ステロイドが身体に対してしようとしていること

2021/01/21 12:25:00 | ステロイドに関すること | コメント:0件

以前、ステロイド(デキサメタゾンなど)と抗IL-6抗体(トシリスマブなど)の薬としての本質的な違いについて私の見解を書きました。

その中でステロイドはもともとあるシステムを応援する薬抗IL-6抗体はもともとあるシステムを邪魔する薬だという説明をしました。

一方で、関節リウマチという自己免疫疾患の範疇に入る病気の治療にこのステロイドと抗IL-6抗体の両者が治療薬として使われるのですが、

「ステロイドは関節破壊を抑制せず、抗IL-6抗体は関節破壊を抑制する」ということがわかっています。

厳密に言えば、少量のステロイドであれば関節破壊の抑制効果はあるかもしれないとは言われているのですが、

それにしても関節リウマチにおいてステロイドの使用は少量であっても長期にわたることが多いので、累積使用量が多くなっていくにつれて副作用の問題が出てくることが多いので、

どちらかと言えばステロイドは「関節破壊は抑制しないけれど、緊急避難的に関節の痛みや腫れをよくとってくれる薬」という位置づけで扱われていることが多いでしょう。

問題はステロイドが関節破壊を抑制しないということは、ステロイドがもともとのシステムを応援するという私の見解が正しいとすれば「もともとのシステムは関節の破壊を抑制しない」のだと、

考えようによっては「もともとのシステムは関節を破壊させる方向へと導いている」ということにさえなってしまいかねないわけですが、

実はその通りだと私は考えています。 厳密に言えば、「もともとのシステムを過剰に働かせ続けた先に関節破壊という現象がある」という方が適切でしょう。

ステロイドと言えば、どのような教科書を見てもその働きとして書かれているのは「抗炎症作用」と「免疫抑制作用」です。

関節リウマチという自己免疫疾患は、他者を攻撃する非自己除去システムが過剰に駆動される結果、自己分子までをも攻撃したり、局所で炎症反応が引き起こされたりする病気であるわけですから、

「抗炎症作用」と「免疫抑制作用」のあるステロイドは、暴走する反応を抑え、炎症を火消しすることで関節破壊を抑制してくれてもよさそうなものです。

ところが実際にはステロイドは大量に使っても関節リウマチの関節破壊を食い止めてくれません。これは一体どういうことなのでしょうか。


その謎を考えるきっかけとしてステロイドの副作用が参考になります。

ステロイドの副作用をよく観察することで、ステロイドという薬の薬理作用が目指す方向性が見えてくるからです。

ざっとステロイドの副作用を挙げてみると次のようになります。

①満月様顔貌(顔が丸くなっていく)
②中心性肥満(顔や身体は太るのに、手足は逆に細くなる)
③ざ瘡(にきびが多くなる)
④多毛(毛が濃くなる)
⑤皮膚線条(急な肥満により皮下組織が断裂し、下腹部や足などの皮膚にすじが入る)
⑥皮膚菲薄化(皮膚が弱くなり、薄くなる)
⑦皮下血腫(血管壁が弱くなるため、ちょっとしたことであざができる)
⑧食欲亢進(食欲が増す)
⑨易感染性(感染症にかかりやすくなる)
⑩糖尿病(血糖値が上がりやすくなる)
⑪消化性潰瘍(胃液が酸性に傾き、消化酵素も増え、胃潰瘍や十二指腸潰瘍ができやすくなる)
⑫骨粗鬆症(骨吸収反応が増加し、骨がもろくなっていく)
⑬無菌性骨壊死(特に大腿骨頭など血行が乏しい場所の血管にコレステロールがたまり骨に栄養がいかなくなって壊死する)
⑭筋萎縮(手足の中で身体に近い部分から筋肉が衰えていく)
⑮精神症状(不眠やイライラなどの興奮症状、元気が出ないなどの抑うつ症状、ごくまれに錯乱状態になる)
⑯高血圧(体内に塩分をため、血圧が上がりやすくなる)
⑰高コレステロール(体内重要成分の材料であるコレステロールが産生されやすくなる)
⑱白内障(レンズの役割をする水晶体が濁りやすくなる)
⑲緑内障(眼の中の眼圧が上がりやすくなる)


・・・改めて整理してみると、ステロイドという薬の持つ非常に多彩な薬理作用に驚かされるばかりです。

これほど多面的に効くという薬も医学の歴史が長いといえど、他にはないのではないでしょうか。

さてそんなステロイドの多彩な副作用、よくみると次のような傾向があるということに気づかされます。

1.困難を克服するために特定のシステムを通常運転以上に過剰駆動させる
(血圧・血糖上昇、コレステロール産生上昇、消化酵素分泌上昇、眼圧上昇、精神興奮作用など)
2.生命維持に最優先とされる部位を守り、優先度の低い部位を犠牲にする
(満月様顔貌、中心性肥満、手足の筋萎縮、皮膚の菲薄化、皮下血腫など)

結局、ステロイドの副作用というのは、この2つの方向性が進み過ぎた結果として起こっている現象だと捉えることができます。

そしてこれらの現象は人体がストレスにさらされた時に最大限の効力を発揮するわけですが、

同時にこれらの現象が一時的で終わらなければ、人体の秩序はどんどん破滅の方向へと進んでいってしまうことも意味しています。

この文脈の中で「なぜステロイドは関節破壊を防がないのか」ということを改めて考え直してみますと、

上記の副作用の中では「⑫骨粗鬆症」の部分がこの現象に深く関わってくるのではないかと思います。

確かにステロイドの長期使用は骨をもろくする方向に進行させます。しかしながらその現象にはどういう意図があるのでしょうか。

ステロイドが骨粗鬆症へと導く薬理作用のメカニズムは実に複雑ですが、大きくみれば「骨吸収という現象を過剰に働かせた結果、骨量が低下してしまう」という流れが起こっていると言えるのではないかと思います。

この「骨吸収」とは何かと言いますと、「古い骨を新しい骨に入れ替えるために一旦骨を壊すプロセス」のことです。

人間の身体は「動的平衡状態」といって、同じ状態を保ち続けているように見えて、実は常に破壊と再生が繰り返されています。いわゆる「新陳代謝」というやつです。

皮膚も1ヶ月もすれば全く別の皮膚に入れ替わっていると言われています。それは何がなくとも古い皮膚が垢としてはがれ落ち、新しい皮膚が皮膚の基底細胞から分裂増殖することで作られているからです。

骨もそれと同じで、骨吸収という古い骨が壊され、骨形成という新しい骨が生み出される反応がそれぞれバランスよく働くことによって常に一定の骨の状態を保つようになっています。

ちなみに皮膚の細胞の入れ替わり期間(ターンオーバー)が約1ヶ月間であるのに対して、骨の細胞が完全に入れ替わるまでの期間は約半年くらい(早いもので3〜4ヶ月、長くて3年)だと言われています。皮膚に比べるとこうした新陳代謝がゆっくり起こっていることがわかります。

そんな中、ステロイドが加わり続けると、この骨吸収と骨形成のバランスが骨吸収に傾くというわけです。これにはどういう意図があるのでしょうか。

それは「2.生命維持に最優先とされる部位を守り、優先度の低い部位を犠牲にする」の役割ではないかと私は思います。

すなわち骨吸収反応を促進し、骨の成分を分解することによって、そこで得られた成分(アミノ酸やカルシウムなど)生命を維持する方向へと役立てようとしているわけです。

これは「⑭筋萎縮」も同じ意図で起こっている現象であるように思えます。つまり筋肉を崩壊させてでも重要成分を取りだして生命を維持しようとする意図があるということです。

ちなみにステロイドによる筋萎縮はラットの実験では速筋線維の多い筋肉、足で言えばヒラメ筋よりも腓腹筋や前脛骨筋の方が起こりやすいということもわかっています。

その方が生存に有利な成分が得られやすいのかもしれませんが、この現象はストレス環境から逃避するには明らかに不利です。それは骨破壊についても同じことが言えるでしょう。

すなわち、この「骨破壊」や「筋萎縮」の現象が起こる段階というのは、もうストレスから逃げるかどうかという段階よりも事態が進行していて、「逃げるのは諦めてとにかく重要成分を確保しながら嵐が過ぎ去るのを待とう」としている身体の防衛反応であるように思えます。

そしてその目で「⑩糖尿病」「⑯高血圧」「⑰高コレステロール」といった副作用を見ますと、これは「何とか踏ん張ってストレス環境を乗り切ろう(もしくは逃げよう)」とする意図に叶う生体反応であるようにも思えます。「⑮精神症状」の中の興奮症状なんかもひょっとしたらそうかもしれません。

これらの働きは「1.困難を克服するために特定のシステムを通常運転以上に過剰駆動させる」に該当するステロイドの働きであり、その状況が続いてしまったら「2.生命維持に最優先とされる部位を守り、優先度の低い部位を犠牲にする」へと進行してしまうという流れにつながるのではないかと思うのです。

そういうステロイドの意図というか、薬理作用の方向性を理解すれば、「なぜステロイドでは関節破壊が抑制されないのか」という疑問については、

「ステロイドは関節破壊促進的な方向性を持つ薬なので、ステロイドが関節破壊を防がないのは当然の帰結」という答えになるのではないかと思います。

とはいえ、「関節リウマチに対してステロイドは関節を破壊させるだけの有害で使わない方がいい薬」というわけではなく、冒頭でも述べたように関節リウマチにおける関節の痛みや腫れをステロイドはかなり強力に抑えてくれます。

あくまでもステロイドによる生体システムの過剰駆動が長引いてしまった結果として必然的に関節破壊が起こるということです。だからステロイドの使用は必要最小限に留めなければならないということでもあります。

ちなみに副作用の中で「⑨易感染性」に関しては、この文脈の中で理解しにくいところがあると思います。

なぜならばステロイドで感染症にかかりやすくなれば生命維持に明らかに不利になることは想像に難くないという一方で、ステロイドが新型コロナウイルス感染症に効果を発揮するという矛盾を生じてしまっているからです。

この矛盾を理解するためには、もう少し考察を深める必要があると思いますので、これについてはまた別の機会で取り扱おうと思います。


ところで抗IL-6抗体は関節リウマチにおける関節破壊を防ぐ薬でした。

その現象は明らかによいことであるように思えます。事実その臨床効果でもって、抗IL-6抗体をはじめとした生物学的製剤はいまや関節リウマチの治療において欠かせない重要な存在として医療の中で位置づけられています。

ただ一方で強力な生体システム抑制薬であり、4週間に1回しか打てないし、その後強力なリバウンド反応が起こりうるという薬でもあるわけです。

生体システムの暴走を薬で強力に押さえ込むという治療アプローチはあっていいとは思いますが、

なぜそのようなシステム暴走が起こり続けているのかという根本的な原因に触れずしてこれらの薬を使い続けることは、

ステロイドにしても、抗IL-6抗体にしても問題をこじらせていくだけだということがわかります。

困難克服システムを援助するステロイド、困難克服システムの暴走を一時遮断する抗IL-6抗体。

いずれにしても何が生体に困難を起こし続けているのかという問題を捉え、解決行動につなげるアプローチを忘れないようにしたいものです。


たがしゅう
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