自分が自分であるために必要なシステム
2020/05/12 18:00:00 |
ウイルス再考 |
コメント:2件
新型コロナウイルス感染症における日本人の死亡者が世界に比して少ないという事が以前より指摘されています。
私の主たる考えは「不安/恐怖情報が免疫系の、特に自然免疫におけるオーバーヒート状態をもたらし重症化に寄与する」というものなのですが、
この考えは世界各国それぞれの文化的価値観や制限環境によってどれくらい人々へ不安/恐怖感情が駆動されやすいかと違いによって重症化の割合が国単位で変わってくることについても一定の説明がつけられるのですが、
それにしても日本人の世界と比べた時の死亡者の少なさは特筆すべきものがあるように思えますので、
ここに後天的なストレス要因以外の、何かしらの先天的な要素が同時に存在する可能性も否定できないように思えます。
そんな中で私がウイルスに対する総見直しを図っている中で、一見の価値ありと思えた仮説が「HLA仮説」というものです。 HLAというのは「ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antige)」の略で、もともとは1954年に「白血球の血液型」として認識されてきた白血球表面に存在している分子です。
ところが研究が進んで2000年代に入り、このHLAは白血球のみならずすべての細胞に存在するということがわかり、単に白血球の血液型というよりも、「細胞の個性」を表現する細胞膜上の分子だという認識に変わってきました。
これが実は、ウイルス再考の過程の中で出てきたMHC(major histocompatibility complex;主要組織適合遺伝子複合体)という物質と同じものであることがわかりました。
「細胞の個性」ということは細胞の集団で構成された「人間の個性」でもあり、まさにその人ならではの特徴を表す「名札」的な要素だということができるでしょう。
「名札」が存在する最大の目的は「自己と非自己(他者)の区別」です。
この「名札」があることによって、「自己」と同じ性質のものに対しては免疫系を作動させないようにすることが可能となります。
逆に「非自己(他者)」に対してはNK細胞をはじめとした自然免疫のシステムが働いてこの異物が排除されるという流れとなり、「自己」の恒常性が保たれる仕組みとなっています。
そしてこのHLAは一人の細胞に1種類しかないわけではなく、ヒト遺伝子の第6染色体の短腕にMHCの解説の時にも出てきたクラスⅠとクラスⅡをコードする遺伝子座が存在しています。
クラスⅠをコードする遺伝子座にはA座, B座, C座が存在し、クラスⅡをコードする遺伝子座にはDR座、DO座、DP座が存在しています。
これらのA, B, C, DR, DQ, DPの座のそれぞれに数十種類の異なるタイプがあるのですが、
その組み合わせによって生じるハプロタイプ(父母それぞれから受け継いだ遺伝子座の一対)の組み合わせは数万通りともいわれています。
このハプロタイプは人種によってある程度一定の傾向が認められていて、
例えば日本人に多いハプロタイプは2011年9月現在の742家系(2895人)の調査で次のように表現されています。
第一位「A*24:02-C*12:02-B*52:01-DRB1*15:02-DQB1*06:01-DPB1*09:01」(日本人の7.01%)
第二位「A*33:03-C*14:03-B*44:03-DRB1*13:02-DQB1*06:04-DPB1*04:01」(日本人の2.90%)
第三位「A*24:02-C*07:02-B*07:02-DRB1*01:01-DQB1*05:01-DPB1*04:02」(日本人の2.59%)
このような形で、例えば同じ日本人であっても、すべての遺伝子のDNA塩基配列やその発現部位はひとり一人で異なっていたとしても、
HLAのハプロタイプは共通しているというパターンがありうるということを示します。
別の言い方をすれば、このHLAというのは「自然免疫がどのような異物に反応しやすいかを表す、ある程度人種で間で共通傾向を示す分子」ということができます。
そんなHLAのハプロタイプのパターンが新型コロナウイルス感染症のかかりやすさに関係しているかもしれないとする興味深い論文があったので、
大変難しい内容でしたが、私なりに読解してみることにしました。
Austin Nguyen, et al. Human leukocyte antigen susceptibility map for SARS-CoV-2. J Virol. 2020 Apr 17. pii: JVI.00510-20. doi: 10.1128/JVI.00510-20. [Epub ahead of print]
この研究をかいつまんで説明すると、新型コロナウイルスを構成する分子の中である程度の大きさを有して抗原となりうるものをすべてデータで洗い出して、
さらに世界中の人種のHLAデータ(101カ国805の異なる集団、2628の異なるメジャー/マイナー対立遺伝子、20,478の異なるハプロタイプ)とコンピュータ上でマッチングさせ、
新型コロナウイルスの成分と結合親和性の高いHLAのハプロタイプは何かということを推定したという内容です。
その結果、HLA-A*02:02、B*15:03、C*12:03が含まれるハプロタイプの人は新型コロナウイルスに対する免疫システムが働きやすい可能性が高く、
HLA-A*25:01、B*46:01、C*01:02が含まれるハプロタイプの人は新型コロナウイルスに対する免疫が働きにくく、重症化しやすい可能性があるということが示されています。
特にHLA-B*46:01にいたっては、同じコロナウイルス感染症であるSARSでも重症化の要因であることが過去の論文で指摘されています。
これでもし日本人にはHLA-B*46:01が少なくて、HLA-A*02:02、B*15:03、C*12:03などが多く認められるという結果であれば話は早かったのですが、残念ながら、そうとも言い切れないデータでした。
むしろ重症化要因とされるHLA-B*46:01を含むハプロタイプは、日本人に多いハプロタイプの上位10の中の第6位と第8位にランクインしています。
ただ第6位の保有頻度は0.86%、0.69%とそれでもかなり低めの数値なので、上位だからといって日本人の大部分を占めているわけではありませんし、
第11位以下のデータは入手できず、全体としてHLA-B*46:01の保有者が日本人の中にどれだけいるのかは結局わからないので、結局は何とも言えないデータです。
しかも実際の新型コロナウイルス感染で相性が確認されたというわけでもなく、あくまでもコンピュータ上で立体構造などのデータから結合親和性を推定したという話なので、現実世界でどうなるかは何とも言えません。
そんな不確かな報告の論文なのに私がなぜこのHLA仮説に可能性を感じているかといいますと、
まずHLAは民族によって一定の傾向が認められるということがあります。
そしてこの論文の中で書かれていたHLA-B*46:01の保有者が新型コロナウイルスで重症化しやすいとされるその理由です。
それはHLA-B*46:01が新型コロナウイルスに結合できる予測値が最も少なかったからだ、というのです。
おそらくこれは結合できない事によってそのウイルスを攻撃する免疫システムが作動できない、だから重症化してしまうのだと考えられているからだと思いますが、それは解釈が逆なのではないかと思います。
HLAというものは、先程も述べたように「自己と非自己を区別する」ことをしています。
HLAに結合できるということは、その物質を少なくとも接触した時点では「自己」だと認識しているということです。
この「自己」要素が少ないウイルスは、すなわち「非自己(他者)」と判定されて自然免疫によってただちに排除されてしまうはずです。
ところが実際にはこのHLA-B*46:01を持つ人に対して新型コロナウイルスが感染すると重症化してしまっているというのが真であるならば、
その人には自然免疫システムが働いておらず、「非自己(他者)」要素が少ない相手であるにも関わらず、わずかな「自己」の要素を指標にして体内に取り込んでしまい、
そこから先はいつまで経っても「異常な自己」を判定することができず、
「異常な自己」からとめどなく生み出される「非自己(他者)」的な要素を持つ増殖した子ウイルスによって駆動される免疫システムの過剰駆動によってサイトカインストームが引き起こされてしまう、という流れに至るのではないでしょうか。
そしてHLA-B*46:01で推定されたこの特徴が、現実世界では日本人集団には少なくて、欧米人で比較的高度に保存されている何らかのHLAハプロタイプであれば、
ベースラインで新型コロナウイルス感染症の死者が同一人口比で一回りも二回りも桁が違う死亡率になるということの説明がつくようにも思うのです。
そして私がさんざん新型コロナウイルス感染症の重症化要因として注目し続けてきた「慢性持続性ストレス」というものは、
自然免疫のシステムを働かさせなくする要因であり、その本質は「自分が自分であることに気づかなくさせる要因」であるという所にあるようにも思えてきました。
主体的医療のラインに乗らない病気がこじれた人達はすべて病気の原因を外に求め、その外部要因によって常に翻弄されてしまっています。
それはあたかも「自分を見失った」かのような状態であり、自然免疫システムが駆動できなくなった人とリンクするような気がします。
・・・個人的に全く別角度でウイルスについて考えてきたことが、
「MHC=HLA」という形でつながった時に、ウイルス感染症の本質に一歩近づけたような気がしました。
そしてこの考えはウイルス感染症にとどまらず、すべての病気につながっていくように思えます。
引き続き事実を重視しながら、この考察を深めていきたいと考える次第です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ストレス
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20200513-00000004-ann-int
事の真偽や、事実関係がどこまで信憑性があるのかは不明ですが、新型コロナウイルスに感染するかも知れない、というストレスだけでも体調が著しく悪化し、ついには死亡してしまう可能性はあるのかも知れませんね。
この事で昔よく冗談で、3年殺しなどと言って、どこか秘孔をついて3年後に必ず死ぬと言ってたら本当に死んでしまったという話を思い出しました。それこそ真偽不明な話ですが、たがしゅう先生の話を読んでいるとあながちまったくのホラ話とも思えなくなってきました。
Re: ストレス
コメント頂き有難うございます。
私の事実重視型思考では起こっている事実を重視します。
その事実の確認の優先度が自分>親しい他人>親しくない他人(科学)>親しくない他人(非科学)となっているので、場合によっては非科学的な内容であっても優先順位によって受け入れることができるというのが特徴です。
その結果、ストレスが体調に与える影響を重要視するという行動に至っています。
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