免疫チェックポイント阻害剤は「自己」を過剰に攻撃させる薬

2021/01/14 13:00:00 | 読者の方からの御投稿 | コメント:2件

ブログ読者のりんぼうさんからの「免疫チェックポイント阻害剤の重大な副作用に間質性肺炎がある」という御指摘を踏まえまして、

今回は「免疫チェックポイント阻害剤と間質性肺炎の関係」について考察してみたいと思います。

その前にまず「間質性肺炎」を切り口にして得られたここまでの私の考察をまとめておきます。

サイトカインストームと呼ばれる免疫システムの暴走現象が引き起こされるまでには次のような流れがあります。

①アレルギー:免疫が過剰に他者を攻撃(少量のステロイドで制御可)
②自己免疫疾患:免疫が過剰に他者を攻撃し過ぎて自己の一部を攻撃(大量のステロイドで制御可)
③サイトカインストーム:免疫が他者も自己もすべてを攻撃しブレーキが効かない(大量のステロイドでも制御困難)


「間質性肺炎」というのはこのいずれのステージでも起こりうる現象ですが、どの段階で起こるかに応じて、「過敏性肺臓炎(※①の要素が強い)」とか「SARS(重症急性呼吸器症候群)(※③の要素が強い)」などと呼び名が変わってくるということに注意が必要です。 この構造はストレス学の祖、ハンス・セリエ博士が提唱した「汎適応症候群」の(1)警告反応期、(2)抵抗期、(3)疲憊期の3段階にリンクするように思えます。

(1)警告反応期(可逆的消耗疲弊):適切に休めば元に回復する状態
(2)抵抗期(可逆的過剰適応〜不可逆的過剰適応):適切に休み、適切な外的サポートがないと回復できなくなる状態
(3)疲憊期(不可逆的消耗疲弊):適切に休み、適切な外的サポートを行っても元の状態には戻らない状態


ちなみにこの構造を理解する時の注意点としては、(1)⇒(2)⇒(3)の流れがゆっくりじっくりと進んでいくパターンもあれば、あっという間に急速に進んでいくパターンもあるということ理解しておく必要があります。


さて、「免疫チェックポイント阻害剤」とはどういう薬でしょうか。

これは「がん免疫」と呼ばれる、「がん細胞が正常の免疫システムをかいくぐって生き延びるための仕組み」に対して、この仕組みをブロックすることでがん細胞が免疫細胞に正当にやっつけられるように免疫システムを改変する薬のことです。

手術療法、化学療法(抗がん剤)、放射線療法という3大がん治療に続く「第4のがん治療」と称され、この治療に関わる「免疫チェックポイント阻害因子」を発見しがん治療に応用した功績が称えられ、2018年に京都大学医学部出身の医師、本庶 佑(ほんじょ たすく)先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されたことでも話題になった治療です。

厳密に言えば最初にその「免疫チェックポイント阻害因子」を発見したのは、1992年当初本庶先生の研究室の大学院生であった石田靖雅(いしだ やすまさ)先生という医学研究者の方であったそうですが、石田先生はアメリカ留学のために1年でこの研究から離れ、その後も研究を続けた本庶先生の研究室としての業績が認められた形のようです。

「免疫チェックポイント」というのは何かと言いますと、免疫恒常性を保つために自己に対する免疫応答を抑制するとともに、過剰な免疫反応を抑制する仕組みのことで、言わば「自己システムがオーバーヒートしないようにブレーキをかける仕組み」です。

そのブレーキに関わる分子のことを、「免疫チェックポイント分子」と呼び、逆にそのブレーキを外す薬のことを「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ぶわけです。

本庶先生らが発見されたPD-1もこの「免疫チェックポイント分子」の一つであり、「自己」と「非自己」を見分けて「自己」秩序を保つ免疫システムの要である「T細胞(Tリンパ球)」の表面にある分子、しかも「T細胞が活性化」した時だけ発現するという特徴がある分子です。

「T細胞」はどんな時に活性化するかと言えば、「自己」と「非自己」を区別して「非自己」を処理する必要に迫られている時です。例えばウイルスが入り込んできた時とか、自身の細胞ががん化してしまった時などです。

そして、がんが増殖し続けて肉眼的にも観察できるくらいのレベルになると、がん細胞は「T細胞」の持つ「PD-1」を刺激することができる「PD-1L」と呼ばれる分子を何故か持っていて、自分に対する攻撃にブレーキをかけるようなシグナルを送り、がん細胞自身は活性化したT細胞からの攻撃を免れることができるのだといいます。

そこでPD-1の働きをブロックする「PD-1阻害剤」を投与すれば、大きくなったがん細胞の免疫回避の仕組みを動かさせなくして、大きくなったがん細胞に対してでさえ「T細胞」に攻撃してもらうよう仕向けることができると、それが「免疫チェックポイント阻害剤」の概要です。

この「免疫チェックポイント阻害剤」ですが、第4のがん治療と称されつつも、他の治療法と決定的に異なる特徴があります。それは「基本的に末期がんに対してしか使えない」という点です。

なぜならば、この「PD-1」などの「免疫チェックポイント分子」は免疫が過剰に活性化された状態でしか発現していないからです。

「今まで治療法のなかった末期がんに対しても使えるようになった画期的な薬」といった紹介のされ方も時に耳にしますが、「第4のがん治療」というにはあまりに限定的な役割であるように私には思えます。

そんな時として画期的とも称される「免疫チェックポイント阻害剤」の実際の効果はどうなのかと言いますと、

例えば、一番最初に承認されたことで有名な免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ(商品名:オプジーボ)」の場合でみますと、

進行した非小細胞肺がん患者129名に対するオプジーボの臨床試験では、それまでは5年生存率5%未満とされていたのが16%に増加したという結果が示されています

この数字は皆様はどう見ますでしょうか。末期がんでそれまで治らなかった人が11%以上助かるようになったと見るでしょうか。

それともこの治療を行っても84%の人は従来と同じように助からないと見るでしょうか。

この治療成績だけを見れば有望な薬だと捉える人もいるかもしれません。しかし忘れてはならないのはこの薬のいくつかの問題点です。

例えば、一定の割合で1年以内に効かなくなる「耐性現象」が確認されています。5年生存率が少しだけ上がる効果があるのだとしても、その薬が1年以内に効かなくなるというのはどうなんでしょうか。

さらに無視できない問題として「免疫チェックポイント阻害薬」は、その薬価があまりにも高額だということがあります。

どのくらい高額かと言いますと、オプジーボ承認当初は1瓶100mgで約73万円、がん患者への標準的なオプジーボ使用量は1ヶ月間で480mgですから、計算すると1ヶ月間のオプジーボ代はなんと約350万円、

最大で12ヶ月間の使用が可能となるので、1年間オプジーボの治療を受ければ約4200万円の費用がかかる計算です。

これをまともに支払えるがん患者さんはいませんが、この薬は保険適応を受けているのでがん患者さんが使用する際には高額療養費制度が適用されるため、世帯所得にもよりますが1ヶ月20万円程度までの自己負担額で済むようになり、残りの4180万円は国民全員から集めた保険料から支払われることになります。

みんなで集めた保険料をそれだけ高額使っても、末期がんの患者さんの5年生存率がちょっと延びるかどうかという効果くらいしかないのだとすれば、夢の薬どころかかなり割に合わない薬だという感想を覚えても仕方がないのではないでしょうか。

もちろん、末期がんの人にしてみればわらをもつかむ気持ちからこの薬を救いだと感じられるかもしれませんが、全体としてこの薬の位置づけを眺めた時にアンバランスであると思わざるを得ません。

このオプジーボ、さすがに高すぎるという認識に至ったのか、その後3度の薬価改定を経て2018年11月以降は1瓶100mg17万円と当初の76%減まで薬価が下がっています。

そして最後の問題点は、この「免疫チェックポイント阻害剤」の本質に迫るほど大きな問題です。

それはこの薬は副作用として「サイトカイン放出症候群(CRS)を起こしうる」ということです。

「サイトカイン放出症候群(CRS)」と「サイトカインストーム」はほぼ同義です。今、コロナ問題でさんざん注目されている「サイトカインストーム」を人為的に起こせる薬が「免疫チェックポイント阻害剤」だということです。

・・・混乱してしまったかもしれません。問題があるとは言え、ノーベル賞にまでつながった画期的ながん治療薬「免疫チェックポイント阻害剤」が「サイトカインストーム」を起こすとは一体どういうことでしょうか。

この混乱は、そもそも「がん細胞がT細胞からの攻撃を避けるため、これをT細胞の活動を抑制する免疫チェックポイント分子(PD-1など)を刺激できるがん細胞独自の分子(PD-L1など)を生み出し、宿主の免疫システムから巧妙に逃れている」という、まるでがん細胞を敵のように扱う解釈に基づいていると私は思います。

このブログで何度も伝えていますように、がん細胞は正常細胞出身の細胞です。一旦がん細胞を「敵」ではなく、「味方」と捉え直して同じ現象を眺めてみてください。

がん細胞はもともと「自己」なのだから、「自己」を攻撃しないようにT細胞に働きかける抑制システムを持っているのは当たり前のことです。何もがん細胞という「悪」の細胞だけが身につけた狡猾なシステムでも何でもありません。

それが証拠に、PD-1を刺激することができるPD-L1はがん細胞だけではなく、抗原提示細胞、単球、血管内皮細胞などの正常細胞にも普通に発現しています。何もがん細胞だけに許された特殊な機構ではないのです。

「自己」か「非自己」かを判別する要の物質は「MHCクラスⅠ」という分子であると以前述べましたが、これは基本システムに相当します。

対してこの「PD-1」などの「免疫チェックポイント分子」は、何らかの原因で免疫が過剰に活性化してしまった際に、「それでも自分を攻撃しないでくれ」と「自己」の要素を持つ細胞群が攻撃されなくて済むように備えられた、いわば「自己」と「非自己」を判別する臨時システムに相当するのではないかと思います。

そして「免疫チェックポイント阻害剤」は本来であれば「自己」として攻撃を回避されるはずの対象に対して「いや、あいつも敵なので攻撃せよ!」という命令を下す薬なので、

ただでさえ過剰な免疫システムがもっと過剰に刺激されてしまうということで、冒頭の①⇒②⇒③の流れを促進させる薬であるということを意味し、これが「サイトカインストーム」の副作用を起こすというのは当然の帰結であるわけです。

さらに言えば、「免疫チェックポイント阻害剤」は「自己免疫疾患を発症させる」というそれまでの薬ではあり得なかった副作用をきたすことがあるという事実も、この流れを踏まえれば当然の帰結であると理解できるはずです。

それでもこの「免疫チェックポイント阻害剤」を、「がんは敵である」とか「がんは『自己』の顔をした『非自己』、狡猾で悪いやつである」などという視点で捉えている限り、

この薬によって起こる「サイトカインストーム」や「自己免疫疾患」は、がんという憎き敵を撲滅させるためにどうしても避けられない犠牲であると許容されてしまっている構造にあると私には思えます。

「間質性肺炎」を起こす他の薬剤が、何らかの理由で間接的に全体のバランスを崩すことにで発症させたことに対して、

この「免疫チェックポイント阻害剤」は直接的なメカニズムでもって過剰自己攻撃させるようシステムの改変を促して、

起こるべくして「間質性肺炎」を、「自己免疫疾患」を、「サイトカインストーム」を、起こさせている薬
だということが理解できるのではないでしょうか。

何とも衝撃的な考察結果ですが、非常に重要なテーマだと思いますので、

次回もこの「免疫チェックポイント阻害剤」に関連して、「がん免疫」の問題をさらに深めていきたいと思います。


たがしゅう
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コメント

No title

2021/01/14(木) 22:11:00 | URL | りんぼう #-
いま、がん治療の分野で最大のハイライトは分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬であるのは、医療界の常識です。そのひとつの薬剤種をものの見事に斬ってみせた今回のブログ、お見事です。

ただ《自己免疫疾患を発症させる》免疫チェックポイント阻害薬がそれほど多くないパーセンテージとは言え寛解をもたらしている事実をどう評価されるかをお尋ねしたい気持ちが残ります。薬理的な機序まで知り得るべくもありませんが、寛解と自己免疫疾患の発症との天地の差ほどの現象を起こしうるのは何故でしょうか?

Re: No title

2021/01/14(木) 23:23:13 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
りんぼう さん

 ご質問頂き有難うございます。

> ただ《自己免疫疾患を発症させる》免疫チェックポイント阻害薬がそれほど多くないパーセンテージとは言え寛解をもたらしている事実をどう評価されるかをお尋ねしたい気持ちが残ります。薬理的な機序まで知り得るべくもありませんが、寛解と自己免疫疾患の発症との天地の差ほどの現象を起こしうるのは何故でしょうか?

 その疑問は、私自身も感じるところでした。
 次回の記事で、私なりに考えた理由を披露させて頂きたいと思います。

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