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補うときは「適量」であるべき

category - お勉強
2020/ 06/ 25
                 
ワクチンの「アジュバント」について勉強した際に、

微量元素であるアルミニウムを経口的に摂取する分には、たとえ大量に摂取したとしても大半が体内に取り込まれないシステムが構築されているため通常は中毒になることはない」ということを学びました。

一方で糖質制限実践者にとって最注目の微量元素といえば、「鉄」ではないかと思います。

鉄は人間の細胞のエネルギー産生装置であるミトコンドリアの重要回路のひとつ「電子伝達系」を回すのに不可欠であったり、

血液中で酸素の運び屋で、貧血の指標にもなる「ヘモグロビン」というタンパク質を構成する重要成分でもありますので、

この鉄分をしっかり摂っておくということは、糖質制限の初心者が慣れないケトン体代謝をスムーズに回すためにも非常に重要な成分だということはよく言われている話です。

そんな鉄に関してですが、「とにかく鉄をたくさん摂ればよい」と結論づけるのは少し待ってもらいたいと思います。
            

本日の記事は以下の本を参考に書きました。少し難解ですが、できるだけわかりやすく解説してみたいと思います。



実験医学増刊 Vol.38 No.10 食と健康を結ぶメディカルサイエンス〜生体防御系を亢進し、健康の維持に働く分子機構 (日本語) 単行本 – 2020/6/8
内田 浩二 (編集)


第2章 食による生体防御系の活性化
2.脂質酸化依存的新規細胞死が関与する疾患と食による制御


例えば、「フェントン反応」と呼ばれる現象があることが知られています。

「フェントン反応」自体は、「過酸化水素が,遊離またはタンパク質に結合したNa2+, Cu+ などの金属イオンよって還元され,ヒドロキシルラジカル(OH・)を生成する反応」と定義されています。

少し難しいですが、私なりに解釈すれば、「過酸化水素という弱い活性酸素が、金属(イオン)の影響を受けて、さらに強い活性酸素であるヒドロキシルラジカルへと変わること」という感じです。

そして鉄も「Fe2+」という形でイオン化します。この「2価の鉄イオン(Fe2+)」が過酸化水素によって「3価の鉄イオン(Fe3+)」に変化することで活性酸素が強化されるという「フェントン反応」が起こるわけです。

   Fe2++H2O2→Fe3+ +OH-+OH・

活性酸素と聞くと「身体にとって有害な悪いもの」というイメージがわくかもしれませんが、

実際には細菌やウイルスが感染した細胞などを攻撃する物質で、このおかげで身体が守られているということがありますし、

さらにはこの活性酸素が増え過ぎないように人体では、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)といった複数の抗酸化酵素も備わっていて、そのバランスを絶妙にコントロールする素晴らしいシステムを持っています。

さて、先程述べたように鉄は人体によって重要な微量元素ですが、

この「2価の鉄イオン(Fe2+)」が過剰にありすぎる状態だと、この人体にとってある程度必要とは言え活性酸素が存在することによって、フェントン反応が引き起こされて活性酸素が強まってしまうというリスクがあると考えられます。

しかも人体には積極的な鉄の排出機構が備わっていないということもわかっているので、少なくとも「多ければ多いほどよい」というものではないという可能性があると理解できます。

ただし現実には鉄をサプリなどで大量に経口摂取していても大きなトラブルがなく過ごしておられる方も見聞きしますので、

鉄が過剰にならないように、特に「2価の鉄イオン(Fe2+)」が、たとえ鉄を大量に摂取したとしても一定の値で留まるようなシステムが人体には存在することが推測されます。

その一つが、糖質制限をしている人にはよく知られている「フェリチン」という物質です。

貯蔵鉄とされるフェリチンは細胞の中の細胞質に存在し、中の内部の空洞に「3価の鉄イオン(Fe3+)」を数千個貯蔵する構造をとっているそうです。

従って、多すぎる鉄によってフェントン反応を介して酸化ストレスを高めないで済むように、人体は鉄が多く取り込まれた時にはフェリチンへ変換することでフェントン反応を起こさない仕組みを持っている、ということになります。

酸化ストレスを生み出す有害な「2価の鉄イオン(Fe2+)」を無害な「3価の鉄イオン(Fe3+)」に変換し、さらに細胞の中に封じ込める「フェリチン」は、

まるで酸化ストレスを生み出す上昇した血糖(グルコース)を無害化する「脂肪」と同じような存在に思えます。

一方でそんな「フェリチン」を分解するシステムである「フェリチノファジー」という「フェリチン」特異的なオートファジーもあります。

おそらくは何らかの原因で血中の鉄が足りなくなった時に鉄の貯蔵庫としてのフェリチンを切り崩して鉄を確保しようという場面でこの「フェリチノファジー」は活性化するものと思われます。

さらに話は移り、「2価の鉄イオン(Fe2+)」の存在下で脂質が酸化される事によって引き起こされる「フェロトーシス」と呼ばれる細胞死があります。

抗がん剤の細胞死のメカニズムの研究から発見されたというこの「フェロトーシス」という細胞死は、近年「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」という肺の機能低下をきたす病気の発症に関与しているということが解明されてきています。

「COPD」はタバコを吸うヒトでリスクが跳ね上がることがよく知られている病気ですが、

ヒトの気道上皮細胞を用いた実験で、タバコの抽出液を接触させると「フェロトーシス」が起こっているという結果が報告されています。

しかも、そこでは「フェリチノファジー」が活性化しているという現象も明らかになりました。

どうやらタバコの中の成分が「フェリチノファジー」を活性化させ、「フェリチン」の分解により「3価の鉄イオン(Fe2+)」を増加させ、

STEAP3という還元酵素によって「3価の鉄イオン(Fe3+)」が「2価の鉄イオン(Fe2+)」に変換されて、結果的に「フェロトーシス」につながるという流れがあるようです。

おそらくはタバコは強力な酸化ストレス源だということもこの流れに拍車をかけていることと思います。

「フェリチノファジー」もオートファジーの一種だから、絶食によって駆動されるのかと思いきや、必ずしもそうだとは限らないようです。

生体保護的に働くはずの「フェリチノファジー」が、タバコに誘導される形で酸化ストレスを助長させるというのは何とも皮肉な話です。


・・・非常に複雑な話でした。最後に実生活につながる教訓へとまとめます。

とにかく私が思ったのは、「ある特定の物質が絶対的に正しいと思って盲目的に摂取し続けてはいけない」ということです。

生命維持に必要不可欠な物質はあります。しかしそのいずれにも「適量」というものがあるはずです。

インスリン然り、ステロイド然りです。それらを人為的に補おうという時にはそれが「適量」になるようにすべきです。

では「適量」であるかどうかを判断するにはどうすればよいかといいますと、「体調がよいかどうか」、これに尽きるのではないかと私は思います。

一般的に健康によいと言われている栄養素もサプリメントも、摂り過ぎていれば逆に弊害になりうるという可能性は常に考慮されるべきではないかと私は思います。

今回はたまたま鉄をテーマに取り上げましたが、他の物質に関してもきっと同じような構造はあるはずです。

「補っても体調が悪いから量が足りない。ならばさらに量を増やさねば」という発想に陥って、さらに歪みを強めてしまう悪循環に陥らないようにするためにも、

今回の話を是非とも参考にして頂ければと思います。


たがしゅう

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ビタミンA,D の過剰リスク
 ビタミンA, D には、過剰摂取による有害事象が報告されている
 日本人の食事摂取基準(2020)の脂溶性ビタミンの項目をご覧ください
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html

 文芸春秋1975年2月号に児玉隆也のレポートが載りました
 …イタイイタイ病の救世主と目されている萩野博士が、治療のためにビタミンDを大量投与、本来イタイイタイ病患者かどうかはまだ不明な要観察者を、かえって悪化させ、医師が病気を作った「医原性疾患」の疑いが指摘されている
https://www.facebook.com/itai.kataritsugu/photos/pcb.2245130502403376/2245130432403383/
Re: ビタミンA,D の過剰リスク
中嶋一雄 先生

 情報を頂き有難うございます。

 ビタミンは安全と考えられがちですが、少なくとも脂溶性ビタミンでの過剰症の存在は明らかですよね。
 また水溶性であれば大丈夫かと言われたらそういうことでもないと思います。例えば、ビタミンCの副作用としては下痢が有名ですし、ビタミンB3とも称されるナイアシンではナイアシンフラッシュという副作用が起こることもよく知られています。

 要は何事も最適のバランスというものが存在するということだと思います。多ければ多いほどよい、少なければ少ないほどよいという発想は少なくとも人体において慎むべき発想ではないかと私は考える次第です。