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同じ現象に違うラベルを貼ってはいないか

category - ウイルス再考
2021/ 05/ 07
                 
ここにとある風邪の患者さんがいます。

この人にコロナのPCR検査をして陽性という結果が出たとしましょう。

そうすると医師はこの患者さんをコロナにかかった患者としか思えなくなってしまうかもしれません。

でも実際にはRSウイルス抗原に反応したのかもしれないし、ライノウイルス抗原に反応したのかもしれない。

あるいはただの花粉に反応したのかもしれません。でもコロナPCR検査で陽性と出たら他の可能性が全く見えなくなってしまう・・・。

コロナ禍で医療者側の固定的な視点が現実を歪んで理解させてしまっていることがあるということがとてもよくわかったわけですが、

そのように事実を歪んでみてしまう現象は、実は感染症以外でも医療の中で起こっているということにふと気づきました。

少しマイナーな話になってしまうかもしれませんがご容赦下さい。
            

IgG4関連疾患」と呼ばれる病気のカテゴリーがあります。

これは比較的新しい疾患概念で、1993年に日本人の医師がはじめて発見したということでその後世界に広く知られていくようになりました。

「IgG(Immunoglobulin:免疫グロブリン)」というのは以前も記事にしましたように、「抗体」の基本形です。

その「IgG」には実は「IgG1」「IgG2」「IgG3」「IgG4」といったサブタイプがあり、中でも「IgG4」だけが高値となって全身に慢性の炎症性疾患をもたらす病態があり、それを「IgG4関連疾患」と呼ぶということです。

「IgG4関連疾患」のカテゴリーにはたとえば、自己免疫性膵炎、硬化性胆管炎、ミクリッツ病、リーデル甲状腺炎、キュットナー腫瘍、炎症性大動脈瘤、後腹膜線維症、炎症性偽腫瘍、間質性腎炎、間質性肺炎・・・などなど、いずれ劣らぬ原因不明の病気達が含まれていて、

それらの謎の病気の病態生理の一端を明らかにしたという功績のみならず、その「IgG4関連疾患にはステロイドが有効である」という治療につながる情報までをもたらしてくれました。

はじめてこの「IgG4関連疾患」の話を聞いた時には、なるほどこうした今までにない発想で新しい病気は見つかっていくのかと感心したのを覚えています。

「IgG」にサブタイプというものがあるという発想がまず私にはありませんでしたし、

ひとつの病気でIgG4を測定してたまたま高かったとしても、それはその患者さんの特殊体質と片付けてしまうのがオチで、まさか他の病気と共通する要素だという発想にはなかなか至らないと思います。

慢性炎症性疾患の範疇に入る病気は星の数ほどあるので、慢性炎症性疾患に注目したとしてもひとつ1つ調べてみようという発想にもなりにくいです。だから私はこのIgG4関連疾患を発見したドクターにある種のすごさを個人的に感じていました。

ところが今思い直すと、「IgG4関連疾患」というのは既知の現象に違う名前をつけて認識してしまっているだけ、という可能性が考えられるようになりました。

なぜならば、IgG4というのは、IgEと同様に変形IgGの一種だと考えるとつじつまが合うと思えてきたからです。

つまり、異物と判定される物質と接触すれば免疫システムを通じてBリンパ球から「抗体(IgG)」が産生される流れがありますが、

この「IgG」産生が何らかの原因で過剰になったり、システムエラーを起こしてしまうと、変形IgGとして「IgE」が生まれたり、「IgG4」が生まれたりする、と考えることはできないでしょうか。

そう考えると「IgE」が過剰産生される「アレルギー性疾患」と、「IgG4」が過剰産生される「IgG4関連疾患」は、

別の名前で表現されてはいるものの、本質的には同じ病気を意味しているのではないか
、というアイデアに至ります。

奇しくも「アレルギー性疾患」の治療にも、「IgG4関連疾患」の治療にも「ステロイド」が使用されます。ますます両者が共通しているように見えてきます。

そう思って、はたしてIgG4とは何なのか、IgGとIgG4とはどう違うのかについて調べてみたところ、次の資料に詳しいことが書かれていました。

モダンメディア 61巻 11号 2015[臨床検査アップデート]
IgG2、IgG3測定の意義
野々山 恵章


この資料を読みますとまず、「IgG」は「IgG1、IgG2、IgG3、IgG4をすべて合わせた総称」だということがわかります。

その上で「IgG1」というのが一般的に「IgG」としての標準的な機能を備えているサブタイプで、「IgG2」「IgG3」「IgG4」といった他のサブタイプは「IgG1」と比べて構造上「抗体」の「Fc部分(マクロファージなどの抗原提示細胞と結合するところ)」が異なっているのだと、

また機能的には「IgG2」「IgG3」「IgG4」はいずれも「IgG1」の機能のいずれかが欠けているという関係にあることがわかります。

たとえば、「IgG2」は、全体的にはほとんど「IgG1」と同じ機能を持っていながら、マクロファージとFc部分の結合能力が「IgG1」より少し劣っています。

また「IgG3」も同様にほとんど「IgG1」と同じ機能ですが、「IgG1」では認められる「プロテインA」との結合性だけが認められません。

問題の「IgG4」も「IgG1」との相違点は、補体を活性化することができないという点だけです。

そして「IgG1」「IgG2」「IgG3」「IgG4」の血中濃度での比率はそれぞれ、60%、29%、7%、4%です。

以上を踏まえると、本当は常に「IgG1」を作ろうと頑張っているけれども、何らかの身体のシステム内における不確実性があるせいでたまに「IgG2」「IgG3」「IgG4」みたいな「IgG1」の出来損ないのような「IgG」が一定の割合で産生されてしまっていると、

普段その存在は不完全ながら身体のシステムを維持するのに役立っているので、問題が表面に上がることはないのだけれど、

何らかの原因で「IgG」の産生を強力に刺激され続ける出来事(たとえば異物と認識される物質との大量・頻回遭遇)があると、システムエラーを生じ、そのパターンの1型として「IgG4が産生され続けてしまう」状態が起こりえると考えればどうでしょうか。

もっと言えば、この構造はウイルス感染症とも共通する構造です。要は異物(と認識される抗原)と接触してそれを排除するための「抗体」の産生が駆動されるイベントが活性化され続けている状態という意味ではアレルギー性疾患やIgG4関連疾患と共通しているわけですから。

さらに言えば、IgG4はアレルギーの病態に関わる肥満細胞とも結合するという情報もあります。ますますIgEとそっくりです。

でも「IgG4関連疾患」と名付けられていることによって、医師はこれを別の難病と認識し、

その難病を解決するためにさらに細かい分子を検索したり、IgG4関連疾患ならではのメカニズムを探そうとします。

そして実際にその動きは治療薬としてもIgG4だけに注目したものを開発するという流れとして現実のものになっています。

「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、現代医学は「木ばかり見ていることでさえなく、本当は木ではないものを見ているのにも関わらず近くで見過ぎていて、木ではないものを見ていることに気づいていない」という由々しき状況にあるように思えてなりません。

まずは現状をニュートラルに認識することに努めましょう。

そして複数の解釈が存在しうる状況にも関わらず、ひとつに決めつける傲慢を慎みましょう。

話はそれからだと思います。


たがしゅう

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コメント

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いつも先生のブログやTwitterで色々教えて頂いています。ありがとうございます。
Twitterからの動画で、子供達にも食の大事さが伝えられたように思います。
先生にお聞きしたいのですが、先生の小学生の頃はどの様な食生活をしていたか、覚えている限りでいいので、教えて頂けたら有難いです。
Re: タイトルなし
あっぴ さん

 ご質問頂き有難うございます。

>先生の小学生の頃はどの様な食生活をしていたか、覚えている限りでいいので、教えて頂けたら有難いです。

 いやー、これが私はこどもの頃の記憶というのが、かなり薄くなっているんですよね。
 こどもの頃の話を明確に思い出して話せる人はつくづくすごいなと感じてしまいます。

 それはさておき、本当にわずかな覚えている範囲で話しますと、
 まず糖質制限は当然やっておらず、母親の作ったおそらくは一般的な料理をもりもりと食べていました。
 お菓子も大好きでしたが、お小遣い制はなかったので、家にあるお菓子をその都度食べていたりしていましたかね。
 中学校以降は親がコンビニを経営し始めた影響もあり、コンビニの廃棄商品が家に大量に残るようになり、それを好きなときに食べたりもしていました。幕の内弁当とか、菓子パンとかおにぎりとか、今にして思えば相当高糖質食品のオンパレードでしたね。
たがしゅう先生こんにちは!
質問にお答え頂きありがとうございます。
先生の食事は高糖質だったのに、すんなり糖質制限が出来て素晴らしいですね。
うちの4年生の息子が、最近軽肥満になりまして、食事には苦労しています(--;)
給食が高糖質で、おまけにおかわりをしているらしいので、太り始めました。
何とか糖質制限をして、健康体になれるよう頑張ります!