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オートファジーの働きは幅広い

category - お勉強
2020/ 06/ 22
                 
前回紹介した実験医学増刊「食と健康を結ぶメディカルサイエンス」の中には、

『”食”とオートファジー』と題する記事も書かれており、日頃よりオートファジーを非常に重要視している私は興味深く読んでみることにしました。



実験医学増刊 Vol.38 No.10 食と健康を結ぶメディカルサイエンス〜生体防御系を亢進し、健康の維持に働く分子機構 (日本語) 単行本 – 2020/6/8
内田 浩二 (編集)


この特集を読んで、オートファジーとはシンプルに「タンパク質のリサイクルシステム」としていた私の理解がアップデートされることになりました。
            

実験医学 Vol.38 No.10(増刊)2020
第2章 食による生体防御系の活性化
9."食"とオートファジー


アップデートされた点としては大きく次の2点についてです。

①オートファジーはタンパク質・脂質・核酸などきわめて幅広い生体高分子群に対し分解活性を発揮し、さらに細胞内に生じた異常タンパク質の凝集体や障害ミトコンドリア等の超高分子構造をも分解できる細胞内における最も重要なクリアランス機構の一つである
②アルコール摂取によりオートファジーは活性化されるが、それはアルコールの肝毒性から身を守るための防御反応であることが示唆されている


以前、私は「ビタミンもオートファジーできるか」という記事で、

もともとタンパク質との境界があいまいな部分があるビタミンもオートファジーでのリサイクルの対象となる可能性があると、

だからオートファジーがきちんと機能している状況にあればせっせとビタミンを外部から摂取しなくても、恒常性が維持されるシステムが人体には備わっているのではないかという点を指摘したのですが、

実際にはこのオートファジーシステムは私の想像のはるか上を行っていたということが示された内容だと感じました。

つまりタンパク質との類似構造どころか、脂質、核酸といった全く違う構造の物質に対してもリサイクルシステムが働いているということでもありましたし、

さらには不可逆的とさえ言われる異常タンパク質や障害ミトコンドリアに対しても分解して一旦リセットさせるポテンシャルを持っているということで、

このオートファジーというシステムが生物の恒常性を維持させていく上で非常に重要な役割を持っているということを再確認することができました。

またオートファジーのリサイクル対象に「糖質」が出てこないことも面白いです。

過栄養状態においてはオートファジーは抑制されるという事実、オートファジーの強力な抑制因子の一つがインスリンであるという事実と合わせると、

血糖値を急峻に上昇させ、インスリンを分泌させる力が最も強力な糖質を控えることが、結果的にオートファジーの活性化を最も高めて恒常性を維持させるところに糖質制限の分子生物学的な意義があるということも改めて了解できるところです。

もう一つ、「核酸」もオートファジーのターゲットになっているという点についてですが、

「核酸」というのは、「DNA」や「RNA」の総称です。だいたい「DNA」は「デオキシリボ"核酸"」、「RNA」は「リボ"核酸"」の略ですし。

これをオートファジーでリサイクルできるということは、ウイルスもオートファジーの標的対象になりうる、ということになると思います。

さらに興味深いことに、オートファジーが標的を分解する際には、細胞内で膜構造を形成し、二重膜構造の小さな袋「オートファゴソーム」を形成します。

この膜を形成して包み込むというプロセスは、ウイルスが感染するプロセスの一つ「膜癒合」とそっくりです。

ウイルスは「他者」だと認識されている場合がほとんどですが、「自己」だと認識される要素があるが故に「膜癒合」といった都合のいいお膳立てされた細胞内侵入システムがウイルスのために用意された状況があるように見えてしまうということを指摘しましたが、

オートファジーの標的対象は言わば「異常となった自己細胞成分」です。

「自己」を認識するメカニズムがベースにあって、「自己」と認識された成分は膜癒合によって細胞内に取り込むわけだけれど、

そのプロセスに何らかの原因でエラーが生じた際に細胞全体が被害を被る前に、同じメカニズムを利用して分解へと誘導するのがオートファジーというシステムなのではないかと思われるわけです。

従って、オートファジーがきちんと機能している状況においては、自然免疫とはまた別のメカニズムでもって、

侵入したウイルスを速やかに排除して自己の恒常性を維持することに寄与しているという可能性が考えられると思います。


もう一つ、アルコールに関して、オートファジーを活性化するという事実は意外でしたが、

これがアルコール性肝障害に対する保護的なリアクションだということであれば従来の事実と矛盾しないと思いますし、

こうした情報を浅く理解してしまうと、「アルコールはどんどん飲んだ方がいい」という浅い結論に着地してしまうために注意する必要があると感じました。

いずれにしても食の在り方がオートファジーに影響していることがよくわかった今回の記事でした。

今回紹介した考え方は、「栄養医学」と総称されるような「人体に必要な栄養成分をとにかく完璧に埋め合わせれば完璧な人体システムが運営されるようになる」という考え方に欠けている視点であるように思います。

「いかに入れるか」だけではなく、「いかに入れないか」という考え方も理解していかないことには、

食で健康を守るという認識が歪んだ方向へ進んでしまう可能性がありますし、

ひいては地球全体の生態系を脅かす歪みへと発展する可能性さえあるのではないかと、

大げさに感じられるかもしれませんが、私はそのように感じる次第です。

食べることばかりに意識がいきがちなウイルス対策に、

食べないことによるウイルス対策の発想を付け加えてみるのはいかがでしょうか。


たがしゅう

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コメント

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オートファジーとビタミン
オートファジーとビタミンで検索するとビタミンDが表示されます。
現在「Vitamin K2 And The Calcium
Paradox」に続いて、「The Miraculous Cure for and Prevention of All Diseases」というタイトルの本を必死に訳しながら読んでいます。
たがしゅう先生こんにちは!
先生のブログを読みマスクを外す生活をしていましたが、小学校や幼稚園が始まりマスク着用となってしまいました。
子供達には可哀想な状況になってしまいました。マスクが苦しいと子供達は言っていますが、マスクをしていないと幼稚園にも小学校にも入れない状況です。飲食店も公園もマスクをしていない人はお断りという所が多くて、休日でもマスクをしている状態です。
先生の昨日のブログで、アルコールに関して、オートファジーを活性化するという事実とありましたが、やっぱりお酒の飲みすぎはいけないんですね。私は毎日お酒を飲むので、最近は少しでも体に良いかと思われる赤ワインにしています。
これからも先生のブログ楽しみにしています!
Re: オートファジーとビタミン
麻生かずえ さん

 情報を頂き有難うございます。

 確かに、そう検索するとオートファジーとビタミンDの研究が出てきますね。
 ビタミンCとかビタミンEも少し出てきますが、多いのはビタミンDです。
 
 「太陽光を浴びて自ら合成することができるビタミン」という点で、ビタミンの中でもビタミンDは一歩抜きん出る特殊な存在である気がしてきました。引き続き学びを続けたいと思います。
Re: タイトルなし
あっぴ さん

 コメント頂き有難うございます。

 確かにマスク着用が義務づけられる小学校や幼稚園でマスクつけないスタンスを貫くのは至難の業ですね。

 あえてポジティブに考えれば、常識というものを見つめ直す格好の機会かもしれません。
 常識に従わないことが実害を被ることもあるので、常識に従わないことだけが正義とも限りません。
 こういう事態に自分はどのように感じ、本当はどういう風に行動したいか、そのためにはどうしたらいいと思うか、などお子さんと一緒に考えてみるという時間を設けるのも一つかもしれません。勿論、こどもの年齢や性格によっては話し合いにならない場合もあるかもしれませんが...。

> 先生の昨日のブログで、アルコールに関して、オートファジーを活性化するという事実とありましたが、やっぱりお酒の飲みすぎはいけないんですね。私は毎日お酒を飲むので、最近は少しでも体に良いかと思われる赤ワインにしています。

 タバコを吸い続けているのに健康長寿の人がいるように、
 お酒の飲み過ぎがよくないかどうかも、一律に結論を出すのは難しいと思います。
 要はアルコールはそういうものだと理解しながら飲み、いつも自分の体調に留意しておくことさえ忘れなければ、アルコールを利用するの一手だと私は思います。
ビタミンDとオートファジー
そういえば新型コロナで重症化する人はビタミンD不足の人が多いと言う発表が相次いでいるようですね。
私は糖質制限だけの時はたまに風邪を引いたのですが、ビタミンD3のサプリを飲み始めてから全く風邪を引かなくなりました。これにはオートファジーが関係しているのかもしれませんね。
ビタミンDと免疫力は密接な関係があるようです。
新型コロナで外出を自粛しているとビタミンD不足になり、ますます新型コロナに感染しやすくなる、あるいは重症化するリスクが高まるという事もあるかもしれません。気をつけないといけないですね。

ビタミンDについてはJeff T. Bowles著「奇跡の結果 - 極度の用量ビタミンD3ビタミンD3奇跡シリーズ 製薬業界が皆さんに知って欲しくない大秘密 ビタミンD3 (陽光ホルモン) 1日 2万5千 〜 10万 IU 一年の超多量摂取実験の 奇跡的な結果」という本(Kindle unlimitedで読めます)がお勧めです。
Re: ビタミンDとオートファジー
KAZ さん

 コメント頂き有難うございます。

 ビタミンDは一つの物質がコロナ対策の要になるという論調には人為性の高さから違和感を感じるのですが、
 唯一光刺激によって合成されるビタミンという観点に立てば、適度に光を浴びる自然重視型の生き方で特別な存在となりうることも理解できるような気がします。

 私には「ビタミンDは自然重視型の生活の安定感のメカニズムの一側面を示している」という理解がしっくりきますね。