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「オープンダイアローグ」について学ぶ

category - オープンダイアローグ
2021/ 04/ 08
                 
久しぶりに雷に打たれたかのように衝撃を受けた本を読みました。



まんが やってみたくなるオープンダイアローグ 単行本 – 2021/3/15
斎藤環 (著), 水谷緑 (著)


こちらは精神科医の斎藤環先生が「オープンダイアローグ」という精神療法を行う実際の様子を、

漫画家の水谷緑さんが表現する温かくもリアリティあふれるタッチのマンガで紹介するという内容の本です。

前半に「オープンダイアローグの具体例」がマンガで3例ほど紹介され、

中盤に斎藤先生の文章による「オープンダイアローグ」の解説、

そして後半は再びマンガですが、斎藤先生自身が「オープンダイアローグ」とどのように出会い、何を感じてきたかという経緯の紹介と、

水谷さんがこの「オープンダイアローグ」の発祥地であるフィンランドのケロプダス病院へ現地取材に行った時の様子を紹介するという構成になっています。

「やってみたくなるオープンダイアローグ」というタイトルの通り、この本を読んですぐ私はオープンダイアローグを実践してみたいと思いました。
            

なぜ私が「オープンダイアローグ」へ強烈に興味を惹かれたか、に関してですが、

私が「患者さん自身の行動変容を促し、病気から卒業させるための『主体的医療』」を掲げていることと大きく関係しています。

医師が患者をコントロールし過ぎず、あくまでもつかず離れずの距離を保ったサポーターとして患者を支えるというスタンスで、

私は「オンライン診療」という新しい形式の医療に挑戦するようになって数年が経過しましたが、

正直言って現時点ではまだ無事に病気を卒業に導いたと実感できる患者さんとはまだ出会うことができていません。

でもそれはオンライン診療医としての私の技術が浅かったり、オンライン診療文化自体がまだまだ普及しきれていなかったりと、様々な要因が関わっての結果だとは思っていたのですが、

この本にあった以下の一節を読んで私は、今のオンライン診療のやり方自体に原因があるかもしれないと感じました。

(以下、p69-70より引用)

オープンダイアローグは、1対1ではできません

やってみたい人は、必ず仲間を見つけてください。最低、2人いれば十分です。

3人いればベストですけれど、2人からできますので、お友達を誘ってやっていただければ結構です。

チームのいいところは、二者関係という密室から解放されることです。

二者関係というのは非常に人工的で不自然な関係で、まず密室化しやすい

それから共依存関係になりやすい。これは対人支援にかかわったことがある人は、みんな覚えがあると思います。

1対1でかかわっていると、特定の患者さんからべったりと依存されて、身動きがとれなくなることがよくありますが、これを「転移」といいます。

転移が起こるのは、まず密室があって、支援者と被支援者という上下関係があるからです。

転移の感情は、精神分析の立場からすれば、起こるのが当たり前で、起こらないと治療にならないとまで言われることもあります。

転移を解釈することで、患者の無意識に接近できるという発想があるからです。

でも、ダイアローグ実践を経たあとで言えることは、たぶん転移はそれほど重要ではない、ということ。

そういう感情をいっさい利用しなくても治療はできるということです。

転移による依存関係を恐れる治療者は、過度に中立性にこだわったり、ポーカーフェイスになったりとか、すごく事務的な対応になってしまいがちです。

患者との距離が近くなりすぎないように注意することは大切ですが、そればかり考えすぎると、今度は非常に冷たい治療になってしまう。

けれどチームでやると、不思議なことに、転移などの依存関係が非常に起こりにくくなる。

なので治療者も解放されるわけです、すごく楽になる


表情も自然になったりとか、結構自由にいろんなことをしゃべれるようになります。すると、対話が続きやすくなります。

また、チームで患者のネットワークにかかわることにも重要な意味があります。

オープンダイアローグには、患者個人をケアするというよりも、

患者とその人間関係、すなわちネットワークを修復するという側面があります。

関係者を巻き込むことによって話題が拡がり、対話の継続性も高まるのです。

(引用、ここまで)



私は患者さんの主体性を引き出そうという医療を、

上下関係や依存関係の生まれやすい1対1の密室的なオンライン診療の場で行おうとしていたわけですから、

もしかしたらそもそも無理なことをやっていた可能性があったというわけです。

確かにそう言われてみれば、思い当たる節はありました。

私は患者さんに対して、自分で治すために取ることができる具体的な治療行動の選択肢を提示するわけですが、

大事な選択の際には必ずと言っていいほど私の意見を求められ、それがそのまま患者さんの意見として採用されていると感じる場面があったのです。

そうなるとこれは患者中心の「主体的医療」というよりは、形を変えただけで「お医者様にお任せ」の医療のままだということになってしまいます。

これが冒頭私に落雷が落ちた理由です。もしもそうなら私は現在のオンライン診療のやり方を抜本的に見直さなければならなくなります。


そこで患者さんの主体性をより効率的に引き出せる方法として、この「オープンダイアローグ」という方法を自分の診療に活用できないかと考えたわけです。

「オープンダイアローグ」というのはどういう治療法かを文章で説明するのは難しいので、ぜひとも上記のマンガ部分をご覧いただきたいところですが、

あえて文章で言うならば、「患者の問題についてチームで対話をし続ける行為」とでもいいましょうか。

治療者側が患者を上から目線で評価することなく、治療者側も一人の人間として純粋に「自分であればこう思う」「その話を聞いて自分はこう感じた」といった意見をそれぞれが積み重ねていくようなプロセスです。

言ってみれば、私が時々参加したり、開催したりしている「哲学カフェ」で、テーマに「患者さんの健康課題」を取り上げているバージョンという風に言えるかもしれません。

注目すべきことにこの「オープンダイアローグ」、「治癒」を目指して行わないという原則があります。

症状や病気を抱えてそれを治そうと受けるセッションだというのに、「治癒」を目指さないなんて意味がわからないと思われるかもしれませんが、

実は「治癒」を目指さずに、「対話を続けること」を目指すことが、時に「治癒」につながる結果を生み出すことがあるというのがこのオープンダイアローグの面白いところです。

なぜそうなるのか、はっきりとした理屈はわかりません。もしかしたら自分の健康課題に対する多様な意見に患者が触れて、その中で患者自身が心動かされる何かに出会うことがある、そういう偶然を起こしやすくする構造があるということなのかもしれません。

しかし「あくまでも『治癒』はおまけ、副産物、スピンオフ、目指していないけれど、達成できればそれは結構なことだ、くらいの認識でいましょう」と斎藤先生はおっしゃっています。

そしてもう一つ、オープンダイアローグでは「リフレクティング」と呼ばれる他では見ない特徴的なプロセスがあります。

これは治療者チームが患者とその家族に対して、「今から少し私たちだけで話をするので、その場で話を聞いていてください」と申し出て、

その場で患者とその家族に背を向けてチーム内で今までの話を聞いてどのように感じたかということを、患者とその家族が見ているその場で意見交換をするという時間です。

通常であれば治療者チームのディスカッションは患者やその家族のいない場で行われるものですが、これを文字通り「オープン」に開示することで患者には新たな気づきを与えたり、あるいは対話を続けるための新たなアイデアを生み出したりするきっかけになるのだそうです。

はじめてこのリフレクティングを行う際に、患者さんはこの様子を見ていていいものかと戸惑うそうですが、不思議と受け入れられて慣れてくるのだといいます。

そして、リフレクティングを経て患者さんに感想を聞いたりして、また話が広がっていく。そうやって対話を続けていくことによって患者さんの中で何か思いもよらない変化が生まれることがあるというのです。

このオープンダイアローグで患者さんの主体性が引き出される可能性が高まるのであれば、

私はオンライン診療にこのやり方を是非とも取り入れたいと思っています。

ただ私はオープンダイアローグ未経験です。現時点で様々なノウハウが身についているとは言えません。

また1対1ではできないというオープンダイアローグですが、私は一人開業なので一緒にやってくれるスタッフもいません。

ですが、幸いなことにこのオープンダイアローグを行う人は専門職でなくてもよいようです。むしろ専門職だと先入観が邪魔して患者の意見を上から目線で評価してしまうバイアスが入りがちです。

その意味では医者が最もオープンダイアローグに向いていない存在だと言えるかもしれません。評価をするのが仕事のようなところがありますので。

でもその点、私は「哲学カフェ」で相手の意見を全否定せずに行う対話自体には慣れていますし、

専門職でなくてもよいのであれば、診療とは別でオープンダイアローグ実践の場を設けて、興味のある有志を集めれば、

オンライン診療でオープンダイアローグを取り入れる治療者チームを作ることができるかもしれません。

もちろん最初は初心者どうしであっても、実践を繰り返すことでオープンダイアローグのちょっとしたコツを確認し合えば、だんだんその技術を修練していくことはできるのではないかと思います。

そこでまずはオープンダイアローグを練習する場として、「オンラインでオープンダイアローグにふれあう会」という企画を立ち上げます。

そして、とにかくオンライン上でオープンダイアローグの実践の場を作り続けていきます。

私と一緒にオープンダイアローグを経験してみたいという人、あるいは不完全であってもオープンダイアローグという方法患者として一度受けてみたいという方、「この指止まれ!」です。

是非とも「対話」の持つ本質的な治療効果を味わってみようではありませんか。


たがしゅう
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