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ハムスターでマスクの効果を見た論文の落とし穴

category - お勉強
2020/ 07/ 27
                 
私は基本的にマスクにはウイルス感染防止の効果はないと考えている医師です。

医学としてもマスクの有効性が完全に証明されたことは未だにないはずですが、

世の中では新型コロナウイルス騒動を契機として、マスクの装着が新常識として半ば強制的に定着させられてきているとさえ感じています。

そんな中、ネットニュースを見ていると、「マスクの有効性が科学的に証明された」として複数の医学論文が紹介されている記事がありました。

中でも私が気になったのは、ハムスターの実験でマスクの有効性が証明されたとする上海大学から発表されたこちらの論文です。
            

Chan JF, et al. Surgical mask partition reduces the risk of non-contact transmission in a golden Syrian hamster model for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Clin Infect Dis. 2020 May 30;ciaa644. doi: 10.1093/cid/ciaa644. Online ahead of print.

ハムスターにマスクなんてつけられるのかと思われるかもしれませんが、

この実験ではハムスターに直接マスクをつけたわけではなく、実験的に新型コロナウイルスに感染させたハムスターの入ったケージ(飼育箱)のから別のウイルスが感染していないハムスターのケージへ扇風機で風を送り、

そのケージの壁にサージカルマスクと同じ成分の膜を張って、マスクの効果を検証したという内容の実験です。

最初にこの実験の結果からお伝えしますと、マスクも何もしていない状態だと感染ハムスターからのウイルスが非感染ハムスター15匹のうち10匹に伝わり臨床症状を発症したそうです(10/15=66.7%)。

また感染ハムスター側のケージ側と、非感染ハムスター側のケージのいずれかにサージカルマスクを当てていた場合には、同じ条件で非感染ハムスター12匹中の4匹しか臨床症状の発症は見られなかったそうです(6/24=25%)。

そして中でも感染したハムスター側のケージにサージカルマスクを当てたパターンでは、非感染ハムスター12匹のうち2匹しか臨床症状が認められなかったようです(2/12=16.7%)。

しかも、マスクで防御せずに感染したハムスター5匹のうち3匹は血液検査で中和抗体が作られていたけれども、マスクで防御したけれど臨床症状を呈したハムスター8匹における抗体産生がすべて検出感度以下だというデータまでありました。

マスクしなかった方のハムスターでは中和抗体が作られて、マスクした方のハムスターでは中和抗体が作られなかったとなると、流石にマスクがウイルスの侵入を食い止めたということの証明になりそうな気がします。

ところが、この論文よく読み込むと疑問を禁じ得ない箇所がいくつか見受けられました。

まず新型コロナウイルス感染症がウイルスの感染によって発症したことをハムスターでどうやって立証するのかという点に関しては、

ハムスターの臨床スコアというものを計算して判断するとされています。

その臨床症状というのが、「無気力感」、「毛並みの乱れ」、「猫背の姿勢」、「呼吸の速さ」の4項目で、それらの症状があると判断されればそれぞれ1点入り、全部当てはまれば最大4点となるスコアの高さで新型コロナウイルス感染症に罹患しているかどうかが判断されるというルールのようです。

動物実験だからやむを得ない部分があるとは言え、何とも主観的な判断基準で、判定者の感覚によっていくらでも結果が変わりそうな不安の残る基準だと私には思えます。

それから、その曖昧な基準だけではダメだと思われたのか、血液中に中和抗体があるかどうかも検証されているわけですが、

その臨床スコアで感染ありと判断されたハムスターはマスクなし設定で10匹、マスクあり設定で感染ありと判断されたハムスターは6匹であったにも関わらず、

中和抗体について検証されたのは前者で5匹、後者で8匹(感染ハムスター側にマスクが4匹、非感染ハムスター側にマスクが4匹)となっていました。

なぜマスクなしで暴露度が強かった方のハムスターが半分しか検査されず、マスクありの方は感染していないハムスターまで検査されるような不平等な測定の仕方を行っているのでしょうか。

極めつけは、本論文中にも限界として記されていましたが、マスクなし設定のケージどうしを感染させる時の扇風機の速度は強めで、

マスクを装着してその防御効果を検証する設定のケージへの扇風機の速度は遅めの設定となってしまったということが書かれていました。

「その(速度)設定を制御することができなかった」というような書き方でしたが、御丁寧にここまで書いてくれていなければわかり得なかった情報でした。

ということはマスクなしの方ではよりウイルスが伝わりやすい風の環境にあり、マスクありの方ではもともとウイルスが飛びにくい環境にあったということであれば、

実はマスクの有無は関係なくて、単純にウイルスがケージからケージへと移動しにくかったためにマスクなしの方では実は未感染のままであったのかもしれません。臨床スコアも判定者の主観でいくらでも間違えそうです。

その可能性を否定したいためか、それぞれのマウスでウイルスのNタンパクというのを免疫組織学的に染色し、ウイルスの感染を証明しており、マスクなしハムスターもマスクありハムスターもいずれも実験的感染ハムスターよりもNタンパクの量が少なくなっていることを示していますが、

その染色され具合もマスクなしハムスターの方がNタンパクが少ない結果となっています。中和抗体で排除されたと言いたいのかもしれませんが、この結果自体マスクの効果が不安定であることを意味しています。


つまりこのハムスターの実験、結果だけ見るとあたかもマスクの効果が実証されたように見えますが、

感染の判定基準、マスクなし群とマスクあり群との比較の不平等性、そして扇風機の風速条件の違いがあいまって非常に疑義の残る論文内容となってしまっているということです。

そしてこれはうがった見方かもしれませんが、論文の中で上海でのマスク装着率は96.6%であると、だからマスクには明らかな効果があったという書かれ方がされています。

そんな状況下では、上海大学としては「マスクには効果がなかった」などとは口が裂けても言えないのではないでしょうか。

これは一般人はなかなか気づけないトリック(?)だと感じました。一般人どころか感染症の専門家の医師でも、この論文を取り上げて「マスクの有効性は科学的に証明された」などと豪語しています。

つくづく医学論文の表面的な情報に騙されてはいけないということを再認識させられた次第です。


たがしゅう

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コメント

非公開コメント
        

読者の方々へ
なんか仕組まれたヤラセのディベートしているようで嫌なのですが、読者に誤解を与える内容がありましたのでコメントさせていただきます。

まずはじめに先生の説明には、ハムスターにウイルス感染成立したことを確認する方法が臨床症状だけであるかのように書かれていますが、本論文にはそのようなことは書かれていません。

たとえば不織布フィルタなしの実験1の結果について述べられている箇所ですが以下のように書かれています。

The 6 naïve hamsters which developed clinical signs were confirmed to be infected with SARS-CoV-2 as evidenced by positive RT-PCR results (Table 3).

SARS-CoV-2に感染したことをRT-PCRで確認したと書いてあります。

また不織布フィルタ(マスク素材)の有無と中和抗体産生の差異についてですが、論文にも以下のように書かれています。

These results suggested that even though these two exposed naïve hamsters were infected, they likely acquired the virus much later than the infected naïve hamsters without protection by surgical mask partition.

つまり不織布フィルタが介在することでウイルス暴露量が減って発症が遅くなったためにRT-PCR陽性でありながら抗体価が十分に上がらなかった、という考察は妥当であるように私も思います。

その考察の根拠は、ウイルス感染2日後や4日後では抗体価上昇はみられず、7日後、14日後で抗体価が上昇すると、本論文の参照文献20である同著者の論文に紹介されてます。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32215622/

さらに、不織布フィルタの有無で中和抗体の抗体価について調べた結果のサンプル数の違いについて言及されていますが、前述のとおり、抗体価の上昇が確認されたのは感染7日後以降で、感染5日後のハムスターでは正確な評価が得られない可能性があるため、より確実な違いがみられそうな7日後について抗体価を評価する姿勢は、適当な選択だと思われます。

気流の影響については、先生のような疑問を抱かれる方も少なからずおられると思うので、不織布フィルタのない環境で気流速度を落とすような、さらなる検討が必要かもしれません。

免疫組織染色に関する結果は定量的な情報でないため評価はできません。しかし個人的な印象では、やろうと思えば恣意的に写真を選ぶことも可能なところ、不織布フィルタがあってもウイルスNタンパクが検出されていることを、あえて示しているところに研究者としての誠実さを感じます。

香港のマスク着用率と感染者数の少なさに関する考察も、マスク着用以外の要因も否定できないものの、本論文の表3に示された結果を見る限り、マスク着用は無視できないくらいの寄与率があると思われ、極端におかしな点はないと思います。



以上、ブログ記事の内容を読者の判断に委ね、「医学論文の表面的な情報に騙されてはいけない」と強調される先生の独自見解を鵜呑みにして、間違った価値観を持ってしまわないよう注意されることを、私、心からお願いしたい次第でございます。