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コロナウイルスに特異的なシステムは駆動されにくい

category - ウイルス再考
2021/ 03/ 02
                 
人間の免疫システムには「自然免疫」「獲得免疫」の大きく2つがあり、

あらゆる「非自己」に遭遇した際にはまず「自然免疫」のシステムが駆動し、何らかの原因で「自然免疫」の仕組みでは「非自己」を処理することができなかった場合に、

さらに効率的に「非自己」を排除するためのシステムとして「獲得免疫」という仕組みが働くという二重構造となっています。

その「獲得免疫」の仕組みの中で主要な役割をはたしているのが「抗体」と呼ばれるタンパク質です。

「抗体」は一度遭遇した「非自己」によって刺激を受けた「Bリンパ球」が「抗体産生細胞(形質細胞やプラズマ細胞とも言う)」に分化することよって産生されます。

そしてこの「抗体」は非常に「特異性が高い」ということがわかっています。

特異性が高い」というのはどういう意味かと言いますと、「他の似たようなものには反応せずターゲットとする対象そのものだけを認識できる」ということです。
            

なぜ「抗体」にそのような「特異性が高い」性質があるのかについては次のように説明されています。

1987年、日本ではじめてノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進先生が解明された「V(D)J遺伝子再構成」の原理です。

まずは次の図に示す「抗体」の形をごらんください。


(※画像Wikipediaより引用)

このように抗体はアルファベットの「Y」の形をしているタンパク質なのですが、よくみると4本の鎖状構造から成っている様子がわかります。

内側にある長くて途中で折れ曲がった構造をしている2本の重鎖(H鎖)と、外側にある短い2本の軽鎖(L鎖)です。それぞれ図で示す③の部分と、④の部分に相当します。

そしてアルファベットの「Y」にたとえた際の上半分の左右に折れ曲がった部分のことを「Fab領域(FはFragment「断片」、abはantigen binding「抗原結合」の意味)」と呼び、

下半分の水平に並んだ2本の鎖状構造で構成される部分のことを「Fc領域(cはcrystallizable「結晶化できる」の意味)」と呼びます。それぞれ図の①と②で示す部分に対応します。

さらに「Fab領域」の中で先端の部分、図の⑤で示される部位のことを「抗原結合部位」または「可変領域」と呼びます。一方で「可変領域」以外の残りの「Fab領域とFc領域を合わせた部分」のことを「定常領域」と呼びます。

実は抗体の「特異性が高い」性質の秘密は、この「可変領域」が非常に多様性に富んでいることが関わっています。

実は「可変領域」には軽鎖と重鎖それぞれに「V領域(variable)」と「D領域(diversity)」と「J領域(junctional)」の3つがあり、

軽鎖の場合は「V領域」の遺伝子が100パターン、「J領域」の遺伝子が4パターンあり、抗体産生細胞が受けた抗原刺激によってそれぞれの遺伝子発現パターンが1種類ずつ決定され、軽鎖の可変領域だけで抗原に応じて400通りのパターンを示すことになります。

さらに曖昧さを考慮して10倍のパターンを取り得ることによって4000通りのパターンをとりうるのだそうです。

そして重鎖も同様に「V領域」は44パターン、「D領域」は27パターン、「J領域」は6パターンの遺伝子を持っており、それぞれの組み合わせに曖昧さの要素を組み合わせることによって、なんと2,400万通りのパターンをとりうるのだそうです。

従って、「抗体」は「可変領域」に4000×2400万で約1,000億通りのパターンを作ることができるということです。

そのような「抗体」の「可変領域」に著しい多様性があるが故に、「抗体」はターゲットに応じて形を最適化する「特異性が高い」性質を持つことができ、

長年免疫の世界では「特異的」な「抗体」が産生されていることが、ターゲットとする病原体による感染症への抵抗力がついていることの証明のような存在として扱われてきました。


さて、そんな中、新型コロナウイルス感染症では「抗体」が作られるのは比較的稀なようで、

2020年12月に厚生労働省によって行われた、東京都、大阪府、宮城県、愛知県、福岡県のあわせて1万5千名余りの人達を対象にした抗体保有率調査では、それぞれ東京都で0.91%、大阪府で0.58%、宮城県で0.14%、愛知県で0.54%、福岡県で0.19%の抗体保有率だと発表されました。

この結果に対して、新型コロナウイルス感染症に感染した人が全体の1%にしか満たないということではなく、

おそらく抗体が産生されるよりも前の「自然免疫」の段階で新型コロナウイルスを排除できている人が圧倒的に多いという解釈をすることができると私は考えています

そう考えると、これだけ全国各地にコロナ感染者と呼ばれる人達が拡大しているにも関わらず、1%未満の人しか感染していないように見える現実の説明がつきます。

一方で「自然免疫」は一般的に弱い免疫システムだと認識されているので、

日本でコロナ患者が蔓延しているのに「抗体保有率」が少ない理由として、「抗体」以外の「獲得免疫」の仕組みが関わっているという見方もあります。

それは「抗原特異的T細胞」と呼ばれる細胞を中心とした働きのことを意味しています。

つまり「抗体」が一度入ってきた病原体を「特異的」に認識しているのに対して、「T細胞」にも一度入ってきた抗原の情報を記憶して「特異的」に対処するという仕組みがある、ということです。

「メモリーT細胞」とも呼ばれるこの「T細胞」は、以前の抗原情報を明確に記憶していて、

何も事前の情報がない「ナイーブT細胞」が「非自己」と出会って排除するように「エフェクターT細胞」へと分化していく流れと比べて、

「メモリーT細胞」が「エフェクターT細胞」へ分化して「非自己」を排除する流れの方がはるかに効率的です。そんな「メモリーT細胞」では「脂肪酸酸化」や「酸化的リン酸化」が優位に働いている、ということは以前記事にした通りです。

ところが「抗体」の「特異性」がVDJ遺伝子再構成の理論に裏付けられていたのに対して、

「T細胞」の「特異性」に関しては、「抗体」と同じくらい「特異的」なのか、「抗体」と同じくらい過去の「非自己」刺激を正確に捉えて記憶しておくことができるのかに関しては不明なところも多いです。

最近でた医学論文では、新型コロナウイルス感染症から回復し「抗体」があることも確認された人の血液(血清)の80%に「新型コロナウイルス抗原特異的なT細胞」の反応が認められたけれど、

なぜかコロナの「抗体」を持っていない全く健康な人でも同様に血液(血清)を調べたところ、44%に「新型コロナウイルス抗原特異的なT細胞」の反応が認められたという調査結果
が発表されていました。

この論文の研究チームは、「既存の旧型コロナウイルスや他のウイルスの過去に曝露されていた可能性が考えられる」と考察していましたが、

少なくともこの結果からは、「メモリーT細胞」は「抗体」ほど厳密な「特異性」を持っておらず、似たような抗原でも反応しうるということは言えるかもしれません。

ところで、ある抗原に対する「特異的T細胞」の反応性というのはどのように調べられているのかと言いますと、

対象者の血液を採りだし、その血液に免疫の有無を調べたい抗原を添加して、血液内にある抗原に反応したT細胞から「インターフェロンγ(IFN-γ)」が多く分泌されるかどうかで調べています。

なぜIFN-γを調べるのかと言いますと、先日記事にしたように「IFN-γ」は「獲得免疫」に関わる物質です。

「IFN-γ」が出るということは、その「T細胞」はその抗原の刺激を過去に一度受けているということを示しています。

ちなみに結核においてこの仕組みを利用して、結核への感染の有無を調べる検査のことを「IGRA(Interferon-Gamma Release Assay:インターフェロンγ遊離試験)」と言います。

その種類としては「クオンティフェロン」と「T-スポット」という2種類があり、これらの検査は昔から結核の診断として行われていた「ツベルクリン検査」に比べて非常に鋭敏に結核感染の有無を判定する医療検査として現場でも広く用いられています。

「ツベルクリン反応」はヒト型結核菌の培養液から分離精製した物質(数種類のタンパク質)を検査を受ける人の腕に微量接種し、もし結核にかかっていたら起こる摂取部が赤く大きく腫れるという現象が起こるかどうかをみる検査なのですが、

この「ツベルクリン反応」の最大の問題点は、結核の予防目的で行うBCGワクチンを打っている人であっても、赤く腫れる現象が起こってしまうというところです。

これはBCG自体が弱毒化した結核菌なので、強毒のヒト型結核菌と共通するタンパク質があることでそのような現象をもたらしてしまうものと考えられます。

ところが「クオンティフェロン」や「T-スポット」といった「IGRA」で用いるのは、結核菌には存在するけれど、BCGには存在していない結核菌に「特異的」な抗原です。

それによって「IGRA」は「ツベルクリン反応」の弱点であった「BCG接種」の可能性を除外することができているのです。

この「IGRA」、結核に対する「特異性が高い」検査として認識されているわけですが、

その「特異性の高さ」は一重に、「抗原の特異性」に由来していると考えることができます。

つまりこの世のどこを探しても「結核菌」の表面にしか存在しない「抗原」を使用すれば、それは「抗原特異的T細胞」をみる検査として非常に優秀な検査となりえるわけですが、

「新型コロナウイルス」の表面にもあるし、「旧型コロナウイルス」の表面にもあるし、「他のウイルス」の表面にもあるような「抗原」を使用してしまうと、その検査は「抗原特異的T細胞」をみる検査として非常に精度が低い、ということになります。

別の言い方をすれば、「他の抗原でも刺激されうるようなT細胞の反応性は特異的なT細胞の記憶について調べることができていない」ということにもなるでしょう。

そうなると、新型コロナウイルスにはそもそも「IGRA」のような唯一無二の「抗原」部分がない、もしくはそれを探し切れていないという話になってきます。

もしそうなのだとすれば、今コロナのmRNAワクチンを全国民に打てるようにせっせと頑張ってしまっていますが、

その新しいメカニズムで頑張って自分の身体で作れるようにした「抗原」は、他のどこかにも存在しているであろう「抗原」だということになります。

それは、はたして莫大な国家予算を投じて行うようなことなのでしょうか。


今回紹介した「T細胞の記憶」が「抗体」に代わってコロナに対する免疫を強めているという話は、

日本や中国、韓国、フィリピンや台湾などの東アジアにおいて、世界の中でコロナの死亡者が比較的少ないという統計データを説明する仮説としても耳にすることがあります。

しかしながら、「T細胞の記憶」が日本人のコロナ死の少なさに影響したという説には私は否定的です。

次回はその理由について考察してみたいと思います。


たがしゅう

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コメント

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早速日本でも死者が出ましたね。
くも膜下出血とのことですから先生が先日取り上げられたPEGと関係があるかもしれないですね。
ワクチンを打つ気がない者としてはこんなものに税金を使って欲しくないのですが、ワクチンを確保しなければマスコミから袋叩きにされて政権が潰れかねないので仕方ないのでしょうね。
Re: 早速日本でも死者が出ましたね。
KAZ さん

 コメント頂き有難うございます。

 「ワクチン接種後に60代女性死亡」のニュースを聞いて私が違和感を覚えたのは「死因はくも膜下出血と推定される」の「推定」の部分です。
 一般的に「くも膜下出血」はわずかなものであれば発見が難しいこともありますが、死亡に至るほどのレベルであれば頭部CT写真をとれば容易に「確定診断」できるはずです。それなのに「推定」とされているところに、私は何か裏が感じられてしまいます。

 因果関係のはっきりしない情報に一喜一憂するのではなく、ワクチンに関しては、わかっている事実から導いた解釈をもとに実際の行動へと活かしていきたいと私は思います。