違うシステムのように見えて実は同じシステム

2021/04/17 09:40:00 | 素朴な疑問 | コメント:0件

こんなことを考えている医者は私くらいのものだろうと思うのですが、

以前、私は「アレルギー性疾患とウイルス感染症は本質的に同じ病気だ」ということを記事にしました。

しかし多くの医師はおそらくこう考えるでしょう。「アレルギーはIgE抗体が関与し、感染症はIgM抗体やIgG抗体が関与する。従って、アレルギーと感染症は別の病気である」と。

IgE、IgM、IgGというのはいわゆる「抗体」、別名「免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)」と呼ばれているものの一種です。そのパターンが違うのであれば別の病気だという指摘は理にかなっているように思えるかもしれません。

でも今回は果敢にもそこに疑いの目を向けてみたいと思います。

まず「免疫グロブリン」というものの構造について説明しましょう。 「免疫グロプリン」には大きく5つのクラス(種類)があります。「IgG」「IgM」「IgA」「IgE」「IgD」の5つです。

基本となるのは「IgG」で、アルファベットの「Y」の字のような構造をしていることは以前の記事でも説明しました。このYの字の形態が「免疫グロブリン」の基本で、この「Y」字型が1つの状態を「単量体」と呼んだりもします。

この「IgG」は別名を「γグロブリン」とも言い、「Bリンパ球」という細胞から分泌されて人間にとって異物(非自己)となる物質に対して結合する性質があります。

何をもって「異物(非自己)」と認識しているのかと言いますと、全ての自己細胞(※核のある細胞)にある「MHCクラスⅠ」という物質があるかどうかです。

コロナウイルスとかもそうですが、たとえば花粉のような異物に対しても「MHCクラスⅠ」がないということで結合し、その後の免疫システムが駆動されます。

異物とくっついた「IgG」はその後、対応する細胞によって認識されて、その細胞の中にある消化酵素などで処理されるという流れがあり、「IgG」を認識する細胞としては「マクロファージ」が最も有名です。

「マクロファージ」は「貪食細胞」などとも称される「単球」系の細胞です。

しかし、「IgG」を認識する細胞は「マクロファージ」は、実は他に「好中球」「NK細胞」があります

いずれにしても、異物を認識した「IgG」は、対応する異物処理細胞によって認識され、その細胞の中にある仕組みによって消化されるという大きな流れには変わりありません。

さて、この「IgG」の大きさ(分子量)はおよそ15万と言われていますが、それに対して他の「免疫グロブリン」のクラスはこれよりも大きい構造をとっています。

一番特徴的なのは「IgM」です。これもBリンパ球から分泌されるものですが、いわゆる『初期免疫』において重要な役割をはたすと言われています。

コロナの抗体検査で聞かれたことがあるかもしれませんが、抗体検査の判定項目には「IgM」と「IgG」の2種類があり、「IgM」が陽性だとごく最近コロナにかかったことを反映し、「IgG」が陽性だといつかかったかはわからないけれど最近と呼ぶよりも前の時期にかかったことを反映するという話があります。

それというのも「IgM」というものが、異物に遭遇して最初の時期にしか産生されない「免疫グロブリン」であるからです。

そしてIgMを通じて認識した異物をBリンパ球がこれらをより効率的に排除できるようにするために産生する「免疫グロブリン」を「IgG」「IgA」に切り替えていくという仕組みが人体に備わっています。これを「クラススイッチ」といいます。

「IgM」「IgG」「IgA」と書くと、それらは全く別の構造を持つ物質のように思えるかもしれませんが、それは違います。実は「IgM」は「IgG」が5つ重なったような「5量体」と呼ばれる構造をしています。


(※画像はこちらのサイトより引用)

従って、「IgM」の大きさ(分子量)は「IgG」のおよそ5倍の90万です。とりあえずわけのわからない異物に対処するために高率よく結合できるようそのような形となっている、かどうかまではわかりませんが、ともかくそういう仕組みになっているようです。

ちなみに「IgM」はこの大きさのせいで胎盤を通過することができません。生まれてまもない赤ちゃんの免疫力は意外と高いことが知られていますが、その免疫力はお母さんの「IgM」ではなく主に「IgG」によってもたらされていると言われています。

もうひとつ生まれたばかりの赤ちゃんに「免疫力」をもたらしてくれるのは「IgA」です。赤ちゃんの場合はこれを母乳から受け取ることができます。

「IgA」というのは一言で言えば「粘膜免疫にかかわる「免疫グロブリン」です。具体的には涙、唾液、鼻汁、気管支粘膜、腸管粘膜、尿などに分泌液に最も多く含まれている「免疫グロブリン」です。

「IgA」の分泌量は「IgG」に次いで2番目に多く、細菌やウイルスの侵入を最前線で防いでくれている存在としても注目されています。やはり「Bリンパ球」から産生されますが、正確に言えば粘膜の固有層と呼ばれる場所にIgAを産生するように進化した「Bリンパ球」である、「形質細胞(プラズマ細胞)」によって産生されます。

また「IgA」は上の図を見てわかりますように、「IgG」が2分子がくっついてできた「2量体」の構造をとっています。ただその割に大きさ(分子量)は「IgG」より少し増えただけの16万です。そのため「IgA」は胎盤も通過することができるし、母乳にも移行します。これはおそらく結合する部分の短縮具合による現象だと思います。

ちなみに最近IgAには「3量体」や「4量体」があることも報告されてきています。また抗原への親和性が高く、しかもウイルスの変異にも対応できるということもわかっています。

さらに「IgG」が「好中球」「マクロファージ」に認識されるのに対して、「好酸球」からも認識されるという特徴もわかっています。「好酸球」は以前の私の考察で言えば「好中球」の第二部隊ですから、そういう意味でも「IgA」はともかく様々な異物に対処することができる「免疫グロブリン」だということがわかります。



さて、本題の「アレルギー性疾患とウイルス感染症の共通性」について考える上で重要な「免疫グロブリン」である「IgE」についてです。

一般的に「IgE」は「Ⅰ型アレルギー」と呼ばれる即時型のアレルギー反応に関与していると言われています。

たとえば花粉のような異物を「Bリンパ球」が認識して「IgE」分泌されるというところまでは一緒ですが、

分泌されたIgEが花粉と結合して、それを認識する細胞は「好中球」でも「マクロファージ」でもなく、「肥満細胞(マスト細胞)」や「好塩基球」と呼ばれる細胞です。

「肥満細胞」は以前にも触れたように、いわゆる「肥満(過体重)」に関与している細胞ではなく、その見た目がパンパンに膨らんでいることからそう呼ばれるようになった細胞です。

この「肥満細胞」、普段はどんな仕事をしているのかについてははっきりせず、このアレルギーの話をする時にしか出てこない細胞です。もしこのアレルギーにしか関わっていない細胞だとしたら、その存在自体が生命の維持にとって脅威です。なぜこんな細胞が存在しているのでしょうか。

また「好塩基球」にも「IgE」が結合すると言いますが、この「好塩基球」もアレルギーへの関与以外にどんな役割をしているのかよくわからず、「好中球」「好酸球」「好塩基球」で構成される「顆粒球」全体の1%程度しか存在していない非常にレアな存在です。なんでアレルギーという秩序を乱される自体でそんなに活躍するのでしょうか。

そして「IgE」の構造自体も「IgM」や「IgA」のようにはっきりとした構造の違いがあるわけでもなく、「IgG」とほぼ変わらない構造をしています。厳密に言えばアルファベットの「Y」型の中の下半分の「Fc領域」と呼ばれる場所に違いがあるそうですが、基本的な構造は一緒です。

そして分子量は「IgG」の15万よりも多い20万となっており、「IgE」の免疫グロブリン全体の中の存在割合は、なんと0.001%と好塩基球以上にレアな存在です。

このような基礎的事実を踏まえて私が思うのは「IgEというのはIgGが変形した形であり、肥満細胞や好塩基球はマクロファージや好中球が変形した形である」という仮説です。

つまり、アレルギー性疾患もウイルス性疾患も、「IgG」と「IgE」で別システムが駆動されているように見えて、

実は本質的に同じシステムが駆動されているのではないか
ということです。

この仮説、次回もう少し深めていきたいと思います。


たがしゅう
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