ナイアシンで血糖上昇する理由
2019/12/26 12:30:01 |
素朴な疑問 |
コメント:4件
エネルギー代謝を円滑にするサプリメントとして糖質制限界隈で有名なナイアシンですが、
最近このナイアシンで血糖値が上昇することがあるという事実が観察されている模様ですので、
今回はその理由について私なりに考察してみたいと思います。
そもそもナイアシンはどちらかと言えば、糖尿病の病態を改善の方へ導くとされています。
ナイアシンはニコチン酸とニコチン酸アミド(ナイアシンアミド)という物質の総称で、一般的にはニコチン酸の方がコレステロールが高くなる脂質異常症の治療薬として認識されていると思いますが、
その作用機序も例えばリポ蛋白リパーゼという中性脂肪を分解する酵素が活性化するなど、エネルギーを使用する方向に仕向ける内容であったりします。 そうすると血糖値が高すぎる糖尿病において、ナイアシンを使用すれば、
高すぎる血糖、エネルギー源でもあるグルコースを消費する方向に代謝は仕向けられますので、
血糖値は低下し、インスリンが効きやすくなるという仕組みで糖尿病の病態は改善していくのだと思います。
一方で全員が全員ではないようですが、一部の人で観察されているナイアシンを飲むと血糖値が上昇するという現象はその理論の逆になっていると思います。
この矛盾を考える時に参考になるのは、アルコール性低血糖のメカニズムです。
アルコールは以前にも考察しましたが、化学反応的にはナイアシンを構造に持つニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)に変換させるのがアルコールです。
言わばアルコール多飲は人為的にナイアシン(NAD)不足に陥らさせる生活行動だということができます。
そのアルコール多飲が高じてNADが少なくなり、NADHが多くなる状況になると、糖新生という内因性の血糖産生システムが働かなくなり、最低限の血糖維持ができなくなり低血糖状態に至る、というのがアルコール性低血糖症です。
なぜNADが減って、NADHが増えると糖新生が抑制されるかと言いますと、NADHが増えた状態だとLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)という酵素により触媒される乳酸からピルビン酸へ向かう反応が抑制されるからです。
ピルビン酸+NADH+H+ ⇄ 乳酸+NAD+
NADHが多いとピルビン酸→乳酸の反応が促進
NADが多いと乳酸→ピルビン酸の反応が促進
乳酸は糖新生の材料で、乳酸からピルビン酸への反応が進めば、最終的にグルコースまで変化されるという流れがあります。
逆にピルビン酸から乳酸の反応が進めば、いわゆる乳酸がたまるという状況が生み出され、これは酸血症(アシドーシス)を作る原因となり、アルコールによっても助長される現象です。
さて、ここまで見てきたところでナイアシンによって血糖上昇する原因は、
NADが与えられ過ぎて、乳酸→ピルビン酸の流れが亢進しすぎて、糖新生の過剰亢進によって血糖値が上昇しているということが一つの可能性として考えられます。
ただ思い出してほしいのは、ナイアシンは多くの場合糖尿病の病態を改善に導いているという事実です。
このLDH反応のみならず、ナイアシンは解糖系やクエン酸回路などエネルギー代謝システムの全体を改善させているのですけれど、
NADだけを過剰に与え過ぎると、その反応にひずみが生じ、その一型として糖新生システムの過剰に伴う血糖値の上昇が起こりえるのではないかと私は思います。
つまり、ナイアシンで血糖値が上昇するということは、その人が必要としている以上にナイアシンが与えられているということの現れではないかと私は思うのです。
ちなみに界隈で時々話題に上がるナイアシンフラッシュも炎症性物質のプロスタグランジンの産生が亢進する事によって起こる血管拡張現象だと言われています。
ナイアシンフラッシュが起こるということは、本来必要とされている以上のナイアシンが入っているという事を意味する別の表現型ではないかと考える次第です。
サプリメントで健康を維持するアプローチにはこうした現象が起こりうるということをわきまえて、
数値ベースではなく、体調ベースで健康を管理していく発想が大事だと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
ナイアシンフラッシュと血糖値について
あるナイアシンを勧めるグループがありますが、そこでは当然、フラッシュする量まで摂取しています。そして血糖値が上がっています。私も同様でしたので、即刻中止しました。
したがって、ナイアシンで血糖値が改善すると言うのは初耳でした。上がるものと思っていましたが、フラッシュするまで摂取した(過剰摂取した)場合には上がると考えた方がよさそうですね。
Re: ナイアシンフラッシュと血糖値について
コメント頂き有難うございます。
また御返事が遅くなり大変失礼を致しました。
ナイアシンは血糖値を改善させるというよりも、全体の代謝機能を高めるという方が近いかもしれません。
糖代謝が停滞している人によっては、血糖値を改善させるけれど、糖代謝がすでに十分稼働している人にとっては逆に血糖値を上昇させることにつながるというわけです。このような現象は人為のなせる業だと私は思います。
その通りです(^^)
私は既に以前よりわかっていたのでそんなものだと取り扱っています。
そういう付き合い方です。
身体は、代謝は、素直ですね。
Re: その通りです(^^)
コメント頂き有難うございます。
実際に自分の身に起こる事実を大事にすること、
そしてその解釈は考え方や立場によりいくらでも変化しうるということ、
これが基本的なスタンスとして重要なのではないかと私は考える次第です。
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