酸化ストレスについて学ぶ
2014/02/01 00:01:00 |
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2014年1月11日(土)-12日(日)に大阪で開かれた日本病態栄養学会において
私は「疾患と酸化ストレス」というシンポジウムに参加しました。
さまざまな疾患の根本的原因として酸化ストレスの関わりに興味があるからです。
その中で4題、酸化ストレスに関する御発表がありましたが、いずれも興味深い内容でした。
本日はその中で重要だと感じたポイントについて抜粋して紹介したいと思います。 以下赤字は私の講演メモです。
①酸化ストレスの起源は進化の過程で生まれた「酸素」
太古の地球には酸素がなく、嫌気性生物のみの世界だった。
30億年前 ラン藻類シアノバクテリア(植物+細菌のような生物)が初めて光合成を行った。
この時初めて酸素が作れるようになった。
その後そういうことができる植物が増えて、酸素がメジャーになった。
それによって好気性生物が新たに出現し、ミトコンドリアというものが出来た。
酸素のおかげで生物は進化できたが、同時に酸素は他の分子と違う性質を持っていた。
フリーラジカルは不対電子を持つ。これは不安定。一般的な原子は電子が2個で安定している。
しかも酸素は不対電子を2個も持っている変わった分子。
この性質のおかげでエネルギー産生に重要な役割を持つが、ある意味様々な分子と反応しやすいという特徴。
スーパーオキシド、ヒドロキシラジカルなど
その性質が災いし、「過酸化脂質、DNA障害、タンパク質の異常化」という害ももたらす。
それに対して生物は対抗システムを発展(抗酸化酵素 SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ)
それ以外にさまざまな抗酸化物質 ビタミンE,C、尿酸ポリフェノールなどを持っている。
酸化反応が亢進すると組織障害を起こす、これが酸化ストレス。
様々な疾患に関連(動脈硬化疾患、癌、慢性腎臓病、認知症、骨粗鬆症、サルコペニア、筋萎縮)
進化の過程で生み出された「酸素」、有用性と有害性を併せ持った「諸刃の剣」という側面があるようです。
②高血糖が酸化ストレスを高めるメカニズム
PKC活性異常も酸化ストレスに関連がある。
血管壁細胞は高血糖にさらされると濃度勾配によって糖が細胞内に入ってくる。
細胞内に入ったグルコースは解糖系に入ってピルビン酸、乳酸↑
全部使うのではなく、一部はエネルギー蓄積。
グリセロールリン酸シャトル⇒アセチルCoA⇒中性脂肪が蓄積 特に血管壁細胞。
DAG(ジアセチルグリセロール)=生理的なPKC活性化因子。
高血糖⇒PKC活性化
PKCには様々なアイソフォームがあるが、その中でもβが特に糖尿病に悪い(参考:PKC阻害剤の開発、研究段階)。
基底膜肥厚、PG代謝異常、血管透過性亢進などを引き起こす
高血糖⇒PKC活性化⇒「NADPH oxidase活性異常」⇒活性酸素・フリーラジカル生成⇒生体内タンパク変化、DNA障害⇒血管障害、という経路が特に重要。
NADPHは本来殺菌の酵素。でも実は血管壁にも存在しているということがわかってきた。
NADPH↑⇒活性酸素↑(@糖尿病)
高血糖が酸化ストレスをきたすのに「PKC」という酵素が重要な役割を果たす、ということですが、
PKC阻害剤を開発するまえに、高血糖を押さえるということの方が先ではないでしょうか。
③体質性黄疸(Girbert症候群)の人は酸化ストレスに強い
実はビリルビンに非常に強い抗酸化作用があることがScienceに報告されたことがある。
もしかしたら生まれつきビリルビンが高い体質性黄疸(Girbert症候群)の人は、糖尿病になっても血管合併症が少ないのではないか
調べた結果、確かに対象と比べて80%下がった、脳血管障害だけ40%下がった(ただしnが少ないという問題はある)。
では体質性黄疸でなくてもビリルビンが高い方が酸化ストレスに強いのか?
福岡コホート(50~74歳 13000人)で調査。
全員bilを測定。慢性肝炎・肝硬変などを除外。
動脈硬化性疾患との関連を検討。
ビリルビンがあがると、CRPが下がる。
虚血性心臓病、脳梗塞も下がっていく。
特に間接ビリルビンの方が細胞膜を通過することができるので、抑制効果強かった。
糖尿病の罹患率との関連をみてもビリルビンが高い方が少なかった。
ではGirbert症候群の人は長寿なのか?
実は去年2013年に報告が出た。Girbert症候群(一般人口数%に存在)の死亡率23.9/10000/年
比較対照群49.8/10000/年
⇒確かに長生きかもしれない。
これは勉強になりました。
体質性黄疸(Girbert症候群)というのは、基本的に無症状もなく、もともと(間接)ビリルビンが高い状態のことなのですが、以前からどういうことなのだろうとなんとなく不思議には思っていたのですが、
酸化ストレスから身を守っているという側面があるのですね。
また酸化ストレスを受け続けると血管に慢性炎症が起こるので、CRPという炎症反応マーカーが微増する場合があります。
ビリルビンが高い人がCRPが下がるということであれば、ビリルビンの抗酸化作用が発揮されているという可能性もありそうです。
ただビリルビンは増やそうと思って増やせるものではないというのが難点ですね。
実は他にももう少し学んだ事があるので、続きは次回の記事をお楽しみに。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
毎日
今日もお勉強になりました!!(^^)
おぉ!
今朝は0時に目が覚めパソコンに向かい、ボリボリお菓子を〔大汗)
昨日の夕食後血糖値が153.
こりゃぁ、朝は高いな。。。。しかも、いろいろつまんじゃってるし(^^)
午前4時頃、再びベットに
眠れず足マッサージ器つける、いつも、測る時間5時に血糖値測ってみると
105!!!!
今まで、でなかった数値です!
12月19日にインスから、薬処方されるも、低血糖恐くて飲んでません〔汗
薬飲ものなくて、入院時400以上あった血糖値が。。。。
ちょこっと、体がだりいけど〔汗)
睡眠時間と関係アリ?
10時間寝ていたときは逆に上がってたりします(^^)
早朝時のこの数値、続くといいなぁー(^^)
CRPと白血球数
今回は、去年多発性筋炎で入院した友人の事です。
5年前胸腺腫が見つかり摘出しましたが、再発し治療中でした。
入院時、多発性筋炎と重症筋無力症と言われ、免疫グロブリンとステロイド治療で良くなりましたが、入院時に糖尿病がわかり、インスリン注射をしていました。
入院時お見舞いに行き、糖質制限の話をしたところ、興味を持ってくれその後糖質制限をしてくれています。
すぐに成果が出て血糖値が下がり、インスリン注射はなくなり、現在はメトグルコを飲んでいます。
それまでは糖質てんこ盛りの生活みたいでした(~_~;)
もともと白血球数は多くCRPも3mg/dlくらいだったようです。
退院後も糖質制限をしていて、先日病院に行ったところ、再発していた胸腺腫がほとんど無くなったとわかりました。
先生に「糖質制限をしているので、そのせいでは?」と伺ったところ「それはない!ステロイドのおかけかな」と一笑されたそうです(~_~;)
ただ、私は糖質制限のおかげだと信じてます。
Re: おぉ!
コメント頂き有難うございます.
試行錯誤しながら良い方向に進んでいるようですね.何よりです.
Re: CRPと白血球数
コメント頂き有難うございます.非常に興味深い御報告です.
私自身はまだ臨床経験がありませんが,糖質制限をして酸化ストレスを減らせば,慢性炎症や自己免疫疾患の範疇に入る多発性筋炎や重症筋無力症の活動性を弱める可能性はあると思います.
多くのがんにも効果が期待できる糖質制限ですから,胸腺腫にも効果があっても不思議ではないですね.
以前、糖質→酸化ストレスのしくみを質問させていただきましたが本エントリにて大筋がよく分かりました!
プロテインキナーゼCがわからず検索して例えば
http://bioupdate.jp:8080/pages/viewpage.action?pageId=12189701
を用語を調べつつ強引に読んでいくと
>PKCは非常に多様な働きを持つため、機能異常に陥った場合多くの病気の発病に関わってくることが知られている。
>PKC酵素が関係していることが明らかな病気としては、リューマチ、関節炎、喘息、脳腫瘍、癌、心臓血管疾患などが挙げられる。
>主要な情報伝達物質であるPKCの中で、PKC-δはBリンパ球の増殖抑制とともに自己反応性Bリンパ球の排除に必須の分子であることが初めて明らかになった。
えっらいキー物質じゃないですかこれ。たがしゅう先生はじめ糖質制限派のみなさんが嗅ぎとっていた
現代病のいくつもが糖質過多によるものではないのか?という疑念は、もしかしてすでに
かなり裏付けが取れてるものだったのでしょうかね
PKC阻害剤を作ればいいやという発想、私も反対です!
Re:
コメント有難うございます.
糖質制限の勉強をしていると,様々な謎が一本の線につながるように解けていくので面白いです.
糖質の多面的な有害性の正体が着実に明確になってきているように思います.
No title
日本人の25%を占めると書いてあるのを読んだことがあります。
病気に強くて長生きかもって、いいお話ですね。またまた目からウロコでした。
鎌状赤血球症もマラリア抵抗性なのと同じように、
生き残っているというのは、何かしら意味のあることなんだと思いました。
勉強になります。ありがとうございました。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> 鎌状赤血球症もマラリア抵抗性なのと同じように、
> 生き残っているというのは、何かしら意味のあることなんだと思いました。
確かにその話と共通するものがありますね.
ヒトはたとえどんな苦境に立たされた時にも対応することができる潜在的な適応力を持っている,ということなのかもしれませんね.
ふむふむ φ(。_。*)
ただ
高血糖と酸化ストレスの関係で
「グリセロールリン酸シャント」が
よく分かりませんでした ρ(・ω・、)
グリセロールリン酸シャトル とか
HMPシャント とか
じゃないですよね・・・???
Re: ふむふむ φ(。_。*)
御指摘頂き有難うございます.
「グリセロールリン酸シャトル」の間違いでした.記事修正しておきます.m(__)m
むむむ・・・
「グリセロールリン酸シャトル⇒アセチルCoA」
の部分がよく分かりません・・・。
何度もスミマセン。
Re: むむむ・・・
御質問頂き有難うございます。
すみません。講演メモを写しただけで自分自身の理解が不十分でした。
少し難しいですが、自分なりに噛み砕いて整理してみたいと思います。
まずグルコースが分解されると、解糖系で細胞質内にNADHという物質を生じますが、これは還元力を持っています。
その還元力はグリセロールリン酸シャトルを通してFADH2という物質に転移しミトコンドリア内へ伝えられます。
そして解糖系で出来たピルビン酸からアセチルCoAに変わる時に必要な「ピルビン酸オキシダーゼ(CoA-アセチル化)」という酵素の補因子としてFADという物質が必要ですが、FADH2がミトコンドリア内の酸素で酸化すればそのFADが得られる、
という事ではないかと思います。
うーん (-ω-;)
「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ」の事でしょうか?
(FADとか関係なくなっちゃいますけどww)
これ以上
お手数お掛けするのは申し訳ないので
あとは
自分の頭で考えますね。
ご丁寧に
有難うございました (*ゝω・)ノ
Re: うーん (-ω-;)
「ピルビン酸オキシダーゼ (CoA-アセチル化) - Wikipedia」
をご覧になって下さい.
そういう経路もあるのですね。
accoの教科書「Essential 細胞生物学」や
手持ちの生化学の本には
「ピルビン酸オキシダーゼ」の記述が
ありませんでした・・・。
なので
解糖で生じたピルビン酸は
「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体」により脱炭酸され
アセチルCoAが生じる
という認識しかありませんでした。
解糖で
アセチルCoAを生じる経路は
他にもあるのですね。
という事で・・・
Wikiでもあたってみましたが
「ピルビン酸」や「アセチルCoA」での検索では
「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体」での
記述しか無い気が・・・。
いつもながら
考えがまとまらないので
ヘンな文章で
すみません・・・ 人(・ω・;)
とにかく
色々ありがとうございました ☆彡
メールありがとうございます♪
すみません!
ご指摘のサイトを
無視している訳じゃないんですぅ ヾ(;´▽`A``
参考文献をご覧になりましたか?
”Pyruvate oxidase (CoA acetylating) in Entamoeba histolytica”
これは
赤痢アメーバの酵素のようなのですw。
ただ
ヒトでもそのような代謝経路が
ある可能性は否定できないので
昨日は
曖昧なコメントをしてしまいました。
今日
都立中央図書館で調べましたが
やはり
ピルビン酸をアセチルCoAに変換する酵素は
「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体」
のようです。
因みに
グリセロールリン酸シャトルは
FADを酸化剤としてFADH2を生成する経路らしく
「ピルビン酸オキシダーゼの補因子として
FADH2を酸化させたFADが必要」という部分も
???な感じがしてきました (・∀・)ノ
しつこくて
ホントにホントに
すみません・・・。
Re: メールありがとうございます♪
ギブアップです。
私には答えが見つけられませんでした。
納得いく説明ができず申し訳ございません。m(_ _)m
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