粘膜免疫を司る「IgA」を人為的に増やすとどうなるか

2021/05/15 15:20:00 | ワクチン熟考 | コメント:0件

免疫システムの主要因子のひとつ「抗体」の基本は「IgG(免疫グロブリンG)」です。

その「IgG」の産生システムが何らかの原因で過剰に駆動されて、システムエラーによって「変形IgG」が過剰産生されてしまう状態が起こりえるわけですが、

変形IgGの過剰産生」という意味で、「IgE過剰産生状態のアレルギー性疾患」と、「IgG4過剰産生状態のIgG4関連疾患」は本質的に同じ病気(病態)であるという私の見解を過去記事で述べさせて頂きました。

今回はその話を「IgA」にまで拡げて理解していこうと思います。

「IgA」と言いますと、「IgG」が2つ連なったような形をした2量体で、粘膜における免疫システムの主要因子です。

新型コロナウイルス感染症ではほとんどの人が「IgG」の抗体が確認されていないにも関わらず、ほとんどの人で無症状や軽症で済んでいるのには、「Tリンパ球中心の細胞性免疫で退治されている」という説と並んで「IgA中心の粘膜免疫で退治されている」という説が注目されています。 また「粘膜ワクチン」という「IgA」の人為的な分泌を促そうというワクチンの構想も20年以上前から検討されています。

それというのも「IgA」というのは、「IgG」と違って抗原特異性が低く様々な病原体に結合できるという特徴があります

つまり「IgA」が十分に産生されることで、「IgG」のように「コロナ(しかも特定の株)だけにしか効かない」というのではなく、コロナもインフルエンザも肺炎球菌も、いろいろな病原体から自己を守ってくれるということです。

粘膜というのは口内にはじまり、咽頭、食道や胃腸、肛門まで続く消化管のみならず、鼻、気管支、肺などの呼吸器、耳、泌尿器、生殖器など、要するに外界と接触しうる部分はすべて粘膜がおおっています。

従って、粘膜免疫が十分な「IgA」によって保たれれば、病原体となるさまざまな抗原と文字通り最前線で戦ってくれて、自己の状態を保ってくれるというわけです。

しかしながら理論的には素晴らしいこの粘膜ワクチン、現在までに日本で実用化されたものは「経口ポリオワクチン」しかありません。

「ポリオ」と言えば、ピコルナウイルス科に属するポリオウイルスによって引き起こされる病気で、主に小児に急性の弛緩性麻痺をきたすということが知られています。ちなみにポリオウイルス感染の90-95%は不顕性感染だとされています。

ポリオは天然痘に続いて、ワクチンで撲滅間近だとされるウイルス感染症でもあり、「経口ポリオワクチン」の普及がその状況に一役買ったと言われています。

一方で「経口ポリオワクチン」は「弱毒化」した病原体を用いるという「生ワクチン」であったので、ワクチン使用によってポリオを発症するという患者が少数ながら発生したため、

日本では2012年より「経口ポリオ生ワクチン」の使用を中止し、「注射による不活化ポリオワクチン」へ全面的に切り替えるという対応をとっています。

・・・ここまで読んで「あれ?」と思われた方がいるかもしれません。

「粘膜ワクチンって、IgAの産生を促して、さまざまな病原体に幅広く戦ってくれるように仕向けるのではなかったの?」と。

そうなんです。「経口ポリオワクチン」は粘膜ワクチンでありながら、「ポリオウイルス」という特定の病原体にしか免疫を誘導しない役割にとどまっているので、実質「粘膜ワクチンはまだ何も理論通りに開発できていない」ということなのです。

ただもう一つは経口ポリオワクチンによってポリオが減少したという疫学的データも疑似相関である可能性があります。

たとえば、2020年にアフリカ大陸からポリオが根絶されたという報道がなされましたが、アフリカから同様の症状の人が一切消えたわけではありません。

ザンビアというアフリカの国では2020年3月にコンゾと呼ばれる痙性対麻痺の患者が大量発生しているそうです。

このように何かの病気が根絶されたという情報の背景には、「病気の診断方法のあいまいさによって、根絶されたとされる病気と同様の状態が他の病気として解釈されているだけという可能性」を考えておく必要があります。

近年のインフルエンザが激減したという報道についてもそうです。インフルエンザと診断された人は激減したかもしれませんが、インフルエンザ様の症状を出す人が激減したわけでは決してないと思います。折しもインフルエンザの減少と入れ替わるようにしてコロナが流行してきていますし、

そもそも軽い風邪で病院にいくのをやめようという受診控えも起こってきています。インフルエンザもコロナもひっくるめた風邪症候群の件数として減ってきているのであれば、その影響もあるかもしれませんが、

いずれにしてもインフルエンザが激減したからといって、世界で風邪症候群を呈する人が激減したという話しでは決してないということに注意する必要があります。

そういえば天然痘についても同じような構造がありました。天然痘自体が撲滅されたと言われる現在でも、天然痘様の症状は、AIDSなどで免疫力が低下した状態に合併する伝染性軟属腫の患者さんでは今でも観察されています。

ともあれ、粘膜ワクチンの目的が「IgAの産生量を増やし非特異的に病原体への抵抗力を増すこと」であるとするならば、事実上粘膜ワクチンはまだひとつも実用化されていないということになりますが、

一方で「IgAの産生量を増やす」ということであれば、ある意味ですでに実現している側面があります。

というのも「IgAの産生量が増え過ぎることで起こる病気」の存在が知られているからです。代表的なものに「IgA腎症」と呼ばれる病気があります。

「IgA腎症」は国の指定難病にも指定されている病気で、原因は不明であるものの、異常なIgAが産生されるようになります。

その「変形IgA」とも言える異常なIgAがたくさん産生され、時に2量体以上の多量体となり、なぜか腎臓の糸球体という部分に沈着するため、ここで異物除去システムとしての炎症を起こし腎臓の機能を低下させていくという病気が「IgA腎症」です。

この「IgA腎症」、「変形Ig(免疫グロブリン)の異常産生」という意味では冒頭に紹介した「アレルギー性疾患」や「IgG4関連疾患」との共通性も見いだせるわけですが、「変形IgA」は「変形IgG」とは少し違う点があります。

というのも「IgA」が産生される場所は先ほど述べたように粘膜です。もう少し性格に言えば粘膜下のリンパ組織です。

先に述べたように粘膜は消化器や呼吸器を中心に全身に張り巡らされていますが、中でも特に人体における巨大な粘膜下リンパ組織として「扁桃」と呼ばれる組織があります。

「扁桃腺が腫れる」などの聞き慣れた表現からその場所がどこかはわかる人も多いと思います。そう、「扁桃」はのどを取り囲むように存在する粘膜下リンパ組織です。


(※画像はこちらのサイトより引用)

さらに「扁桃」をミクロのレベルで観察すると小さなくぼみが無数に存在し、一つ一つのくぼみのことを「陰窩」と言います。

この「陰窩」の上皮細胞の下の「粘膜固有層」という場所に集まっている「Bリンパ球(形質細胞)」を含んだリンパ組織で産生されており、「陰窩」のようなくぼんだ構造をとることによって表面積を増やし、様々な抗原との接触を可能にし、効率的にIgAと接触させる意義があると推測されているそうです。

そしてこの場において産生される免疫グロブリンはなぜか「IgA」に特化しています。従って血液を介して全身の中のどこにでも出現しうる「IgG」とは違って、IgAが産生されるのは基本的には、「扁桃」をはじめとした粘膜下のリンパ組織に限局しており、それゆえに「IgA」は粘膜における「局所免疫」に関わっているというわけです。

こうした「局所性」が「IgA」自体の特徴であったり、「腎臓だけ」に異常をもたらす「局所性」があったり、「IgA腎症」は腎臓という局所における病気だと考えられがちですが、

病気の本質は「IgAの産生が過剰に刺激され、変形IgAまでもが産生されてしまうこと」にあると考えると、本当の病気の原因は「局所」ではなく、全身にあるという構造がわかってきます。

ちなみに「IgA腎症」の治療法として「ステロイド」が使用されます。ここでも「変形IgG異常増殖」性の病気である「アレルギー性疾患」や「IgG4関連疾患」などと似た構造を持っていますね。

しかし「変形IgG異常増殖」と違う治療法として、「扁桃摘出術」があります。これは人体における「変形IgA」の巨大な産生工場である「扁桃」を除去することで、これ以上「変形IgA」を過剰産生をさせないようにするという「対症療法」です。

いま「対症療法」と表現しましたが、残念ながら「変形IgA」を産生しているのは「扁桃」だけではありません。「IgA腎症」の患者では、他の「Ig(免疫グロブリン)」と同様に「骨髄」でも産生されるようになっているという報告があります。

ここからは本来「局所」でとどまるはずの「IgA」の働きが、「IgA腎症」と称される状態においてはなぜか過剰に刺激されて、その結果本来はIgAを産生しないはずの骨髄でも産生が促されているという、言わば身体全体が過剰なほどのIgA産生体制へパニック的に陥っている状況が推察されます。

そうなると何がそんなIgAの過剰産生パニック体制を引き起こすのでしょうか。

私はここの構造については、「アレルギー性疾患」や「IgG4関連疾患」、あるいは「ウイルス感染症」などの「変形IgG異常産生」性の病気と共通する部分があると思っています。

要するに「異物除去システムが過剰に働かざるを得ないような刺激が繰り返され続けている」ということだと思います。これを起こす要因には大きく2つあります。

ひとつは「(無意識の)異物が入り込み続けている」、もう一つは「異物はそんなに入っていないけど、異物除去システムが過剰に刺激されやすい状況になっている」です。

前者は添加物や医薬品などの人工物の摂取、後者は糖質過剰とストレス過多がその代表的な原因であろうと思われます。

従って、こうした「免疫グロブリンが過剰に産生される症候群」の根本的な治療法として、糖質制限やストレスマネジメント、及び可能な限り不自然なものを経口摂取しないこと、という方法を考えることができます。

それと同時に、これでまたひとつ、

全く別の病気であるように思われた「IgA腎症」と「アレルギー性疾患」「IgG4関連疾患」、ひいては「ウイルス感染症」が、

実はすべて同じ病気(病態)を違う切り口で観察していただけという構造が見えてくる
のではないでしょうか。

そして「IgA」を人為的に増やして粘膜の免疫を強化しようという「粘膜ワクチン」の治療戦略が、

「あまり利口な方法とは言えない」という方向性も見えてくるのではないでしょうか。


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する