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12/7中部臨床栄養研究会セミナー(グルカゴンセミナー)参加の御報告

category - イベント参加
2019/ 12/ 13
                 
さる12月7日に当ブログで告知させて頂いておりました名古屋でのきよすクリニック主催、

中部臨床栄養研究会、通称「グルカゴンセミナー」に参加して参りました。

グルカゴンに関する基礎研究を精力的になさっておられる名古屋大学環境医学研究所内分泌代謝分野教授、林良敬先生に様々な視点からグルカゴンについての情報を御教示頂きました。

セミナーの中で最も重要なメッセージは「グルカゴンはアミノ酸代謝の恒常性維持に不可欠である」というものでした。

すなわち血糖を上昇させるという一般的によく知られているグルカゴンの働きは、実はアミノ酸代謝の恒常性維持というグルカゴンの大きな役割の中のほんの一部をみていたに過ぎないということです。
            

例えば、グルカゴンは糖新生の経路でアミノ酸から糖を作り出す際に必要な遺伝子を複数箇所で活性化させているという情報がありました。

オートファジーというタンパク質がマイナスになった時に恒常性を維持しようという身体のリサイクルシステムがありますが、

グルカゴンはそれとは逆にタンパク質がプラスになりすぎた際に発動するシステムのキー物質だと言えそうです。代謝を糖新生へと切り替えて余剰なアミノ酸をエネルギーとして消費させることで、アミノ酸を再び定常状態に戻すという働きをしているのだというのです。

林先生は「グルカゴン上昇が糖尿病の主な原因である」とする糖尿病グルカゴン主因論(Unger RH, Cherrington AD; Journal of Clinical Investigation 2012)を提唱したUnger博士の見解にも疑問を呈しておられました。

というのもUnger博士が作成したのは「グルカゴン受容体欠損マウス」で、このマウスではインスリンを分泌するβ細胞を破壊しても血糖は上昇しないということでしたが、

林先生らが独自に作成した「グルカゴン遺伝子欠損マウス」では、血糖値は上がるという現象が確認できたということでした。

すなわちグルカゴンが糖尿病の主因であるという説を覆す事実を示されたということです。

「グルカゴン受容体欠損マウス」と「グルカゴン遺伝子欠損マウス」とは一体何が違うのかといいますと大きく2点違いがあります。

一つはUnger博士の「グルカゴン受容体欠損マウス」は、グルカゴンは出ているけれどグルカゴンの結合する受容体の機能が欠損しているので、身体ではその困難を克服しようとグルカゴン過剰分泌状態になっているのに対して、

林先生の「グルカゴン遺伝子欠損マウス」では、そもそもグルカゴンが出ないように人為的操作が加えられているので、グルカゴンは全く出ていない状態になっているという違いがあります。

もう一つはグルカゴン遺伝子からグルカゴンが分泌される過程で、実はグルカゴンができるのと同時にGLP-1とGLP-2もが分泌されます。

GLP-1(Glucagon-like peptide-1:グルカゴン様ペプチド-1)と言えば、比較的最近開発された糖尿病の治療薬GLP-1作動薬の標的物質となっているあのGLP-1です。同じく栄養素の摂取により消化管から分泌されインスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるGIP(Gastric inhibitory polypeptide:胃抑制ポリペプチド)と併せてインクレチンとも総称されています。

つまりUnger博士の「グルカゴン受容体欠損マウス」はグルカゴン受容体の機能欠損のせいで過剰分泌しているグルカゴンと併せてGLP-1も過剰分泌の状態にあり、それがこのマウスのインスリンを分泌させて血糖を下げているのではないかと考えられるのです。

それでもインスリンを産生するβ細胞が死滅していたら、いくらインクレチンでもインスリンは分泌できないのではないかと思われるかもしれませんが、

Unger博士のβ細胞を死滅させた方法はストレプトゾシンという細胞毒によるもので、これでは実は完全にβ細胞が破壊されません。少数ですが生き残りのβ細胞があります。

従ってストレプトゾシンでかなり数を減らされたβ細胞に対し、過剰なまでに増加したGLP-1によってインスリン分泌を刺激された結果、何とか対応した結果として糖尿病にならずに済んだというのがUnger博士のマウスで起こった話なのではないかということです。

一方で林先生の「グルカゴン遺伝子欠損マウス」では、グルカゴン自体がないのでそれに伴ってGLP-1もGLP-2も産生されません。それゆえインスリンも分泌できず血糖値が上昇したのではないかと考えられます。

さらに言えば、林先生のマウスではグルカゴン遺伝子を欠損していないマウスと比べて、ほとんどすべてのアミノ酸が高い値を示していました。

すなわち「グルカゴンは血中アミノ酸を下げる」働きをしているということを示しています。

言い換えれば、「グルカゴンは余剰なアミノ酸を生体内で利用させてアミノ酸の恒常性を保とうとしている」ということです。

そうなると、グルカゴンが糖尿病の犯人だというのはとんでもない濡れ衣だと言えそうです。コレステロール動脈硬化犯人説にさも似た話ですね。


ところで以前、私が行った人体実験シリーズで、糖質制限実践者である私のインスリンの基礎値が高いということを示しましたが、

以上を踏まえて私のグルカゴンが高かった意義を考えてみますと、

「アミノ酸をちょうどよい状態へ持っていくために糖質制限の実践でタンパク質過剰となっている私の代謝を定常状態に保つためにグルカゴンが存分に分泌されている」という解釈が可能となるのではないかと思います。

ここで注意しなければならないのは、私のグルカゴン値が高いのか、実は私のグルカゴン値の方が正常で糖質主体の食生活の人達の中で設定されたグルカゴンの基準値の方が実は低いのか、両方の可能性が考えられるということです。

確かに私は日々タンパク質をしっかりと摂っていますので、タンパク質過剰となっている可能性はあると思います。

しかし体調は極めて良好です。ということはタンパク質過剰と思っている状態も実は最適状態にあるのかもしれません。

さらには糖尿病患者さんにおけるグルカゴン過剰も、タンパク質取り過ぎの可能性もあるし、インスリンの不足をGLP-1で補おうとする適応反応とみることもできると思います。

このような知識を踏まえると、グルカゴンに対する私達の見え方が全く変わってくるとともに、私達がなすべきことの方向性も変わってくる可能性があるのではないでしょうか。

今回のグルカゴンセミナーにまつわっては、他にも面白い気づきがありましたので、

次回はそのことについても紹介させて頂きたいと思います。


たがしゅう

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