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私達は科学的根拠を求めていなかった

category - よくないと思うこと
2020/ 05/ 07
                 
「レムデシビル」という致死率の高い感染症として知られるエボラ出血熱の原因とされるエボラウイルスの治療薬として開発された抗ウイルス薬が、

新型コロナウイルス感染症の重篤例に対して使用できる薬として緊急承認されるというニュースが流れました。

この「レムデシビル」、ネット上の声を聞いていると抗インフルエンザ薬「アビガン(ファビピラビル)」と並んで医療の中で使用できるようになることを歓迎する声が圧倒的に多いように見受けられます。

私は以前の記事で「アビガン」を絶対に飲まないという意見を述べましたが、

「レムデシビル」も基本的に「アビガン」と同じような作用機序(RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害)の薬なので、当然私はこの薬も飲まないし、患者さんに使用したくないわけですが、

ここで改めて思うことは「科学的根拠に基づく医療(EBM)は一体どこにいったんだ」ということです。
            

EBMの概念が台頭するようになった1990年代以降、薬が出てくるまでの過程として信頼度の高い医学研究論文の存在が重要視されてきました。

それまでの時代の医師の経験知的な薬剤使用の方針を戒め、科学的根拠をもって薬の選択を行うべきであること、そうすることで最大多数の患者へ恩恵をもたらすことができるようになるというのがこのEBMの骨子となる考え方でした。

勿論、信頼度の高い論文はあくまでも参考資料であり、それを盲信することを推奨するものではないという柔軟性もEBMの概念には包含されています。

ただ結構、結局は医学論文ベースで作られたガイドラインに妄信的に従う医師が多数派なので、その柔軟性が現場ではあまり活かされていないというのが現代医療の実情であろうと感じる所です。

そのガイドライン至上主義に対する批判はひとまず置いておくとして、今回の「レムデシビル」に関しては、その医学論文でさえまだまともに「効果がある」ということを実証しきれていない状況です。

レムデシビルには確かに新型コロナウイルスの増殖を抑制する効果は基礎研究レベルで確認されていますが(Wang M, Cao R, Zhang L, et al. Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro. Cell research 2020; 30(3): 269-71.)、

一方でそれを実際にプラセボと比較して効果を比較した論文では明らかな治療効果が確認できていません(Yeming Wang,et al. Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. The Lancet, Published : April 29, 2020)。

それどころか、肝機能障害、下痢、皮疹、腎機能障害などの頻度が高く、重篤な副作用として多臓器不全、敗血症性ショック、急性腎障害、低血圧が報告されている薬でもあります。

言わば科学的に見て(本当は統計学的に見てとほぼ同義ですが)、効果があるかどうかまだ実証されていない、もしかしたら逆に患者に害をもたらすかもしれない「検証道半ばの薬」です。

それなのに「重篤例には効果をもたらすかもしれない切り札的な薬」という認識にいつの間にかすり替わってしまっています。

そして科学的根拠がまだ明確でない状況にも関わらず、この薬を使用することを認めようという所まで実現してしまっています。

あれほどこだわっていた科学的根拠はどこにいったんだという肩透かし感が半端ではありません。

勿論、緊急時だから承認を急ぐという論理はわかります。けれどそれは科学的根拠の創出を急ぐというプロセスであるべきで、

「科学的根拠のない薬を、科学的根拠のある薬として急いで使用を認める」というプロセスであってはならないはずです。

私は漢方薬を使う医師なのでよくわかりますが、科学的根拠のない薬は現代医療の中で一貫して低い価値のものとして扱われ続けてきているのです。

それでも私が漢方薬にこだわるのは、「実際に患者に効くという現実があるから」に他ならず、それはEBMが否定した「経験知」の領域でもあるわけですが、

「レムデシビル」に関しては、その「実際に効果がある」という事実の真偽さえ定かではありません。それなのに「レムデシビルは急いで承認しよう」という流れに誰も疑問を持ちません。

漢方薬はまだいい方で、なぜ漢方薬が効くのかというメカニズムが西洋医学的にも次第に解明されつつあるので少しずつ理解がされてきていますが、

そういう「メカニズムはわかっていないけれど何故か効く」というその他多くの補完代替医療と呼ばれる領域の治療法に関しては目も当てられないほどにひどい扱いを受けている治療法も数多く見受けられます。

それぐらい科学的根拠を重視してきた世界であるはずなのに、今回の「レムデシビル」は一足飛びで科学的根拠の創出作業の省略が容認されています。

そして世間もその風潮に疑問を感じることなく、そのプロセスがスピーディであることを歓迎する人達が圧倒的多数となってしまっています。

なぜRNA依存性RNAポリメラーゼがウイルスだけではなく、人間にとっても必要な酵素であるという科学的事実が注目されないのでしょうか。

なぜ「レムデシビル」がまるでウイルスだけを攻撃している薬かのように紹介されてしまうのでしょうか。

私達、特に医療者は、結局科学的根拠なんか求めていないのではないかと私は思います。

私達が真に求めているのは、「科学の安心感」なのだろうと思うのです。

極端に言えば、科学的な根拠がなかったとしても、「科学的にきちんとしていそうだ」というイメージであったり、

「科学的に実績のある今までのやり方で間違いない」という感覚さえ与えることに成功できれば、

人々は科学的な安心感に包まれて満足することができるのではないかと思うのです。

そう考えない限り、今回のレムデシビル緊急承認は今までのEBMの考え方でいくとあまりにも非合理です。

人間がいかに合理的に動けない存在であるかということを改めて痛感させられる次第です。


たがしゅう

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