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心の底に眠る楽しさを刺激するダンス

category - イベント参加
2021/ 02/ 28
                 
解決困難な問題を打破するヒントはえてしてその問題を扱う領域の外にあったりします。

先日、パーキンソン病の患者さんとその関係者を対象とした「パーフェクトダンス」というイベントに参加する機会がありました。

このイベントは福岡在住のダンスアーティスト、マニシアさんとサポートダンサーの皆さんによって主催されているもので、福岡県に移住したことを機にその縁に恵まれました。

結論から言いますと、この「パーフェクトダンス」は「パーキンソン病の患者は勿論、あらゆる人に良い影響を与えるアプローチ」だと私は思いました。

この素晴らしい活動について少しでも多くの方に知って頂きたく、そしてできれば一度経験して頂きたく、今回はこの「パーフェクトダンス」についての私の考察を記事にしたいと思います。

「パーフェクトダンス」がなぜパーキンソン病にとって良いのかを説明する前に、「パーキンソン病」とはどのような病気であるかを説明する必要がありますね。
            

パーキンソン病とは一般的には脳内の神経伝達物質の一種であるドーパミンを産生する神経細胞が原因不明で弱っていく神経難病だと説明されています。

ドーパミンとはどういう物質かと言いますと、やる気や意欲が出るようにドキドキしたりワクワクしたりする情動に関わる物質だと言われています。

パーキンソン病は原因はわからないけれどそのドーパミンを産生する神経が弱っていってしまうので、結果的に身体の中でのドーパミンが少なくなっていってしまいます。

ドーパミンが少なくなるとどうなるのかと言いますと、やる気や意欲が失われるわけですから、表情が乏しくなりますし、身体の動きが硬くなっていったりします。

あるいは手がふるえたり、歩く時に足がすくんでしまったり、時間とともにそうした症状が悪化して最終的には寝たきりになるという流れをとってしまうことも珍しくありません。

その症状の全てがドーパミンが少なくなったことによって起こるというわけではありませんが、ドーパミンが少なくなることがこの病気の主たる要素であることに関してはどうやら間違いないようです。

なぜドーパミン神経が弱っていくのかに関してはっきりとした原因はわかっていませんが、ドーパミンが関わることだけはわかっているので、治療法としては何らかの形で(主として薬によって)ドーパミンを補充することが中心となります。

ドーパミンを補充すれば一時的に症状は改善します。しかしその治療効果は次第に弱まり、薬を増やしてもなかなか効かなくなっていき、今度は薬の副作用にも悩まされてしまうという事態にも診療の現場ではよく出くわします。

従って、パーキンソン病の患者さんに対してドーパミンを補充するという方法だけではどうやら根本的な解決には至らない、ということです。

さて、実は私は、このパーキンソン病の一般的な説明とは違う解釈をしています。

その違った解釈を導くためには、以下で示すパーキンソン病患者さんに関する事実を知っておく必要があります。

①パーキンソン病患者さんには真面目な性格の人が多い(病前性格)
②パーキンソン病患者さんは、身体の症状が出て来るずっと前から自律神経の症状が出ていることが多い(非運動症状の先行)
③パーキンソン病患者さんの身体の症状は緊張のボーダーラインが下がっている(交感神経持続刺激状態)
④パーキンソン病患者さんは「パーキンソン病という神経難病」という概念に苦しめられ続けている(専門家依存傾向)


私の専門は脳神経内科なので、医師として様々なパーキンソン病の患者さん達と出会ってきましたが、

これらの事実を踏まえてパーキンソン病患者さんを眺めた時に、私はドーパミン神経が弱っていく原因は「患者さんの心の中にある」という確信に近い感覚を持っています。

最初に断っておきますが、そのようなことを言う脳神経内科医は私くらいかもしれません。ですが、私はこう思うのです。

少なくともパーキンソン病患者さんは身体の動きが悪くなるずっと以前から、自律神経が乱された時に出てくる症状を多く経験しています。その最たるものは「便秘」です。

そもそも自律神経というのは、自分の意識しないところで身体を一定の状態に保つよう全身に臓器に働きかけている神経のことです。

例えば、体温を一定に保つのも自律神経、暑いと汗をかき、寒いと身震いをするのも自律神経、遠くを見たり近くを見たりするのにピントを合わせるのも自律神経、

そして食べものを消化して栄養を吸収した後に便として肛門から排泄させるように胃腸を絶妙なバランスで動かしているのも自律神経です。

一方で、便秘はパーキンソン病の患者さんが身体の症状を感じるよりも平均して20年前から認められる症状だと言われています。

勿論、便秘の原因は自律神経の乱れだけではありませんが、結果的にパーキンソン病の患者さんの便秘が非常に頑固なものとなり、そして進行すると重度の自律神経障害をきたしているという事実を踏まえますと、

パーキンソン病の患者さんの中ではとにかく「自律神経が酷使され続けてしまっている」と考えるのが自然です。

では何がパーキンソン病患者さんの自律神経を酷使し続けているのかと言いますと、ここで参考になるのが「真面目な人が多い」という点です。

真面目という性格は勿論よい側面もあります。仕事は熱心だし、規範はきっちりと守るし、周りから見て模範となるような素晴らしい人格の人が多いと思います。

しかしそれは裏を返せば、「〇〇しなければならない」という価値観の中で生きていると言うこともできます。

「仕事はきちんとやらなければならない」と思うから熱心にもなるし、「ルールは守らなければならない」と思うから規範も守る、「周りの期待に応えなければならない」と思うから模範的な行動をとるわけです。

その結果、身体の中でどういうことが起こるかと言いますと、「無理を押して頑張る」ということが起こりやすくなります。しかも本人がそのことに気づかないということも往々にして起こります。

私も自分自身が真面目な性格だということもあるのでよくわかるのですが、芸能人のキャラクターではありませんが、ある種「自分はこういう人間」というイメージが固まってしまうとそれにふさわしく振る舞うように行動が制限されてしまうところが誰しもあるのではないでしょうか。

真面目な人間の場合、そのイメージが無意識のうちに「自律神経を酷使させ続ける」方向に働いてしまうのです。

そして知らず知らずのうちに「自律神経が酷使され続ける」ことで、便秘に始まり、睡眠障害、うつ、原因不明の倦怠感、もの忘れのような症状、場合によっては嗅覚が低下するような症状が次第に現れていきます。

これら実は、「ストレス」によって引き起こされる症状としてすべて説明がつくものばかりです(嗅覚低下とストレスはピンとこない方も多いかもしれませんが、実はストレスで説明可能な症状です)。

そしてやがて出て来るパーキンソン病の身体の症状には身体が硬くなる、手足がふるえる、足がすくむといった症状が中心的なわけですが、

誰しも緊張をすると手足が震えたり、筋肉がこわばったり、足がすくんだりすることがあると思います。パーキンソン病の身体の症状はそれらが非常に出やすくなっている状態だと考えることができます。

ということは、パーキンソン病の身体の症状は、自律神経を何十年にも渡って酷使され続けた結果、自律神経の過緊張症状がすぐに誘発されてしまう状態になってしまっていると考えることができます。

極めつけは「パーキンソン病は神経難病だ」という概念を病院の医師によって与えられてしまうことです。

神経難病ということになれば、これは「もはや専門の先生に任せるしかない」という気持ちになる人が多いでしょう。

よもや自分の内側で無意識に感じ続けているストレスによって自律神経が酷使され続けているとはつゆ知らず、全てを専門家に委ねる境地となり、出されたドーパミンを補充する薬をこれまた「真面目に」飲み続け、

そして相も変わらず自律神経は酷使され続けて、やがて薬でドーパミンを補充しても反応しない寝たきり状態まで神経がすり減ってしまうということだと私は考えています。

つまり、パーキンソン病の患者さんに対して必要なことは、いかにその内側にあるストレスを解消するかということにかかっていると言っても過言ではないと私は考えています。

「ドーパミンが不足していく」というパーキンソン病で見られる現象は、ストレスで自律神経が酷使され続けることによる結果に過ぎないため、ドーパミンを補充しても根本解決にならないと考えればすべての現象に非常に説明がつくのです。


以上を踏まえて私は、パーキンソン病という病気を次のように定義し直します。

「「〇〇しなければならない」という価値観に縛られた無意識のストレスで自律神経が酷使され続けた結果、数十年以上の年月をかけてドーパミン神経さえもが疲弊していき、それによる自律神経過緊張状態による身体の不自由さによって生きがいを見失ってしまった状態」

そう、パーキンソン病患者さんにしてみれば、わけもわからないうちに次々と謎の症状にさいなまれ、次第に身体の自由が効かなくなり、医者からは神経難病の「パーキンソン病」だと宣告されるわけですから、「生きがい」を見失ってしかるべき状態なのです。


さて、ここまで説明したところで、なぜ「パーフェクトダンス」が「パーキンソン病」に対してよいか、です。

そもそも「パーフェクトダンス」を言葉で説明するのがなかなか難しいので、是非一度経験してもらいたいところなのですが、

参加者はまず椅子に座った状態で、マニシアさんの説明に促されるままにカウントに合わせて簡単なダンスの動きをまず一通りマニシアさんの真似をしながら実践します。

その際のマニシアさんの説明には「想像力」を活用するものが多く、例えば「今自分が大きな木になったつもりでイメージを膨らませて」ですとか、「海の中に入って深い海の底に泳いでいくようなイメージで」などといった指示がしばしば登場します。

そして一通りの流れを実践し終えた後に、全く同じ動きをまたマニシアさんの見本を参考にしながら、今度は音楽に乗せながら実践します。その際、マニシアさんの動きと全く同じように身体を動かさなければならないのではなく、ある程度自由に自分なりに身体を動かすことがむしろ推奨されます。

このような形で1時間の中で、5、6曲ほどの音楽を使ってダンスを楽しむというのが「パーフェクトダンス」の概要です。

詳細やなぜこのような企画が始まったのかに関してはこちらの資料に詳しく書かれていましたので、参考にしてもらえればと思います。

そして私がこの「パーフェクトダンス」が「パーキンソン病」に対してよいと考える理由は次の4つです。

①普段眠っている脳の仕組みを呼び覚ましている
②「〇〇しなければならない」ではなく「〇〇してもよい」をふんだんに活用している
③終始「パーキンソン病」を意識させる瞬間がない
④ダンスが持つ楽しさを通じて参加者に生きがいを与えている


パーキンソン病患者さんが普段どのようなことを考えているか、言い換えればどのような脳の領域を使っているかは他人からは到底知ることはできないわけですが、

おそらくですが「パーフェクトダンス」で促されるような「イメージ(想像力)」を活用するような脳の使い方はあまりされていない方が多いのではないかと思います。

一方で規範や価値観に基づいて「〇〇でなければならない」「〇〇でなかったらどうしよう」といった脳の使い方をしているであろうことは、その真面目な性格や患者さんとの実際の会話の中で推察することができます。

こうした脳の使い方は言わば左脳的です。言語によって作られた概念に縛られて不安やストレスを感じている状態というのは非常に理性的なのですね。

それに対して、「パーフェクトダンス」で行う想像するような脳の使い方は右脳的です。右脳は感性や知覚を司り、左脳は思考や論理を司ると言われています。

つまり「パーキンソン病の患者さんは左脳の酷使傾向がある」と言い換えることもできましょう。そうするとダンスを通じてしばらく使っていない右脳の活動を刺激する行為は、本人の潜在能力を刺激することへもつながるというわけです。

そしてそのダンスは非常に自由度の高いものです。マニシアさんは見本を示しますが、その説明の中でテンポはゆっくりであってもいいとか、足が動かしにくい人は手だけでもいいとか、その人の状態に応じたやり方であっていいことを都度丁寧に説明されます。

これは凝り固まったパーキンソン病患者さんの価値観に、「〇〇してもよい」という在り方を右脳経由で伝えている行為に相当すると思います。

同じように「〇〇してもよい」という価値観を左脳的に伝えても、それまでの習慣や常識が邪魔をしておそらく難しいであろうことに対して、眠れる右脳の働きを呼び覚ますことによってそのメッセージを伝えることに成功しているように思えます。

そしてもう一つ大事なことは、これが「誰にでも参加できる普通に楽しいダンスである」ということです。

私自身も「パーフェクトダンス」に参加して、とても楽しかったですし、もともとはパーキンソン病患者さんのために考案されたダンスかもしれないけれど、

「これはパーキンソン病患者さんに限定する必要はないな」と感じさせられるほど、楽しい雰囲気が共有されているように思えました。

このすごさはリハビリや他の身体活動と比べるとわかりますが、治療として行っているとどうしても「パーキンソン病」を意識することになり、

パーキンソン病を意識すること自体が、難しい自分の病状や今後の不安の自覚へとつながり、さらなるストレスを生み出すことにつながってしまいます。

しかし「パーフェクトダンス」を行っている最中は、誰もがただこのイベントの一参加者として同じ空気を楽しんでいるのではないかと思えるのです。

そしてダンスが、全ての人の心の中に潜在しているであろう楽しいと感じる気持ちに火ををつけて、

波長がピッタリと合わさった時に、パーキンソン病の人達が失っていた「生きがい」を与えることができるのではないかとも感じられたわけです。


こうした形でパーキンソン病患者さんに向き合うという発想は、おそらく医療関係者の中からはきっと生まれようがないものだと私は思います。

しかし私はこの「パーフェクトダンス」に実際に参加させて頂くことで、この活動の意義を強く感じました。

この活動、パーキンソン病の患者さんのみならず、是非とも多くの医療関係者に知ってもらいたいですし、

もっと言えば、そうした枠組みにとらわれずに多くの人に、こういう考え方があるということを知ってもらいたいです。

願わくは、このダンスの時間だけではなく、ダンスをきっかけに患者さんが思考を変え、

縛られた価値観をから脱し、無意識の自律神経の酷使から解放されて、人生へ生きがいを取り戻すことへもつながっていけばいいなと思います。

実はコロナ禍の影響で、いやおかげでというべきでしょうか、現在この「パーフェクトダンス」はZoomを使って全国からオンラインで参加することができる状況です。

是非よろしければ、読者の皆さんも私達と一緒に踊ってみませんか?本当に楽しくて、おすすめです。

興味のある人は是非「Dance for PD Japan パーフェクトダンス」をフォローしてみて頂ければ幸いです。


たがしゅう

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