なぜウイルスは重複感染しないのか
2020/04/29 11:30:00 |
ウイルス再考 |
コメント:3件
以前から冬に流行する二大ウイルス感染症としてインフルエンザウイルスとノロウイルスの存在が知られていますが、
この「インフルエンザウイルスとノロウイルスが同時に感染してしまうことはあるのか」という質問をされる事がありますが、結論から言えばそういうことは「基本的にない」と言われています。
なぜならばウイルスには「ウイルスの干渉現象」と呼ばれるものがあるからです。
「ウイルスの干渉現象」とは、1個の細胞に複数のウイルスが感染したときに一方あるいはその両方の増殖が抑制される現象だとされています。
しかし考えてみればこの現象、大変不思議な現象です。なぜならば同じ病原体でも細菌であれば重複感染することはあるからです。
何故ウイルスに限っては1種類のウイルスしか増殖することができないのか、今回はその疑問に迫ってみたいと思います。 ウイルスの干渉現象のメカニズムとしては、まず一方のウイルスが吸着に必要なレセプター(受容体)を占領あるいは破壊してしまうために他方のウイルスが吸着することができなくなる、ということが言われています。
しかしこれはちょっとおかしな話です。例えばインフルエンザウイルスが細胞内に入り込む時の受容体はシアル酸を末端に持つ糖鎖で,ウイルス表面にあるヘマグルチニン(HA)が関わっていると言われています。
一方で今話題の新型コロナウイルスの受容体はACE2という分子であることがわかっています。
両者は全く違う分子なので、1つのウイルスが同じ分子を取り合うという現象は起こりえないはずです。
従ってインフルエンザと新型コロナウイルス感染症に同時に感染するという現象は理論上は起こりえます。にも関わらず今年の動向としてはインフルエンザの感染者は例年に比べて圧倒的に少なく、
その代わりなのか何なのか、新型コロナウイルス感染症の感染者が圧倒的に多いという現象が少なくとも疫学的に観察されています。
事実と符合しないので、この「レセプター占拠説」は否定的だと私は考えます。
あるいは「あるウイルスの増殖に必要な成分が一方で利用され、他方では利用できなくなるから」という説もありますが、これも納得がいきません。
なぜならばそれでは一方が優勢になるということはあり得ても、他方の感染が全く起こらないということの理由にはならないからです。
なにせ細菌の重複感染は現実に起こっているわけですから、この「増殖必要成分独占説」もおかしいと思います。
さらには「一方のウイルスが他方の増殖を阻害する因子を放出するため」という仮説もありますが、
その増殖阻害因子の例として挙げられているのはインターフェロンです。以前の記事でも紹介した全般的なウイルス増殖抑制作用を有するサイトカイン(細胞間伝達物質)の一つです。
あるウイルスが無数に存在する他のウイルスの増殖を抑制するための特異的な武器を全て持っているはずもありませんが、このインターフェロンを駆動するというのは当然あってしかるべき構造だと思います。
ところが全般的なウイルス増殖抑制に作用するのであれば、それを駆動する当のウイルス本人にとっても不利な環境におかれるわけですから、
この「一方のウイルスが他方のウイルスの増殖阻害因子を分泌する説」も怪しくなってきます。
考えれば考えるほど謎の深まる「ウイルスの干渉現象」ですが、
これをウイルスを細菌のような「他者」的な病原体ではなく、「自己」的な病原体だと捉えると話は変わってきます。
つまりウイルス感染症で起こってくるような発熱、咽頭痛、咳、鼻汁などの風邪症状を、「自己」細胞に性質が近い事によってウイルスが細胞内に取り込まれたウイルス感染細胞を、
何らかのきっかけでNK細胞を中心とした自然免疫システムが「異常な自己」として認識し、それを排除するために起こった異物除去反応(異常自己調整反応)であるのだとすれば、
自分の異物除去反応システムは一つしか存在しないために、ウイルス感染症は一つのウイルスに対してしか起こすことができないということが言えるのではないでしょうか。
言い換えれば、ウイルスが巧妙な仕組みを持っていて一党独裁体制を築くというのでは決してなく、
ウイルス感染症の正体は自分のシステムのオーバーヒートであるが故に、オーバーヒートの仕方は一つしか選べないと表現してもよいかもしれません。
この構造に気付くことは非常に重要です。なぜならばウイルスをいくら攻撃しようとしても、真の相手はウイルスではなく、オーバーヒートした自分自身のシステムにあるわけですから。
ウイルスを攻撃する治療アプローチは多くの場合うまく行かず、それどころかむしろ自分自身を痛めつけてしまうことになりかねないからです。
言わばマラソンのスタートで走る方向を間違えているようなものです。そちらの方向にいくら進んでもゴールはありません。
厳密に言えば、インフルエンザウイルスとコロナウイルスが同時に感染する状態というのは存在はしているようですが、それでも症状としてはどちらかのウイルスに起因する自己システムオーバーヒートが起こされているということになるでしょう。
ただいずれにしても正体が自己システムのオーバーヒートであるならば、
この大騒動を巻き起こした新型コロナウイルス感染症を収めていくためにすべきことは、
自分自身のシステムの調整ということに他ならないのではないかと私は考える次第です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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自己システムのオーバーヒート
この記事へ辿り着きました。
(Googleではコロナ関連の記事は引っ掛からないので、ダックダックgoから来ました)
自己システムのオーバーヒートという、言葉を見て
オーバーヒートの原因を考えてみたら「ワクチン」かもしれないな、と思いました。(今まで調べてきた物と掛け合わせて考えてみると)
ワクチンによって
自己システムの調整をするどころか、
悪くさせているのかな、と結び付きました。
遺伝子を別の物に組み換えているし、
骨髄から血液を作れなくなったりしているし。
母乳から赤ちゃんに移って、亡くなったりしているし。
何か、体の中で起こっているのは確かですよね。
とても参考になりました。ありがとうございます。
Re: 自己システムのオーバーヒート
コメント頂き有難うございます。
「コロナ」関連の記事は、Google検索で引っかかりにくくなっているのですね。
御指摘のようにワクチンはオーバーヒートを賦活する人為化合物だと思います。
大半の人間はオーバーヒートに耐えることができているけれど、中にそのオーバーヒートに耐えきれず崩壊してしまう人がいるのが本質的な事実でしょう。
多様性の観点で考えれば、そういうやり方もあってよいとは思いますが、少なくとも安全性の面で全国民に強制されるべき筋合いのものでないし、ましてや接種しない人が非国民扱いされて然るべきような類いのものでは決してないと私は思います、
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