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糖質制限食とFGF21との関連性

category - 素朴な疑問
2019/ 12/ 17
                 
先日記事にしたグルカゴンセミナーにおいて、もう一つ私の興味を引いた情報がありました。

それは「グルカゴンがFGF21を増加させる」というものです。

FGF21とは聞きなれない言葉と思いますが、「Fibroblast Growth Factor 21(線維芽細胞成長因子21)」といってホルモンのように働くタンパク質(hormone-like protein)として、

飢餓に応答するために基本エネルギーである糖をこれ以上使わせないよう脂肪組織でのインスリン感受性を低下させたり

一方で肝臓においては逆にインスリン感受性を高め、肝臓にインスリンが作用しエネルギー備蓄となるグリコーゲンの合成を促進したりといった変化を起こす際に中心的な役割を果たす物質だとされています。
            

そのFGF21ですが、もう一つの側面として「アミノ酸が足りない時に分泌される」という側面があるということを学びました。

アミノ酸の不足時に分泌されたFGF21は、足りないアミノ酸を何とか調達するために筋肉にも働きかけて筋肉を分解するという現象が起こるそうです。

つまりFGF21は飢餓応答物質と言いながらも、筋肉を切り崩してでもしないとアミノ酸の定常状態を維持できないとあって、

飢餓応答物質としてはかなり切羽詰まった時に分泌される物質だと言えるかもしれません。

逆に言えば筋肉を切り崩してでもアミノ酸の濃度を一定に維持することに全力をかけるという、身体がいかにアミノ酸の恒常性を重要視しているかという意図をうかがい知ることができます。

ところがそんなFGF21は飢餓(絶食)の時に分泌されるというだけではなく、

何と我らが「糖質制限食(ケトン産生食)において分秘が亢進がする」という情報があるそうなのです。

もしこの事実が本当なら糖質制限批判でよく見かける「糖質制限を長く続けると筋肉が減ってやせ細る」という見解が正しいということになってしまいます。

また確かに一部の糖質制限実践者で糖質制限をやり過ぎるとやせ過ぎて怖い、という人がやせ型体型の人を中心に見受けられるようにも思います。

一方で私は糖質制限実践から8年が経過しますが、筋力の低下を実感する場面はありません。私よりも実践期間が長い人はざらにいて、私の知る限り皆さん元気そうです。

これは一体どういうことなのでしょうか。

最大の疑問は先日グルカゴンセミナーで学んだ「グルカゴンはアミノ酸の恒常性を維持するために過剰なアミノ酸を消費する方向へ代謝を仕向ける」という情報と、

今回の「グルカゴンによってFGF21が分泌されて筋肉を分解してアミノ酸を増加させる」という情報が大きく矛盾するということです。

そう思って情報を確かめると、「高タンパク食単独ではグルカゴンは分泌されどFGF21は分泌されない」という情報もあると知りました。

ということは、食事など生理的な環境でグルカゴンが分泌される分にはFGF21は分泌されないけれど、

何らかの原因で生理的な範囲を超えてグルカゴンが分泌されてしまうとFGF21が分泌されるということが起こり得るという考えが生まれてきます。

何らかの原因というのは例えばグルカゴンを人為的に注射で補ったり、グルカゴン産生腫瘍のように過剰にグルカゴンが産生され続けるような条件がある時です。

なんといってもグルカゴンはアミノ酸の濃度を低下する方向へ仕向けるホルモンですので、

過剰に働いてしまうとアミノ酸が減りすぎるということが起こり、その危機的状況を回避するためにFGF21が緊急避難システムとして駆動し、筋肉を切り崩してアミノ酸濃度を維持しようとしているのではないかと思われます。

そうした時に気になるのは「糖質制限食でFGF21が増加する」という情報です。これはどうやら論文的に確認された事実のようです(Kharitonenkov A, Larsen P. Trends Endocrinol Metab. 2011 Mar;22(3):81-6.)

正確にはケトン産生食、すなわち「低炭水化物+高タンパク食でFGF21が増加する」と言われていますので、

「高タンパク食単独ではFGF21は増加しない」という先程の情報を踏まえますと、FGF21増加に寄与するのは「糖質制限(低炭水化物)」の部分だと言えるかもしれません。

ということは、糖質制限を行うことはグルカゴンを生理的な範囲を超えて分泌させるという現象を起こしうるのでしょうか。

私の考えでこの疑問に答えるとすれば、「起こしうる」ということになるのではないかと思います。

糖質制限をするとやせ過ぎて困るという人が一定数存在するということもその考えを支持すると思います。

しかし一方で私のように糖質制限でやせ過ぎるどころか一定の体重で減量がストップしてそれ以上やせないという人間がいることもまた事実です。

また一般的にFGF21は普通の病院等で測ることはできないので確認はできませんが、おそらく私は糖質制限実践者でありながらFGF21は上昇していないことが予想されます。

なぜならばやせ続けることがないですし、筋力低下も全く起こっていないからです。

ならば「糖質制限食でFGF21が増加する」と一律に言える話ではなく、「ある特定の条件で糖質制限をするとFGF21が増加する」というのがおそらく真実なのでしょう。そうでないと現実世界の事実を矛盾なく説明することはできません。

それにしても「糖質制限食でFGF21が増加する」という情報が論文で確認された、ということになるとこの情報が一人歩きしてしまう危険が高くなります。

おそらくは糖質制限をよくないと思う人の批判の根拠に利用されるでしょうし、その文脈の中で「ある特定の条件において」という但し書きが実はあるのだということに気づかれる可能性はまずありません。改めて論文盲信による事実歪曲の怖さを考えさせられます。

それはさておき、糖質制限でFGF21が増加するかどうかの分かれ目となる「ある特定の条件」というのはおそらく論文で証明しにくい要素です。

腸内細菌のパターンかもしれないし、その人の思考パターンで糖質制限に慢性持続性ストレスを感じ続けることで糖代謝が駆動され続ける中で脂質代謝が無理に誘導されることで加わる代謝ストレスの有無かもしれません。

そこの条件が明らかにならないと何が糖質制限からFGF21増加へとつなげているのかは分からずじまいですが、

論文として「糖質制限でFGF21が増加する」と言われてしまうと、それがあたかも普遍的に当てはまる事象かの如くに捉えられてしまう怖さがあります。


随分ややこしい話になってはしまいましたが、最後に今回の情報を通じて私が感じたことをまとめます。

・人体にとってアミノ酸を一定濃度に維持することは、おそらく血糖を一定にすること以上に生命にとって重要な命題
・アミノ酸の維持を困難にする要素は非生理的(人為的)な刺激に由来する可能性が高い
・糖質制限も人によっては人為的で代謝に負担をかける要因になるかもしれない


ただ糖質制限の万能性を考えますと、私は糖質制限がうまくいくかどうかを単なる代謝の個人差ということで片付けたくはなく、

おそらくはストレスを中心に何かしらの要因が介在することによって本来の万能的効能が発揮されなくなっているだけで、

その要因を解除すれば基本的に糖質制限は誰一人取りこぼすことなく病態を快方へ導く方法になり得ると考えたいところです。

少しでも皆様の参考になれば幸いです。


たがしゅう

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コメント

非公開コメント
        

FGF21とAutophagy
>「ある特定の条件で糖質制限をするとFGF21が増加する」

欧米ではketogenic dietと intermittent fastingがペアで行われているケースが多いですが、結果として絶食がFGF21とAutophagyをペアで活性化するようです。最近はFGF21がAutophagyを増強するという論文も多く見ます。またAutophagyは筋肉の質を高め、特に高齢者の筋力低下を防ぐとも言われています。私はKETOになって3年目頃から1日1-2回の食事になり1日以上の断食もたまにします。16ー24時間の絶食した状態で筋トレしても問題ありません。有名なケトジェニックダイエットの研究者、Dr.Dom D’Agostinoは5日断食した状態で230キロのデッドリフトを成功してます。彼は糖質制限者に年に3回ほど、3日間の断食を勧めています(前がん状態の細胞を修復する効果も期待できる)。
おそらく糖質制限に問題があるとすれば、それはタンパク質の頻食では無いでしょうか? 個人的には糖質制限者は個人にあった方法で断食を断続的に取り入れるのがベターか思っています。

Re: FGF21とAutophagy
駐在君 さん

コメント及び情報を頂き有難うございます。

>最近はFGF21がAutophagyを増強するという論文も多く見ます。

面白いですね。
飢餓適応としてFGF21がアミノ酸を調達するために筋肉を分解している中で、オートファジーも同時に働けばそうしてできたアミノ酸がリサイクル利用されるので、結局はアミノ酸を喪失しなくとも済むということが起こりうるのかもしれませんね。

記事内では私のように糖質制限を長期実践していても筋力低下を自覚しない人間は、グルカゴンは上昇してもおそらくFGF21は上昇していない、と予想しましたが、FGF21とオートファジーが一緒に活性化して筋力としてはトントンという可能性もあるかもしれませんね。

断食を利用して筋力を上げるアプローチも興味深いです。
一方で私は心理状態も断食の成否に大きく関わっていると考えるものですので、その断食の方法論だけが一人歩きしないでほしいとも思います。

> おそらく糖質制限に問題があるとすれば、それはタンパク質の頻食では無いでしょうか?

さもありなんですね。
私が診る糖質制限がうまくいかない患者さんも1日2食だといいながらも、間食を含めると1日に4-5回以上食べているという人を結構な頻度でお見かけします。ましてやタンパク質の頻食ともなれば、インスリンが何度も分泌されることになるので、インスリンによって抑制されるオートファジーは休眠状態に陥りますし、持続糖代謝駆動状態となり脂質代謝がうまく使えずに糖質制限不適応状態になりやすい、という構造はあるように思います。
No title
いつも興味深い記事をありがとうございます。

糖質制限というと、
糖質を制限する事のみに注目されがちです。
糖質を制限する事に加え、
タンパク質、脂質を十分に摂るという点を
知らない人も多いです。

誤解の無い糖質制限を広めるには、
何故十分に摂らないといけないのかまで、
知れ渡る必要あると思います。

糖質制限時には糖新生による糖が絶対必要。
材料であるアミノ酸を食事から摂らないと
筋肉を切り崩してでも糖新生の材料に充てられる。
糖質制限で、FGF21増加するのは、
タンパク質が必要量摂れてないから。
これも理由の一つだと思います。

脂質に関しては、
痩せ型の人が糖質制限をする場合は、
ケトン体の材料として意識し、
しっかり摂るべき。
肥満の人は、ケトン体回路が回り出したら、
自分の脂肪を材料として使うので、
痩せ型の人ほど摂取する必要はないと思います。
(必須脂肪酸は摂る必要がありますが。)

糖質制限+αの情報も浸透していくと、
世の中の理解も深まると思います。
FGF21とAutophagy
私が言いたかった事をほぼ解説いただき、ありがとうございます。先ほど参考リンクを張り忘れたので下記します。

FGF21がAutophagyを誘導、増強するという論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27435856
https://www.nature.com/articles/s41419-019-2105-0
Autophagyが筋肉再生を促進するという論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6406986/
ケトジェニックダイエットに断食を加えるべき理由。
https://www.ruled.me/intermittent-fasting-on-keto-diet/

ノーベル賞を受賞した大隅教授によれば「食事から摂取するタンパク質の量は70~80g程度でも、ヒトは体の中では毎日300~400gのタンパク質が合成できる。」とのこと。Autophagyは血糖値やケトン値のように簡単に検査できないのですが、自分の場合、以前は1日3食の糖質制限食以外にプロテイン、EAAなども含め、実質1日5-6食のタンパク質を頻食していましたが、現在はサプリ無しで1日1-2食+たまに断食生活で筋肉もトレーニング・パフォーマンスも問題なく維持できています。ケトーシスで健康が維持できていれば、あえてAutophagyを不活性化するタンパク質の頻食は不要と考えます。
Re: No title
Etsuko さん

 コメント頂き有難うございます。

> 糖質を制限する事に加え、
> タンパク質、脂質を十分に摂るという点を
> 知らない人も多いです。


 そうですね。その点について私も意識して伝えるようにしています。
 一方で栄養を補充するプラスの発想になりすぎることにも懸念があります。
 ちょうどいいところを伝えるのはなかなか難しいものです。

> 糖質制限で、FGF21増加するのは、
> タンパク質が必要量摂れてないから。


 そうですね。
 確かにFGF21はアミノ酸が足りないサインですから、タンパク質不足で発生しえます。
 しかしタンパク質を取り過ぎてグルカゴンが過剰分泌されて、FGF21過剰分泌につながる可能性もあります。

 本記事ではFGF21の筋肉を切り崩してアミノ酸を調達するという負の側面を取り上げる形になりましたが、私はFGF21に正の側面もあると考えています。
 例えば無駄な糖を消費させないよう脂質代謝を強力に賦活する側面です。
 アミノ酸に切り崩されてもタンパク質リサイクルシステムのオートファジーが同時に働けば実質的にアミノ酸の損失はなくなりますし、そうなると一気にFGF21の正の側面が強まってきます。

 インスリンとグルカゴンが協働するように、FGF21とオートファジーが協働することで身体の機能は最大限に発揮されるようになっている、各物質やシステムに善も悪もなく、それぞれの役割があって複雑に関わり合って全体を構成するようにできているのではないかと私は思うのです。

 そう考えると結局は、色々な知識はあくまでも参考に位置づけ、基本は自然の流れに逆らわないようにするのがよいのかなという気持ちが沸いてきます。
Re: FGF21とAutophagy
駐在君 さん

 コメント及び情報を頂き有難うございます。

> 自分の場合、以前は1日3食の糖質制限食以外にプロテイン、EAAなども含め、実質1日5-6食のタンパク質を頻食していましたが、現在はサプリ無しで1日1-2食+たまに断食生活で筋肉もトレーニング・パフォーマンスも問題なく維持できています。

 貴重なご経験ですね。
 栄養が大事という発想だけだと説明困難な事実だと思います。

 プラスの発想のよい点、悪い点。マイナスの発想のよい点、悪い点。その両方の視点をある程度の流動性を持って理解する姿勢がとても大切なのではないかと私は考える次第です。
期待?
先生、こんにちは♪

早速質問ですが、先生の筋力が全く落ちていないという表現は何を根拠にしているのでしょうか。

それが事実だとすると、普通に生活して、糖質制限していれば歳をとっても筋力は維持されるという事になりますね。

素直に喜んで良いのでしょうか。
Re: 期待?
ココット さん

 御質問頂き有難うございます。

> 先生の筋力が全く落ちていないという表現は何を根拠にしているのでしょうか。

 私の日常生活活動の質が全く落ちていないというのが根拠です。筋力が落ちているのであれば同じ距離を進むのに疲労を感じたり、同じ時間働いているのに効率が下がったりすると思いますが、そういうことが全くないということです。

 他者を説得する際には不十分な根拠かもしれませんが、私の中ではかなり大きな根拠です。逆に言えば一般的な筋力測定器の数値は不正確さの可能性を拭うことができず、私はさほど重要視しておりません。


> それが事実だとすると、普通に生活して、糖質制限していれば歳をとっても筋力は維持されるという事になりますね。
> 素直に喜んで良いのでしょうか。


 誰しも老化の影響から逃れることはできませんから、維持というのも厳密に言えば「維持のように見える緩やかな減少」と表現する方が正確かもしれません。ただ糖質制限によってその老化の速度は遅らせることができるであろうと考えています。