なぜ科学は冷静さを失ったのか

2020/09/14 23:17:00 | よくないと思うこと | コメント:0件

世の中が混乱する時に科学の公平さは機能しなくなるということ、

大事なことは「科学そのものの緻密さよりも、科学を用いる側の人間の意識」であるということを痛感しています。

名だたる有名医学雑誌でBCGワクチンが新型コロナウイルス感染症の予防に有効であるという仮説を支持する論文が出てきています。それに伴い世界中の識者達がこの仮説に賛同を示している状況です。

最近ではそのなぜBCGワクチンが有効であるのかを説明するメカニズムについて細かい所まで検証している内容の論文が多いようです。

その中で、一つ「γδT細胞(ガンマデルタT細胞)」という細胞の働きがBCGワクチンによって高められるというメカニズムが紹介された論文がありました。 「γδT細胞」について私は浅学にして知りませんでしたので調べてみました。

そもそも「T細胞」というのは細胞性免疫、液性免疫の二大免疫システムの双方に関わる免疫における重要細胞でしたが、

どうやら従来一般的なT細胞がα鎖、β鎖という2つの糖タンパク質から構成されるT細胞受容体を持つのに対して、

「γδT細胞」はα鎖、β鎖ではなく、γ鎖、δ鎖で構成されるT細胞受容体を持つという点で違いがあり、その性質も異なっているようです。

また一般的なT細胞のことをαβT細胞と呼ぶ場合もあり、γδT細胞は進化学的にαβT細胞に比べて原始的な構造をしているということだそうです。

そしてαβT細胞とγδT細胞の機能面での決定的な違いは、αβT細胞が「自己か非自己か」を表す名札であるMHCⅠを介して抗原を認識するのに対して、

γδT細胞はMHCⅠBという特殊なMHCを認識することはあっても、基本的にMHCを介さずに抗原を認識し、自己か非自己かを判断し対処する細胞であるようです。自然免疫の要であるNK細胞に近い性質を持ったT細胞だとも言えるかもしれません。

さて、この度の論文ではBCGワクチンがこのγδT細胞を活性化していることが書かれていて、それが新型コロナウイルス感染症を予防する自然免疫賦活メカニズムとして紹介されているようです。

まさにBCGワクチンが新型コロナウイルスを予防するメカニズムを世界中の研究者が解明しようと奮闘しています。

もうこうなってくるとBCGワクチンが新型コロナウイルス感染症を予防するというのは間違いないであろうという印象を持っておられる医療者も多いのではないかと推察されますが、

これは非常に科学が歪んでしまっている状況だと私には思えてなりません。

なぜならば、こうしたメカニズムの解析は「BCGワクチンが新型コロナウイルス感染症の予防に効く」という前提で進められてしまっているものだからです。

私もγδT細胞については初めて聞いたような状況なので詳しいことはわかりませんが、おそらく書かれていること自体は正しいのでしょう。

ただ少し調べればこれが別にBCGワクチンに特異的に賦活される細胞ではないということはわかります。

あたかもBCGワクチンに特徴的な効果であるかのように紹介されていますが、実際には「any known pathogen」、すなわちあらゆる病原体に対してγδ細胞は賦活されるのです。

この話に限らず、「T細胞が抗体のように免疫記憶が形成される」であったり、「エピジェネティクス(後天的遺伝子制御変化)が関わっている」であったり、様々なメカニズムが推定されていますが、

これらもすべてBCGに限った話ではなく、自然免疫を賦活しうる抗原であれば何であっても起こりうるメカニズムです。

それなのに、世界中の研究者が「これがBCGワクチンが新型コロナウイルス感染症を抑えるメカニズムに違いない」という目線で仮説を立てており、その仮説を名だたる医学雑誌が承認し掲載してしまっている状況なのです。

本来であればまず先にBCGワクチンが新型コロナウイルス感染症を抑えるという事実が明確に示されているべきで、

その上でBCGワクチンと他の抗原との間で何が違うのかということを検証するプロセスが進められるのが筋であろうと私は思います。

それなのにまだBCGワクチンと新型コロナウイルス感染症との間で示されたのは相関関係に過ぎないにも関わらず、

BCGワクチンと他の抗原との違いが比べられるわけでもなく、ただBCGワクチンを接種した際に起こる他の抗原との共通現象を取り上げて、鬼の首を取ったかのように「これがBCGワクチンが新型コロナウイルス感染症を抑えるメカニズムだ!」と声高に叫んでいる、そして有名医学雑誌の査読者は軒並みその不自然さに気づかず承認をしてしまっている、私にはそのような状況に見えてしまいます。

そもそも今、新型コロナウイルス感染症に関する論文の査読体制は極めて異例の形となっています。

社会の緊急的な要請に応じるように本来であれば数ヶ月や数年かかる査読プロセスを半分以下に縮めて完了させている状況があるそうなのです。

早く結果を出したい気持ちは理解できますが、だからといって必要なプロセスをすっ飛ばして公開してしまったら本末転倒です。

まだ論文に掲載される前のプレプリントの段階で情報が公開されるといった状況も稀でなく目にするようになってきました。

これというのも、まさに社会の新型コロナウイルスに対するパニックがネットやSNSの普及に伴い情報拡散しやすい状況を背景に科学界に悪影響を与えてしまったということだと私は思います。


何度も繰り返しますが、BCGワクチンが自然免疫を高めるのだというのなら、

BCGワクチン接種によって新型コロナウイルス感染症以外の感染症も、新型コロナウイルス感染症と同様の疫学的特徴を持って発生が抑えられていないとつじつまが合いませんが、そのような事実は観測されていないのです。

観測されているのは、BCGワクチンの接種国(日本株、ロシア株)で新型コロナウイルス感染症の発症者が少ないように見えるという相関関係だけです。その相関関係さえ、もうすでに日本株BCGワクチンを使ったイラクでは崩れています


今のBCGワクチンに関する医学情報がいかにおかしなことをやっているかを少し強引なたとえで説明してみます。

今糖尿病の発症者(新型コロナウイルス感染者)と少年雑誌の発行部数(BCGワクチン接種)とにものすごい高い相関関係があったとしましょう。

しかもよくよく調べると、少年ジャンプと少年マガジン(日本株、ロシア株)を買っている人に強い相関が示されたとしましょう。

これを持って、とあるネットユーザーがその相関関係を指摘し、少年ジャンプと少年マガジンを読まないようにすれば糖尿病の発症を抑えることができるという仮説を立てたとしましょう。

そのあまりにも強い相関関係をもって、世界中の研究者がそのネットユーザーの仮説を絶賛し、少年ジャンプと少年マガジンの研究に積極的に取り組むことになります。

その結果、とある研究者が「少年ジャンプと少年マガジンを読んでいる人は、読む前と読んだ後でまんじゅうを食べる確率が上昇する(γδT細胞が活性化される現象)」というメカニズムを発見したとします。

その論文にはまるで少年ジャンプと少年マガジンを読んだ人にしかまんじゅうを食べるという現象は起こらないかのように書かれています。

しかし少年ジャンプと少年マガジンが糖尿病の原因に違いないと信じて疑わない医療者はその仮説を強烈に支持しています。

実際には少年ジャンプと少年マガジンを読んでいない人であっても、普通にまんじゅうは食べているにも関わらず、なぜか誰もそこに目が行かなくなってしまっています。

今の状況はそんな風に科学が科学としての体をなしていないように思えてならないのです。

そしてそのような状況を生み出している根本的な原因はおそらくインフォデミックです。一面的な情報によって科学者の冷静さが見事にかき乱されてしまっているのです。

そしてその混乱は今もまだ続いています。科学は冷静さを取り戻せていません。

先入観を崩し、事実を直視し、再び科学を正しい方向へと戻していく必要があります。

科学を誤って使うのも人間ならば、科学の使い方を正すのもまた人間であるはずです。

たとえ相手が世界の権威者であろうとも、私は納得のできないことには異議を唱え続けたいと思います。


たがしゅう
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