバリバリにあるワクチンの効果を示す研究結果だけが一方的に受け入れられて、まだ長期的な効果がはっきりしていない中でコロナ禍を終わらせる唯一の手段と言わんばかりに積極的接種勧奨され、

しかも従来より圧倒的に副反応の頻度が高く、死亡例も稀でなく生じている事実を目の当たりにしても全く顧みられることのない状況をみていますと、

このアデュカヌマブだけがそうだったのではない。もはや医療は不可逆的に公平性を欠くレベルまで歪んでしまったのだと。

医療において言われている科学的根拠というものは、科学の名を借りた偽りの何かであって、それをほとんどの医療者に疑われることなく受け入れられてしまっているのだと思わざるを得ません。

科学的に妥当であるかどうかは問題ではなく、社会的にそれが正義だと判断されたことにはいくらお金を費やしても構わないと、

そしてその過剰なまでに費やしたお金によって生じたひずみは決して顧みられることもなく、無視されたままひずみが大きくなり続けていると、まさに社会が難病化した状態だと言えると私は思います。


もっと言えば、そもそもアルツハイマー型認知症の原因を説明し、一般的に受け入れられている「アミロイド仮説」の妥当性もあやしいのです。

そのことについては以前もたとえを用いて説明したことがありますが、「アミロイドベータ」は認知症の原因ではなく”結果”だと考えた方がつじつまがあいます

その根拠としては大きく以下の3つを挙げることができます。

①「アミロイド仮説」を元にした抗認知症薬の開発がことごとく失敗している(原因であるはずのアミロイドを除去しても認知機能が改善していない)
②アミロイドの蓄積にはインスリンが関与しており、高インスリン血症は認知症のリスクである。(その根拠として2型糖尿病ではアミロイドが膵臓に蓄積するが、Ⅰ型糖尿病ではアミロイドが膵臓に蓄積しないと病理学的に証明されている)
③「アミロイド仮説」を元にアミロイドの除去に成功したアデュカヌマブで奇妙な副作用が報告されている(アミロイドが原因だとしたら、除去することで副作用が出るのはつじつまがあわず、むしろアミロイドに正当な役割がある可能性さえある)


これらの事実は「アミロイド」を「原因」と考えると矛盾しますが、「結果」だと考えるとその矛盾は解消します。

特に③の奇妙な副作用に注目してみましょう。アデュカヌマブの投与によってプラセボ群と比較して「アミロイド関連画像異常 (Amyloid-related imaging abnormalities; ARIA)」という有害事象が稀でなく出現することが報告されています(アデュカヌマブ投与群の発生率41%で、プラセボ群では10%)。

「ARIA」には「ARIA-E(脳浮腫)」と「ARIA-H(微小脳出血)」の大きく2種類があり、要するに「ARIA」というのは、アミロイドが蓄積するアルツハイマー型認知症において特徴的に認められるMRI上の画像異常を意味しています。どうやら血液脳関門の緊密な内皮接合部が破壊され、それに続いて体液が貯留したり、出血が起こったりすることがあるようです。

何でアミロイドが原因のアルツハイマー型認知症で、アミロイドを除去することでアルツハイマー型認知症でよく見られる画像変化が多く発生してしまうのでしょうか。

本当はアミロイドがあることで脳の構造を安定させていたにも関わらず、それが追いつかないほどに脳の破壊が起こっているが故にアミロイドがたくさん集まって一生懸命修復しようとしている可能性さえ見えてきます。

これは動脈硬化の原因とされるコレステロールとそれを下げるスタチンとの関係と非常によく似ています。スタチンも製薬会社の利益相反バリバリの薬であるということは以前にも述べたと思います。

「コレステロールが動脈硬化の原因だ」という仮説は医療関係者のみならず、一般の人達にも広く知れ渡り受け入れられている仮説だと思いますが、実際にはコレステロールの蓄積は原因ではなく結果であるとする異論があります。

コレステロールがあることで動脈硬化が起こっているのではなく、血管の炎症が起こっている場所に修復材料としてコレステロールは現場へ運ばれて修復作業を行うも修復が追いつかないくらいに炎症が起こり続けてしまっているので、結果的に現場に多くのコレステロールが集まっているという状況です。

これは火事場に集まった消防隊(コレステロール)が、たくさん集まっているから火事(炎症)の犯人だと消防隊が誤認逮捕されてしまっている状況によくたとえられます。

もしもコレステロールが動脈硬化の原因なのであれば、スタチンを使えば動脈硬化は改善していかないとおかしいですが、実際には誤差レベルの改善が論文で時々示されているくらいで、大規模試験によるスタチンの臨床効果は賛成派の論文と反対派の論文でフィフティフィフティの状況です。しかも賛成派の論文の多くには製薬会社との利益相反関係があります。

本当に科学的にみてコレステロールが動脈効果の原因だという仮説が真であれば、結果がそのようにフィフティフィフティになるはずもありません。いつ調べても同じ結果が出てこないとおかしいので、フィフティフィフティになる状況そのものがその仮説が真ではないことを意味していることになります。

そしてスタチンで本来狙っていたはずの効果が明らかでないばかりか、その裏でスタチンには様々な副作用を生じることがわかっています。横紋筋融解症は有名ですが、倦怠感や認知障害などそれ以外にも医師に認識されていない有害作用は山のようにありますが、副作用として認識されにくいが故におそらく多くの場合「老化現象」として扱われていると思います。

「アルツハイマー型認知症の原因がアミロイド」という仮説へのアデュカヌマブの効果がはっきりせず、むしろ副作用が多く出ているという状況もこれとリンクしていると私は思います。

だからアデュカヌマブでの認知症の改善効果は、まだ結果が出ていないのではなく、おそらく出せる結果がないのだろうと思います。

そう考えれば数々の「アミロイド仮説」に基づいた治療薬の開発が何十年もうまくいかなかった事実も非常につじつまがあうのです。

そしてそうであるならば今回のアデュカヌマブだけうまくいったという情報も非常に怪しいのです。

そのように現時点の情報ではとてもアデュカヌマブが画期的な根本的治療薬として受け入れられるような状況ではない。それに気づいている専門家も少なくとも何人かは存在していると。

そうであるにも関わらず、この薬が「迅速承認」され、非常に高い薬価が設定され、しかもそれが批判されるどころか期待の新薬として医療者にも大衆にも広く受け入れられてしまうという世の中の動きを見ていると、

私はもはや何の生活指導をしても病態を改善に導く主体的な行動変容を起こすことのできない難病患者を前にした時のような無力感を禁じ得ないのです。

コロナで表面化してきた様々な医療における根本的問題も、実はその根っこは非常に深い部分にあったというわけです。


・・・もはやどこからどう手をつけたらいいのか、途方に暮れる気持ちになります。

他人の価値観を変えることが容易でないように、社会の価値観を変えることもまた容易ではありません。

できることがあるとすれば自分の価値観を変えていくこと。

そしてそれを強要できないことを承知しながらも、変えられない価値観を受容しながらも、

そうではない価値観が確かにあるということ、そしてそんな価値観で生きている自分のような人間もいるのだということを、

たとえどれだけ遠回りになったとしても、伝え続けるしかないのかもしれません。

そうすれば今の世代で変わらなくとも、次の世代で変化するということもあるかもしれません。

根深過ぎる問題にめまいがしそうですが、

倒れることなく、私は私の気づいたことを伝え続けていこうと思います。


たがしゅう

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コメント

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若年性アルツハイマー型認知症寛解中です
田頭先生、初めてコメント書き込みします らこ と申します。

2009年9月に49才で若年性アルツハイマー型認知症発症し赤信号無視連発し、スーパー糖質制限食を実行し、1週間で寛解した らこ と申します。
完治はしていません。寛解です。トンカツ屋で、リンゴすりおろしたっぷりのとんかつソースをかけて食うと、1食で若年性アルツハイマー型認知症再発して、赤信号無視連発や銀行ATMでキャッシュカード忘れを連発します。昨年6月の時は、1日に5行廻り、3行で忘れたので、6割の確率です。
私らこ の脳中小動脈はアミロイドβがべったり沈殿している、と考えると筋が通ります。

アデュカヌマブの記事を読んだ時、真っ先に思ったのは

◎29%アミロイドβが残ったら、ブドウ糖は脳神経細胞が栄養補給できなくなり異常継続になるだろう

でした。
「アミロイドβ 71%除去実績」記述はあるが、「赤信号無視治った」「息子の妻が財布を盗んだを止めた」「徘徊終了」など、『症状改善』記述が一切無い摩訶不思議な記事でした。

私らこ の脳中小動脈はアミロイドβべったりのまま、と考えております。ブドウ糖は通過できませんが、分子の小さい ケトン体 は通過できるので、日常生活は全く正常です。赤信号無視も止まりました。

◎アルツハイマー型認知症治療目的は「障害行動の排除」であって、「アミロイドβ量の減少」ではない、と断言

します。
私らこ は脳中小動脈にアミロイドβべったりです。しかし、スーパー糖質制限食継続する限り、若年性アルツハイマー型認知症寛解中で、日常生活無問題です。
アミロイドβ減少しても、障害行動が無くならないのでは、本末転倒と考えます。

田頭先生のお考えを教えて頂ければ幸いです。
問われていますね。
とても興味深く拝読しました。

先生のご指摘通り、今まさに医師一人一人の批判的思考態度、倫理、ヘルスコミュニケーション、教養が問われていると感じます。

これまで、歪みながらも見てみないふりをしていたジェンガが、まさに崩れ落ちた瞬間に立ちあったような悲しみを覚えています。
1つ1つ、自分の半径のなかで積み上げていくしかないのでしょうね。歯がゆいですが。
Re: 問われていますね。
鈴木瞬 先生

 コメント頂き有難うございます。
 御理解を頂き大変有り難いです。

 ジェンガのたとえはとても共感できます。
 時間はかかれどもまた一つずつ積み上げて良い医療を作っていけばいいのだと気づけただけでも幸せなのかもしれません。
 少なくともこれからの私の医師人生は、やりたくない医療をしぶしぶ行う人生から、自分が思う理想の形に近づけるよう挑戦し続ける人生へとシフトチェンジできたように思います。