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結論だけを安易に信用しない

category - よくないと思うこと
2020/ 08/ 15
                 
BCGワクチンを追加接種すると新型コロナウイルスへの感染者(無症状者含む)が激減するとの医学論文の情報が流れてきました。

アメリカのテキサス州にあるテキサス大学南西医療センターからの報告で、

概要としてはアラブ首長国連邦のエミレーツ国際病院の、出生時にBCGワクチンをすでに受けたことがある全医療スタッフに対して、

2020年3月初旬、新型コロナウイルス感染症に対する予防効果を念頭に、BCGワクチンの追加接種を受けたいかどうかの希望を募ったとのことです。

その結果、71名がBCG追加接種を受け、209名がBCG追加接種を受けず、その後4〜6月の間にすべての全員に新型コロナウイルスに対するPCR検査を実施し、感染の有無を確認したそうです。

その結果、BCGワクチンの追加接種を受けなかった209名のうち18名の感染者が判明(8.6%)したのに対し、BCGワクチンを追加接種した71名には一人の感染者も出なかった。

すなわち、BCGワクチンの追加接種には新型コロナウイルス感染症に対する明確な予防効果があるという結論の論文です。
            

私は状況証拠から考えて、BCGワクチンに新型コロナウイルスに対する予防効果があるという見解には否定的な立場を取っているので、

この論文が本当に妥当なものなのかどうか、原文に当たって確認してみることにしましたが、

その結果、びっくりする事実が明らかになりました。


まず最初に気づくのは、内容が4ページ程度の非常に簡素な内容であるということです。

そして研究のデザインとしては「後ろ向きコホート研究」となっています。BCGの追加接種の有無で介入したのだから「前向きコホート研究」なのかと思いきやそうではないようです。

これはBCGの追加接種をするかどうかというイベントがたまたまあったので、3ヶ月後どうなったのかを後から振り返って結果的に差が出たかどうかを比較してみようとした、ということです。

つまりBCG以外の要因が加わらないように厳密に調整されたわけではなく、BCG以外の偶然の要因も加わるかもしれないけれど、まあそれは許容してとりあえず大きな差があるかどうかの傾向をみてみようとするスタンスです。

エビデンスレベルで言えば、最高とされる無作為ランダム化比較試験のメタアナリシスが「エビデンスレベル1a」であるのに対し、後ろ向きコホート研究は「エビデンスレベル2b」と少し質が劣ります。

まあ、そこまではいいのですが、私が一番驚いたのが、この手の研究では必ずあるはずの「研究対象者の特徴」を示した表がないのです。

要するに71名のBCG追加接種を受けた群と209名のBCG追加接種を受けなかった群の集団の特徴です。年齢はどのくらいで、性別の割合はどうで、どんな病気を抱えていて、薬を飲んでいるかどうか、どのくらいの人がタバコを吸っているかどうか、などの情報です。

この情報が欠如していると、例えば71名は皆若者で、209名は71名に対して明らかに高齢であるといったような場合、

本当にBCGが効いたから差がついたのか、単にリスクの違う集団であったかの違いが区別できないということです。

後ろ向きコホート研究だから、細かい健康情報までは把握しきれないという点は理解できます。ただ年齢、性別などカルテなどの情報を見れば容易に確認できるはずの情報さえ載せられていないのはいかにも不自然です。

まるでこれらの情報を載せると、不都合な事実でもあるかのような状況で、私は極めて違和感を覚えます。

それからもしもこの論文の結論が正しいとするのであれば、出生時に受けたBCGワクチンには全く予防効果はないということになりますね。

その辺は、原文の中で「このエミレーツ国際病院のスタッフが受けたBCGの株が明らかではない」と明記されているので、もしかしたらBCG株の違いによって説明されるのかもしれませんが、

ここの情報も一部の人でわからないのであればまだしも、全員のどの株のBCGワクチンを受けたのかわからないということ自体も不自然な印象です。

要するにこの論文は開示されてしかるべき情報が開示されていない偏った情報で構成されているのです。

医学論文は嘘を書くことは倫理的にも許せませんし、科学的にもありえない態度です。さすがにそのような行為が跋扈しているとまでは思えません。

ところが情報が足りないというのは、嘘をついていることにはならないので、それ自体が科学の姿勢に背く行為には該当しません。

ただしそれが意図的に行われているとすれば問題です。ですがこれが意図的かどうかという事実が明らかになることはおそらく一生ないでしょう。

それならば、この情報はその程度のものであるという風に扱うのが妥当だと、情報を受け取る側の真摯な姿勢だと私は思うのです。


BCGワクチンの効果に賛同する立場の人は、結論だけを見てこの情報を手放しで賛辞している傾向があるように見受けられますが、

そう判断する前にまずは原文を確認し、この情報の妥当性を冷静に判断してもらいたいと願います。


たがしゅう

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