ウイルスの感染力の強さは何で決まるのか

2020/03/13 19:45:00 | ウイルス再考 | コメント:0件

新型コロナウイルスの致死率は若い人で0.1%とか、高齢者で1%以上などと算出されていたりしますが(※2020年3月13日時点)、

致死率を算出するための分母が感染者の数であり、その感染者の数はPCR検査という時間も費用もかかる検査の性質上、全数を把握しきれていないという実情があるので、

実際の致死率は、未確認かつ無症状の感染者が相当数含まれることによって、現在推計されているよりも低くなるものと考えられています。

一方で同じコロナウイルスというカテゴリーに含まれる2002年に中国で大流行したSARSウイルスの致死率は約15%だとか、2012年に中東で流行したコロナウイルスであるMERSは約20%くらいだと推計されています。

同じコロナウイルスというカテゴリーで遺伝子の塩基配列が違うからといって、なぜここまでの致死率の差が生み出されてしまうのでしょうか。

この疑問に明確に答えられる人はおそらくいないし、いないからこそ世界がパンデミックに陥っているのではないかと私は考えていますが、

ひとつこの疑問について考えるヒントになる情報が私の手元にあった微生物の教科書に書かれていたので紹介します。

シンプル微生物学 (日本語) 単行本 – 2011/4/1
東 匡伸 (著)


(以下、p285-287「Advance 4) インフルエンザウイルスの増殖機構ならびに抗原変異と病原性」の項目の中から抜粋)

4.病原性

HA(※引用者注:ヘマグルチニン。インフルエンザウイルスの表面抗原)が、膜融合活性を示して脱殻を完了させるためには、

トリプシン様蛋白質分解酵素によりHA1とHA2に開裂している必要がある。

全身性感染を引き起こし致死性のウイルスを強毒株局所感染に終わるものを弱毒株というが、

これらの間では、HAがHA1とHA2に開裂する部位の配列に違いが認められる。

通常分離される弱毒株では、HA1のC末端にはArgが一つみられるが、細胞内には通常それを切断する蛋白質分解酵素はなく、粘膜上皮細胞にトリプシン様蛋白質分解酵素がある場合のみ感染性粒子となる。

ヒトインフルエンザウイルスの感染が気道に限局するのは、同部位に蛋白質分解酵素が局在するからである。

一方、強毒株のHA1のC末端には塩基性アミノ酸(Arg、Lys)が連続してみられ、

ArgーXーLys/ArgーArgを満たす配列のC側で、細胞内のトランスゴルジネットワークに普遍的に存在するfurinという蛋白質分解酵素により切断され、HA1とHA2に開裂する。

したがって、どの細胞に感染しても産生されたウイルス粒子はすべて感染性であり、全身性感染を引き起こす

高病原性鳥インフルエンザウイルスは開裂部位に塩基性アミノ酸の連続があり、トリに全身性感染を引き起こし死に至らせる。


※引用者注:Arg⇒アルギニン、Lys⇒リジン。いずれも蛋白質を構成するアミノ酸の一種

(引用、ここまで)



非常にややこしいことが書かれていますが、私なりにまとめますとこうなります。

インフルエンザウイルスには感染が気道だけに留まる弱毒株と、全身に広がる強毒株と呼ばれるものがあると、

その違いはインフルエンザの表面にあるヘマグルチニンという糖蛋白質のアミノ酸の塩基配列の違いによってもたられていると、

塩基配列が違うことによって弱毒株では気道粘膜上皮細胞にしかない蛋白質分解酵素がある所でないとウイルスが増殖できないので気道感染に留まるけれど、

強毒株では全身に広く存在する蛋白質分解酵素でウイルスが増殖することができるので、全身性感染に発展して重症化しすい、ということのようです。

つまりはウイルス感染症が重症化するかどうかの要因となるメカニズムがウイルス側にも存在するという、

およそ一般の皆様がウイルスに対して抱いているであろうイメージを裏付ける事実が書かれているということになるのではないかと思います。


ただこのメカニズムで言えば、トリプシン様蛋白質分解酵素がある人ではすべからく感染を起こしていないとおかしいですが、現実は感染する人と感染しない人との差が生まれています。

従って、このメカニズムは存在するにしても、そのメカニズムを発動させない、もしくは発動しても表面化しないように抑制する何らかの身体システムも存在するということは言えるのではないかと思いますし、それが「免疫」と総称されるシステムになると思います。

身体にもともと備わった蛋白質分解酵素のシステムを単に拝借して増殖しているウイルスを、身体がどう異常だと認識して、それが表面化しないようどう抑制しているのかという「免疫」のシステムの本質については、これはこれでまた別の機会に詳しく触れられればと思いますが、

ともかくウイルス側の要因は確かにあるものの、それ以外の要因も多分に関わっているということは間違いなく言えると思います。

それとこのウイルス側の感染力の根拠となるメカニズムで考えれば、

弱毒株のインフルエンザウイルスはどこまで行っても気道での局所感染に留まっていなければつじつまが合いません。

なぜならばウイルスが増殖するための「脱殻」という現象を起こすには気道を含む粘膜上皮細胞にしかないトリプシン様蛋白質分解酵素が必要で、それ以外の部位ではトリプシン様蛋白質分解酵素が存在しないため、ウイルスが増殖しようがないはずであるからです。

でも実際の患者さんに見られる現象と致しましては、最初は気道感染の症状に留まっていたけれど、次第に病状が悪化して脳症を伴う全身性感染に移行するというパターンが存在しています。

このことからもウイルス側の要因だけが感染力の強弱を決めていないということが証明されていると思いますし、

もっと言えば、このメカニズムの話の妥当性さえ怪しくなってきます。

もっとも、その真偽を確かめる手段を私は持ち合わせてはいませんが、

少なくとも最もらしく聞こえるメカニズムであるけれど、保留にしておくべき余地が残る説明だとは言えるのではないかと思います。


さて、コロナウイルスに関してもこのような塩基配列の違いが今までのウイルスとの致死率の違いをもたらしていると考えてよいのでしょうか。

今、インフルエンザウイルスで見てましたように、塩基配列によるウイルス毒性の差の理論には疑問の余地が残ります。

一方でSARSウイルス、MERSウイルスがどのような特徴を持ったコロナウイルスであるかということを過去の関連資料を当たって検証してみますと、

SARSウイルスMERSウイルスに共通する特徴は、

・感染しても症状の現れない人は軽症の人もいる
・主な症状は、発熱、せき、息切れ
・下痢などの消化器症状を伴う場合もある
・高齢の方や糖尿病、慢性肺疾患、免疫不全などの基礎疾患のある人で重症化する傾向がある

・・・どこかで聞いたような内容ではないでしょうか。

そうです。今般の新型コロナウイルス(COVID-19)と特徴がそっくりなのです。明らかな違いがどこにあるかと問われれば、致死率の高さだと思います。

私はSARS、MERSに関しては、これまで完全に「対岸の火事」の感覚でいて、これらは一旦感染すればかなりの高確率で重症の肺炎をきたす感染力の強いウイルスだと認識してしまっていました。

ところが、ここまで考察してきましたようにウイルスの感染力を説明するメカニズムには疑問の余地が残るということ、

どこまで感染者がいたのか本当の意味で誰も把握できていないということ、そして誰に感染するかによってもたらされる現象が全く変わってくるという事実を考えた時に、

少なくともSARS、MERS、COVID-19はそれぞれ別のウイルスのように見えて、実際には本質的には同じコロナウイルスのカテゴリーにあって、

まるで別のウイルスのようにみえるかのような致死率の違いは流行地域とその地域に住んでいた人達の免疫状態の差によってもたらされていた偶像に過ぎなかったのではないかと私には思えるのです。

勿論、今回の引用文の分子生物学的なメカニズムの説明が全て間違っているとまではさすがに思いませんが、

おそらくメカニズムを突き止めたようでいて、実は認識できていないメカニズムが他にもあるということが結構な割合で存在していると、

だからこそメカニズム通りの事象が現実で観察されていないのではないかと私は思うのです。

少なくともウイルス側の要因だけで感染力の強さが決まり、これをとにかく恐れて回避するという態度は直ちに是正すべきと私は思います。



たがしゅう
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