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「ブレインメンタル強化大全」書評

category - おすすめ本
2020/ 09/ 18
                 
私は内科医の立場から樺沢先生の新刊「ブレインメンタル強化大全」の書評をします。



ブレイン メンタル 強化大全
樺沢紫苑 (著)


まずこの本のコンセプトはとてもよいです。

何がよいかと言いますと「心を整えるために身体を整えることが重要だ」というメッセージを通じて、

「心と身体は密接につながっている」ということを明確に意識させる内容となっているからです。

人生のビジョンとして「メンタル疾患の予防」を掲げておられる樺沢先生ですが、

実は心と身体はつながっているので、メンタル疾患を予防しようと思えば、身体の調整の問題も透けては通れません。

本書は精神科医の立場でありながら、身体の健康のための情報を集約しているもので、

病気の予防はおろか、健康状態を今よりも良い状態に持って行くための秘訣が「睡眠」「運動」「朝散歩」「生活習慣」「休息」という5つのチャプターに分けて、全部で100個の秘訣が書かれているという内容です。
            

実は病気が予防できずに、一旦発症してしまい治療の段階に入ってしまうと、

現代医療の中ではこのつながっているはずの心と身体は別々に治療されることになります。

精神の病気を診る科は「精神科」ですが、身体の病気を診る科は「循環器内科」「消化器内科」「呼吸器内科」「腎臓内科」「膠原病内科」・・・などと臓器や病気別に様々な科があり、まとめて「身体科」と呼ばれる場合もあります。

「精神科」の医師は、身体の問題を「身体科」の医師に任せるし、「身体科」の医師は、精神の問題を「精神科」の医師に任せるというのが医療の実情です。

それでうまく行けばよいのですが、心と身体を別々に治療するとしばしばよくないことが起こります。

例えば精神科の薬を飲んでいて身体のトラブルが出ている場合に、それを身体科の医師が精神科の薬の副作用だと気づかずに(あるいは気づいていても精神科に任せている手前何も言えずに)、

その身体のトラブルをまた別の病気の合併と解釈して、さらにその病気に対する新しい薬が加わり、より副作用が複雑で対処しにくいものになっていくという構造です。

専門的な医者であればすべてをわかった上できちんと診てくれるはずだと信じている患者さんにとっては、にわかに信じがたい話かもしれませんが、多くの病院で現実に起こっている事実です。

逆に言えば、治療が必要な段階の病気にまでなると、「本来つながっているはずの心と身体がバラバラになってしまっている状態」だとも言えるかもしれません。

だからこそ「心と身体のつながり」を意識させ、メンタルとフィジカルの病気を両方を予防するためのノウハウを伝えるという本書のコンセプトは私にとっておおいに賛同できる内容となっています。


さて、本書の内容についてですが、5つのチャプターのタイトルだけを見ますと、ごくごく常識的な内容が書かれている目新しさの感じられないものと思うかもしれませんが、

さすがに100個も秘訣が挙げられているおかげで、誰にとってもかゆい所に手が届く気になる情報がいくつか必ず盛り込まれているという構成となっており、よく出来ています。

私が気になった内容としましては、例えば「パフォーマンスを上げるストレス、下げるストレス」どこまでのストレスがよくて、どうなるとストレスはよくないのかということが具体例を交えて記されています。

あるいは「ヨガや太極拳は健康にいいのか?」。医療の中で応用される機会が少ない、しかしその健康への効果が気になるという運動が効くという根拠が医学論文をもとにして簡潔に紹介されています。

一部前著の「ストレスフリー超大全」と重なる部分もあったり、YouTubeの樺チャンネルをご覧の方にはおなじみの内容も多いですが、

こんな風に自分が気になる部分を抜粋して読んで、辞書的に用いるというのも一つの読み方ではないかと思います。

ただ、身体の健康に関する内容にフォーカスした本書に樺沢先生が書かれている内容は、

さきほどのヨガや太極拳のみならず、医学論文を論拠としているものがかなり多い印象を受けます。

さすがに精神科医たる樺沢先生も自分の専門外をカバーするには他分野の医学論文を参照しながら内容を構成していくという手順になるのでしょう。それ自体はごく自然な流れと思います。

しかし医学論文を論拠とする主張の場合は読み手としても注意しなければならないことがあります。

それは医学論文で得られている結論は、「特定の集団で観察された平均的な事象である」ということです。

例えば本書では、「科学的に正しいストレス対処法」と「科学的根拠のある『健康な食べ方』」という項目があり、

「科学的に正しい」と言われると、「どうであってもとにかくこのやり方が絶対的な正解である」という印象を持ってしまう人も多いかもしれません。

しかしながら、医学論文の場合の「科学的に正しい」というのはあくまでも平均的にそういう人が多かったという意味だということなので、

すべての人に該当する内容ではなく、そこで言われている内容が必ずしも自分に合うとは限らないということを理解しておく必要があります。

例えば「コーヒーは『脳』『心』『身体』全部にいい」という項目があります。

その根拠として樺沢先生は「継続的なコーヒーの飲用は、さまざまながんのリスクを50%以上低下、心臓疾患のリスクを44%低下、糖尿病リスクを50%低下、胆石、白内障などのリスクも減らし、死亡率を16%減らす」という医学論文からの報告を紹介されています。

これだけを見ると、みんな是非コーヒーを継続的に飲んだ方がよいという話になりそうですよね。

しかしながら私は以前コーヒーについて調べたことがありますが、この結果と逆の医学論文も存在しています。

例えば、コーヒーが膀胱がんを増加させるという報告があります。

ただそれもまた医学論文で「特定の集団で示された平均的な結果」に過ぎないので、どちらが正しいとも正しくないとも言えないのですが、

一方でコーヒーに含まれるカフェインに対して過敏性を示す人は稀でなく実在しています。そういう人にとってはいくらコーヒーの効果が「科学的に正しい」と言われていようとも避けるべき対象ということになるでしょう。

従って、前著「ストレスフリー超大全」についても言えることではありますが、

ここに書かれている内容が自分にとって正しいのかを、自分で実践して確かめるという作業がこの本の内容を活かしていくために必須の作業になってくると思います。

とは言え、この本の主張は医学論文だけを根拠にされているわけではなく、

脳科学的なメカニズムを背景とした再現性の高い現象について説得力のある論説も展開されています。

例えば「『悪口』『批判』は脳を傷つけ、命を縮める」という項目では、悪口がよくない理由としてストレスホルモンのコルチゾールと依存性に関わるドーパミンが分泌されるというメカニズムを紹介されています。

あるいは医学論文の根拠こそないけれど、樺沢先生自身の経験から導かれている論説には一考の余地があります。

なぜならば樺沢先生が圧倒的に高いアウトプット力を発揮しているということは動かしがたい事実として誰もが認めるところであるからです。

結果を出している人間が取り組んでいる手法とその根拠であれば参考にする価値がある。その代表的なものが「朝散歩」についての話でしょう。

本書は常に結果を出している樺沢先生が日常的に取り組んでいる健康法としての「朝散歩」について詳細に書かれている初めての本でもあります。これはこの本でしか学べない情報です。

もちろんこれさえも自分でやってみて効果があるのか確かめるプロセスは欠かせませんが、

それをやってみるかどうかを考えるために十分参考となる情報が込められているように思います。


「心を整えるために身体を整える」ブレインメンタル強化大全
「身体を整えるために心を整える」ストレスフリー超大全


両者は表裏一体で、読者が健康を守るための一つの指針を示してくれる存在だと思います。


たがしゅう

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