BCGワクチンが新型コロナウイルス感染症の重症化を予防しないと私が思う理由
2020/05/17 05:30:01 |
ワクチン熟考 |
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結核の予防目的に行うBCGワクチンに新型コロナウイルス感染症の予防効果があるのではないかという情報を聞くことがありますが、
結論から申しまして実は私は、この仮説に対して否定的な見解を持っています。
というのも、この情報がBCGワクチンを打っている国(特に日本株)での新型コロナウイルス感染症の死亡者が少ないという統計学的な事実が根拠となっているわけですが、
まず、この事象は両者の因果関係ではなく、相関関係を示しているに過ぎません。本当にBCGを打ったから死亡者が少なかったのか、たまたま別の要因があったからなのかがわからない、ということです。
ただそこまではよく言われていることなのですが、私がこの仮説を否定的にみる理由はそこではありません。
今の私のベースとなっている事実重視型思考を用いれば、この仮説が正しいとは到底思えないのです。 事実重視型思考というのは、仮説の立案に際し現実世界に存在するすべての事実にただのひとつとも矛盾してはいけないというスタンスをとる思考方法です。
もしも「BCGワクチンが新型コロナウイルス感染症の死亡を防ぐ」という仮説が真だとすれば、これに矛盾する事実がひとつでも確認されたらその仮説を見直さなければならない、ということになるのがこの方法です。
まず、確かにBCGワクチン接種国と死亡率との関連を見ていると、割と見事な相関を示しているように思えます。
例えば代表的なところで言うと、Coronavirus Updateというサイトによれば、同じ中東地域でBCG接種国のイラクでは100万人あたりの死亡者数が3名であるのに対し、BCG非接種国のイランでは100万人あたりの死亡者数が83名と全く違いますし(※2020年5月16日現在)、
ベルリンの壁の崩壊前に旧西ドイツと旧東ドイツはそれぞれBCGワクチンを前者はソビエト株、後者は西欧株を用いるという政策の違いがありましたが、旧西ドイツに相当する地域の10万人あたりの死亡者数は0.35、旧東ドイツに相当する地域の死亡者数は0.11となっています(※2020年3月27日現在。こちらのサイトより引用させて頂きました)。
どうやら1921年にフランスのパスツール研究所で最初にBCGワクチンが開発され、その時に日本と当時のソビエト連邦に与えられたのがそれぞれ日本株、ソ連株と呼ばれ、これらのBCGワクチン株に新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐ要因があるのではないかと考えられているようです。
ただよくよく見ると、矛盾点もあります。例えば、BCG接種を昔行っていたけれど30年以上前に接種を終了したというスペイン、スウェーデンでは人口100万人あたりの死亡者数がそれぞれ553人、293人と非常に高いですが、
それとほぼ同じ条件でBCG接種を終了したオーストラリアでは、人口100万人あたりの死亡者数は3.8人と非常に低い数値となっています(2020年5月7日現在。こちらのサイトより引用させて頂きました。)。この違いはBCG接種の有無では説明がつかないように思います。
そもそも新型コロナウイルス感染症で重症化し死亡しているのは高齢者です。乳幼児期に接種したBCGワクチンの効果がはたしてそんなに長く残っているのかというのは甚だ疑問だという点もあります。
あと先程のCoronavirus Updateでイランとイラクのデータを見比べてみると、100万人あたりに検査した人の数がイランは8022人で、イラクは3505人となっていました(2020年5月16日現在)。
新型コロナウイルス感染症による死亡と判定されるためには、新型コロナウイルス感染症の検査を受けていないといかなる死亡もそれによる死亡だと判断することは不可能ですので、
検査の実数が少なければ、新型コロナウイルス感染症による死者数が増えるはずもないので、
検査数が少ないイラクが、検査数が多いイランよりも新型コロナウイルス感染症による死亡者が少ないのはある意味で当然のことだと言えると思います。
ただ新型コロナウイルスの検査が陽性であれば死亡者は何が原因であっても新型コロナウイルス感染症による死亡と判定されてしまっている節もありますので、
例えば本当は新型コロナウイルス感染症の検査が偽陽性だったのに、別の病原体による肺炎だと気づかれずに死亡してしまったら、新型コロナウイルス肺炎による死亡と誤ってカウントされているようなケースも十分あるように思います。
その目で旧西ドイツと旧東ドイツの違いも見てみると、
旧西ドイツと呼ばれる領域にはベルリン以外の主要都市(ハンブルク 183万人、ミュンヘン 145万人、ケルン 108万人、フランクフルト 74万人、シュトゥットガルト63万人)がたくさんありますが、
旧東ドイツにはベルリン(人口361万人)以外は都会と呼べるような都市があまりありません。
都市部では検査体制が整っていることが多いので、検査数が増えがちですが、田舎ではそう単純には検査できない実情があると思います。
そうなってくるとあたかもBCG接種が運命の分かれ道となったかのようなデータが出ても不思議ではないように思います。
また何事も因果関係があるのであれば、そのような必然的結果をもたらすメカニズムが存在してしかるべきです。
このBCGワクチンが新型コロナウイルス感染症の死亡者を減らすのであれば、そこにも何らかのメカニズムが存在しているはずです。
その点についてこの仮説の中でよく言われているのは、「BCGワクチンは結核の弱毒菌を入れたものであるが、この接種が自然免疫を活性化させる刺激となり結核以外の病原体全体への抵抗性を高める”trained immunity(訓練免疫状態)”をもたらす」ということです。
私も新型コロナウイルス感染症の重症化の背景に不安/恐怖情報に伴う慢性持続性ストレスによる自然免疫機能の低下を念頭においているので興味深いもっともな説に思えるのですが、
残念ながらその仮説を信じるに値させない事実がすでに観察されています。
もしもBCGワクチンが非特異的な自然免疫システムを全体的に刺激して様々なウイルスに対する抵抗性を高めることができるのであれば、
他のウイルス、例えばインフルエンザウイルスやノロウイルスにおいても、新型コロナウイルスと同様の疫学的特徴をとっていなければ話が合いません。
しかしインフルエンザは日本で普通に大流行するわけですし、
イラクでインフルエンザの感染者数が少なかったというデータも過去を遡っても見当たりません。
ということは少なくともBCGワクチンが自然免疫を高めて病原体全体に対する抵抗力を高めるという説は怪しくなってきます。
それならばBCGワクチンにはインフルエンザやノロウイルスに対する抵抗性は高めないけれど、結核や新型コロナウイルスに対する抵抗性を高める何らかのメカニズムが存在するという方向性で考えなければなりませんが、
この時点でBCGワクチンは自然免疫ではなく、獲得免疫を高めるメカニズムを持つものという話になってくると思います。
ということは結核と新型コロナウイルスの何らかの共通性を考えなければならないわけですが、
これは以前の記事でも書きましたが、私の知る限りウイルスというのは種が異なれば対処も全く異なるはずのそれぞれが独立的な存在であるはずでした。
それがこの新型コロナウイルス騒動になって急に、HIVの薬が新型コロナウイルスに効くかもしれないとか、エボラ出血熱の薬が新型コロナウイルスに効くかもしれないとか、
はたまた最近では、寄生虫の薬が新型コロナウイルスに効くかも知れないといった話まで出てきている始末です。
同種のウイルスであれば共通性を探すのはまだわかりますが、ウイルスの枠さえ超えて細菌(結核)とか寄生虫などと共通点があるとは随分違和感のある話です。
そうなってくると病原体に共通点があるのではなくて、病原体に抗する身体システムの反応に共通点があると考える方が妥当で、
それぞれは意図せずして病原体を攻撃する側面ではなく、宿主のサイトカインストームを間接的にブロックしているが故にある病原体に特異的なはずの薬が、別の病原体にも効いているかのような現象が起こると考える方が合理的なのではないでしょうか。
そう考えると、BCGワクチンが新型コロナウイルスにも効果を現すメカニズムとしてはやはり自然免疫を賦活するシステムである必要がありますが、
先程のインフルエンザウイルスやノロウイルスに対する効果が確認できないという事実を受けて、自然免疫を賦活する可能性はすでに否定されています。
よって、「BCGワクチンが新型コロナウイルス感染症の重症化を予防するという説は否定的」と私は考えます。
このように事実重視型思考はいかなる事実との矛盾をひとつたりとも許さない思考方法です。
私の考察が正しければ、現在進められているというBCGワクチンによる新型コロナウイルス感染症の予防効果の有無をみる臨床研究は否定的な結果が出るということになるはずですが、さぁどうでしょうか。
そもそも、新型コロナウイルス感染症における疫学データはPCR検査の不正確性や不安/恐怖情報の蔓延による国家戦略の混乱によってその信頼性は非常に危ういものだと私は考えています。
その疫学的データをもとにしたBCGワクチンの話に関してはあまり過剰な期待を寄せずに、万が一効いていればラッキーだったくらいの認識でいたほうがよさそうで、
もっと確かな事実を元に、現実的な対策を考えていく必要があると私は考えています。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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