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なぜ天然痘だけワクチンで撲滅できうるのか

category - ワクチン熟考
2020/ 06/ 09
                 
ここしばらくワクチンというものを熟考すべく関連書籍を読みあさりながら思考を深めています。

ワクチンの意義を考える上で欠かせないのは、「天然痘(別名:痘瘡)」というウイルス感染症がワクチンのおかげで根絶された」という歴史的事実でしょう。

1796年にイギリスの医師、エドワード・ジェンナーが牛痘という天然痘と近縁の病気にかかった乳搾りの女性サラ・ネルムズの手の水疱(水ぶくれ)から膿をとり、これを8歳の健康な少年ジェームス・スの腕に接種したところ、少年は牛痘を発症しましたがすぐに治癒し、 その後天然痘を接種しても感染しなかったという事実が観察・報告されたとのことで、

以来、この牛痘の膿を他人の皮膚に植え付けて、近縁の病気である天然痘の発症を予防する治療行為のことを「種痘(しゅとう)」と呼び、これがワクチンの原型になったと言われています。

ちなみに「種痘」に用いられた牛痘の膿の中にあったのは牛痘ウイルスではなく、牛痘ウイルスと他のウイルスが何かしら混ざったものだった可能性が指摘されています(これは「ワクシニアウイルス」と名付けられています)。

どうでもいいと思われるかもしれませんが、後の研究で牛痘ウイルスと天然痘ウイルスには免疫交差作用がない、つまり牛痘にかかっても天然痘の免疫抗体は構築されないということが判明したというので、何気に大事な事実だったりします。

さて、医学の歴史が長いと言えど、ワクチンで根絶できたのはこの「天然痘」、たったの1つだというのです。
            

なぜ天然痘だけしか撲滅できないのでしょうか。なぜこの成果が他のウイルス感染症では達成できないのでしょうか。

そう考えると、まずはこのウイルス感染症の特殊性にがぜん興味がわいてきます。

それを調べる前に天然痘ウイルスが属する、「ポックスウイルス科」というグループの特徴について確認しておきたいと思います。

ポックスウイルス科に属するウイルスは、「動物に感染するウイルスの中で最も大きい」と言われており、具体的には大体220-450nmくらいの大きさだそうです。

ウイルスの平均径が0.1μm(100nm)で、新型コロナウイルスの属するコロナウイルス科が80〜160nmくらいの大きさで、

今皆が装着を求められている一般的な不織布マスクに空いている穴の径がだいたい50μm(50000nm)ですから、

ウイルスの中で最大とは言ってもたいした大きさではないということは言えそうです。

それに以前紹介したエボラウイルスが属するフィロウイルス科は糸状で幅80nm、長さが1000nmほどありますので、最大ではあっても最長ではないと言えるかもしれません。

一方で、ポックスウイルス科のウイルスのもう一つの特徴は「二本鎖DNAウイルスである」ということです。

これは新型コロナウイルスが「1本鎖RNA +鎖(プラス鎖)ウイルス」で、遺伝子変異が起こりやすいという特徴を持っているのに対して、

二本鎖DNAというのは、正常の動植物細胞の構造そのものですから、非常に安定性が高いが故に長年生物の歴史の中で受け継がれている遺伝情報の本質的な構造です。

従って、二本鎖DNAウイルスをターゲットにした治療はうまくいきやすいということも言われています。例えば、数少ない抗ウイルス薬が存在するヘルペスウイルス科も二本鎖DNAウイルスです。

二本鎖DNAウイルスであるポックスウイルス科に属する天然痘ウイルスにワクチンが作りやすかったのもそうした背景があるのかもしれません。

そしてもう一つポックスウイルス科に特徴的なのは、「核内に入り込まず、細胞質内で増殖することができる唯一のDNAウイルス」だということです。

これは他の多くのウイルスが感染細胞の核内に入り込まないと増殖できないのに対して、非常に特徴的です。

ウイルスは生物として不完全体であり、宿主の細胞のシステムを借りない限り、自らを増殖させることができないという原理が前提としてあるわけですが、

ポックスウイルス科に関しては、そのウイルスの生物としての不完全性が、他のウイルスに比べて小さいと言えるのかもしれません。

ここまで示してきたポックスウイルスの特徴、「大きい」「安定」「増殖に際し核内に入らなくてよい」というのがそのことを示しているように思えます。


さて、なぜ天然痘というウイルス感染症だけがワクチンで根絶できたのかという疑問を調べるべく、微生物学の教科書を引っ張り出してそれについて書かれた文章を読んでみました。



シンプル微生物学 (日本語) 単行本 – 2011/4/1
東 匡伸 (著)


(以下、p270「Advance1「痘瘡の撲滅」より引用)

(前略)

痘瘡ウイルスはヒトのみを宿主にするウイルスである。

顕在感染率が高く、発症すれば症状から診断が比較的容易に行え、患者がウイルスを排泄する期間は短い。

したがって、確実な診断と患者の徹底した隔離をヒトを対象に行うことによって、感染の拡大を予防することができた。

人獣共通感染症や、潜伏期間や治癒後も長期にわたってウイルスを排泄し続ける無症候性キャリアが存在する疾患では、このような感染予防対策を行うことは不可能である。

(後略。引用、ここまで)



一番大きな理由として挙げられるのは「ヒトのみが自然宿主」という特徴です。

ヒトの中でしか生きられないし、しかも顕在感染率が高いというのです。

今新型コロナウイルス感染症で話題になっているような無症状でも感染している可能性があるということが起こりにくいと、

だから今どこに天然痘ウイルスが潜んでいるかがわかりやすいわけです。ウイルスに感染しているヒトがいればまず顕在感染すると。

天然痘の症状は、高熱、頭痛、腰痛などの後に全身に無数の水疱ができることが知られています。外見上も非常に目立つものなのでこれを見落とすということはまずないでしょう。

しかし、だとすれば一つ疑問が残ります。1796年にジェンナーによってこれを「種痘(ワクチン)」によって予防するという概念が生まれて以降、約200年ほど経過しているわけですが、

もっと早い段階でウイルスが根絶されていないとおかしいのではないでしょうか。

というのも、天然痘ウイルスがヒトの中でしか生きられないのなら、1980年にWHOが天然痘は撲滅されたと宣言されるまでの間に、

天然痘ウイルスはヒトとヒトとの間で感染を繰り返し続けて、(ウイルスにとっての)命のバトンをつなぎ続けていく必要があります。

しかし天然痘ウイルスは顕在感染率が高い、ヒトに感染すると目立った症状が出るのだから、ここに天然痘ウイルスがいるとすぐにヒトにばれてしまいます。

なおかつ天然痘というのは致死率が20〜50%と非常に高いとされる疾患です。そうなると天然痘ウイルスからすれば宿主が死ぬ前に別のヒトへと感染しなければ、根絶の危機に瀕します。

ところが周りのヒトはその目立った症状により接触を避けるようになります。なおかつ「種痘」で予防までされます。

そのような厳しい状況の中で、天然痘ウイルスは200年もの間、どうやって脈々と命のバトンをつないでいくことができたのでしょうか。

そもそもヒトのみが自然宿主なのであれば、ヒトに症状をきたすのはおかしな話です。

例えば、コロナウイルスの自然宿主は諸説ありますがコウモリが有望視されています。しかしコウモリにおいては感染症を発病させず、何らかの原因でヒトに移った時に感染症が発症します。

私はこの状況を臓器移植の拒絶反応と同じような構造だと考えているのですが、

いずれにしても天然痘ウイルスがヒトのみを自然宿主にするというのは、自分で自分の生活の場を壊して自分の首を絞めているようなものです。

そうすると、可能性として考えられるのは、2つです。

1つは「天然痘ウイルスには不顕性感染が実は結構ある」、もう1つは「天然痘ウイルスには実はヒト以外の自然宿主が存在する」というものです。

これらの条件なくして、200年もの間、感染すると顕在化してヒトをかなりの確率で死に至らしめるウイルスが脈々と受け継がれ続けるのほぼ不可能ではないかと私は思うのです。

しかし現実には1976年まで天然痘の患者は発生し続けていました。ということは現在わかっている天然痘ウイルスの特徴がその全容を把握しきれていないと考えるしかありません。特に前述の2つの点においてです。

そしてもう一つ気になるのは、1980年のWHOの天然痘根絶宣言についてです。

これはワクチンを普及させ、症状の目立つ天然痘の患者が数年間全く発生しなくなったことがその根拠だと思いますが、

無症状者に検査を行わずに、根絶したと本当に言い切ることができるでしょうか。

これは不顕性感染がないという前提に立っているわけですが、先程も述べたように不顕性感染が存在しなければ200年もの間、天然痘が存在し続けることは理論的にまず不可能だと思います。

というか、不顕性感染のないウイルス感染症など存在しないでしょう。ウイルスに感染したら宿主の免疫システムとの兼ね合いで顕性感染になるか、不顕性感染になるかが決まるわけですから。

エボラウイルスの考察でも指摘しましたが、致死率が高いとされている病気の致死率が高いのは、重症者しか調べていないからです。

その病気が本当に致死率が高いのかどうかを調べるためには、今新型コロナウイルス騒動をきっかけに行われているように、

症状のあるなしに関わらず、全世界の人に対して不顕性感染者を含めて感染者を拾い上げて、

そのうちの何名が重症化し死亡したのかというデータを取らなければ、真の致死率を測定することはできないでしょう。

新型コロナウイルス感染症もそれに近い世界規模の調査が行われた結果、どんどん致死率は下がっています。

具体的にはアメリカCDCの2020年4月29日時点での発表によれば、全年齢の死亡率は0.4%です。

しかも無差別に人が亡くなっているわけではなく、亡くなっているのは基礎疾患と呼ばれる状態がある人が圧倒的大多数です。基礎疾患が少ないとされる0−49歳に限れば、死亡率は0.05%です。

致死率はインフルエンザ以下という言われ方もよくしていますが、それは本質的ではなく検査を行った人数が圧倒的に多いが故の致死率の低さです。検査で検出できていない感染者も合わせれば致死率はもっと下がるでしょう。

しかし新型コロナウイルス感染症でも少数ながら重症例は確かに存在しています、そしてその点に世界の注目はものすごく偏って集中してしまっています。

要するにその重症化の一部分だけをみて他の圧倒的多数の不顕性感染者を見過ごしているのが天然痘であり、現代の新型コロナウイルスに対するメディアの構造ではないかと私は思うのです。


ただ現実問題として、1976年以降天然痘の患者は世界中でただの1人も報告されていません。

そうすると不顕性感染者がいようといまいと、やっぱりワクチンが効いたことには代わりはないんじゃないかと思われるかもしれません。

しかしこれに関しては私はもう一つ言いたいことがあります。

ですが、長くなりますので、それについてはまた次回の記事で述べさせて頂こうと思います。


たがしゅう
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