新型コロナウイルスとACE2に関する私の意見

2020/04/06 23:00:00 | お勉強 | コメント:0件

新型コロナウイルスが「ACE2」というものを介して感染するという情報があります。

この話、大変にややこしいので整理したいと思いますが、まず「アンギオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme;ACE)」という酵素が人体にはあります。

この酵素は「アンジオテンシンⅡ」という主として昇圧に関わる物質の産生に関与している酵素です。

このACEという酵素を阻害する「ACE阻害薬(ACEI)」や、アンジオテンシンⅡが作用するための受容体を阻害する「アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」は広く現代医療の中でよく用いられている代表的な降圧薬です。

で、ACE2というのは、そのACEとは違って、昇圧物質のアンジオテンシンⅡを「アンジオテンシン(1-7)」という物質に変換し、この変換によって昇圧物質であるアンジオテンシンⅡの作用が弱まり、

さらにアンジオテンシン(1-7)自体に生体の老化や圧負荷のようなストレスから身体を守る働きがあるとされ、

結果的に身体にとって心不全などの心疾患から身を守る方向へ働きかける酵素であると言われています。 このACE2は気管支,肺,心臓,腎臓,消化器などの多くの組織で発現している細胞膜内在性の糖タンパクなのですが、

新型コロナウイルスはこの身体保護的な物質変換を起こす酵素であるACE2を介して体内に侵入するという事が基礎研究で判明しています。

一方で、一部の降圧剤(ARBの中のオルメサルタン、アジルサルタン)にはACE2を活性化する働きがあり、昇圧物質を身体保護物質に変換する流れを進める可能性が指摘されています。

ACE2が活性化されれば、新型コロナウイルスが侵入するための入り口が広くなるので、

その一部の降圧剤を使用していると、新型コロナウイルスに感染しやすくなるのではないかと懸念されています。

一方で、新型コロナウイルスがACE2に結合すると、ACE2が本来の働きを発揮できなくなり、

昇圧物質であるアンギオテンシンⅡが血中に増加し、心不全をはじめ循環器系疾患のリスクを高めると、それが新型コロナウイルス感染症の重症化に関わっているのではないかと指摘されています。

従って、一部の降圧剤を使用している人はその服用を止めるべきかどうかということが議論になっているようですが、

現時点(2020年4月2日時点)で少なくとも欧州高血圧学会(ESH)、国際高血圧学会(ISH)、欧州心臓病学会(ESC)は、そうした降圧剤の服用を継続すべきだという声明を出しています。その理由は簡単に言えば「エビデンスがないから」です。



この話題に関する私の見解ですが、ACE2は新型コロナウイルス感染のメカニズムの一部を示しているに過ぎないのではないかと考えています。

なぜならば、新型コロナウイルス感染症は臨床的に見て明らかに呼吸器を中心に起こる感染症です。

一方でACE2が発現しているのは呼吸器だけではなく、消化器、腎臓、心臓などにも他にも広く発現しているのに、臨床症状が肺炎に偏っているのはやや話が合いません。

なのでおそらくはACE2以外にも気道細胞に親和性を持つ何らかのメカニズムが存在していると考えた方が妥当なのではないかと考えています。

また基本的に新型コロナウイルス感染症によって起こされている現象は炎症を中心としたストレス適応反応です。

この反応が過剰適応となっているのがいわゆる感染症と判断される状況だと思いますが、昇圧というのもストレス適応反応の一種です。

降圧剤を服用するということは、このストレス過剰適応反応を人為的に阻害するということになるので、

むしろ過剰適応反応を強制的にブロックすることができるので、重症化を防いでくれる可能性もあると思います。

ところがそれはあくまでも根本原因にアプローチできないままの対症療法に過ぎませんので、

その強制的ブロックの背景でストレスという根本原因が進行すれば、さらにリバウンド的に激しい過剰適応反応が起こることになってしまいますので、

大方の予想通り、重症化につながっていくというストーリーも十分に考えられると思います。

いずれにしても現象の一部しか捉え切れていないということです。

従って、私の意見をまとめると次の通りです。

「ACE2はコロナウイルス感染のメカニズムの一つではあるが、全てであるとは限らない」
「降圧剤の服用はARBかどうかに関わらず、過剰適応反応を一時強制的に遮断する事はできるが、根本原因(食事やストレス)が放置されていれば、過剰適応反応がリバウンドして降圧剤を飲んでいようが結局重症化につながる」


木を見て森を見ずにならないよう十分に気をつけたいと思います。


たがしゅう
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