先天的要因は決定的ではない
2020/07/13 14:20:00 |
素朴な疑問 |
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最近、新型コロナウイルス感染症は「東アジアの風土病」だと捉える説が台頭してきています。
私自身も「HLA仮説」に可能性を感じていて、日本には新型コロナウイルスを諸外国に比べて何らかの先天的要因、特にそれは自然免疫システムに関わるものがある、という仮説を考えていました。
しかしとあるサイトで、アメリカにおける新型コロナウイルス感染症の人種別死亡率の違いが示されており、その結果を見た際に私は、今まで大きな勘違いをしていたかもしれないと気づかされました。
というのもこのサイトを見ますと、新型コロナウイルス感染症による死亡者はアジア人と白人とで大差がないのです。 具体的には10万人当たりの死亡者数が、アジア人では29.3名ほど、白人では30.2名ほどとなっています。
一方で死亡者数が多いのは、黒人で10万人当たりの死亡者数が69.7人と、先住民で10万人当たりの死亡者数が51.3人です。
このデータを見ると「なるほど、アメリカの死亡者数急増の原因は白人ではなく、黒人や先住民にあるのかもしれないな・・・」と思えます。
ちなみに日本での日本人の10万人当たりの死亡者数は0.7人程度です(※2020年7月13日時点)。よく欧米と2桁違う死亡率と表現されますが、数字だけ見るとまさにその通りですし、
アメリカにおけるアジア人の死亡率と日本における死亡率を単純比較することはできませんが、外国在住の日本人でこれまで新型コロナウイルス感染症での死亡が確認された例は5月14日時点で7名のみというデータもあります。
最新状況ではないものの、日本人の重症化率の少なさに説得力を持たせるには十分なデータであるように思います。しかも外国全体でのデータですからアメリカに絞ればさらに死亡率が少ない可能性さえあります。
これはアメリカに、特に黒人の民族で何らかの死亡率増加の先天的要因がありそうだという流れが見えてきます。
では、そのアメリカでの死亡者の年齢の内訳がどうなっているのかといいますと、同じサイトに書かれている情報によりますと、死亡者のほとんどは75歳以上の方が圧倒的に多くて、45歳未満ではほとんど亡くなっていません。
45歳より年齢が上がると少しずつ死亡者の率が上がって行ってます。これは日本と同じ傾向を示しています。
ここで「ん?」と思います。死亡者数が多いけど傾向は一緒…?ひょっとしたら人数は多いけれど、実は本質的には同じ現象を見ているのではないか、という考えが浮かびます。
もしも民族が理由でかかりやすさに顕著な差があるというのであれば、例えば20〜30代の重症者がもっと増えないと話が合わないように思います。
これだけ重症者が多いアメリカでも日本と同様にこどもや若者での重症者がやはり稀だというのなら、重症化要因は民族差ではなく、加齢に関わる何かである可能性が高いです。
そもそもHLAの意義は環境適応だと思いますが、それはその環境における外来抗原に最適化した性質のHLAが他が淘汰されながら受け継がれてきたという流れがあると思っています。
それゆえ「風土病」の概念自体は十分納得のいくものですが、
それがちょっと違う地域に入っただけで、直ちに生命の危険が脅かされるようなシステムであれば、船や飛行機で人類の大量遠隔移動が始まった頃から立ち入った人間が根こそぎ感染症に苦しむ事態に陥っていなければ話が合いません。
勿論、ペストやスペイン風邪のように他所の地域から病原体が持ち込まれたとされる出来事は歴史的にも確認されています。しかしそれは強烈と言えども人類を滅亡させるほどまでのインパクトではなかったということ、
大多数の人達はそれでも生き延びて引き続き人類を繁栄させていくことができていたと。
つまりHLAの違いは、自然環境の中で過ごしている限り、自分がどの環境であれば過ごしやすいかどうかを印象づける要素ではあるものの、
その環境が異なれば、直ちに排除されてしまうほどの強い影響力をもたらす先天的な要素ではないということです。
そしてもし新型コロナウイルス感染症が東アジアの風土病だというのなら、東アジア内部で拡散したというのは矛盾があります。東アジア以外の地域の人が、東アジアに入って重症化したというのであればまだわかりますが。
ということで私が可能性を感じていた「HLA仮説」の要素もあるにはあるけれど、決め手となるほど大きな影響力はないという姿が見えてきました。
それでは、2桁の死亡率差を説明する要因というのはいったい何なのでしょうか。
この理由を次回、日本とアメリカで起こっている新型コロナウイルス感染症という現象が、
あえて本質的には同じとする立場から考えてみたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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