難病の本質とは
2020/04/09 11:45:01 |
ふと思った事 |
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とあるYouTuberの方が「新型コロナウイルス感染症の対策には禁煙がよい」という情報を出していました。
確かにこれには私も同意します。喫煙は明らかに呼吸器疾患のリスクを高めることは論文上も実際上も実感することができますし、
喫煙は強力な酸化ストレス源であり、この酸化ストレスの処理に追われてしまうと、ウイルスを排除するためのエネルギーの調達に余裕がなくなってしまいます。
ですので禁煙が新型コロナウイルス感染症の治療に有効であるという意見に対して基本的に異論はないのですが、
逆になぜ喫煙が新型コロナウイルス感染症のリスクを高めるかという点に関しては、喫煙そのものの有害性以外にもう一つ重大な理由が隠されているように思います。
それは「喫煙を続けることで自力でストレスマネジメントする能力が失われていく傾向がある」からです。 どういうことかと言いますと、まず喫煙習慣がある人にとってタバコを吸うという行為は非常にてっとり早くストレスに対処する方法なのです。
タバコを吸う事によってニコチンという物質が脳内の報酬系と呼ばれる主としてドーパミンという神経伝達物質を産生する神経に支配されるシステムが刺激され、多幸感が生み出されるという仕組みになっています。
しかも喫煙による抗ストレス効果は、非常に早くその効果が得られることが特徴的です。
ニコチンの主な吸収経路は鼻粘膜、及び口腔粘膜で、鼻粘膜に接する嗅神経は中継を介さずに脳と直結する数少ない脳神経の一つなので、
タバコを吸ってニコチンが嗅神経を刺激すれば、その直後に多幸感が生まれます。実際にタバコを吸った場合のニコチンの血中濃度のピークは喫煙直後だと言われています。
このように何の努力も必要なく、勿論思考を変えるなどという面倒くさいことも一切行う必要もなく、
それでもストレスが解消される(少なくとも解消されたように感じる)多幸感が得られるというのが喫煙の最大の特徴だと言えるわけです。
それならばタバコを吸い続けていれば、便利なストレスマネジメント法になるではないかと思われるかもしれませんが、それはある意味でその通りです。
しかしそのような外部の物質に頼る対症療法的なストレスマネジメント法は、物質が枯渇すればその物質への渇望間とともに著しいストレスにさらされるというリスクを備えています。
つまり、手っ取り早く抗ストレス効果は得られるけれど、その代わり効果が切れた際に著しいストレスにさらされるというのが外部物質によるストレスマネジメント法の特徴です。
またその外部物質そのものも受け続けることになるというリスクも請け負うことになります。
さらには自分を適切な方向へ仕向けるために必要不可欠な体調というバロメータが、即時的かつ強力な多幸感によって冷静な判断がしにくい状況になります。そうした特徴は同じく中毒性の高い糖質の頻回過剰摂取にも通じる話だと思います。
従って、この方法でストレスマネジメントすればするほど、自力でストレスマネジメントするのが難しい状況に追い込まれるという構造となります。
この方法が功を奏すのは、その物質による抗ストレス効果が物質の有害性を上回るほど高くて、その物質を半永久的に入手できる環境にあり、
なおかつ体調を冷静に判断しにくくさせられて、それでも体調を正しく判定できるというレアな状況にない限りは無理だという話になります。世界には稀にこれが出来ている強者がいますが、一般的には健康を得るにはかなりハードルの高い方法だと私は思います。
自力でストレスマネジメントできない状態というのをもう少し説明いたしますと、
ストレスに対抗するために身体にデフォルトで備わっているシステムの代表格は、自律神経系と視床下部ー下垂体ー副腎(HPA)系です。
このうち、後者のシステムの中心的な役割を担うコルチゾールという物質は「ストレス(対抗)ホルモン」としてよく知られている物質で、
この物質が健康人では副腎という腎臓の上にある小さな臓器から血液中に一定量分泌されて全身に抗ストレス効果を及ぼすのですが、
喫煙や糖質といった外部物質による他力本願的なストレスマネジメント法に頼り続けていると、このコルチゾールを自力で副腎で分泌する能力が乏しくなっていくという現象があるのです。
こうした状況の中で、いざ強力なストレスが降りかかってきた場合、外部物質の有害性が蓄積されていたり、あるいは外部物質が補充できない状況に追い込まれていたりすると、
今まで散々怠けていた自分の副腎は、そのいざというタイミングでコルチゾールを直ちに分泌することができなくなってしまい、
ストレスに対抗できずに身体を悪い状態に持って行ってしまうという現象へとつながってしまうことがあるのです。
だから、「禁煙が新型コロナウイルス感染症の対策がよい」という情報の背後にあることとして、
「自力でストレスマネジメントする能力を取り戻すきっかけになる」という要素も含まれているように私は考えています。
この話をしていて、ふと思い出した話があります。
パーキンソン病、あるいはそれに類するパーキンソン症候群と呼ばれる病態では、
脳内でドーパミンへ変換される「Lドーパ」という外部物質を薬として投与し続けることで何とか小康状態を維持しているという患者さんが多いのですが、
こうした患者さんはほぼ漏れなく「Lドーパ」をはじめ、薬に対して非常に依存的になっているということを経験します。
まさに自力でストレスに対抗する力が著しく損なわれている状態だと言っても過言ではないように思います。
これを改善へ導くためには、薬への依存度を減らし、自分に残っている力を最大限引き出していくという発想が必要となってくるので、
私は薬の使用量を減らしたり、ストレスマネジメント法を助言することによって体調を整えてもらうアプローチをパーキンソン症候群の患者さん達に勧めることが多いのですが、
先日もとあるパーキンソン症候群の患者さんにその理屈を説明し、納得してもらった上でごくわずかずつ減薬を進めていくことにしたのですが、
非常にごくわずかしか薬を減らさなかったにも関わらず、薬を減らすという行為に結局大きなストレスを感じてしまったのでしょうか、身体の動きが急に悪くなるという現象が起こりました。
減らした薬の量は非常に少なかったので、薬を減らしたことによる症状の悪化というよりは、
薬を減らしたという事実に対する患者さん自身の解釈が非常にネガティブであったことが、この体調の悪化に大きな影響をもたらしたと私は分析しています。
事前にしっかりと時間をかけて、減薬の意義と方向性を説明したにも関わらず、です。しかもこの時間をかけた説明を何度か繰り返したにも関わらず、毎回のごとく不本意に減薬されたかのような反応を示されています。
これが難病と呼ばれる状態の本態なのではないかと私は考えています。
すなわち原因はともあれ自力でストレスマネジメントすることができなくなった状態、それこそが「難病」だということです。
どんな状態であっても、自力でストレスマネジメントことを放棄することだけはしない、させないような医師でありたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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