慢性持続性ストレスが炎症性疾患を引き起こす構造

2020/05/14 11:15:00 | ウイルス再考 | コメント:2件

「自己」の名札に相当する「HLA」は「自己」を「非自己」から守るための砦の役割をしている分子だと、

それゆえ「HLA」の適合具合によって、ある分子に対しては受容的に働き、別の分子に対しては攻撃的に働くという状況がありうると思います。

そしてこの「HLA」の働きを支える実働部隊がNK細胞を中心とした自然免疫システムであり、

この自然免疫システムは不安/恐怖情報などによる慢性持続性ストレスによって機能停止する可能性が高いため、

新型コロナウイルスという分子に対して「HLA」が不適合な人種では「非自己」と認識されて排除されるはずの自然免疫システムが働かず、

「HLA」の違いは人種間で重症化率の差を生み出しているという可能性について前回記事で述べました。

一方でこの「HLA」についてもう一つ、医者として知っているもう一つ重要な事実があります。 それは特定の「HLA」のハプロタイプを持っている人にかかりやすい病気がある、という事実です。

有名なものとしては、HLA-B27を持っている人に多い「強直性脊椎炎」と、HLA-B*51を持っている人に多い「ベーチェット病」が挙げられます。どちらも原因不明の炎症性疾患です。

ただ両者の間で特徴にはかなり差があり、HLA-B27を持っている人の90%は「強直性脊椎炎」になると言われていますが、

HLA-B*51を持っている人で「ベーチェット病」を発症する頻度は1/1500、実に0.00066%です。

またベーチェット病の多発地帯は北緯30〜45度の地域に集中しており、この範囲に入っていないアラスカや中央アフリカではHLA-B*51が高頻度であるにも関わらずベーチェット病の発症者情報がほとんどないということもわかっています。

要するに病態形成に決定的なHLAハプロタイプもあれば、そうでもないHLAハプロタイプもある、ということになりますでしょうか。

しかしいずれにしても「HLA」の役割というものを考えた場合に、

何かしらの外部の分子に反応して正常に機能すれば速やかに排除されるものが、何らかの原因でそのHLAによって始まる本来の働きが果たせなかった時にその分子と親和性の高い細胞や組織で炎症が延々と起こり続けるという、

今回の新型コロナウイルス感染症に対して私が得た考察がこうした原因不明とされる炎症性疾患にも該当するのであれば、

これらの原因不明の炎症性疾患においても知らないうちに「HLA」と不適合の何らかの分子と知らず知らずのうちに接触していて、

本来であれば正当に排除されるはずの異常分子が排除されずに延々と炎症を起こし続けていると、

そしてその背景には自然免疫を働かなくさせている慢性持続性ストレスの存在があるという風に考えることができるかもしれません。

そのきっかけとなる分子が今回の騒動のようなウイルスなのか、あるいは寄生虫なのか、はたまた食事中の成分なのか、食品添加物なのか、それはわかりませんが、

もしも新型コロナウイルス感染症と同じような病態なのだと仮定すれば、本当に対処すべきは自然免疫システムの機能を停止させ「HLA」を機能させなくする慢性持続性ストレスの方だということになってくると思います。


もう一つ、重要な概念として1999年頃から浮上してきた「自己炎症性疾患」という概念があります。



医学のあゆみ 自己炎症性疾患 -病態解明から診療体制の確立まで 2018年 267巻9号 12月第1土曜特集[雑誌] (日本語) 雑誌 – 2018/11/30

「自己免疫疾患」という似たような疾患概念がありますが、これとは異なる疾患概念です。

端的に言えば、自然免疫システムの異常が自己炎症性疾患で、獲得免疫システムの異常が自己免疫疾患ということになります。

それで言うと、ここまで私が考察してきた新型コロナウイルス感染症で想定してきた病態は、広い意味で「自己炎症性疾患」のカテゴリーに入ってくる可能性があると思います。

ただ、一般的に「自己炎症性疾患」と呼ばれる疾患概念は、遺伝子の異常で自然免疫システムに支障をきたす遺伝性疾患のことを指していて、

具体的には家族性地中海熱(FMF)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、高IgD症候群などがあり、遺伝子解析技術の向上により現在では約30の疾患が判明しているようです。

しかしこの自然免疫機能の低下という現象が、遺伝によってだけではなく、慢性持続性ストレスを通じて後天的にも起こりうるのだとすれば、

自己炎症と呼ばれる病態はもっと広く普遍的に存在していて、

少なくとも今新型コロナウイルス感染症で重症化してサイトカインストームを呈しているような状態の人は

言わば「後天的な自己炎症性疾患」とでも言える状態に陥っているのではないかという考えが芽生えてきます。

ちなみに先程のベーチェット病には、自己炎症性疾患の要素と自己免疫疾患の要素が両方含まれているのではないかという事がわかってきています。

考えてみれば自然免疫システムの低下と言いながらも、実際に患者に起こっている現象は慢性持続性炎症です。

ひょっとしたらベーチェット病に限らず、自然免疫系の機能低下と獲得免疫系の過剰亢進はセットで起こっているのかもしれず、

すべての原因不明の炎症性疾患はそのグラデーションでしかないのではないかという可能性さえ浮上してきました。

そしてまるで病気のすべてを決めているかのように思える「HLA」のハプロタイプは、あくまでも何によって炎症が出やすいか、また炎症が出た場合にどこに出やすいかという個性を表すに過ぎず、

たとえ「HLA」が何であっても、慢性持続性ストレスをきたさないようにストレスマネジメントがうまく出来ていれば、

相手が「HLA」と適合すれば仲間として受け入れる(キャリアや潜伏に相当)、相手が「HLA」と不適合であれば異物として速やかに排除する(無症状や軽症者に相当)というシステムがきちんと機能するのではないか
と、

逆に慢性持続性ストレスがうまくマネジメントできない場合には、

「HLA」が「適合」した際に分子を受け入れながら、一方であたかも「不適合」かのように異物とも判定してしまう誤作動も一緒に起こることによって炎症が延々と起こり続けてしまうのではないか
という仮説が成り立つように思います。

その辺りが、新型コロナウイルス感染症の重症化率の人種差にも影響しているのかもしれません。

・・・なんだか「HLA」を通じてあらゆる謎の炎症性疾患がひとつにまとめられそうな気がしてきました。

しかし調べれていくと「HLA」の疾患への関与はその炎症性疾患にも留まることなく、

さらに広がっていきそうな感じがするので、引き続き考察を深めていこうと思います。


たがしゅう

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コメント

No title

2020/05/14(木) 14:13:56 | URL | Etsuko #-
いつも興味深い記事をありがとうございます。

私は、医学的に詳しい事はよく分かりませんが、こう思いました。

HLAは、先祖代々と両親の人生経験から記録された情報、子へ渡す「微生物」に関する「手引き書」ではないかと思います。

子は、この手引き書を元に、共生微生物と、病原性微生物を知る。先祖代々受け継いだ情報でも、今の時代に合わない情報もあるかも知れません。手引き書の内容は柔軟に変化するものです。子の食を含めた生活習慣によって、情報は大きく書き換えられ、また子孫へ引き継がれます。

ヒトが生まれてから、いつ頃、どの様な微生物と接触したかが、HLAの情報に大きく影響すると思います。

「いつ」「どのような」というのが、大切なキーワードだと思います。

正しいかどうかは分かりませんが、例えば幼い頃に、ヘリコバクターピロリ菌に感染した場合は、自己免疫が過剰にならず(抑制型のT細胞が正常に機能)に共生できる。ガンにならない。

でも、ある程度成長し、ピロリ菌に感染した場合、自己免疫が暴走し(抑制型のT細胞が働かない)ピロリ菌以外の正常細胞を過剰に攻撃し、正常細胞のDNAが傷つき、ガンになる。

微生物と免疫のバランスが上手くいかない事による病気は、想像以上に多いと思います。

ヒト、ウシ、パンダ、コアラ・・・動物はみな、微生物との共生無しでは生きていけません。

植物も例では無いです。植物は、化学物質という言語を使って、微生物とやりとりしています。根から炭水化物を出し、共生微生物にを与え、病原性微生物の侵出を防いでいます。

これからは、見えない世界にこそ注目すべきだと思います。

Re: No title

2020/05/14(木) 14:37:25 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
Etsuko さん

 コメント頂き有難うございます。

> HLAは、先祖代々と両親の人生経験から記録された情報、子へ渡す「微生物」に関する「手引き書」ではないかと思います。

 とてもわかりやすく的を射た表現に思いました。
 「先祖はこんな事で苦労してきたから、参考にしながら生きていってほしい」という想いが分子生物学的に込められていると言ってもよいのかもしれません。

> 微生物と免疫のバランスが上手くいかない事による病気は、想像以上に多いと思います。
> これからは、見えない世界にこそ注目すべきだと思います。


 「量的に微生物とのバランスを崩すのが食事や抗生物質など消化管にいれる何らかの異物」、
 「質的に微生物とのバランスを崩すのが慢性持続性ストレス」
という言い方もできるかもしれませんね。
 
 見える世界はこれまでも十分に検討されてきていると思います。それでも病が増え続けるのは見えない世界がないがしろにされているためではないかと私は考える次第です。

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