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統計データの裏で起こる事実を見逃さない

category - よくないと思うこと
2020/ 10/ 31
                 
南半球では夏に流行るはずのインフルエンザが今年は激減しており、

夏には日本でも例年認められるヘルパンギーナ、手足口病といったウイルス感染症が減っていることから

新型コロナウイルスが流行したことでウイルス干渉と呼ばれる現象を通じて、従来のウイルスが活動しにくくなったのではないかという仮説が言われていました。

しかしながらこの度、ウイルス干渉とは関係のない細菌感染症も今年は減少しているという情報が入ってきました。

具体的には、マイコプラズマ肺炎、RSウイルス感染症、A群溶連菌性咽頭炎といった細菌感染症の減少が確認されています。

情報で提示されているグラフを見ますと、1〜3月頃の感染者数は例年と遜色ありませんが、

緊急事態宣言が発出された4月以降よりガクンと患者数が減っています。
            

一方で、同じ細菌感染症で淋菌感染症や性器クラミジアといった性行為に関連する感染症については

例年と同様の患者数で、明らかな減少傾向を確認することができません。

故に、ウイルス干渉の影響と思われたインフルエンザをはじめとした他のウイルス感染症の減少理由は、

ウイルス干渉によるものではなく、マスク装着や三密回避、ソーシャルディスタンス確保といった飛沫感染予防策が奏功したのではないかという感染症専門医の見解があります。

確かに一見説得力のある論考に見えますが、ちょっと異論の余地が入る意見です。


まず、統計上の患者数と実際の患者数には乖離があるということを理解する必要があります。

実際の患者が統計的なデータにカウントされるためには、当たり前ですが病院に受診する必要があります。

緊急事態宣言が発出された頃の状況を思い出してみますと、病院はおろかちょっと外出に行くことさえはばかられ、

よほどの状況でない限りは病院に行こうとは思わない空気が醸成され、軽症の感染症においてはかなりの部分で実際の患者数が統計上カウントされないという事態が発生したと思われます。

ただ通常軽症にとどまることが多いウイルス感染症に比べて、細菌感染症は一般的に高熱を出したり、局所の炎症所見が強くて、

そのまま自宅で療養し続けるのが難しい場合が多いでしょうから、

ウイルス感染症に比べると受診を控えた患者割合はそれほど高くないと、つまりこれらの患者はおそらく病院へ受診したであろうと推察されます。

ただ上述のマイコプラズマ感染症、RSウイルス感染症、A群溶連菌性咽頭炎という細菌感染症の共通点として、「診断のために咽頭ぬぐい液の検体が必要」ということがあります。

しかもこれらの感染症は一見すると皆かぜの症状を呈しているので、検査しない限りはコロナとまるで区別ができません。

咽頭ぬぐい液を採取するということはコロナの暴露リスクを受け入れるということであり、

さらに採取のためにはマスクに加え、手袋やゴーグル、ガウンを着用して医療者側は完全防備体制で行わなければならない作業となってしまっていました。

かぜとおぼしき患者は通常のクリニックで訪れる数は1人や2人ではありません。かぜの患者が訪れるたびにそのような完全防備を実施し、しかもそれをマスク、手袋、ガウン、ゴーグルを患者ごとに都度交換する…、

そんな現実的に極めてハードルの高い検査行為を行っていたクリニックはほとんどなかったと思われます。

もしもどうしても診断をつけようとすれば、

コロナ対応可能な大病院へ紹介するしかありませんが、世間では医療崩壊も叫ばれる中でその都度決して少なくない数の患者を紹介することはたいそうはばかられたことと思います。

その結果、一般のクリニックで行われたことはおそらく「軽症であればウイルスを念頭に総合感冒薬を、中等症であれば細菌を念頭に抗生物質を、重症はコロナを念頭にコロナ対応病院へ紹介を」という現場判断だったのではないかと私は思います。

その結果、全体の大多数を占める中等症以下の患者は「本当は細菌感染症かもしれないのに細菌感染症だとカウントされなかった」のではないかと思うのです。

ではなぜ同じ細菌感染症である淋菌感染症や性器クラミジアのような性行為感染症は、同様の減少を示さなかったのでしょうか。

それは「診断に分泌物の採取が必須ではないから」だと思います。

淋菌感染症にしてもクラミジア感染症にしても性器からの分泌液から細菌を証明する場合もありますが、

それを行わずとも血液検査で淋菌やクラミジアに対する抗原、抗体を確認する方法で代用可能です。

このコロナ禍において、分泌物を直接採取する作業ははばかられたでしょうから、血液検査で代用して診断されたのではないかということが推察できます。性行為感染症はそれができる細菌感染症です。

ただ血液検査による証明には時間がかかります。かぜの場合はすぐに検査してすぐに結果が出る迅速検査を行うのが普通です。検査結果が出るまで1週間待ってというわけにはいかないからです。


もう一つ気になることがあります。マスクによる接触・飛沫感染予防が奏功したというのなら、

その効果は2-3月頃から出ていないと話が合わない」ということです。

2月にはもうマスク不足問題が顕在化していましたし、2月末には全国一斉休校という異例の政策まで出されました。

その頃から今のようなマスク装着・三密回避・ソーシャルディスタンス確保は定着してきていたはずです。

それなのになぜ2月、3月の飛沫感染しうる細菌感染症の患者数は減っていないのでしょうか。

ついでにもう一つ、性行為に関する感染症はコロナ禍においても全く減らないと、それは人間の本質から考えても大いに納得できる話です。

しかし、性行為に及ぶ関係性があるということは大いに飛沫感染しうるはずです。

それなのに性行為に及びうる年代も含めて飛沫感染する感染症まで患者数が激減するのは話が合いません。

それならばその年代の飛沫感染する感染症だけは例年通りになっていないとおかしいのではないでしょうか。

つまり4月からのウイルス、細菌を問わず、診断に分泌液の採取が必要なかぜ症候群の全体的な患者数の激減は、

決してマスク装着・三密回避・ソーシャルディスタンス確保といった飛沫感染予防策によってもたらされたものではなく、

病院そのものの仕組み、及び社会全体の混乱によってもたらされた「単なる統計データの歪み」だということです。

平常時であればまだしも、今のような社会の混乱時においては、

統計データの裏にある背景を、もっと言えばさらに深い本質的な構造を、

想像力を働かせて見逃さないようにしていきたいものです。


たがしゅう

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