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完璧すぎて不自然な医学論文

category - ワクチン熟考
2020/ 09/ 06
                 
当ブログで時々取り上げる「BCGワクチンと新型コロナウイルス感染症」に関する話題についてですが、

2020年9月の頭に医学のみならず、生化学、分子生物学なども含む生命科学全般の最高峰の雑誌である「Cell」という雑誌に、

「BCGワクチンを高齢者に接種すると、その後1年間に感染症にかかるリスクが約半分に減った」という内容の医学論文が掲載されたとニュースになりました。

ここしばらくこの論文に関する専門家の見解や、SNSでの批評を見てきましたが、「新型コロナウイルス感染症への効果はまだ不明ではあるものの、BCGワクチンのウイルス感染症に対する効果は間違いないだろう」と肯定的に捉えるものがほとんどであるように感じました。

やはりそこは天下の医学雑誌「Cell」、識者に対して大きな説得力を持っているのだということがよくわかります。

しかし事実重視型思考をもとにBCGワクチンの新型コロナウイルス感染症に対する効果を疑問視している私としては、

たとえ相手が天下の「Cell」であろうとも、この論文の結論をすんなりと受け入れるわけにも参りませんので、

これもまた大変な作業ではありますが、原著論文を読み込んでみることにしました。
            

すると流石「Cell」に載った論文だけあって、内容としてはしっかりと対象者の情報が紹介され、十分な解析を1年の時間をかけて検証されているということがわかりました。

この論文、研究期間は2017年9月から2019年8月までと新型コロナウイルス感染症の発生前ですが、論文の中には新型コロナウイルス感染症に関する記述があり、「昨今の感染拡大状況を踏まえて有用な医学知見を得たので紹介する」というスタンスです。

ACTIVATE(高齢者のBCGワクチン接種による訓練免疫応答を検証するランダム化臨床試験)と名付けられた臨床研究に登録された入院中の高齢者202名に対して、

彼らが退院する時点で、103名がBCGワクチンを接種され、99名がプラセボ(BCGワクチンに似せているけれど実は薬効のない薬)のワクチンを接種され、

最終的に一年間というデータでの中間解析結果として、72名のBCGワクチン接種者と、78名のプラセボワクチン接種者とで様々な臨床項目の比較結果が発表されました。

それによると、その一年の間にBCGワクチンの接種者が最初の感染症を発症するまでの時間が平均16週であったのに対して、プラセボワクチン群は平均11週であり、プラセボよりも感染症の予防効果があったというのです。

また一年の間に新しく感染症を発症する発生率で比べると、BCGワクチン接種群で25.0%、プラセボワクチン群で42.3%とこれもまたBCGワクチン接種群の方で感染症の予防効果があったとされています。

そして、その感染症予防効果の中で最も多くの割合を占めていたものは解析の結果、「おそらくウイルスが原因とされる呼吸器感染症」だというのです。

「おそらくウイルスが原因とされる呼吸器感染症」をどうやって判定したのかという基準に関しては、論文には次のように記されています。

①38℃以上の発熱が少なくとも2日間以上続くこと
②咽頭に発赤または膿性分泌物がある
③激しい鼻汁
④咳
⑤頸部リンパ節腫大
⑥腹部の深い触診での肝臓や脾臓の腫大
⑦白血球の絶対数が4000/mm3以下


正直、⑦以外は「だからと言ってウイルス感染症だと言い切れるかな・・・?」と思える項目ばかりですが、

これはウイルス感染症以外の細菌による肺炎(市中、院内ともに)、敗血症、尿路感染症などの細菌感染症も同時に検出しようと試みている様子が同論文内に書かれていますので正確に「ウイルス感染症」と診断しているというよりも、

肺炎、敗血症、尿路感染症といったメジャーな細菌感染症以外をとりあえず「おそらくウイルスによる呼吸器感染症」だと判断するという除外診断的な発想だと捉えることにしましょう。

それにたとえウイルス感染症を正確に捉え損なっていたとしても、感染症の発生率自体BCGワクチン接種群で下がっていますし、

データの解析結果を見ますと、「おそらくウイルスが原因の呼吸器感染症」だけではなく、肺炎も敗血症も尿路感染症も他の細菌感染症も軒並みBCG接種群で発生率が低いという結果が出ていて、BCGワクチンはともかく、ウイルスにせよ細菌にせよ感染症の発症抑制に寄与しているという結論になりそうです。

まさに非の打ち所がないようにBCGの有効性を示した論文であるように思えるかもしれませんが、そんな中で私には2つ違和感を感じる点がありました。

1.実際にワクチンを打った人と中間解析に回された人とで人数に随分違いがある
2.BCGワクチン接種群の方が明らかに(重大な)副作用の発現頻度が少ない


まず1.についてですが、登録された202名のうち、4名は後に同意の取り下げがあったので計198名がこの研究に参加したようなのですが、

1年間のフォローアップ期間で1人の脱落もなく研究を終えることができたと書かれています。なかなか見事な結果です。

しかし実際に中間解析に回されたのはBCGワクチン接種群の72名とプラセボワクチン接種群の78名の計150名です。なぜか48名ほど数が足りません。

その理由についての言及として論文の中では「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックの緊急の要請に対して」というようなことが書かれていました。

フォローはされているけれど、パンデミックの混乱の中で中間解析への同意が得られなかったということでもあるのでしょうか。ここの理由があいまいで私は何か不自然さを感じます。

それでも何かしらの事情でそういうこともあるのかもしれませんが、2.については大きな違和感があります。

何せ副作用報告のところで、あらゆる項目においてプラセボワクチンの方がBCGワクチンよりも高い発生頻度を示しているからです。

プラセボというのは基本的に無害な物質が使用されています。何か別の化学物質が投与されてそれがたまたま薬効を示して効果を出すという話になればややこしくなってしまうからです。

それでもプラセボの方で副作用が出るということはまぁあります。プラセボとは言え注射を契機にストレス反応が惹起されたりすることがありますし、その時たまたま副作用と見まがうような症状イベントが起こって副作用だと誤認されてしまうこともあるでしょう。

しかし、今回の場合は重大な副作用が明らかにプラセボの方で多くなっており、BCGはそれより明らかに少なくなっているのです。

プラセボワクチン接種群で重大な副作用を示した人数は30名(38.5%)、BCGワクチン群で重大な副作用を示した人数は17名(23.6%)。

統計学的な有意差こそついていませんが、有意差を表すp値は0.055、有意差ありの基準になる0.05にあと一歩に迫る差となっている状況です。

BCGワクチンはハンコ注射でおなじみですが、弱毒化された結核菌を皮内に注射し、痕が残ることからも持続的な炎症反応を起こさせる行為であることは明らかです。

それがプラセボと比べて副作用が同等であればまだしも、BCGワクチンを接種した方が副作用が少なくなるというのはどうにもおかしい話です。

一般に薬の主作用と副作用は表裏一体です。薬がもたらす化学反応の中で人間の都合のよい部分を主作用と呼び、都合の悪い部分を副作用と呼びます。

だから少なくとも西洋医学的なアプローチで作られた薬の多くは主作用がある薬は、副作用もあるのが自然です。

主作用がしっかりとあって、副作用が少ないのであればまだわかりますが、副作用がプラセボよりも低いというのはかなり違和感のある話であるように私には感じられます。

要するにこのCell論文に対する私の印象は、一言で言えば「完璧すぎて不自然」というものなのです。

新型コロナウイルス感染症に対するBCGワクチンの肯定的な効果が期待される情勢の中で、いち早くその結果を出そうと大至急で解析して皆が納得のいくデータを作り上げたという感じがします。

そこに恣意が入っていたかどうかはわかるはずもありませんし、恣意が入っていない可能性も十分に考えられます。

しかし結果として出てきたこの論文の内容は私にとって都合が良すぎるものであるように思えるのです。

何か研究者側にBCGワクチンの良い結果をいち早く出そうというインセンティブが働いているのでしょうか。

そう思って調べてみると、ニュースではこの論文はギリシャなどの研究チームの報告と書かれていますが、研究を主導しているのはMihai G. Netea教授というオランダのラドバウド大学という所の感染症や免疫学の専門家の先生だそうです。

Netea教授らのチームは前々からBCGワクチンの研究に取り組んでおり、2018年にはBCGワクチンが黄熱病ワクチン注射後のウイルス量減少や全身性炎症を低下させるとの研究結果を発表していたり、

その機序にはBCGによって刺激された単球がエピジェネティックな機序で非特異的なIL-1βというサイトカインの産生が増やされてその炎症によって黄熱病ウイルスの細胞内感染量が減るということを示しておられます。

だから今回の新型コロナウイルス感染症につながるような研究結果を出せても不自然ではないと言えばないのですが、

非常にトリッキーなことに、BCGワクチンは確かに弱い炎症を引き起こしますし、さらには結核菌は細胞内寄生菌なので、

弱い炎症をおこしていることでウイルスの干渉現象の仕組みでもって、他の細胞内寄生病原体の感染を一時的に寄せ付けない状況はあってよいと思います。

問題はそのような持続的な炎症が本当に身体によいことなのかと、どの程度続くことなのかということですが、

少なくとも短期的な視点でこのBCGが身体の中で起こしている現象を見つめれば、BCGはウイルス感染症全般の予防に有効である、という結論になっても不思議ではない状況だと思えます。

しかし私が長期的にBCGワクチンがウイルス感染症の発症抑制に到底有用とは思えないと考える最大の理由は、

現実世界でBCGを打っている人ですべてのウイルス感染症が低くなっているという事実が観察されていない、からです。

つまりインフルエンザも、手足口病も、麻疹も、水ぼうそうも、今年だけではなく例年も新型コロナウイルス感染症と同様の疫学的特徴をとっていないと話が合わないわけですが現実はそうはなっていません。

だからBCGワクチンが効いていてほしいという気持ちは理解できますが、その結論は異なるということだけは私のような一介の医師にでも把握することはできるわけです。


ちなみにオランダがなぜ今BCGを一生懸命研究しているのかという背景を探るために少し調べましたが、

オランダは結核先進国とも呼ばれ、実は日本よりもはるかに前から結核患者数をぐっと抑えることに成功している国です。

ただ実はそこにBCGの関与はなかったようで、1960年代にぐっと抑えられた結核患者数を受けて、当時全国に50あった結核診療所はその存在意義を問われる事態になっていたそうです。

そこでオランダでこれらの管理を取り仕切る結核予防会(KNCV)は結核予防活動を一般公衆衛生活動にシフトするようになり、80年代には別の組織として再編成しました。

しかし90年代に入り外国人の入国に合わせて結核患者が再び増えてくるようになり、再び結核対策の必要性が叫ばれるようになってきたという経緯があります。オランダのBCGへの関心はそういうところから生まれてきたのかもしれません。

そういう背景があるのだとすれば、BCGの研究を一生懸命行うのもわかりますし、それによるポジティブな結果を出そうという姿勢を持ち続けるのも当然のことでしょう。もしかしたら社会の要請に従って資金援助も多く得られるのかもしれません。

しかし事実重視型思考でBCGが長い目でウイルス感染症全体を抑えていない事実を踏まえますと、

それらのポジティブなデータは木を見て森を見ていないデータとなってしまっているように思えて私にはならないのです。


たがしゅう

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コメント

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No title
 BCGを「獲得免疫に寄与するワクチン」ととらえずに、「免疫力のトレーニングアイテム」と考えられないでしょうか。すると、副作用が少なくなるのは免疫力が高まる(もしくは正常化する)ことの結果と考えることができますので。

 一方、東アジアでコロナが重症化を招かない原因をBCGに求めることも、先生が以前に書かれたように無理があるように思えます。
 これは、東アジアの遺伝子がコロナには強いが結核には弱い形態を持っているために、東アジアではBCGから卒業できない、よってBCGがコロナに効いているように見えるだけとも解釈できます。
 栄養面でも衛生面でも結核に強そうな日本で、結核が根絶できないことから、そう考えました。
 
 片一方だけが正しいのではなく、合わせ技と考えることも可能ではないでしょうか。

 話が変わりますが、ステロイドがコロナの重傷者(つまりサイトカイストーム状態の方)に逍遥されるとの記事を見ました。
 かって、花粉症対策としてステロイドを使っていた経験から納得できますし、其れ以前に大切なことがあるようにも思います。
Re: No title
タヌパパ さん

 コメント頂き有難うございます。

>  BCGを「獲得免疫に寄与するワクチン」ととらえずに、「免疫力のトレーニングアイテム」と考えられないでしょうか。

 そのように考えることは勿論できると思います。ただそのトレーニング法は自然界の中で人間以外の動物に対してはまず起こりえない不自然なやり方だということも同時に言えることでしょう。

 経口感染、糞口感染、経膣感染、創感染などは人間以外の動物にでも自然界で起こりえて、それが繰り返されて動物の免疫は鍛えられていると思うのですが、皮内に注射針を介して大量の異物が侵入するという感染法は自然界の中ではまず起こりえないでしょう。そしてそのような方法が結果的に自然感染よりも弱い免疫賦活をもたらしているという事実を踏まえれば、免疫トレーニングはできるだけ自然の経路を活用した方が効果が高い、ということが言えると思います。

 勿論、例えば自然の麻疹とワクチン接種後の修飾麻疹の違いなどを踏まえると、自然感染の方が激しい症状を起こしうるというデメリットもあるわけですが、激しい症状を起こすのにはその個体にそうなるだけの理由が必ず存在しているはずです。その問題を正すきっかけとして症状というものを活用すればそのデメリットさえメリットになりえます。

 そのような構造を理解した上で、不自然かつ不完全な免疫トレーニング法を利用するというのであれば、それは別に構わないように思います。問題は皆が本当にそのような構造を分かってワクチンを利用しているかどうか、だと思います。

>  東アジアでコロナが重症化を招かない原因をBCGに求めることも、先生が以前に書かれたように無理があるように思えます。
>  これは、東アジアの遺伝子がコロナには強いが結核には弱い形態を持っているために、東アジアではBCGから卒業できない、よってBCGがコロナに効いているように見えるだけとも解釈できます。
>  栄養面でも衛生面でも結核に強そうな日本で、結核が根絶できないことから、そう考えました。


 そのように考える気持ちは理解できますが、各国の感染者数や死亡者数の評価が正しいことが前提の解釈なので何とも言えない所があります。遺伝子の影響は私も当初はあるのではないかと考えていましたが、別角度からの考察によって、一つの要素ではあるものの決定的な要素ではないのではないかという見解に至っています。

 2020年7月13日(月)の本ブログ記事
 「先天的要因は決定的ではない」
 https://tagashuu.jp/blog-entry-1805.html
 もご参照下さい。

 また日本全体で見て、飽食環境で栄養失調は少ないように見えるかもしれませんが、糖質過剰に代表される「食べているにも関わらず実は栄養失調」という状態は結構あるように思います。

 2015年1月14日(水)の本ブログ記事
 「栄養補給するのに栄養失調になる理由」
 https://tagashuu.jp/blog-entry-543.html
 もご参照下さい。

 なので数字の不正確性もありますが、もしも感染症が蔓延しているのが事実なのだと仮定すれば、
 その要因は先天的な要因よりも後天的な何かによってもたらされているであろうと、そしてその要因はBCGではないであろうというのが私の考えです。