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ウイルスの曝露量の多さが重症度にもたらす影響はさほど大きくない

category - ウイルス再考
2020/ 09/ 25
                 
ウイルスへの曝露量が多ければ多いほどウイルス感染症の重症度が高くなるという動物実験の結果がある」と、

だから不完全ながらもウイルスへの曝露を減らしうるマスクはウイルス感染症の軽症化に寄与しているのではないかという意見を目にしました。

ちょっとこの意見に私は違和感があります。もしもこの意見が正しいのだとすれば、「新型コロナウイルス感染症で重症化した人は皆、ウイルスの高用量曝露を受けている」ということになります。

そして「重症化例が発生した空間に一緒にいた人は同様にウイルスの高用量曝露を受けている可能性が高い」ということになると思います。

そうなると、「重症化例が1例でも発生した閉鎖空間で同じ時間を過ごした人は、軒並み重症化する」という傾向が現実で観察されなければつじつまが合いません。
            

重症化例が発生していて、なおかつ同じ閉鎖空間で多人数の人達が過ごしたという状況で真っ先に思い浮かぶのは、

クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号での多数の感染者が発生したという件です。

ダイアモンド・プリンセスでの新型コロナウイルス感染者のデータを確認してみますと、

まず検疫が開始された2020年2月5日時点において、乗客2,666人、乗員1,045人、合計3,711人が乗船していたそうです。

また3月1日に乗船者全員が下船した時点で、712名が新型コロナウイルス感染症の確定例だと判断されたそうです。

乗船客の実に5−6人に1人が新型コロナウイルス感染症にかかっているという拡がり具合です。これは驚異的な数字に思えるかもしれません。

またその712名の中の約5%が重症者であったとのことです。そうなるとダイアモンド・プリンセス号の内部に濃厚にウイルス曝露されるスポットが複数存在していたということになります。

神戸大学感染症治療学教授の岩田健太郎先生の報告によりますと、ダイアモンド・プリンセス号内部の状況は感染危険区域とそうでない区域とを区別するゾーニングという手続きが適切に取られていなかったそうですから、

基本的にはダイアモンド・プリンセス号に乗船していた人は大量のウイルスに曝露される状況であったと考えるのが妥当です。ウイルスの曝露量と重症化が関連するのであれば、確率は非常に高いと言えるでしょう。

しかし、実際には全乗船者3711名のうち、死亡したのは6名、全体の0.85%の人のみです。しかもその6名は全員70歳以上の方で、70歳未満の人は1人も死んでいません。

濃厚なウイルス高用量曝露のスポットが複数存在していたのであれば、濃厚にウイルスに曝露された人の中に70際未満の人が多数いなければ不自然です。

それなのに実際に死亡にいたるほど重症化した人は、言ってみれば「死亡という転帰をとったとしても不自然ではない状況」の人だけです。

このことから大量のウイルスに曝露されただけでは、ウイルス感染症の重症化の要因にはならないと判断することができます。

しかしそれであれば冒頭のウイルスの曝露量とウイルス感染症の重症度が関連するという動物実験の結果は何なのでしょうか。その論文のうちの一つを確認してみました。

確認した論文では実験動物としてハムスターが使われていましたが、

実験に使われたハムスターは1ヶ月齢の若いハムスターと7-8ヶ月齢の老齢のハムスター、各グループ4匹ずつです。

有意差を証明するにはあまりにもお粗末な少なさです。これでは偶然の影響を排除できるとはとても思えません。

そしてこれらの若年と老齢ハムスターに、ウイルス入りの培養液を鼻腔内に100μL、眼球に10μLを接種するのですが、

10の5ー6乗PFU(※PFU:ウイルス量の単位)を高用量ウイルスを接種したハムスターをそれぞれ4匹、10の3乗PFUの低容量ウイルスを接種したハムスターをそれぞれ4匹、ウイルスが全く入っていない培養液を接種した偽感染状態のハムスターをそれぞれ4匹準備して、それぞれの体重の推移や、肺障害の程度を比べたという内容となっています。

結果としては、偽感染の若年ハムスターの体重が2週間の経過で徐々に増加し、偽感染状態の老年ハムスターの体重はほぼ横ばいで推移するというベースラインに対して、

低用量のウイルス曝露ハムスターは少し体重が減少し、高用量のウイルス曝露ハムスターはそれよりももう少し体重が減少しているという結果が得られています。

また肺障害評価も同様に低用量のウイルスハムスターよりも、高用量のウイルス曝露ハムスターの方が重症度が高いということが示されていました。

ただまず一つ、その体重減少と肺障害の程度の差というのが、よくよくみるとそこまで大きな差ではないということです。

1週間経過時点では大きな差がついているように見えても、その後回復して2週間経過した時点での状態はほとんど偽感染と低用量と高用量とでほとんど差がなくなっているように見えます。

それから興味深いのは3日目、6日目、10日目の時点で一部のハムスターを解剖して、鼻腔や気管、肺などの呼吸組織、及び脳にそれぞれどのくらいのウイルスが沈着しているのかを検証しているのですが、

若年ハムスターと老齢ハムスター、高用量と低用量それぞれのグループでウイルスの沈着量には違いがないということが示されていたのです。

要するに年齢がどうであろうと、接種したウイルスの量がどうであろうと、組織には同程度のウイルスが存在しているということです。

だけれど、高用量の方が少し強めの臨床症状を呈しているという結果だということです。これはどう解釈すればよいでしょうか。


確かなことを確認してみます。

ウイルスという「非自己」と接触したら、「自己」と「非自己」を区別する自然免疫を中心に免疫システムが駆動されます。

もしも接触するウイルスの数が多ければ、接触しうる正常細胞の数も増えるので、その免疫反応が駆動される場も大きくなる傾向があると思います。

免疫システムが駆動されれば、結果として炎症反応が起こりますから、高用量のウイルスに曝露されれば、炎症反応が起こる範囲が低用量に比べて大きくなる可能性があります。

そうすると高用量ウイルスに曝露された群の炎症反応は、低用量ウイルスに曝露された群の炎症反応よりは、少なくとも一時的に大きくなる可能性があります。

ただし、その炎症反応が正しく収束するようにシステムが正常駆動されれば、範囲が大きかろうが小さかろうが、炎症の後に修復反応が起こり、最終的には正常レベルにまた戻ります。

ウイルス感染症が重症化するという現象は、その炎症修復反応が何らかの原因で着地できなくなっている発炎反応過剰、すなわち自己システムのオーバーヒート状態だと考えられますから、

ウイルス感染症が重症化するかどうかは曝露されたウイルスの量によって決まるのではなく、自己システムが正常に駆動されるかどうかという宿主側の要因に起因すると考える方が妥当です。

そう考えれば、ダイアモンド・プリンセス号で観察された事実と、論文の結果が矛盾しなくて済むように私は思います。

最初の炎症反応を起こす範囲が広がるという意味で高用量は重症化に関わっていると言えなくもないですが、

それは最終的な転帰に影響するほどのインパクトを持っているとは到底言えないと私は考える次第です。

というわけで、マスク装着がウイルスの曝露量を減らし、軽症化に寄与しているのではないかという意見に対して私は不同意です。


たがしゅう

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