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せん妄からストレスの潜在性を知る

category - 認知症
2019/ 10/ 28
                 
御高齢の患者さんや認知症の患者さんなどが入院したら、

それまで自宅での様子から考えられないように人格が豹変し、主に興奮症状で収拾がつかなくなる現象が時にみられることがあり、これを医学的に「せん妄」と表現します。

薬剤性のせん妄といって薬の副作用が原因でせん妄が起こることもありますが、

多くの場合は急な入院や手術の後など大きく環境が変わることがきっかけで起こることが多いです。

薬の副作用はわかりますが、環境が変化するだけで人格が変化するというのは考えてみれば不思議な来ますが、

実はこのせん妄という現象、どうやらそのメカニズムは完全に解明されているとは言えないようです。
            

日本老年医学会雑誌 第51巻(2014年)
≪5号≫高齢者のせん妄 企画:服部 英幸
高齢者のせん妄の機序
藤澤 大介他


(以下、一部引用)

【せん妄の病態生理】

せん妄の原因が多因子であることからも明確なように、その病態生理も単一ではないと想定される。

むしろ複数の生物学的要因が絡み合って、神経ネットワークの機能異常を来たし、せん妄という急性の認知機能障害を発症すると考えられている。

主たる機序には、神経伝達物質異常、炎症、生理的ストレッサー、代謝異常、電解質異常、遺伝因子があげられる。

神経伝達物質の中ではさまざまな経路が想定されている。特にアセチルコリン欠乏とドパミン過剰が、抗コリン薬やドパミン刺激薬によるせん妄の観察の中で最もよく指摘されている。他の機序はより間接的なものである。

例えば、敗血症などの全身の炎症は炎症性サイトカイン、血管内皮の活性化、血流障害、神経性アポトーシスなどを介して脳内の神経炎症カスケードを活性化する。

神経炎症はミクログリアの過活動を引き起こし、さらなる神経損傷を来たす。局所炎症は、迷走神経、前炎症サイトカインの全身への循環、血管内皮の活性化と血液脳関門の破たん、ミクログリアの活性化などの複数の経路を介して中枢神経を刺激する可能性がある。

(引用、ここまで)



難しげなことがたくさん書かれていますが、要するに機序が複雑に絡み合っているという事までしかわからない、ということですね。

神経伝達物質の異常かもしれないし、炎症のせいかもしれない。電解質・代謝異常のせいかもしれないし、遺伝が絡んでいるかもしれない。

どうも判然としないわけですが、私は環境の変化によるストレスというのはもともとこれほど大きなストレスを与えうる現象だということを表していると考えます。

逆に言えば、認知症でなければ環境がこれくらい激変しても高次脳機能を駆使することでこの大きなストレスに何とかうまく適応し人格を維持することができているという風に言うこともできるかもしれません。

要するにせん妄という現象は、ストレスが脳機能与える悪影響の大きさの幅を表すと同時に、ストレスマネジメントがいかに大きな脳への危機から身体を守ることができるかという潜在性を表している話だと解釈することができると思います。

認知症というのは高次脳機能を司る脳の表面にある大脳新皮質の機能が抑制され、いわば感情むきだしの状態になった、言い換えればこども帰りした脳だということもできると思いますので、

ストレスを受けたら精神にはどのような影響がもたらされるかということを逆証明するような現象ではないかと私は考える次第です。


ストレスマネジメントなんてものは、気休め程度の効果しかないという人もいるかもしれません。

しかしストレスによる心身への影響を甘くみてはいけません。むしろ甘くみてしまっているからこそ、これほどまでに多くの病気が現代医療によって治せないままでいると言っても過言ではないように私は思います。

そしてせん妄を起こさせないケアや対応のコツにはストレスマネジメントの秘訣が隠されているようにも考えることができると思います。

せん妄はドパミン過剰だからドパミンを抑えていればいいのだというような理解は極めて一面的なのであって、

せん妄に対してドパミンをブロックする抗精神病薬を使うような対応は極めて表面的で本質的ではないということに留意する必要があると思います。

むきだしの脳であってもストレスを感じないようにするためには慣れた環境で過ごすことが一番です。

現場で認知症の介護に当たる人達はきっとそのことを肌で感じていると思います。


たがしゅう
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