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過剰な免疫反応を駆動する真犯人

category - ウイルス再考
2020/ 05/ 09
                 
前回の記事で、致死率80−90%と言われる重症ウイルス感染症のエボラ出血熱の致死率の正確性に疑問を呈しましたが、

一方で私は確実に致死率が90%以上となる病態をきたす現象として、ひとつ知っているものがあります。

それは「輸血後GVHD」です。

「GVHD」というのは、「Graft-Versus-Host Disease」、日本語では「移植片対宿主病」と訳されます。

移植医療でよく知られている病態で、例えばAさんの肝臓を別のBさんに移植しようという時に、移植する側のAさんの肝臓を「移植片(Graft)」、移植を受ける側のBさん自体のことを「宿主(Host)」と呼びます。

そしてその移植片が宿主を強烈に攻撃する現象のことを「GVHD」というわけです。
            

「あぁ、いわゆる『拒絶反応』のことか」と思われるかもしれませんが、違います。

GVHDはAさんの肝臓がBさんを攻撃するのに対して、拒絶反応はBさんがAさんの肝臓を攻撃する現象のことです。

いずれも「自己」の細胞が、新しく入ってきた細胞を「他者」と認識することによって免疫システムが駆動し炎症反応が惹起されるという現象ですが、

移植医療ではこのGVHDや拒絶反応を起こさないようにするために、「他者」の中でもなるべく「自己」に近い細胞や組織、臓器を選び、なおかつ移植を受ける側の人に対して免疫抑制剤を使用することによってこの生存に不利な現象を起こさないように工夫がなされています。

そのGVHDの中の血液を移植、すなわち輸血をした際に起こるもののことを「輸血後GVHD」と呼ぶのですが、

この輸血後GVHD、なんと実は一旦発症すると致死率は80−90%どころか、99.9%死亡に至るとされている恐ろしい現象なのです。

というのも、この輸血後GVHDを起こしている本態は輸血する血液の中にある「リンパ球」であり、

このリンパ球が移植先の宿主を「非自己」と認識する核となる細胞であるために、リンパ球を大量に含む「輸血」という移植手段では強烈なGVHDが起こってしまうのです。

「え?でも輸血って医療の中では一般的に行われているんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、

実は一般的な輸血製剤では、このような輸血後GVHDという現象の理由がリンパ球の残存にある事がわかっているので、

リンパ球の機能を失わせるために「前もって放射線を当てておく」という事が行われています。

この前処置が行われるようになって、輸血後GVHDの発生率は0%に近いくらい格段に減ったので、このメカニズムの解明は医学的に大きな価値があったと私は感じています。

一方で放射線はがんの治療としても使われているように細胞を死滅させる作用があるわけですが、

そんなことをしたら、リンパ球だけでなく、輸血で届けたい赤血球や血小板、あるいはリンパ球以外の白血球(顆粒球など)も根こそぎ死んでしまうのではないかと思われるかもしれませんが、

そこは放射線の当てる量を15〜50Gyくらいに調節することで、リンパ球だけが死に、他の血球細胞は生き残るという状態を作ることができるということがよくわかっているようです。

ちなみに輸血以外の移植、冒頭の肝移植の例でもGVHDや拒絶反応は起こるわけですが、移植片にリンパ球がたくさん含まれているわけではないので、輸血後GVHDの99.9%ほど高い致死率にはなりません。


さて、致死率が高い病態というだけで、一見ウイルス感染症とは全く関係なさそうなGVHDを紹介するような流れとなりましたが、これがどうも関係してくるのです。

というのも、ウイルスには「自己」的な要素と「他者」的な要素とがあるということを以前の記事で述べました

ウイルスに「自己」的な要素があるからこそ、ウイルスは「自己」と同種の宿主細胞に「感染」という形で入り込むことができ、「他者」的な要素があるからこそ、その「感染」が成立した後に自然免疫システムによって排除されるわけです。

そしてその際、「自己」であるかどうかの判定の鍵を握っている分子が、MHC(major histocompatibility complex;主要組織適合遺伝子複合体)と呼ばれる細胞膜表面にある糖タンパク質でした。

少しおさらいをしておくと、MHCにはクラスⅠとクラスⅡの2種類があって、
MHCクラスⅠというのはすべての有核細胞に存在して、「自己」であることを証明する要
MHCクラスⅡというのは外敵と認識した病原体を貪食したマクロファージなどの抗原提示細胞のみが貪食後に細胞膜表面に発現させる、「他者(非自己)」が入ってきたことを示す要、ということでした。

そして抗原提示細胞がMHCクラスⅡを通じて「他者」が来たことを伝えて、その後の炎症反応を駆動させるという重要な役割を果たす相手がここまでGVHDで話題となった「リンパ球」であるわけです。

リンパ球には「液性免疫」を司るBリンパ球、「細胞性免疫」を司るTリンパ球、「自然免疫」を司るNK細胞とがありました。

こうしたリンパ球がいることが致死率ほぼ100%のGVHDの発症原因で、一方でウイルス感染症は免疫を含む自己システムのオーバーヒート・・・何かつながってくるように思いませんか。

すなわち、ウイルス感染症における重篤化状態である「サイトカインストーム」は、もしかしたらGVHDの病態とリンクするのではないかと私は思ったのです。


順を追って流れを説明すると、つまりこういうことです。

ウイルスが細胞膜表面の何らかの物質を利用して宿主細胞内にすんなりと入り込めるということは、この時点で身体はウイルスを「自己」と、すなわち自分と同じ仲間だと判定していることになると私は思います。

そこにはもしかしたらウイルス側に宿主にとっての「自己」を示す名札、MHCクラスⅠと類似の物質が存在するという事があるのかもしれませんが、ここは定かではありません。

しかし本当は「自己」ではないウイルスは細胞内で遺伝子増殖システムを借りようとする際に、宿主細胞の細胞分裂とは違うことによってほころびが生じて宿主細胞内ではMHCクラスⅠ分子の発現が低下するという現象が起こります。

MHCクラスⅠは「自己」の名札ですので、これがなくなれば急にその宿主細胞は「非自己」と判定されます。そのようにもともと自己だったけれど「非自己」化してしまった自己細胞が現れると、

NK細胞を中心とした「自然免疫」システムが働いて、このウイルスが感染した宿主細胞はNK細胞から分泌されるグランザイムやパーフォリンといった酵素で破壊されます。

ところが、何らかの原因でこの「自然免疫」システムがうまく働かないような状況におかれると、このウイルスが感染した宿主細胞はウイルスにとって安全な子ウイルス増殖の場となります。

子ウイルスはやがて細胞外に出て、ここで子ウイルスが「自己」と判定されれば同様のウイルス増殖が繰り返されるだけですが、

増え続ければいつかウイルスの「他者」的な要素がマクロファージなどの抗原提示細胞につかまって、MHCクラスⅡを介してBリンパ球主体の「液性免疫」やTリンパ球主体の「細胞性免疫」を併せた「獲得免疫」システムによって攻撃を受けることになります。

しかし大元の親ウイルスは細胞内に相当するウイルス感染宿主細胞の中で安全に過ごしているので、

叩いても叩いても次から次へと安全な感染細胞の中から子ウイルスが出てくるので、いくらBリンパ球やTリンパ球が頑張っても叩き切れません。

その結果、延々と炎症反応が起き続けて、ひいては宿主を死に至らしめるサイトカインストームが起こっているのだとすればどうでしょうか。

輸血後GVHDにしても、サイトカインストームにしても、「他者」的な要素に対する過剰なまでの攻撃反応がその本質にあると考えることはできないでしょうか。

そして輸血後GVHDの場合は、その過剰駆動の原因はあまりにも多く「他者」的要素が存在することにあるのではないかと思いますが、

ウイルス感染症の場合、そのような状態を作る最大の原因は「異常な自己」を異常だと感じるための「自然免疫」システムが喪失してしまうことにあるのではないかと考えることができます。

逆に言えば「自然免疫」がきちんと働いていれば、新型コロナウイルスに感染しても重要化しないということです。

そこで「自然免疫」とは何かということをもう一度考え直してみますと、

原始の生物にも備わっている基本的な免疫システムで、「異常な自己」を処理してくれるNK細胞以外に、好中球、マクロファージ、樹状細胞といった免疫担当細胞が「他者」的な病原体を貪食したり、酵素で攻撃したりしてくれることで成り立っています。

一方でこの「自然免疫」システムの調節方法についてはわかっていないことも多いですが、

わかっていることとしては、交感神経が緊張すると好中球が活性化して、リンパ球の活性が低下するということ、

もう一つは、「笑い」を感じられる心理状態では「自然免疫」の要であるNK細胞を活性化させるということです。

ここから推定されることは、「自律神経を交感神経過緊張状態にさせ続ける慢性持続性ストレスは自然免疫のシステムを喪失させる可能性がある」ということです。

そう考えると、「獲得免疫」は成人に比べて構築されていないはずの新生児や乳幼児で重症化例が出ていないことにも矛盾はないように思いますし、

ただのかぜがECMOでも救えないほどの重篤化へとつながりうるということの説明にもなるように思いますし、

何よりこの不安/恐怖情報のあふれる今の世の中おいて、そのような重症化症例が急増するようになった事実とも合致するように思えます。


なお、新型コロナウイルス関連情報の中で「HLAのタイプが新型コロナウイルス感染症の重症化に関わっているのではないか」という話があって、

そのことが日本人の死亡者が少ないという結果に寄与しているのではないかという意見も出てきています。

HLAというのは、ABO式でおなじみ血液型が「赤血球の血液型」であるのに対し、「白血球の血液型」と称される分子のことですが、

実はHLAは「自己」の名札たる「MHC」と全く同じものです。

ウイルスが「自己」と認識されやすいかどうかの宿主側の性質が、HLAのタイプによって変化するのでしょうか。これは一考の価値がある情報です。

次回はその辺りについて私なりに考察を深めてみようと思います。


たがしゅう

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